「俺と姉ちゃんの子供時代」

 

日曜日の晴れた日の午後。
部活もないのでゴロゴロしていたビットに、「たまには部屋の掃除をしなさいっ!」
・・とジュジュが言った。
逆らう事は「死の宣告」を受けるのも同じ事なので、ビットは部屋の掃除を始めた。

「明日はゴミの日だから、いらないものをまとめておくのよっ!」

・・と言ってジュジュは部屋から出て行った。

「いらないもの・・・かあ。
もう読まない本とかあったっけかなあ・・?」

そう言って本棚の本達を整理していると、一枚の古い写真が出てきた。

「あれ・・?
これは・・。」

そこに写っているのは、物干し竿につるされて泣いているちっちゃな自分と、
それを見上げているちっちゃな従姉であった。
写真の裏には日付と一緒に、こう書かれていた。

“○月×日 ビット、おねしょをする。
布団と一緒にさらし干しの刑っ!!”

「・・・・・・姉ちゃんの字だ・・・。」

ビットの脳裏に、子供時代の思い出が蘇ってくる。
思えば姉ちゃんは小さな頃から、しっかりしまくっていた・・・・・。

 

“うわあぁぁぁぁぁんっ!!
姉ちゃんごめんっ!
許してよおぉぉぉっ!!”

“うるさいっ!寝る前にあんなにジュース飲んだら、おもらしして当たり前だっ!!
罰としてしばらく干されてろっ!!”

“もう二度と飲みすぎませんっ!
反省しますっ!
ごめんなさいぃぃぃぃー!!”

“その姿、父さんと母さんにもきっちり報告するからねっ!!
証拠写真よっ!”

パシャッ!

“うわあぁぁぁ!
こんな姿撮らないでえぇぇぇー!言わないでー!!!”

“やかましいっ!もう二度としないと、骨の髄までたたきこめっ!”

俺の両親は、俺が赤ん坊だった頃に事故で亡くなった。
でも顔も覚えてないし、いまいちぴんと来ない。
従姉のジュジュ姉ちゃんの両親が俺を引き取ってくれて、俺と姉ちゃんは一緒に育った。
いつも仕事で忙しい父ちゃんと母ちゃんを助けるために、
家事や俺の世話はほとんど姉ちゃんがしてくれていた。
しつけも実に、厳しかった・・・・・俺は姉ちゃんに育てられたようなもんだ。
いつも何にでも一生懸命な姉ちゃんは、とにかく、しっかりしまくっていた。

 

幼稚園の頃ー。

“小1なのに、ビット君のお姉ちゃんはすごいわねー。
そのお弁当、お姉ちゃんが作ったんでしょ?”

“そんな・・すごくなんかねーよ・・。
せんせー。”

朝はいつも早起きして、おむすびとかタコサンウィンナーとか、だし巻き卵とか・・・お弁当を作ってくれた。

 

“姉ちゃん、せーふくのボタンがとれちゃったよー!”

“あんた、幼稚園児にもなってボタンの一つもつけらんないの?”

・・・ふつーは無理だと思うぞ。
一人で着替えが完璧にできただけでも、すごいと思うが・・・。

“しょーがないわね、やっとくわよ。
その代わり、玄関掃除しとくのよ。
チリ一つ残ってたらご飯抜きっ!!”

“えええええっ!!”

働かざるもの食うべからず。
・・・・あの頃の姉ちゃんの口癖だった。
口癖って言えば、もう一個あったなー・・。
好き嫌いは万病の元、だっけ?

 

“何い?!ねぎが食べれないぃ?!!
間抜けた事言ってるんじゃないっ!!
食べなさいっ!うりゃあっ!”

“ね、姉ちゃんこれ生・・う、うげえええええっ!!
にがいっ!くさいっ!”

“ねぎ食えん奴に、すき焼き食べる資格なしよっ!!
ねぎは頭が良くなるのよっ!
風邪にもいいのよっ!
食えっ!!”

・・・・ねぎ食えるようにはなったけど、すっげー荒療治だった・・・。
風邪って言えば、いつだったか寝込んだ時もあったなー。

“バカは風邪ひかないっていうけど、嘘ね。
まっかっかな嘘っぱちね。
それかビットが特上級のバカって事ね。”

そこまで言うか・・・。ヒデェ。
でも姉ちゃんは病気とかで寝込んだりしたことないし、反論できなかった・・。

“薬、苦い苦いって文句言うから包んでやったわよ。
はい、飲みなさい。”

“包んだって・・・・・これ、ギョーザの皮じゃんかっ!!
こんなの飲めねーよっ!”

“何ですってぇ?わがまま言ってんじゃないわよっ!
だったら口移しで飲ましたろかーー!!”

“うわあああ!飲むっ!飲みますっ!
飲んで治すよおぉー!
がぶがぶがぶがぶがぶ・・・うっぷ。
おえぇぇ〜・・。”

“良薬は口に苦いモンなのよ。
飲んでさっさと寝て治しなさいっ!
氷枕、とっかえて来るからその頭どきなさいっ!”

・・・・・姉ちゃんがアクマに見えた時もあったけど・・。
文句言いながらも看病してくれたし、夜は隣で寝てくれたなー。
口調はきついけど、すっげえ面倒を見てもらってたなー・・。

“ビット、あんたの部屋の掃除してたらベッドの下から出てきたんだけど・・。”

“げっ!!そ、それはっ!”

姉ちゃんの留守中、うっかり割ってしまった花瓶を隠していたのを見つけられた事があった。

““げっ!”じゃないっ!!“ごめんなさい!”でしょーっ!!
割った事より、隠す根性が気に食わんっ!”

“うわあああ!ごめんっ!姉ちゃんーーー!!
イタイイタイっ!!ロープロープっ!!”

“嬉しい事されたら“ありがとう”。
悪い事したら“ごめんなさい”。
人として、大事な気持ちを忘れるなっ!!
わかったかっ!!?”

“わ、わかったよぉぉっ!!本当にごめんーーー!!
ごめんなさいー!!
し、死ぬぅぅぅぅ・・・・。”

・・・コブラツイストをかけられ、あやうく死にかけた・・・。
でも、隠そうとした俺が悪かったんだよな・・・。

 

小学校に入ってから、父ちゃんと母ちゃんが海外に出張になった。
俺と姉ちゃんはそれぞれやりたいことが出来て、
部活も学校も去りたくなかったから、話し合いの末、ここに残った。
数年前に喧嘩して家出しちゃった爺ちゃんと婆ちゃんが、
いつか帰ってくるかもしれないってのもあった。
そん時、誰かが出迎えてやらなきゃって。
それで二人暮しになったんだけどー大抵は至らない事が多くって、
結局姉ちゃんの手間を増やしてたなー・・。
夕飯のしたくとかでー。

“姉ちゃん、たまねぎは俺が切るっ!
・・・うおおお、目に、目にしみるううううー!!”

“だから無理だって言ったでしょっ!ガキっ!!
さっさと代わりなさいよ!”

“姉ちゃんだって、俺と1こしか年、違わないだろー!!
ガキ扱いすんなー!!”

“包丁持ってる脇で騒ぐなーーー!!
あっちでさやえんどうのスジでもとってなさいっ!!”

できる事は増えたような気がしたけど・・・
手伝ってんだか邪魔してんだか、わかんなかったなー。

 

“は?明日、とび箱のテスト?
・・・あんた、とべないの?バッカねー。”

“・・・そんな力いっぱい、言うなよ・・。”

“落ち込んでる暇があったら、努力しなさいよ。
このままじゃイヤなんでしょ?”

“・・・て、え?
姉ちゃん、何やってんの・・?”

姉ちゃんは押入れからありったけの布団を出し、高く積み上げて簡易とび箱を作った。

“あれ跳べるまで、ご飯ぬき。
ちゃっちゃと特訓するわよっ!!”

“げっ!マジでっ!!?”

“とび箱なんてのはねー、踏み込みと、間合いと、気合いで跳ぶものなのよっ!
ほら、いけっ!”

・・・ズタボロになって、二人ともお腹ぐ〜ぐ〜鳴らしながら、
ついに飛べたとき、すっごく誉めてくれたっけ。

“よっし、やればできるのよっ!何事もあきらめるなっ!
あきらめたら、そこで終わりよっ!”

厳しいけど、ツボは抑えててくれたし、なんだかんだで世話になってるよなー・・。
そーこーしてる間に、掃除を終えたビットはゴミ袋をひっさげて、階段を下りてきた。

 

「姉ちゃーん、このゴミどこに置けば・・。
って、姉ちゃんっ!?
ど、どーしたんだよ!!?」

信じられなかった。
・・・・姉ちゃんが泣いてた。
目に浮かんだ涙が、ぽろぽろ頬を流れてた。

「う、うう〜ビット・・?
・・・・ハチが・・・。」

「ハチ?!ハチに刺されたのかっ?!
痛いのかっ?!」

「違うわよ、ボケっ!
ハチが・・・ハチ公が死んじゃったのぉぉ〜!!!
うわあああああ〜んっ!!」

は・・・・?ハチ・・公?
テレビを見ると、ちょうど「忠○ハチ公」のラストシーン、
雪に埋もれて死んでしまったハチ公が、
桜吹雪の中で死んだご主人と再会を果たすクライマックスが流れていた。
・・・・なんだ、テレビか・・・・。
びっくりしたぜ・・・。

「洗濯物たたみながら見てたんだけどね、段々泣けてきて泣けてきて〜・・・。
これ、泣けるよね〜。ひっくひっく。」

そう言って姉ちゃんはティッシュでチーン、と鼻をかんだ。
・・・そういや以前、「火○るの墓」でも泣いてたな・・・。
泣かない奴なんて、いないと思うけど。
姉ちゃんの泣き顔は、世話になりっぱなしの俺にとって、重すぎる。
姉ちゃんは俺から見て、大抵笑うか怒るかのどっちかなんだけど・・。
一度だけ・・泣かしそうになった事がある。

 

“ベランダから落ちたってっ?!
このドジ、間抜けっ!!
愚か者がーー!!”

小学校の頃、外の木にひっかかったボールをとろうとして
2階から落っこちて保健室に運ばれた、と聞いて駆けつけてきた姉ちゃんの一言目がこれだった。
下に植え込みがあったから、
骨も折ってなかったし頭も打ってなかったしその他大きな外傷もなかったのだが、
枝に引っかかって服がぼろぼろになってしまった。
その事を謝ったら、頬を思いっきり殴られた。グーで。
すっげえ痛かった。
・・・踏んだり蹴ったり。

“誰が服の心配をしとるかーっ!!ボケカスっ!!
あんた、放課後までそのままベッドに沈んでろっ!!”

先生の方を振り返って“放課後迎えに来ますから、それまでよろしくお願いします。”
と言って部屋を出る前に、俺の方を振り返って言った。

“起きてきたら、病院送りにするからねっ!
大人しくしてなさいよっ!”

それってかなり、矛盾してないか・・?
そう思いながらも逆らえなかったわけは。
姉ちゃんの顔が怒りから徐々に泣き出しそうだったから。
唇をぎゅっとして、こらえてるみたいだったから。
すぐにいなくなってしまったから、よくわからなかったけど。
何となく悪い事をした、と思って。
ちゃんとしなきゃな。と思った。

 

あんな情けない写真、撮られたりしないように。しっかりしなきゃなー。
でも俺、楽天的だし、責任嫌いだしなー。
無理かな?
ま、できる範囲からやっていくか。
なまけたらまた、叱られるし。
・・・やーっぱ、頭上がんねーな。姉ちゃんには。

「あれ?あんた掃除終わったの?
じゃあライガー達の散歩に行ってきてよ。
あと、しょうゆ買って来てねー。」

すっかり元に戻った姉ちゃんが、何事もなかったように言ってきた。
・・・立ち直り、はやっ!

「へいへい。わかりました。」

「あれ?何か素直ねー。
ま、わかってりゃ苦労少なくていいんだけどさ。
じゃあお願いね。」

「へーへー。
・・・・あのさ、姉ちゃん。いつもサンキュな。」

「・・・?
あんた、頭でも打った?
気っ持ち悪っ!!」

「うわ、ひっでー!
人がせっかく素直に言ってみりゃーこれだかんなっ!」

「バカ言ってないで、さっさと行きなさい。」

「へーへ、行ってきますよー。
行くぞ、ライガー、イエーガ−、シュナイダ−、パンツァー!」

“ワン!”“ガウ!”“パウ!”“・・バウ。”

とりあえず、もーちっと色々、頑張ってみっかなー。・・・と思った。
いつか、姉ちゃんか、俺か。
この家を出て行く時まで。
新しい道をみつけるまで。
この生活が、楽しく快適に、続いていけるように。
笑って毎日を、過ごせるように。

END

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あとがき

こんにちわHAZUKI様!
Zi学園もの第3弾ですっ!もらって下さいっ!
前々から、ビットとジュジュの子ども時代の話を書いてみたいなーと思ってたんですが、やっとこさ・・(感涙)
ま、よーするに今と全全立場が変わってないっ!と言う事です(笑)
こんな小さな頃から保護者っぷりを発揮していた従姉には、まーだまだ恋は遠い日の花火でしょうか(笑)
家事って本と、大変です(ふっ・・)学業とか仕事と両立なんてそらもう・・(ふ〜っ・・)
毎日やっても給料もらえるわけじゃなし。
でも必要です。

「若いうちの苦労は買ってでもしろってね。
私は好きでやってるんだからいーの。」

ええ、ジュジュあんたはすごいわ・・(涙)
ジュジュが泣いた映画は、実際私が見てボロ泣きしたものです。
(ほんっとぼろぼろ泣きました。
ビデオに撮ってあるけど見れない・・何のためのビデオだおい。)
ビットって、お気楽であんまりこーいうこと言わなそう・・というか考えなさそうですが、
(考えても3歩歩いたら忘れたりとか)こーいうのもいいかなーと。
・・・・どうでしょう・・・?
ビットらしく・・ないかな・・(うーんうーん(悩))
では、失礼します。


初心者さんから頂きました。
ジュジュとビットの子供時代、アナザーバージョン。
なんか、ビットも初心者さんのキャラになってますね。
しかし・・・、ジュジュも厳しいですね・・・。
よく、「別居したい」って言わないですよね・・・。
さて、彼のその忍耐強さがテニスに活かされるといいですね。
ジュジュが大声で応援してる姿が目に浮かびます。

 

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