「SKY RUN」

 

「・・・ふみゅぁぁああ・・・」

ちゅんちゅん、と小鳥の鳴く声が聞こえて、あたしはむくりと身体を起こした。
眩しいなぁ・・・。
あたしは朝が苦手・・・なんだけど、今日は学校も無いのに早起きする。
何故かって―それは、アレがあるからだよ。
あたしの名前は、メリル。
メリル・ペネロープ・ヴァンシュタイン。
企業財閥、『the・VS』の末娘です。

「おはよー、アル」

まだ眠たいのを何とかこらえて、
モニター一杯に金属の獣が走り抜けて行くのを眺めながらあたしは席につく。
すると、明るい茶色の髪をした女の子がキッチンから顔を出して丁寧に頭を下げる。

「おはようございます、メリル様」

この女の子の名前はアルト。
あたしの家、ヴァンシュタインで働くお手伝いで、あたしの身辺警護をしてくれている大切な友達の一人。
家族専用の筈のこの階だけど、この子だけは特別に出入りを許されていて、
こうして朝もご飯をつくってくれたり話し相手になってくれたりする。

(・・・年下にお世話になっちゃってるって言うのも、情けないんだけどね〜・・・)

実際、結構申し訳無い。
あたしは17才で普通ならもう一人立ちしたっておかしく無いのに、この子はそれより下で人の家事までやってくれている。
・・・凄くありがたくて、凄く申し訳無いなぁ。
そんな事言うとアルトの思いが台無しになってしまいそうだから、言うに言えないんだけどね。

「随分お早いですね・・・って、そうだ。今日はアレでしたもんね」

「うん・・・でも、・・・むー・・・まだ眠たいよー」

そう言ったらアルはあはは、と笑って目薬を出してくれる。
・・・あたしは何が入ってるかわからない、その透き通った菫色のボトルに入った液体を用心しながら目に差す。
実際、目覚まし成分とか言って、メンソレータムとか入ってるときがあったからだけど・・・うみゅ。

「・・・うー・・・」

良かった。
今日は何も入ってなく、ただたんに眼がすっきりしただけだった。

「じゃ、いただきまふ」

「はい、どうぞ」

そうしてトーストを口に運びながらモニターを見ていると、突然綺麗な紅い竜が出てきた。

(・・・え?)

びっくりしてじっと見ていると、真っ赤なそれは、凄いスピードと綺麗な動きで大地を走っている。
良く知っているチームのゾイドもいるけれど、一番眼を引いたのはその映像だった。

「真っ赤だね・・・見た事無いなぁ、あの子」

「ジェノブレイカー、だそうですけど」

「ジェノ・・・?
えっと、御伽話で良く出てくる、あれ?」

「はい、そう聞いてますよ」

それは確かに、お伽話で良く聞くゾイドの名前だった。
『漆黒の翼が友とした、紅い紅い破滅の使者。
 吐き出す光は宝石の様に煌いて、ありとあらゆるものを焼いた』
・・・あたしは『蒼風の英雄』と『蒼天の獣王』の方が好きだったから、怖くて良く泣いてた。
けど、あたしのお姉ちゃんはその漆黒の翼の方を気に入っていて、良くケンカになってたっけ。

(・・・本当に居たんだ・・・)

懐かしいのと一緒に身体にびりびりした何かが走って、あたしはその映像にすごく感動していた。

「アル、これ、後で再編集してくれないかな?」

「はい、分かりました♪」

後でじっくり、部屋で見たくなっちゃった。
昔は怖かったけど、実際に見るとすごく綺麗だったからだ。

「・・・えーと」

気付いてちらりと時間を見ると、出た方が良い時間になっちゃっていた。
あちゃぁ・・・まずいなぁ。
今日のアレは始まる時間が早めで、早く行かないと始まってしまうのだ。
もっとも、まだまだ時間に時間はあるんだけど。

「・・・うーみゅ、もう出るね!」

「はい、いってらっしゃいませ〜♪」

ドタバタするあたしをアルトは面白そうに眺めている。
真っ白い階段を駆け下りて、あたしはダッシュで地下の格納庫へ向った。
今日はちょっと気になる夢も見たし、何だか普通の具合じゃ上手く行かない気がしたから、
早めに出ておいた方が、きっと楽しいことになるはず。
・・・こう言うとき、あたしのカンは外れないのだ。

 

 ライトの灯った格納庫に付くと、あたしの友達は今日も会いかわらず格好良くあたしを待ってくれていた。
ミラ。ブレードライガー・ミラージュ。
白に赤でペイントが施されていて、横に小さめだけどあたしの名前―『Meryl』が入ってる。
誰かに凄く自慢したいぐらい、かっこ良くて優しいあたしの友達だ。

「おはよう、ミラっ」

グルォオ、と機嫌良く声が聞こえる。
ミラも朝は苦手だけど、今日はあたしと出かけられるから。

「久し振りー♪」

ぺちぺちと足に触ると、ミラも嬉しそうに答えてくれる。
あたしまで嬉しくなって、ついつい声が弾んでしまう。

「今日はアレ、見に行くよ。
楽しいのだと良いね」

アレ。
さっきからアレとしか呼んでないけど、それは勿論―ゾイドバトルのこと。
今更説明なんて誰もしなくても知っている、この星一番の「たのしいこと」。
ゾイドと人が会って一緒に居ると凄くたのしいって事を教えてくれること。
あたしはそこで動いているゾイドも、そこでゾイドに乗ってる人も大好きだから、
本当はミラと一緒にゾイドウォーリアになりたかった。
・・・全力で止められたけど。

『ダメです!!リノン・トロス様の様にならせはしません!!
ならせはしませんよ、お嬢様!!』

・・・ふーみゅ・・・おじいちゃんには涙まじりに泣きつかれて、
お父さんには全速力で外出禁止にされて、
アルには励まされて、お母さんはどっちつかずで、お姉ちゃんには・・・

『お前の様な粗忽者は、ゾイドに乗っても暴走するだけだ。
さしずめ猪の様にな。
まあ、私の様に落ちつきを持ってから参加すれば良いだろう。
・・・ふふ、50年後ぐらい後に』

・・・みなさんうるさい、お姉ちゃん特にうるさいのです。
たしかにあたしは思い立ったら一直線だけど、責任は取れる様にしてるもの。
・・・ま、その代わりにゾイドバトルは好きなだけみて良いって約束してくれたんだけどね。
やっぱり、それくらいじゃ物足りないのだ。
見ていることも大好きだけど、ゾイドが闘いに使われるだけじゃないんだって分かってるけど、
あたしはどうしてもウォーリアになってミラと走りたい。

「行こっか?ミラ」

思い出したら思い出すだけ沈んで(と言うか、すっごい悔しいのさ)しまうから、
其処で止めてあたしはミラに乗った。

横からアルに良く似た、蒼い瞳の男の子が顔を出してあたしに手を振る。
格納庫を開けに出てきたのだ。
背は少し低めで、黒い制服に着替えて堅く頭を下げる。

『ソル、早くからごめんね?
あたし、何時も』

『・・・そんな事は、ありません』

男の子はアルトの二卵性の弟で、ソプラノ。
―アルトと二人きりで、この大きな家の管理をしてくれる優しくて律儀な子だ。

(・・・実際はアルに振りまわされてるんだけどねー・・)

彼は凄く苦労している、姉のことで。
怪しい実験をしてみたり、狙撃訓練をしてみたり、怪しい料理を作って破壊兵器にしちゃったり。
お世話になってるからあたしは何も言えないけど、ソルは凄く申し訳なさそうに謝り倒すのだ。
幾度かストレスでナイフを(自分に)向けかけて、家族全員で止めたこともあった。
・・・うみゅ、色んな意味でかわいそーなのです。
とにかくその姉弟はあたしの友達、なのです。
さてと、出発しないと。

『じゃ、メリルちゃん出ます!!』

『いってらっしゃいませ、メリル様』

操縦桿を倒して、あたしとミラは少しずつスピードを上げながら地面を走る。
久し振りだけど、ミラは凄く調子良くあたしを風に乗せて行ってくれた。
あたしは高速移動も平気だし、
「今日見た夢」の様に高いところだって平気。
そう、今日は不思議な夢を見たの。

 

『・・・あれ・・・?』

・・・一面の空は凄く蒼くて、雲が身体の下にあった。
あたしは飛んでいるんだってことが分かって、面白くてくるくると鳥みたいに飛んでいた。

『・・・うーみゅ、それにしても何で空なんて飛んでるのかなぁ・・・』

・・・反応遅いね、我ながら。
五分ぐらいそうしていて、あたしはふと聞こえる奇妙な音に気付いたのだった。
・・・ゾイドの飛ぶ、音。
かなり鋭くて、大気の裂ける音みたいと言っても良いかもしれない。
あたしには、そう聞こえたの。

『・・・誰・・・?』

あたりを見まわすけど、何処にも姿は見えない。

『あっ・・・』

いつのまにか高度が落ちはじめて、
あたしの身体は空を落下し始めた。
怖かったなー・・・(※体感高度5000メートルです)
心臓は平気だったけど、下にあった雲を潜り抜けた最後の瞬間、あたしはそのゾイドを見つけて・・・

『・・・・・・ワイバーン?』

―煌く羽根、三つの剣、鋭いシルエット。
それは、まるで、昔話の飛ぶ竜の様だった。

『あ』

接触しそうになった次の瞬間、猛スピードで落ちる体。

『あ、あぁあぁっ!?』

―落ちていくなか、心臓も一緒にどきどきしてた。

 

「・・・触りたかったなぁ」

思い出しながら呟くと、走っているミラが少しだけ不機嫌そうにグルォと鳴いた。

「だいじょーぶだよ、ミラが一番の友達だもん」

拗ねやすいというか、子供っぽいね、ミラって。
あたしに似てきてるんだって、アルは言う。昔はもっと、『戦士』って言う感じだったんだけどなー。
・・・漢(オトコ)って感じ!と思ってたけど、あたしはどんなミラでも好きだから良かった。
そうしていれば、2分もしない内に、今まで居た家と小さい町ぐらいある会社関連の土地が遠くなって見えなくなっていて、
20分もしないうちに目的のフィールドが見えてくる。
もう少し走っていたいけど、時間は待ってくれない。
範囲内から逸れる様に動いて、もう少しで始まりそうなバトルの時間を確かめた。

「もうすぐ♪もうすぐ♪はっじまる〜♪」

あたしは待ちきれない気分で、ついつい歌まで歌いながらゲスト専用の止める場所に、ミラを停止させる。
止める場所の周りには結構沢山のゾイドが並んでいて、触りたくなりながらもそうっと。
監視の搭も立ってるから、いかに珍しくても大丈夫だ。

「・・・よいしょっと」

・・・少しだけ、神様にお願いをする。
蒼い空に、あのゾイドが飛んでいないかなあ、と。
会いたいな、と純粋に思ったから。
凄く綺麗で、格好よかったから。
・・・良く分からないけど、引力みたいな何かを感じるから。
あたしはミラの上に乗って、「1・2・3」と心の中で数えながら、ゆっくりと―空を見上げた。

「・・・あ」

やっぱり、居なかった。
そんで、もうゾイドバトルも始まってしまっていた。
―当然だよね、ゾイドバトル前に空を悠々飛んでる筈、ないもん。

「・・・会えると、良いな」

ただの、夢なのに。
少し、ドキドキしてた。
・・・・・あたしのカンは外れないよ。
だから、会えると良いなぁ。

fine

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初投稿です、花見屋です(緊張)
今回はメリルの小説を贈りました。
何やら慣れてない描写の上に、勝手な描写もりだくさん・・・(汗)となると凄い緊張します。
メリルの夢が正夢になると良いなあ、と自分で勝手に思ってはいるのですが、どうなんでしょうね?(爆)
暴走味が出せなかったですが、マイペースな感じは何とか出せたかなあ。
飾っていただければ、嬉しいです。
花見屋でした!


花見屋りくさんからいただきました。
なんだか可愛いですね、メリルは・・・。
なんかウキウキ気分が私にも移ってしまいそうで・・・。
こういうノリのキャラも結構好きですよ。
そして、ジェノブレイカーを出していただいて感謝します。
そして夢に出てきたゾイド、竜ではないですけどね。(翼竜ですが・・・。)
さて、あいつとは何処で会わせようか・・・。
バトルにはたまにしか顔を出しませんからね・・・。
でも観戦は好きだったり。
まぁ、後々考えていきましょう。
花見屋さん、どうもありがとうございました。

 

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