「SKY FLIER」

 

私、アルトには双子の弟以外に家族がいません。
その為、まだ14才ですが、この家―ヴァンシュタイン家の皆様の元で働いています。
私がお手伝いさせてもらっているのは、お嬢様―メリル様と、セレス様のお二方のお世話。
メリル様がお父様似の翠髪をしていて、セレス様がお母様似の蒼い髪をしています。
メリル様のお名前は宝石を、姉であるセレス様のお名前は文字通り「蒼天・蒼海」をイメージされたとの事で、
性格も二人揃って名前どおりの、そしてこざっぱりとした良い方たちです。
私と弟であるソプラノ君がお世話させていただいているのは、
今家にいらっしゃるメリル様片方のみなんですけどね。

 

ええと、半年前・・・でしたか。
数年前からゾイド操縦の訓練をしていたセレス様が、
突然ゾイドウォーリアになって生計を立てると言い出したのです。
企業財閥であるヴァンシュタインの保護は受けずに、すべてお一人で身を立てていく、と。
それはセレス様のおじいさま―現・会長が、
セレス様が20になった時に会長を引退なされる事を告げるための重役会議の時でした。
突然現われ、突然そんな事を言われたから、
勿論皆さんが混乱し、反対し、セレス様を元の後継者の場所へ戻そうと必死になっていらっしゃいました。
まあ、ムダでしたけどね。
一本気で決めたら終わるまでやめない。
そんな方だって事は、親である旦那様が一番わかってらっしゃったんだと思います。
二日もせずに、セレス様は必要最低限の物だけ持って屋敷を出ていかれました。

『住む所も、ウォーリアの登録も、全部事前に済ませてあってな。
後はゾイドだけで、どうしても反対されたら出ていける様にしておいたんだ。
・・・済まないな、お前やソプラノまで煩わせて。
でも、やりたい事が見つかったから』

あの時はほんとに驚きましたよ?
・・・お世話させてもらっている方に頭まで下げられて、ありがとうって言われるなんて。
私はともかくソプラノ君はついて行こうとまでしてた見たいでした。

『いえいえ。セレス様、頑張ってSクラスまで行ってくださいね』

『はは、気が早いな。
・・・メリルは?またゾイドバトルか?』

今はまだ保留の状態とは言え、
いずれきっとメリル様に自分が居た場所が廻ってくる事を気にしていました。
お二人とも変わらぬほど英才教育は受けていましたが、扱いは当然違いましたから。

『メリル様は、ライガーと一緒に・・・』

『何だ、暴れてるのか?
・・・くく、全くしょうが無いな。
・・・なるとすれば本当ならあの子だろうに。
私が出ていったばかりに、それも無理になるだろうなぁ・・・』

『会っていらっしゃいますか?』

いや、と言って、セレス様は移動用のシンカーに歩き出されて。
きっと、後で謝るつもりだったんでしょうね。
メリル様は

『違うの!!
あたしはどうせ後なんか継ぐか分からないけど、
皆あたしがウォーリアなるって言ったら反対したんだもん!!
お嬢様はガンスナイパーに乗せるわけにはいけないとか言って!!』

・・・気にしてらっしゃらないんですけどねえ。
でもまあ、私はその時気軽に見送りました。
ご自分で決めたことなら、最大限応援するつもりでいましたから。

 

けど、事情が違ってきました。
後継者のセレス様がいなくなられた事で、ヴァンシュタイン上部も結構揺れました。
当分は旦那様がやるにしても、もしもの時は、と言う事がありましたから。
会長がそんな騒動を「くだらぬ私事」だと一喝し、新たな「計画」を持ち出したのは、丁度その頃の事でした。
『前BD団と現DS団、そしてそのバックにある人脈との技術的、経済的な提携』
最近は技術進歩が凄まじく、企業同士の新技術開発の凌ぎの削りあいが激しくなっている。
事実、業界の40%と言う多大なシェアを占めるわが社の技術も追いつかれようとしている。
新たなるより善いものを生み出すためには、未知の技術とそして優秀な人材が必要だ。
多少危険を侵そうが、此方には資金援助と言う鍵があり、
彼等には未知のゾイド、そして利益と後ろに伸びる巨大な人脈と言う宝がある。
何としても手を結び、新たなるゾイド開発の道と利益を生み出したい。
技術・情報提供。そこから「彼等」との話し合いを持ち出していきたいと思う。

『アルト・フィーアト・アゲインスト君。
君にはその情報提供の鍵の一つとして、DS団に所属してもらいたいと思う』

会長は頭まで下げ、私にそう言いました。
今はいない私の親も、どうやらそう言う仕事をしていた様で、
私はゾイド操縦や諜報活動もできる上に、若いのでうってつけだったんですね。
当然、その時は頷きました。
いずれ戻ってくるというお話でしたし、会長直々でしたので。
ソプラノ君も一緒なのが少し嫌でしたが、私はその時ただヴァンシュタインにも、
これから行くDS団の方々にも、純粋に忠実なお仕事をさせていただくつもりでした。

 

・・・セレス様がそれを知られるまでは、それが普通に進行してたんですけどね。

『・・・どう言うことです、おじいさま』

殺気立っているとまで言える激しい語気で、セレス様はおじいさまを睨んでおられました。

『何故、DS団などと手を結んでまで・・・?
何故、あの二人・・・あの姉弟が送られなければいけないのですか。
今まで私とメリルに尽くして、身を削ってまで働いてきてくれたあの二人が何故』

『セレス、お前はもうヴァンシュタインには何の関係も無い。
あの二人にもだ。
お前はやりたい事をやり、ゾイドウォーリアとしてを生計をたてれば良いんだ。
邪魔はしないし、あの二人もお前の試合には出させないと頼み・・・』

『違います!!』

初めてでしたねぇ。
あそこまで怒ってらっしゃるのを見たのは。
紫の瞳を瞬きさせて、叫んでいました。

『私がゾイドウォーリアになりたかったのは、純粋に楽しんでいるゾイドとその主が好きになったからです。
それを、そんな・・・そんな事・・・おじい様は間違っています・・・!
私だけが免れれば良いとは絶対に思いません!!』

『セレス、これはもう・・・』

決まっていることだ、とおじいさまは言われました。
会社全体が危ない道を渡っても、何処かにせり負けて、
会社全体に損失を与えることにくらべれば何でも無い事なのだからと。

『・・・私がダークバスターになります。
この会社がそう言う組織のたぐいと手を結んだりしようものなら、必ず見つけて告発します。
ゾイドバトルに比べれば、それは私にとって何でもありません。
今まで受けてきた教育や生活の資金はすべて働いて返しますから。
スポンサーなどももってのほかです。お断りします。
私の親権を放棄しても良いぐらいに父には伝えてください。
自分勝手な娘でしたが、セレスはやりたい事をやりますから』

ぺこりと最後に頭を下げて、セレス様はおじいさまの部屋を出ていかれました。
その年の誕生日に譲り受けたジェノザウラーだけは『借用する』と言う形で使用ゾイドとして
登録し、改造なされて今搭乗なされている様ですが。

『・・・セレス様、聞いてもよろしいですか?』

私は、部屋を涙を零しながら出てきたセレス様に聞きました。

『どうして、ゾイドウォーリアになられたんです?』

正直、凄く唐突だったから。
出ていかれたときは、今のことをご存知無かったのに、何故かなあ、って。

『・・・ワガママだとは分かっているよ。
おかげでメリルに押し付けてしまったな』

『・・・そうではないんです。
どうして、なろうと思われていたんですか』

『・・・そうだな。
・・・空を飛ぶ夢、見た事があるか?』

『・・・え?』

セレス様は言いました。

『正直疲れていたときがあったんだ。
何も出来ないし、未来を決められて走らされている事とか、
こんなかっこ良い言い方じゃなくて、周りとか全部にな。
ゾイドバトルを見て、すごく気が楽になって、あそこに行きたいと思った。
無理だとわかってて、それが空を飛ぶ夢に思えた。
生身じゃ飛べないから』

涙をぬぐって、着ていた白いドレスを脱がれて、黒い動きやすい服装になった格好で。

『どんどん行きたいと思うようになって、ゾイドも数年間練習して。
一人でやるなら良いと思ったんだ。
全部自分で決めて全部自分でやりとげればって。
才能が無ければ、諦めてヴァンシュタインに戻って家を継ごうって思ってた。
でも、それが甘えてたな。
失敗したからって、戻るなんて甘えてるって最近分かった。
本当に好きでやりはじめようとしてる事なんだ。
憧れてた場所を、誰か、たとえこの家だろうが壊したりするなら許せない。
決める事が出来た、かな。
この家が一番じゃなくなった。
今の一番はゾイドバトルなんだ。
甘える理由もないし、そうしようとも思わなくなった』

『・・・つまり、もう戻ってらっしゃらないんですね?』

『そうだな』

蒼い長い髪を結んで、セレス様は頷きました。

『お前もこの家に義理なんて感じなくて良い。
DS団にだって・・・』

『いえ、それはもう行くってお返事しちゃいましたから。
楽しそうだと思いますし』

『・・・そうか』

正義感が強くて頑固な方ですから、ちょっと理解できにくそうになさってましたが。
一応頷いてくれました。

『もし私がダークバスターとしてお前達と会ってみろ。
即刻逮捕するぞ?』

『あら怖い♪メリル様に怒られちゃいますね』

『・・・あたしがどうしたの?』

『『メリル(様)!?』』

いやあ・・・あっちの方が驚いたかもですな?
姉妹揃って神出鬼没でゴーイングマイウェイな方たちで・・・うーん。

『おじいちゃん、考え事してたよ。
なんかあたしのミラ叩いてたから、ピコハンマーでどっかーんとしてきちゃったけど』

あらま。あの時ですね。
会長、殴られちゃったんですよ。
メリル様の特大ピコハンに。
(何故振りまわせるんでしょうね、2メートル以上あるんですが、アレ)
さぞ痛かった事でしょうが・・・メリル様は金と銀の眼をぱちくりさせて言いました。

『経営者の立場と祖父としての立場で板ばさみみたいだよー?』

『やれやれ、肝心な所で甘いジジイだ。
いけ好かない事は変わりないが。
どうせ止めないんだろうしな、この話だって』

『おじいちゃん聞いたら泣くよ、それ。
あ、あたしは家継ぐかどうかまだ決めてないから安心していーよ。
また妹出来るんだって、後』

・・・そうです。
これを思い出している今から後三ヶ月もしたら、またご家族が増える、と言う事です。
奥様は凄くマイペースでまだお若い(まだ36才、ですね。本人の談によれば)
ですから、・・・いやはや。

『・・・はぁ?
親父、何才だっけ?』

『・・・えーと、37・・・か8?』

・・・旦那様も奥様も、お二人ともまだ20代後半なんですよね、外見。
ほんと仲の良い方たちですが、マイペースなのは遺伝なんですね〜
(感心するところですよ♪)

『じゃ、頑張ってねお姉ちゃん』

『まあ、なる様に行くさ。
ま、精々悔しがって見ているが良いよ。
どんどんランクアップしてやるから』

『・・・うーみゅ!!
おねーちゃんのジェノと家出してやるー!!』

『はは、無理だな。
お前に乗られたらジェノが泣く』

『うみゅらー!!(訳・おのれー!!)』

 

そうして2ヶ月後、セレス様の初戦が行われました。
デビューは個人戦でしたが、見事、勝利されました。
ダークバスターとしても努力していらっしゃるらしいです。
ジェノザウラーと一緒に、きちんと頑張っていらっしゃいます♪
お家には何の連絡も無く、計画も普通より遅いスピードでしか進んでいないところを見ると、
本気でバトル&お仕事なされているみたいで鼻が高い♪

 

これが、セレス様が今いらっしゃらない経緯です。
お嬢様が本気で頑張れるだけ、良いのかも知れない。
会長がきっと実行するのは、止められないって、私でも分かるのに。
私なら、諦めてしまうのに。
どうしようもないことに諦めないのは、凄いことです。
残念ですけど、ね。
さてはて、私も頑張らなくては。
今日もお菓子と胃薬と紅茶と子猫片手に、アジトを駆け巡りますですよ!!
・・・え、それぞれの道具の意味?
あ、気にしないでください。
ヴァンシュタイン家の動向とか、どう言う風に協力するかとか、
最近の連盟の様子(これ、私が独自に調べさせてもらってるだけなんです。
割と面白いですよ?)とかを、幹部の皆様に伝えたりするときに使うだけですから。
・・・え、それぞれの道具の意味?
だから、気にしちゃ負けですよ?
うふふ。

Fine

 

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作者のアトガキ

花見屋です。
セレスのこと、と言うよりアルトの独白暴走劇の様になってしまいました(汗)
言ってる事もひねりが無さ過ぎるぞ!!(涙)
DS団の皆様は凄く好きなんですが、セレスは正義感が強すぎる感じさえあるので今回はもう・・・;
自分の家が関わっていたことも、DS団のこともどっちも許せないような感覚の子です。
そう小さい頃から教えられていたから、自分の家がそれをやっていることが許せないんですね。
時制は第二部の半年前、つまりビットが旅をしている頃です。
・・・それで第二部の時間から思い返しているんですから、・・・という事は少しすればメリルに妹がっ(汗)
今回はセレスとメリルの関係、セレスの性格、アルトの立場などを書いたんですが・・・
ちゃんと落ちたかなぁ、最後ので(涙)

メリルとセレスの二人は、どっちもなんか違うなあと思った事や中途半端な事が嫌いです。
セレスは特に厳しく言われてきたので、メリルよりもそれが強く表立って見えるんですね。
アルトはどうしても諦めがちになっちゃってるようですが。
甘えなく頑張る様になれたら、大好きな場所でスキなことを出来たら、
と言う一種の作者の願望の様な事が入ってる気もします、この話には。
というか良いんでしょうか・・・ヴァンシュタインの設定とか・・・今更不安になる小心者な私です;
明るいはずのスラゼロに堅苦しい話ばっかりじゃったし自分よ・・・(汗)

ちなみに二人の両親は大分若い頃に知り合って即結婚したと言うマイペースな方々で(爆)、
母親はエトワール(星)、父親はテラ(大地)。
どっちも二人をこれ以上強化した様な感じです(恐)。

迷惑かも知れませんが、もらっていただけると嬉しいです!
花見屋りく、でした〜(だばだば/逃走)


花見屋さんからいただきました。
色々な事情があって更新が遅れてしまいましたが、何とか上げることができました。
凄い家庭に育ったり拾われたり・・・、人生色々ですね。
ヴァンシュタイン家はDSと提携、対してセレスはダークバスターに。
一応ケインたちのすぐ後、と言うことで落ち着きました。
半年って言っても結構差がありますからね。
そしてアルト、DSに入って凄いことをやらかしてますが・・・。
シドの胃に穴が開く日も近い?
あっ、そのための胃薬か・・・。
メリルの他にこの方達も注目ですね。
花見屋さん、どうもありがとうございました。

 

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