「閃光嵐」
―――――――――1―――――――――
青い空に白い雲。
サンサンと照りつける太陽。
ゾイドの上で、暢気に日向ぼっこなんぞをやっている人間が一人。
いやまあ、自分の事なんだけどね。
自分の名は「ロウルォーグ=ドライ」。
長ったらしいので「ロウ」と呼んでもらえるとうれしい。
職業は賞金稼ぎ。
ゾイドを使って悪事を働く連中を、同じくゾイドを使ってシバキ倒すお仕事だ。
そして、今自分はお仕事の真最中なのである。
「さーて、そろそろかなー」
体を起こして、双眼鏡を覗き込む。
「ひー、ふー、みー、よ・・・いつ・・全部揃ってるじゃんか。
こいつは幸先が良いや。」
パチンと指を鳴らし、急いで相棒ゾイドに飛び乗る。
目標は五体のゾイドと、その搭乗者。
賞金の額はたいしたことはないが、まあ、駆け出しの自分には丁度良いだろう。
「いくぞ、テンペスト。」
そうして、自分と相棒は一目散に標的に向かって駆け出したのだった。
*
荒野を進む、五体のゾイド。
先頭から、コマンドウルフ、レブラプター、ガイサック、ガンスナイパーに、コンテナをふたつ引いたグスタフ。
見事にゴテゴテしく飾り付けられたゾイド達に乗っているのは、同じくゴテゴテしい格好をした人間たち。
誰が見ても盗賊と断言するような、そんな五人組であった。
彼らは、つい先ほど一仕事を終え、ホクホク顔で笑っている。
どうやら、先ほど襲ったコロニーで抵抗すら受けずに、まんまと略奪を行えたらしい。
「楽な仕事でしたね、御頭。」
コマンドウルフに、ガイサックの乗り手から通信が入る。
「おおよ。
俺たちを見た瞬間、ブルッちまって自分たちから金目の物を差出してくれたんだもんな。
意気地が無いにも程があるぜ。」
チョクチョク寄らせて貰おうか、と大笑いする盗賊の頭。
それに水を差すように、ガイサック、ガンスナイパーの二体から通信が入った。
「あまり派手にやると、軍に睨まれるぞ」
「もし、ガーディアンフォースにでも出てこられたら・・・・・」
「大丈夫でさ、この辺りはまだまだ復興途中。
軍に連絡を入れる事なんて難しいっす」
「それに、もしガーディアンフォースが出てきても、アレがあれば大丈夫さ。」
また大笑いする頭。
「そうっすよ」
グスタフに乗っている男も、ニヤニヤ顔を送ってくる。
「この後ろに積んでる化け物なら、いくら奴等でもいちころですよ。」
それもそうか、という笑いが通信の中で爆発した時、新たな回線が開かれた。
何時の間にか近づいてきた、黒っぽいゾイドからの通信である。
「こちら、旅行者ロウルォーグ=ドライ。
搭乗ゾイド、ライトニングテンペスト。
貴公等の旅の無事を祈る。」
戦意のない事を告げる、丁寧な挨拶とともに、ウインドウに浮かんだのは一人の女性だった。
白い髪を肩より下に伸ばし、緋色の瞳を持った彼女は、穏やかな微笑を浮かべて頭を下げる。
「これはどうも丁寧に、俺たちは盗賊団ハイグレイドだ。
あんたの旅の安全は・・・祈れそうもねえな!!!」
頭が叫んだ瞬間、グスタフを除く三機が、彼女のゾイド、ライトニングテンペストを取り囲む。
「殺されたくなかったら、有り金全部とそのゾイド、そっくり纏めて置いて行きやがれ!!」
恫喝とともに、盗賊団の各ゾイドは獲物に銃口を向ける。
長年の経験から、これで震え上がって抵抗する気など起こらないと判っているのだ。
「・・・・なあにが、ハイグレイドだ。
一山いくらの連中が生意気な。」
不適な声音。
その主は、震え上がっているはずの獲物であった。
「名乗るんならロウグレイドにしとけ、そっちの方がお似合いだ。
尤もすぐに名乗りを上げられなくなっちまうけどな」
「なに!!!」
「自分にやられて、監獄送りになるからだよ!!!!」
轟音。
それが銃声だと気付いたとき、取り囲んでいた三体は戦闘不能になっていた。
「な、そんなバカな・・・」
呆然とする頭。
「さて、後はあんただけだ。
大人しく投降するなら・・・まあ、命の保障ぐらいはしてやるさ。」
彼女の言葉とともに、そのゾイドは、硝煙の上がるガトリング砲をコマンドウルフに向ける。
「ふ・・・・フザケンナァ!!」
自分たちが蹂躙する筈だった相手に牙を剥かれ、怒りに取り憑かれる頭目。
感情に任せ、自機を突っ込ませる。
「とった!」
ウルフの牙が敵機を捕らえたと確信した瞬間、
ダン!!
弾丸に駆動系を破壊され、システムがフリーズする。
「・・・そんな・・・ばかな・・・・」
むなしい独白だけが、コックピットを満たしていた。
*
テンペストの前で、敵コマンドウルフが崩れ落ちる。
「状況終了。」
思わず呟いて、苦笑が浮ぶ。
まだ癖が抜けないらしい。
「さて、後は盗られたもんを取り返すだけっと」
相棒をグスタフに向かわせる。
「動くな、一応安全は保障してやる。
ゾイドから降りて地面に這い蹲れ。」
・・・・・・・・・・・・・・・。
反応が無い。
相棒の砲を向けたまま、グスタフのキャノピーを拡大する。
「いない!!何処行った!!??」
シートは蛻の殻。さっきの戦闘中に逃げ出したか?
そういかぶしんだ時、
ピピピピピピピ!!!
コンソールが悲鳴を上げる。
とっさに横に跳ぶ相棒。
刹那、今までコックピットがあった位置を、光の槍が通りすぎた。
「さ、サンキュ、テンペスト・・・」
礼を言う暇もあろうか、大穴が開いたコンテナを壊して敵が出てくる。
「ちょっとばかり強いからって調子に乗るな!!こっちには切り札があるんだぞ!!」
「この終焉の使者、デススティンガーがな!!!」
完全に姿を現す蠍型ゾイド。
多分この時、自分は生涯でもっとも間抜けな顔をしていただろう。
黒い脚部、銀色の鋏、赤と青、ツートンのボディ。
確かに、配色はデススティンガーと同じだ。
尻尾の先には銃口もある。
さっきのビームは此処から撃たれたのだろう。
「どうだ、恐れ入ったか!!!」
はしゃぐ敵対ゾイド乗り。
・・・・・まあ、ある意味恐れ入った。
「・・・・・なあ、」
やっとの事で言葉を押し出す。
「それ、ただのガイサックだろ?」
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
沈黙が痛い。
敵さんは、通信ウインドウ越しでもはっきり判るぐらい動揺していた。
「・・・・やっぱり判る?」
コクリ、と頷いてやる。
ハッタリのつもりだろうが、ソレならばもう少しまともな方法を取ってもらいたい。
もっとも、デススティンガーの実物を見たことのない人間に対しては、かなり有効な手段だろうけど・・・。
敵さんは自分の事を忘れたかのように愚痴をこぼしている。
彼曰く、彼らの頭が何処かから手に入れてきたもので、当の本人は本物と疑っていなかったそうだ。
・・・・・知識不足とは恐ろしい、気がする。
「ご愁傷様。」
偽ですすてぃんがーを蜂の巣にして、自分の仕事は終わりを迎えた。
*
抜けるように青い空の下、グスタフを走らせる。
勿論、先程の盗賊共のゾイドだ。
彼らはロープでふんじばって、ゾイドの足元に転がしておいた。
軍に連絡を入れておいたので、ゾイド共々確保してくれる事だろう。
「さーて、盗られた物返して、報酬もらって、この仕事は完璧っと」
自然に笑みが浮ぶ自分。何とかこの仕事もやっていけそうである。
さて、ここで改めて自己紹介しておこう。
自分は「ロウルォーグ=ドライ」。
尤も「ロウ」と呼ばれる事の方が多いが。
二ヶ月前、自分は今までやっていた仕事をやめ、賞金稼ぎを始めた。
理由は・・・・まあ、つまらない事だ。
二つのキャリアーのうち、偽ですすてぃんがーが出てきた方に乗せている我が相棒とは、
前の仕事の時からの付合いなのだが、最初に出会った頃アイツはまともなライトニングサイクスだった。
ちょっとしたミスから、大切なライトニングサイクスを中破させてしまった自分は、
殆どのメカニックが匙を投げる中で、たった一人力を貸してくれる人に出会った。
オリジナルのサイクス開発に大きく関わっていたその人物は、わが相棒を大々的に改造し、今の形に蘇らせてくれた。
修復不可能だった背部パルスレーザー砲、ブースターユニットに代わり、
背中には水平方向に360度、上に45度の稼動範囲を持つ2連装ガトリングユニットを装備。
前肢に一門ずつ、計2門の短銃身パルスレーザー砲(稼動範囲縦方向360度)、同じく一門ずつ計2門のブースターを装着。
後肢には前肢の倍、計4門のブースターが取り付けられている。
頭部にはレーダーセンサーを兼ねたスタビライザーを増設、加速時に横に展開するが、
普段は邪魔にならない様、機体に沿わせて寝かせてある。
とまあ、蘇ったライトニングサイクス改め「ライトニングテンペスト」。
最高速度は、サイクスに少し及ばないものの、高速ゾイドとしては十分。
勿論、十八番の高速平行移動は健在である。
寧ろ、ブースターが脚部に移動したお陰で機動性は上昇していると言える。
何にしても大事な、そして最高の相棒。
これからも死線をくぐる事もあるだろうが、テンペストと居ればきっと大丈夫だ。
「さあて、急ぎますか。」
グスタフのスピードを上げ、自分は依頼主達の所へと向かっていった。
*
さて、あるコロニーでは、一つの問題が持ち上がっていた。
簡単に言えばこれからどうするかである。
盗賊に襲われ、人的被害は出なかったものの、僅かばかりの財産はすべて奪われてしまった。
ただでさえ、一年前のデスザウラー騒ぎで甚大な被害を受け、
共和、帝国両国の援助で何とか暮らしていた所にこの仕打ちである。
彼らにすれば神も何も在ったものじゃないと言うのが正直なところだろう。
だから、ゾイドとコンテナを載せたグスタフが近づいて来た時に、過剰な防衛反応を示したのも無理からぬ事である。
・・・・・・・無理からぬ事であると、頭でわかっていても心の方は納得してくれない。
勿論コイツもそうだった。
「いきなり何しやがる・・・。」
グスタフから降りてきたロウを、数人の村人が袋叩きにしようとしたのだ。
(襲い掛かられた瞬間、反射的に殴り倒していたが)
「せっかく、人が盗られた物、取り返してきてやったってのに、恩知らずにも程があるぞ。」
自分の周りで伸びている一人を蹴りつけて、文句を言う。
「そ、ソレは本当かね・・・」
遠巻きに観ていた老人がおっかなびっくり尋ねた。
「ああ、盗まれたもん総て丸ごとこのコンテナに入ってる。」
そういった瞬間、蜂の巣をつついたような騒ぎが起こる。
涙を流すもの、神に感謝するもの、恩人の手をとって礼を言うもの、様々な反応を示す村人たち。
その中の数人が、コンテナにしがみつきこじ開けようとした。
撲!!殴!!打!!
派手な音をたて、彼らを殴り倒すロウ。
静寂が広まる場で、冷たく告げる彼女。
「あんた達は自分の依頼主じゃない。
彼ら以外がコンテナを開けることは許さない。」
「だ、だれだよ、依頼主ってのは・・・」
殴られた一人が喚く。
答えようと口を開いたとき丁度タイミング良く、
「お姉ちゃん!!」
数人の少年少女が駆け寄ってくる。
笑みを浮かべると、ロウは慇懃に腰を折り、
「ご依頼の品、確かに取り戻してまいりました。」
「ありがとう、お姉ちゃん!!」
ぎゅっ、と彼女に抱きついてくる子供たち。
彼らは盗賊に困っている大人たちを見かねて、偶然村に立ち寄っていた賞金稼ぎに、盗られたものを取り返してくれる様頼んだのだった。
「あの、それでお金の事なんだけど・・・」
子供たちの中で一番の年長者が済まなそうに言う。
「僕たちコレだけしか持ってないんだ・・・。」
と、数枚の小銭を差出す。
ロウは、差出された硬貨のうち一番大きいのを摘むと、
「報酬は確かに受け取りました、コレで契約は終了です。」
優しい微笑みを浮かべて、再び頭を下げた。
パアっと表情が明るくなる子供たち、
『ありがとう、お姉ちゃん!!!』
そうして、再び彼女に抱きつくと、
「そうそう、一つ言っておくよ。
自分は男だ、だから『お兄さん』。」
「・・・・・・・・」
ロウの言葉に固まる少年少女。
数秒後、驚愕の大声が響き渡ったと言う。
―――――――――2―――――――――
「あははははは、アンタやっぱり女に間違えられるんだ。」
「・・・笑わないで下さいよおふくろさん・・・なんで毎回毎回・・・・」
カウンターの向こうにいる相手に不貞腐れる、ロウルォーグ。
「そら、あんたの顔が綺麗だからさ。
ホントあたしの若い頃にそっくりだね。」
「・・・褒め言葉だと思っておきますよ・・・・」
男である、かのじょ・・・失礼。
彼は顔が綺麗と言われても、素直に喜べない。
今まで、初対面の相手にほぼ100%の確立で性別を間違えられているのだ。
彼自身の整った容姿も原因ではあろうが、なにより問題なのは、伸ばしている白髪だろう。
そのせいで、中性的な顔立ちが女性的な印象を与えてしまっている。
「それで?女に間違えられた愚痴を言う為に来た訳じゃないだろ?」
さらりと話題を変えるカウンターの女性―多くの賞金稼ぎが世話になる情報屋「おふくろさん」。
「ええ、頼んでいたことはどうなりました?
何か進展は?」
「ないよ、このあたしですら詳細はつかめない。
さすがはヒルツ一党の残党ってとこかね。」
「そんな・・・・・」
「どうしようもないね・・・・誰が今の組織を纏め上げているかなんて、皆目見当もつかない。」
「・・・・そうですか・・・・では判った事だけでも教えてください。
後はこちらで何とかします。」
「あいよ」
返答とともに、彼女はカウンターの下から資料の束を取り出す。
それを受け取ったロウはザーッと目を通し、そんな彼に、
「・・・アンタ、やっぱりヤルつもりなのかい?」
と、尋ねるおふくろさん
彼は、資料から視線を移すと一言。
「ええ・・・アイツと寸分たがわぬように・・・コロシテやります。」
*
ギイッと軋み、バタンと音をたて、扉が閉められる。
ロウが出て行き、ふぅ、と情報屋は溜息をついた。
「・・・まったく・・・なんて目をするんだい・・・」
ロウが最後に見せたカオ、感情の無い、氷の瞳。
それを見てしまった彼女は、表面上平静を保っていたが、内心震え上がっていた。
いまでも鳥肌が引いていない。
「復讐なんて虚しいもんだって知ってるだろうに・・・・
それでもやらなければ自分が保てない・・・・か・・・・・」
全く難儀だねぇ・・・と再び溜息をつくと、情報屋は店の奥へと引っ込んでいった・・・。
*
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コレハイッタイドウユウコトダ?
辺りに砲撃の後があり、建物はズタボロ、ゾイドの残骸が、いたるところに散らばっている。
それも総て、帝国軍正式採用型の機体ばかりだ。
弾薬の補給にと思って、二ヶ月ぶりに訪れた帝国軍基地(むかしのしょくば)。
懐かしいはずのその場所は、見るも無残な破壊跡が山ほどあった。
「・・・・・・・何かに襲われたのかね・・・・・」
って言うかそれしか考えられない。
それにしても天下のガイロス軍基地を襲うなんて何処のどいつらだ・・・・・・
共和国とは仲良いし・・・・・もしかしたら、ヒルツの残党か?
「・・・・・・・いきなりビンゴかも。」
手掛り発見か?
と思って喜んでみたものの、自分の予想は思いっきり裏切られる事になった。
*
「はあぁ!!盗賊に襲われたあ!!???」
青空の下に、自分の声が響き渡る。
「そ、結構前の事だけどな。」
知り合いの言葉が良く理解できない・・・・・。
どちらにしても、あの連中の情報はつかめそうにも無いか・・・・・。
襲撃跡が生々しく残る基地。
その近くの別の基地で補給を頼むと、此処に配属されている知り合いが二つ返事でやってくれた。
そして、ソイツに事の顛末を聞きだした次第ではあるが、返って来た言葉に自分は頭を抱えてしまう。
「おいおい、仮にも軍基地だぞ・・・・そんなとこを襲う賊も賊だけど、
やられちまう軍人って・・・・一体何よ・・・?」
「此の頃、兵隊が腑抜けてるんだよ、俺を含めて。
平和だからな。
まあ、それはそれに越した事ないんだけど、それを良い事に好き勝手する馬鹿者共が多すぎるんだ・・・。」
「・・・・・なるほど・・・」
大昔の遺物を巡ってのこの間の騒動。
それはまだ、完全には収まってはいない、と言う事か・・・。
「なんか手伝える事在る?」
ゾイドの下にもぐりこんだ友に声をかける。
頼んだのは弾薬の補給だけだったのだが、こいつ、ドックに我が相棒を運び込んで何だか本格的にメンテナンスし始めた。
「ああ、そこのレンチ取ってくれ。
後テスターも頼む。」
りょーかい、とレンチを手渡す。もう一つテスターの方は見当たらなかったので、そこらへんを探してみる。
「はい、テスター。」
「サンキュ、その辺に置いといてくれ。」
頭の所らへんに置くと、自分は床に座り込んだ。
「・・・・・なあ、ロウ・・・。」
話しかけてくる友人。
なんだ?と聞き返すと
「お前、何で軍を辞めたんだ?」
いきなりそこを聞いてきやがりますか・・・。
「俺のせいじゃないのか、ミスった俺を助けるために。
命令違反してまで来てくれただろ?
もし、そのせいなら・・・」
「違うよ。」
友人の言葉を否定する。
「それに辞めたんじゃなくて辞めさせられたの。
クビになったの。
それにさ、組織に入ってると如何しても出来ない事が在るからね。
あの事が無くてもそのうち辞めてたさ。」
「・・・妹の復讐・・・って事か?」
妹・・・デスザウラーに焼かれた自分の半身。
自分がもっと強ければ、もっと早くデスザウラーを倒せていれば、死なずに済んだかも知れない、唯一の家族。
ああ、そのことも理由のひとつだ。
でも、それだって・・・
「いや、あいつの事は大きく占めてるけど・・・・・一番じゃない・・・」
理由なんて幾らでもある。
しかし、そのどれもが一番で、なおかつ凡てがそうではないのだ。
そんな矛盾した思考の中で、ただコレだけは確かと言える事が一つだけある。
「全ては自分のため、他の誰でも無く他の何でも無く、ただただ自分は自分の為に生きる。
その為にやったことさ。」
そう呟くと、友人はひょっこりと頭を出して
「おまえらしいな、その答え。」
「そっか?」
「ああ、座右の銘なんだろ、『人間は自身のためにしか動けない』ってさ。」
「違いない」
その後自分たちはひとしきり笑いあった。
それは、懐かしい昨日の日を想う、暫しの休息だった。
―――――――――3―――――――――
惑星Zi。
金属生命体ゾイドが息づく場所。
現在、この惑星では「銀河のかなたの青い星」から来た人間たちが繁栄しているが、
彼らが現れるずっと以前、この星に暮らしていた人々がいた。
現在、「古代ゾイド人」と呼ばれる者たちだ。
彼らは、自らが生み出した「死を呼ぶ竜」に滅ぼされたが、その生きた証は現在にまで残っている。
各地に残っている「遺跡」がそれだ。
現在の人類は、其処をありとあらゆる方法で利用する。
其処に残されたものを読み取り、研究し、更なる発展の礎とする。
そしてたまに、何者かの根城として使われる事もある。
・・・・・ちょうど此処のように。
「一体どうした!
たかがゾイド一体片付けるのに何時までかかっている!!??」
大声で叫ぶ男。
森の中にポツンと在る遺跡を、拠点としている組織のヘッドである。
「だめです、迎撃に行った連中は全てやられたようです!!」
信じられない報告を持ってくる部下を殴り飛ばし、更に大声で喚く彼。
「何としてでも殺せ!!生きて返すな!!
さもないと「あの方」にどんな目に遭わされるか分からんぞ!!!」
ザン!!
グシャ!!
ガラガラガラガラ!!
その瞬間、部屋の壁が崩れる、いや、崩される。
振り回された鋼鉄の爪、ストライククローが瓦礫を押し潰している。
固まる頭目、外から丸見えになった部屋に鼻面を突っ込んだのは、黒いゾイドだった。
「部下を怒鳴る前にまずお前が出て来いよ・・・」
そのゾイドから呆れた声が発せられる。それに留まらず
「それとも。
凶悪そうなのは外見だけで、砦に引っ込んでないと怖くて何も出来ない腑抜けな訳?」
嫌味まで言われる。
「・・・っ、なにを!!!!」
「違うと言うならかかって来いよ、ゾイドに乗るまで待ってやる。」
易々と挑発に乗り、自分の機体に飛び乗る。
コレには襲撃者も呆れ気味で、
「・・・はあぁ・・・・・こんな安っぽい挑発に乗るんじゃないよ・・・・」
などと呟いたとか。
雄叫びを上げ、姿を現すゾイド。
ビームガン、ガトリング等の武装で強化してあるが、紛れも無く
「・・・アイアンコング・・・」
真紅に色づいた、鋼鉄の怪腕王にその呟きが届く。
「どうだ、グゥの音も出まい!
この俺のあいあんこん・・」
「こりゃまたトロソーな・・・お前にぴったりだな。」
折角の決め台詞を横からさえぎられ、頭に血が上りかける男。
だが、ゾイドに乗って余裕が出来たのか、冷静に返答。
「ふん、そう思いたいなら思え。
すぐにその考えを改めさせてやる。」
こめかみがヒクヒク震えていたりするが・・・。
お互い、長めの間合いで睨み合う。
「名前の聞いておこうか。
俺はガンハウト、お前は?」
唸るアイアインコング、
「ロウルォーグ=ドライ、相棒の名はライトニングテンペスト。」
咆哮するテンペスト。
瞬間、コングが高速で突っ込んでくる。
振りかぶった腕を叩き付ける。体重とスピードが乗ったそれは大きく地面をえぐった。
「はや!!」
バックステップで大きく避けたテンペスト。
すぐさま背中のガトリングの照準を、
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!!!!!
つける間もなく、コングの砲塔が火を噴いた。
横っ飛びで回避し、足のブースターをふかして走り出す。
しかし、この遺跡は森の中、戦いの場もテンペストが最高速度を出せるほど広くは無い。
ダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダン!!!!!
ガトリング砲が旋回し、着弾点が走るテンペストを追尾する。
「食らえ!!」
ガンハウトが叫び、愛機の左腕を敵機に向ける。
装備されていたミサイルが尾を引いて飛び、テンペストを爆煙、粉塵が包み込む。
「どうだ、コレが俺とアイアンコングGカスタムの実力だ!!恐れ入ったか!!
・・・と言っても粉々になっていては何も感じられんな。」
勝利を確信して、わははははははは!!!と馬鹿笑いしているガンハウト。
「勝利宣言は相手の死体を見てからするものだぞ。」
「なに!?」
通信に入った声に、泡を食い辺りを見回す。
「上だよ」
双月を背負い、黒い獣がその爪を打ち下ろす。
グシャ。
金属がひしゃげる音と共に、落下するガトリング砲。
着地したテンペストは、今度こそ砲の狙いを合わせた。
「何を驚いている。」
冷徹な声音で、ガンハウトに告げるロウ。
「ライトニングサイクスは、元々奇襲用。
この程度の芸で驚くなよ。」
「・・そうだったな、確かにサイクスは奇襲用・・・
正面からの撃合いは苦手だったよな。」
残りの武装を、テンペストに向かい乱射する。
光条が走り、爆音が轟く。
「これでどうだ!!
ビームガンの連射に、ホーミングミサイル!!コレでくたばったろう!!
馬鹿め、奇襲用の機体で正面から掛かってくるから、こうなるんだ!!!」
「バカはそっちだ。」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
アイアンコングより重い砲撃音がビームガンを捉え、爆発する。
「勝利宣言は相手の死体を確認してからするものだ。
と、ついさっき言ったはずだけど?
単細胞な頭脳は、三歩歩く前に忘れるようだね。」
「ッ!!!きさまあぁ!!
図に乗るなよおおおお!!!」
背中のスラスターに火を入れ、突っ込んでくるコング。
突き出された右拳を回避するテンペストに、もう一方の腕が迫ってくる。
右はフェイント、コングのパワーならば腕だけの一撃でもかなりのダメージになるはずだ。
(とった!!)
三度目の正直、左腕が黒の機体を捉え・・・、なかった。
振り抜かれた腕は、敵機を素通りする。
「サイクスの十八番、高速平行移動。
勿論こいつも出来る。」
残像を残し、コングの後ろに回りこんだテンペスト。ガトリングが弾を吐き出す。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
打ち出された無数の鉄鋼弾が、コングの背中を突き破り、中の組織をズタズタに破壊する。
「うわああああああ!!」
コックピットでは、コンソールが火を噴き、破片が飛び散った。
*
アイアンコングが倒れる。
テンペストのガトリング砲が撃ち出した特殊鉄鋼弾は、ガンスナイパーが撃つものと同じ。
ブレードライガーのシールドを三連射で撃ち抜くような物が、
十秒間に三百発も当たれば、さすがの重装ゾイドもひとたまりも無い。
コンバットシステムがフリーズするか、運が悪ければゾイドコアに損傷を受けるだろう。
「・・・状況終了」
呟いて、倒れたゾイドをみる。
コックピットからほうほうの態で操縦者が這い出してきた。
逃がすと思ったら大間違いだ。
「動くな、それ以上進むと撃つぞ。」
自分も相棒から降り、銃を構える。そんな自分を見て硬直するガンハウト。
「お・・・おんな・・・?」
躊躇わず、引き金を引いた。
ドン!!
「自分は男だ・・・・」
我ながら背筋が凍りそうな声で呻き、硝煙の上る銃口を相手の眉間に押し付ける。
「ひいいいいいい!!」
「答えろ、お前らのリーダーは何処にいる。
ヒルツが集めた連中を今束ねている奴らは何処だ?」
「し、しらねえ!!」
ドン!!
「次は当てる。」
「ほ、ホントだ!嘘じゃない!!」
「そうか、余程命がいらないんだな。」
引鉄にかける指に、力をこめる。
「嘘じゃない!!確かに通信で連絡は貰う!!
けど何処に居るかは知らない!!!」
その目に映るのは、恐怖の色。どうやら、真実のようだ。
「そうか、ならもう用は無い。」
ドン!!
重い銃声が、三度夜の森に響き渡った。
*
真紅の液体を噴出して、男の体が弛緩する。
汚れた右手と銃を振って、血を吹き飛ばすロウ。
「危ないな、自分に当たるところだった。」
「そんなに下手じゃないわ。」
来訪者が、何事も無かったように言う。
その手には無骨な拳銃が一丁、うっすらと硝煙を上げている。
「はじめまして、私を探していた様だから出てきてあげたわ。
感謝してほしいところね。」
ロウは、未だ掴んでいた死体を放り出し、右手の銃を来訪者―緑髪で頬に青い模様のある女―にむけた。
「ああ、お会いできた事、光栄に思うとするよ・・・・」
「それはどういたしまして。」
女も、その手に余りそうな大型の拳銃を相手に向ける。
「一つ聞きたい事がある。」
「何かしら?」
「・・・お前ら、何で今でも活動しているんだ?」
「・・・なに、それ?」
怪訝な顔をする女。
「お前らのリーダーは、ヒルツは死んだ。
それなのに何でまだ動いてるんだと聞いている。
それほどまでにこの世界を滅ぼしたいのか?
ニンゲンが嫌いなのか?」
「・・・・いいわ、答えてあげる。」
銃を構えたまま、女は揶揄するように言った。
「それはね・・・・」
ゴウ!!
辺りが光に包まれる。
とっさに目をかばい、銃口を相手から外してしまうロウ。
光が収まると、緑色の二足歩行ゾイドが焼き払われた木々の向うに覗き、根城になっていた遺跡は跡形も無く消し飛んでいた。
勿論、中にいた人間もろとも。
「荷電粒子砲・・・・か」
思わず呟く。
「ジェノザウラー・・・・・
口封じにしてはまたとんでもないもんが出てきたな。」
「ワイバード!!」
女の声に反応して、殺戮兵器から緑色の光が飛び出す。
「教えてあげる。
何故、私たちがまだ動いているのか、何をしようとしているのか。」
光から現れた、小型恐竜型ゾイドに手をかけ、ニヤリと笑う女。
GuOOOOO!!
女を抱え、光になった小型ゾイドが、ジェノザウラーに吸い込まれる。
目に灯が入り、咆哮を轟かせる殺戮竜。
「『知る必要のない事』よ。
特に、これから消える貴方には・・・ね。」
悪意に満ちた声が、響く。
邪竜の影響か。
それとも、本人が歪んでいるのか・・・・判別はつきそうにもない。
*
夜闇を切り裂く、二体の咆哮。
殺戮竜「ジェノザウラー」、閃光嵐「ライトニングテンペスト」
「死を呼ぶ魔獣」デスザウラーの変異体。
そして、地上最速ゾイドのマイナーチェンジモデル。
先手はジェノザウラー、パルスレーザーを撃ち掛ける。
難なくかわしたテンペスト、ガトリング砲で応戦する。
尾を引く光弾の雨を、ヒラリと軽やかにかわすジェノザウラー。
左腕が飛び、テンペストに掴みかかる。
鋭い爪が黒い装甲を掴み取る・・
「手ごたえが無い!?」
「あまい!!」
高速平行移動の残像を囮に、左サイドからガトリングを撃つも、再びヒラリと避けられる。
ゴウ!!!!
テンペストが仕掛ける。
四肢のブースター、六門全てをふかし、一直線に突っ込んでゆく。
「ハッ!!」
ガトリングを撃つでもなく、無謀な特攻をしかける相手を、嘲笑するジェノザウラーの乗り手。
自分の前面、広範囲にわたってパルスレーザーをばら撒く。
「チィッ!!」
二、三発被弾するテンペスト、それでもスピードを緩めずストライククローを叩き付けようとする。
三度、軽やかに避ける殺戮竜。
その目が、自らに向いている砲口を捉える。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!
重い機銃の音が闇を切り裂く。
特殊鉄鋼弾の直撃を受け、右肩が火を噴いた。
「なかなかやるわね・・・自分を囮にして、避けた相手に弾を撃ち込むなんて・・。
未来位置の予測でもできるの?」
「ただの経験さ、と言うよりは博打だったけどな。」
高速で突っ込み、鋼鉄の爪を相手に叩きつける。
その際、ガトリングはあらかじめ右に向けておく。
そして、大抵の人間は避けるとき左に跳ぶ。
つまり、こちらから見て右側に、である。
「そっちこそ、さすがはジェノザウラーと言ったところか。
コックピットを狙ったつもりだったが、見事に外されたな。」
「当然でしょ、オーガノイドの力を使っているんだから。」
パルレーザーを撃ちかけながら、言う女。
「・・・・というより、ジェノザウラー+オーガノイドの組み合わせしといてこの程度って一体ナニよ・・」
ブースターに火を入れ、全速で回避するロウ。
「・・・どういう意味かしら?」
「圧倒的優位な立ち位置にいるくせに自分と互角って言う体たらくは何なんだよって訊いてる。」
走りながら、ガトリングを撃ちかける。
「互角ですって?勘違いも甚だしいわ。
少し遊んであげているだけなのに。
随分、御目出度い思考回路をお持ちのようね?」
レーザーを撃ちながらジェノザウラーが突っ込んでくる。
「ふん、余裕ってヤツか・・・三流だな」
振るわれた加重力衝撃テイルを、残像を残して避け、ストライククローを叩き込もうとする。
「三流ねえ・・・根拠の無い雑言は頭の悪い証拠よ」
右前肢の爪を回避し、直後に撃たれた鉄鋼弾の雨も危なげなく避ける。
「獲物を前に舌なめずり、それが三流の所業じゃなきゃなんだ?」
ブースターを全開し、その場を離れるテンペスト。
一刹那後、そこにジェノの砲撃が着弾する。
「本物の強者の仕草よ。」
踵のフットロックを落とし、尻尾を開くジェノザウラー。
顎が大きく開かれ、のぞく砲口に光が集まる。
最凶最悪の武装、荷電粒子砲。
ゴウ!!!!!
光の奔流が放たれる。かわしたテンペストに、飛来した左腕が爪を打ち込んだ。
「マズイッ!!」
ワイヤーが巻き戻され、ジェノザウラーの目前に引きずられるテンペスト。
「さあ、コレでお終い。
何か言い残す事はあるかしら?」
首を掴み上げられ、荷電粒子を集める殺戮竜から尋ねられる。
「獲物を前に舌なめずりは三流のする事さ。」
不敵に言い放ち、ロウはテンペストの左前肢をジェノの頭部に向けた。
奔る光条。短銃身パルスレーザー砲が火を噴き、口の中に飛び込む。
「そんな暇があるなら、さっさと息の根を止めることだ。」
小規模な爆発がジェノザウラーの顎内で発生する。
その隙に、テンペストは離脱反転してガトリング砲の照準を定める。
爆発の衝撃に頭を振る女。
コンソールの表示を見て悪態をついた。
「『荷電粒子砲使用不能』!?」
一時的に、兵装管制システムが凍ったジェノザウラーの正面から、ガトリング砲を乱射し、閃光嵐が突っ込んでくる。
「ええい!!」
パルスレーザーとビームガンを連射し、殺戮竜を同じく突っ込ませる。
ジグザグに走り、幾体もの残像を残して、弾を避けるライトニングテンペスト。
その間も、嵐の如き砲撃は、ジェノを捉えている。
黒と緑が交錯する。
飛ばされたジェノザウラーの爪を避け、跳び上がったテンペストの爪が、頭のビームガンを破壊する。
しかし、着地した刹那、尻尾の強力な一撃が閃光嵐を捉え、弾き飛ばした。
「・・こおんのぉ!!まだまだぁ!!!」
システムフリーズさせる一撃に耐えたテンペスト。
すぐさま起き上がるも、コンソールが不調を訴える。
『二連装ガトリングユニット使用不能』
『パルスレーザー砲使用不能』
『機体全体に過度のダメージ』
『稼働率30%ダウン』
「チッ」
舌打ち一つ。
コンソール横のボタンを押し込み、二種類の射撃兵装を排除するロウ。
「いくぞ!!」
身軽になったテンペストが走り出す。
稼働率が下がっているとは思えぬ、凄まじい速度。
「まだよ!!」
コックピットでは乗り手が叫び、それに呼応するように、ジェノザウラーが咆哮する。
足のブースターを全開し、正面から迎え撃つ。
再び交錯する、緑と黒。
背中のパルスレーザーを連射し、左の爪を飛ばすジェノザウラー。
それらに捉えられる刹那。
ゴウ!!!!
更に加速する、ライトニングテンペスト。
ライトニングサイクスもかくやと言うスピードで飛び込み、跳ね上がり、ジェノザウラーの首に牙をつきたてる。
走行の勢い、運動モーメントが、胴体を殺戮竜の肩越しに吹き飛ばす。
食込んだ牙が引きずられ、殺戮竜の首に深い傷をうがつ。
その時、墓斬と牙が折れ、首に残った。
*
空中でバランスを崩し、テンペストは地面に叩きつけられる。
凄まじい加速に見合っただけの衝撃が、搭乗者、ロウを襲う。
「ガァァアア!!」
飛びそうになる意識を繋ぎ止め、ジェノザウラーの姿を確認する。
右肩、口、そして首から火花を散らしているその姿は、痛々しく、文字通り手負いの獣を連想させた。
「・・・貴方、バカじゃないの・・・・」
驚愕に彩られた声が、ジェノザウラーから届けられる。
「全ての武器を失って、それでもまだ、このジェノザウラーに突っ込んでくるなんて・・・
正気の沙汰とは思えない。」
「なに言ってるんだ。
己が爪で切り裂き、牙で屠る。それがゾイド本来の戦い方だろう?」
うつぶせた相棒の中で、皮肉に笑うロウ。
「それに、『切り結ぶ刃の下こそ地獄なれ、踏込み行けば後は極楽』さ。」
「・・・・筋金入りのバカね・・・貴方。」
「ああ、自覚してる。」
「・・・・・・そんなに極楽を見たいなら、そこに送ってあげる。」
火花を散らしながら、ジェノザウラーは荷電粒子砲発射体制をとる。
収束する荷電粒子が閃光を発し、夜闇に鈍く、禍々しく、その存在をましてゆく。
「・・コレで最期。言い残す事はないかしら?」
「・・・・・それじゃ一つ。」
最期とは思えぬ不敵な調子で言葉を紡ぐ。
「人の話はちゃんと聴こうね、おぜうさん。」
脈絡も無い、遺言には不適当な言葉を聞いて、眉を寄せる女。
「・・・消えなさい・・・」
光の奔流が夜を切り裂く。
ボン!!
瞬間、ジェノザウラーの頭部が火を噴いた。
「なっ・・・なにが!?」
コンソールが異常を表示する。
『荷電粒子逆流』
『頭部に深刻なダメージ』
『コンバットシステムフリーズ』
「な・・・・そんな・・」
戦闘システムが凍ってしまった以上、自身の敗北は決定する。
「・・・だからいっただろ、獲物を前に舌なめずりなんて三流のするコトだって。」
鋼鉄の爪でもって、突き刺さった牙を深く叩き込んだ、黒い獣。
ライトニングテンペストから、三度目の台詞が届けられる。
「やられたふり?
・・なんて無様な・・・・。」
「殺し合いに、無様もくそもあるかよ。
勝って生き残った方がまかり通るだけだろ。」
「覚えていなさい・・・この借りは、必ず返すわ。」
怒りに震える台詞とともに、緑色の光がジェノザウラーから抜け出した。
「・・・・忘れるわけ無いだろ・・・妹の仇だ・・・
今度こそ、殺してやる。」
ロウは一人呟くと、暫しの休息のため、その瞳を閉じたのだった。
―――――――――4―――――――――
青い空に白い雲。
帝国軍基地にて、自分―ロウルォーグ=ドライは、のんびりと昼寝をしていた。
「・・・う〜ん・・・幸せ。」
などとのたまっていると、
「こら!」
何者かに陽光を遮られる。
「・・・どいてくれない?」
「・・・あのな・・・」
面倒くさそうに言った台詞に、光を遮っている本人は空恐ろしい声を返してきた。
「人に整備やらせといてその態度は何だ!!!
少しは感謝して敬え!!」
「やだよ面倒くさい。」
「おおおお、おまえなあああああ・・・」
「はいはい、怒らない怒らない、あんまり怒ると早く老けるよ。」
ブチ
あ、なんか切れた。なんだろ?
「・・・・・・・・・ロウルォーグ・・・」
「なに?
・・・・ヒィ!!!!!!!!!」
蒼穹を見つめる自分の目に写ったのは、口から煙を吐いて頭に二本の角を生やした(イメージ映像)友人の姿だった。
「いたたたたたたたたたた。」
肘をさすりながらぼやく自分。
「ちょっとは手加減してくれよ。もうちょっとで折れるところだった。」
腕ひしぎ逆十字固めやら卍固めやら何やら、様々な関節技を極められ、
体の節々は既に悲鳴を通り越して、断末魔一歩手前の叫びを上げている。
いかんせん、自分は殴り合いは得意だが、寝技になるとからっきしで、白兵訓練のときも往生したものだ。
ところが我が友人は寝技のうまさだけは部隊一を誇っていたりしたのだから、手加減してくれてしかるべきだろう。
「やかましい!!」
ところが、自分の至極真っ当な意見は怒声の一つでもって切り捨てられた。
「ほら、ライトニングテンペストの点検は終了だ。
さっさともって帰れ。」
「はいはい、ありがとうね。」
「ったく、ガーディアンフォースで修理してもらったんだったら、わざわざ此処に持って来る必要はないだろ。」
まぁ、言われてみればそうなのだが
「信頼できる人に見てもらうほうが安心できるからね。」
至極当然の事だ。
「・・・・あ〜、えへんえへん。」
それなのに何故か、友達は変な咳払いをすると、そっぽを向いたのだった。
「お前さ、今回は何と戦ったんだ?」
視線を自分からずらしたまま、尋ねてくる。
「ヒルツの残党のアイアンコングの改造型と緑のジェノザウラー。」
「へー、アイアンコングとジェノ・・・・・っておい!!
変な冗談はよせ!!」
「冗談じゃないさ、まぁジェノザウラーには負けちゃったけどね。」
「ナニ考えてるんだこのドアホウ!!ジェノザウラーだと?
何でそんなもんに喧嘩売ったんだよ!!」
「売ったんじゃなくて買ったんだけど。」
「同じだバカ!!デスザウラーの変異体だぞ!!
荷電粒子砲だぞ!!死ぬ気か!!??」
「・・・そんな気はないけど・・・」
三白眼で睨み付けて来る友人を見据え
「死んでも仕方がないね、自分はさ。」
なっ、と言葉に詰まる友。
「変な事いうなよ、何でお前が・・・」
「だって自分はヒトを殺すもの」
答えは明白。自分はヒルツの残党を殺す、容赦なく完膚なく無意味に無慈悲にその命を蹂躙する。
だからその相手に、容赦なく完膚なく無意味に無慈悲に殺し返されても文句は言えない。
「妹の敵討ちなんだろ、だったら・・」
お前には、アイツラを殺す理由が在るじゃないか。
と、言いかけて呑込んだのが判った。
「そんな理由じゃ人殺しは正当化できない。
それは君も解っているだろ?
その人間が死んで、悲しむ人がいるならば、そいつを殺すことは許されないことだ。」
「だったら、復讐なんて止めろよ。
お前はお前の為に生きるんじゃないのかよ・・・
自分の命の価値をなくすことの何処が・・・自分のためなんだよ。」
悲しげに呟かれたその言葉は、ああ、至極真っ当で反論の言葉もない。
「耳が痛いね。でも無理だよ。」
「なんで!!!???」
「だって許せないから。
アイツは死んだのに、生きてきた証も、死んだという証も、何も残さないまま、
綺麗さっぱり、何もかも奪われたって言うのに。
その原因に加担した連中はのうのうと生きて、もっと多くの人間を泣かせようとしている・・・・・。
そんなモノが許せる?
自分は許せない。だから自分はアイツラを殺す。
妹のように、弔われる事も、悼まれる事も許さず、ただただ無意味に、無価値に、無情に、死を、与えてやる。」
やりたいことは幾つかある。
それでも、今一番やりたい事、やらなければならない事。それが妹の復讐。
自分を保つ為に、ココロが壊れない為に・・・代わりに奴らを壊す・・・ただそれだけの事。
全く、自分が情けない。
壊れそうになるのは、自身が弱いから。
その弱さを他人に押し付けて、死人を理由にして、他人を殺すなんて、最低だと解っているのに・・・
どうしても・・・自分が止められない。
・・・全く・・・なんて・・・無様。
*
コンソールに灯が入り、相棒の状態を映し出す。
「駆動系、伝達系、その他のシステム異常なし。
システムオールグリーン。」
ライトニングテンペストの目に光が燈り、大きく咆哮する。
「調子はいいよ。
ありがとね。」
「俺は何もしていない。
礼ならガーディアンフォースにでもしてやれよ。」
折角頭を下げたのに、つれないお言葉だ。
そう、苦笑している自分に
「今度は無茶するなよ。
って言ってもするんだろうけどさ・・・頼むから止めてくれ。」
真面目な顔をして、友人が伝えてくる。
ああ、その願いは聞き届けられない。
「・・・善処するよ。」
「バカ、こういうときは嘘でもわかったって言え。」
折角の忠告だが、自分はそんなに器用じゃない。
「あと、お前は弱くないよ。
自分の弱さを認められて立ち向かえる奴ほど、強い奴はいない。」
・・・君は優しいね。全く・・・でもそれは勘違い。
自分は結局、『復讐』なんて道に逃げ込んだ。
「ありがと。それじゃ、こっちからも一つ忠告。」
多分、自分でも意地の悪い笑みを浮かべて、言ってやった。
「君は女の子なんだからさ、いい加減男言葉使うの止めたら?」
一瞬の沈黙。
「やかましい!!!!お・・俺の、勝手だろ・・・」
彼女の怒号に見送られ、そうして自分は、荒野へと駆け出して行った。
休息はオシマイ。
弱音もココまで。
「いくぞ。」
ゴウ!!
相棒のブースターに火をともす。
黒い嵐が荒野を駆ける。
ただ一直線に。
自分はただ、自分のやりたいこと、やらなくてはならない事をやる。ただそれだけ。
進む先に何があろうと、全て受け入れて、立ち向かい、ねじ伏せる。
後悔はない、する意味も無い。
なんて、自分に言い聞かせなければならない弱さが恨めしい。
それでも、そんな弱い自分を抱えて、自分は行く。この最高の相棒と共に。
これからも頼むぞ。ライトニングテンペスト。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき・・・
ロウ:「・・・・・おい、あとがきになんで自分が出るんだよ」
広野:「仕方ないだろう。眉目秀麗なお前の方がこう言った物には適してるんだから。」
ロウ:「・・・貸し一だからな。」
ロウ:「この度はこのような駄文を送りつける事になり、葉月様には何とお詫びをして良いかわかりません。」
広野:「・・・・」
ロウ:「しかし、こんなのでも広野の今の精一杯なので、容赦していただきたい所存であります。」
広野:「自分の筆力のなさが悔やまれます。」
ロウ:「さて、あとがきと言えば作品の解説と言うイメージが強い広野と自分で解説と言っても訳がわかりそうに無いところを注釈してゆきます。」
広野:「まず何より、ロウが緑のオーガノイド使いの女性に勝てたのは、彼女が最初から彼を舐めていたからです。」
ロウ:「自分は勝ってない!!こっちは殺す気で行ったのに、殺せなかった。
そのうえ相手は本気じゃなかったし。
もしアイツが最初から本気だったら多分こっちが殺されてた。」
広野:「ロウの友達ですが、彼女は元々ゾイド乗りです。
それが、ロウが軍をクビになった事件で整備兵に転向したと言う設定です。
・・・そう言えば彼女名前なんて言ったっけ?」
ロウ:「知んない。
二人で居るときは『君』とか『お前』で十分だし。あいつのほかに友達居ないし。」
広野:「・・・・・・・・」
広野:「・・・ロウがジェノザウラーに致命傷を与えた一撃ですが、
荷電粒子砲を打たれた瞬間に残像を残して回避、頸に突き立った牙を叩き込みました。
高速平行移動が、万能じみていますが、その辺りはテンペストに野生の勘が戻ったり、
ブースターの取り付け位置の変更で、横方向への運動能力が上がったなどの屁理屈を適用しています。」
ロウ:「その代わり、カナリ内臓にダメージが来ます。
カクテル造るシェイカーの中に居るみたいなもんです」
広野:「ロウの戦闘スタイルですが、真正面から攻めると見せかけて、
残像を囮に死角から攻撃するといったカタチが基本です。セコイですね。」
ロウ:「う・・うるさい!
幾ら火力が上がっても元がサイクスだからね、奇襲がメインの戦い方になるし、
それに、英雄たちと肩を並べようって言うなら、正面から奇襲なんて器用な芸を持ってないと心許ないんだよ!!」
広野:「色々と出てきた格言ポイ科白ですが、『獲物を前に〜』と言うのはお解かりになられる方も多いでしょうが、
富士見ファンタジア文庫『フルメタルパニック』から拝借させていただきました。」
ロウ:「長編二巻のクライマックス直前に主人公が言った科白です。」
広野:「『切り結ぶ〜』は斬り合いの心構えを説いた言葉です。
『斬り合っている時は恐ろしいが、恐れずに踏込めば結構何とかなるもの』と言う意味だったはずです。
うろ覚えですみません。
作中でロウの座右の銘として言われている『人間は自身の為にしか動けない。』は、広野のオリジナルです。
ロウの基本的な行動原理にもなっているこの言葉は・・・」
ロウ:「待った、自分が言う。」
ロウ:「どれだけ他人の為になっても、その行動をやると決めたのは自身である以上、
其れは自身の為という要素を少なからず含むと言うことです。
完全に他人の為に、自分がいかにやりたくない事であってもやると言うのは、
自分の意思がないのであり、人間の行動とは言えません。
命令された事を命令した者の為にのみ動く機械と変らないと考えます。
つまるところ、自分の意思で行動を決定する人間である以上、
その行動は、自分の為にやる事、自己満足という側面から抜け出せない、と言う事です。」
広野:「誰かの為になると言う要素を無視した言葉ですのでその辺はご理解ください。
そして、ロウがグダグダ悩んでいるのもこの言葉のせいです。」
ロウ:「妹を守れなかったのは自分が弱いからで、ヒルツの残党は憎くて殺してやりたいけれども、
其れはあくまで自分の精神を安定させる為の行為であり、そこにもう居なくなってしまった妹を理由にするのは嫌だった。
でも、実際目の当たりにすると憎しみが強すぎて、自分が壊れそうで怖い。
だから、自分は残党を殺すけど、それは自己保身に妹を引き合いに出すなんて無様な行動。
無様とわかっていてもやらなければ自身を保てない自分がすごく惨めでイヤだ・・・・」
広野:「とまぁ、こうやって欝に入るわけですが、
ライトニングテンペストに乗ると、思考が戦闘的になるので、あまり思い出しません。
まぁ、相棒も一種の逃避の場と言う事です。・・・情けないですね。」
ロウ:「・・・悪かったなぁ・・・どうせ二人の英雄たちほどかっこよくないよ!!」
広野:「ロウが完全にふてくされたのでこの辺にしておきます。
このような駄文ですが、受け取っていただければ幸いです。」
広野さんからいただきました。
ロウルォーグの活躍、しかと拝見させていただきました。
なんかリリスも出していただいて恐縮です。
擬音が漢字で書いてありましたが、分かりにくかったのでカタカナに直しました。
御了承ください。
さて、第3部を読めば分かりますが、ロウとリリスは復讐者と言う点で似ています。
ただ、ロウは復讐を「愚か」だと分かっているのは違いですね。
「人間は自分のためにしか動けない」、私もそうだと思います。
根本にあるのは自己満足なんだと思うことがあります。
ただ、なにで善悪区別がつくかと言うと、やはり人の為になるか、人を傷つけてしまうか、ですね。
「人がもっとも大切に思っているもの。それがすべての原動力になる。」
とある作品からの抜粋ですが、まぁ、理屈じゃ人は動きませんからね。
心のあるまま自由に・・・、だからキースは自由奔放なんだろうか?
広野さん、どうもありがとうございました。