「獣王」

 

 ある朝、トトが珍しく自分一人で起きると、
窓のところでバドが何か本を見ていた。

「バド、何読んでんだ。
こんな朝っぱらから。」

トトの声に気付き、バドが顔を上げる。

「あっ、師匠。
おはようございます。
実は・・・。」

そう言ってトトに本を見せた。

「なになに・・・『賢人について』か。」

「そうなんですよ。
バドったら昨日キルマ湖から帰ってきてから、ずっとそれを読んでるんですよ。」

コロナがそう言いながら階段を上ってきた。
どうやら朝食の準備が出来たらしい。

「ほら、昨日賢人のトートに色々教えてもらったじゃない。
それから他の賢人にも会いたくなっちゃって。」

「そうか・・・とりあえず飯にしよう。」

『は〜い。』

二人がそう返事をした後、トトは顔を洗いに洗面所へ向かった。
顔を洗い終えてリビングに向かうと、ラビがおいしそうに餌を食べているのが見える。
そしてバドはまた本を読んでいる。

『いっただきま〜す。』

3人が朝食を食べ初めて5分後、
トトはウインナーを食べながら言った。

「それで賢人について何か判ったか?」

「まあね。
そうだな・・・、そういえばロシオッティっていう人はジャングルにいるって。」

「ジャングルか。
まだ行ったことが無かったっけ。
・・・そうだ、飯を食い終わったら行ってみるか。」

トトの言葉に驚く2人。
面倒臭がり屋のトトが出かけようと言い出したのだ。
雨が降っても、いや雪が降ってもおかしくはない。

「師匠、急にどうしたんですか?」

「どうしたって事はないだろ。
まだ踏み入れていない所は行ってみたいものさ。
それに、昨日剣の稽古をさぼっちまったからな。」

そう、トトは昨日、奥義である「乱れ雪月花」をゲイザーに使ったので疲れ果ててしまった。
そのため昨日の夜はさっさと寝てしまったのだ。

「それと・・・。」

トトは何か言いかけたが、途中で言葉を飲み込んだ。

「それと・・・、なんですか?」

「いやっ、なんでもない。」

ご飯をかきこみ、「ごちそうさま」と言って、2階に上がっていってしまった。
そんなトトを見て二人は、

「どうしたんだ、師匠。」

「さあ。」

と顔を見合わせていた。

 

 そして数時間後、トト達はジャングルの入り口まで来ていた。
後ろにはリュオン街道の寂れた風景が広がっている。

「ここにロシオッティがいるのか。
なんだかワクワクしてきた。」

「もう、バドったら〜。
迷子になんないでよ。」

「わかってらい!」

トトはそんな二人のやりとりを見てクスクス笑いながら、
ニキータからもらったライオンの顔の形をしたメダルを取りだした。

「師匠、それは?」

「このジャングルのアーティファクトさ。
これで賢人の居場所が分かるはずさ。」

そう言ってトトはメダルに神経を集中させる。
そして、

「よし判った。
さあ、行くぞ。」

そう言って二人の背中を言葉で押した。

 

 しばらく道なりに歩いていると人の声が聞こえた。
前をよく見てみると3人の人が立っている。
トト達はその声に耳を傾ける。

「は〜い、皆さん、いいですか〜。
今日はドゥ・カテの尻尾を取ってきていただきます。
成功したら・・・わかってますね?」

背が他の二人の半分ぐらいしかない獣人が話している。
その後にマッチョなドワーフが喋る。

「わかんねぇよ。」

それに続けてやせのエルフが嫌みったらしい口調でいった。
エルフといってもバドとコロナとは違うタイプのようだ。

「あ〜あ、お前はほんとに鈍くさいな、ハッソン。
そんなこともわかんねぇのかよ。」

「どうなるんだよ、ヘイソン。」

「俺達の借金がチャラになるって事だよ。なっ、子供オヤジ。」

「子供オヤジ」という言葉に反応して背の小さい人が叫んだ。

「子供オヤジじゃありましぇん!
私の名前はサザビー!!
借金もチャラじゃありましぇん。
10000000ルクが9980000ルクになるだけです。」

ハッソンが不思議そうに聞く。

「どうしてそんなに借金があるんだ?」

「ホントに鈍くさいな。
子供オヤジに騙されているんだよ。」

今度は「騙した」という言葉に反応して大声をあげる。

「騙したのではありましぇん。
あなた達が屋敷の物を壊しまくるからです。」

ヘイソンがやれやれという顔で、

「しゃ〜ないね。
泣く子と上司には勝てないって言うからね〜。」

「どういうことだ?」

「ドゥ・カテを500匹捕まえれば借金チャラって事さ。」

そう言うと、ヘイソンがジャングルの奧に走っていった。

「なんでぃ、簡単じゃないか。」

ハッソンもヘイソンの後を追う。
そしてサザビーは最後に一言。

「子供オヤジじゃありましぇん。」

その会話を一部始終聞いていたトトは、

「何なんだ、あいつら?」

『さあ。』

2人も肩をすくめて手の平を天に仰いだ。

 

 3人はまた歩き出し、賢人に会いにひたすら道を進む。
だが一向に着く気配が無く、同じ景色が広がってくるばかり。

「師匠、もしかして・・・、迷ったとか?」

「そんなわけ無いじゃない、ねぇ。」

トトは双子の言葉にギクリとした。
まさかアーティファクトマスターが道に迷っただなんて、口が裂けても言えるはずがない。

「ま、まさか・・・。
そんな分け・・・、ないだろ・・・。」

自信ありげに言ったが、声がうわずっていたためにすぐにばれてしまう。

(おいおい、勘弁してよ。)

そんな二人の心の叫びを知ってか知らずか、トトはひたすら進んでいく。
すると、大きな広場に出る。
そして、そこに広がっていたのはペンギンがモンスターに襲われている光景であった。

「あれって海賊ですかね。」

「いやっ、たぶんあれはここに住んでる『森ペンギン』って奴だろ。」

「どうするの?」

「助けるっきゃないだろ。
そのついでに道を聞こう。」

バドは「やっぱり」という顔をしながらも魔楽器を構える。

「土の精霊ノームよ、岩を降らせ、ロッククラッシュ!」

そう唱えると空間に穴が空き、岩がモンスターに向かって転がっていった。
当初、3匹ほどいたが、バドの呪文を喰らって1匹になる。
そして、トトが素早く残りの一匹を切り捨てた。

「ふぅ〜。
おい!大丈夫か?」

トトがペンギンに呼びかける。
すると、

「あっ、はい、どうも助かりました。
私はえもにゅーといいます。」

「俺はトト。
こっちはバドにコロナだ。」

トトが二人を紹介し、二人はペコリと頭を下げた。

「ところでさ、俺達賢人に会いに来たんだけど、どうやら迷っちゃったみたいで。」

「そりゃそうですよ。
結戒が張ってあって誰でも迷ってしまうんですよ。」

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

トトがえもにゅーに聞く。

「私が道に迷わないおまじないをしてあげますよ。
これで迷わなくなりますから。」

トトになにやら呪文みたいなのを唱えながら、手で文様を描く。

「これでいいです。
おまじないは一人にかけるだけで効果がありますから。」

「どうもありがとう。」

「いいえ、助けてもらったささやかなお礼です。
ロシオッティ様のいる遺跡はここ、緑樹の保養地からまっすぐ行けばいいですから。」

トトは再び礼を言い、遺跡に向かう。
さっきとはうって変わって、道がどんどん現れていった。
そしてとうとう遺跡に着いた。
奧にはロシオッティらしき獣がいるのが見える。
早速バドはロシオッティに話を聞いた。

「俺、バド!
大魔法使いになるためにはどうしたらいいんですか?」

すると、

「こんにちは、バド。
大気にはマナの力が満ちている。
それを忘れずに魔法を使うのだ。」

「ありがとう。」

そしてロシオッティはトトの方に向いた。

「ところで、トトよ。
ドゥ・カテを何とかしてくれぬか。
近頃はいたずらが過ぎて、皆困っておる。
ドゥ・カテの捕獲に協力してやれ。」

トトは頷きながら

「構いませんよ。
どうせこのまま帰っても、つまらないですから。」

「そうか、ありがとう。
あの二人に協力してやると良い。」

「判りました。」

トト達は遺跡を出て、早速ヘイソンとハッソンに交渉をする。
交渉は予想外にうまくいった。
それというのも、二人のライバル意識の強さを利用したのだ。
「自分がおびき出すからあんたが捕まえてくれ」と二人して同じ事を言ったので、
トト達は思わず笑ってしまった。
そして、2人はドゥ・カテを森の奧へとうまく誘導する。
そこは行き止まりだった為、ドゥ・カテは止まらざるを得なかった。

「やっと追いつめたぜ。
悪いけどみんなが迷惑してるんだ。
覚悟してもらうよ。」

そう言って三人はそれぞれの武器を構えた。
ドゥ・カテはぶら下がっている木をゆらして、えらく興奮している様子。

「やれやれ、どんな奴かと思ったらドゥ・インクの親戚かよ。
そっくりだぜ!」

そしてバトルが始まった。
ドゥ・カテは木にぶら下がりながら、木の実を投げつけたり、蹴ったりして攻撃してきたが、
さすがにそんな攻撃に当たるほどトト達はのろまじゃない。

「喰らえっ!」

そう言ってトトは斬りかかったが、以外にも素早く避けられてしまう。
そして、すかさずトトの上に落ちてきた。

「あぶねっ!」

トトは間一髪よけたが、落下の衝撃で上から巨大な木の実が落っこちてくる。

「ひえぇ〜。」

バド達もちょこまかと逃げ回って避けた。

「あんまりいい気になるなよ!」

トトはそう言って思いっきり飛び上がり、ドゥ・カテの腕を斬りつけた。
ドゥ・カテは叫びながら木から落っこちる。
すぐに反撃しようとしたが、バドとコロナが魔法でそれを防いだ。

「いくぜっ!スプラッシュブレード!」

トトはドゥ・カテにとどめの一撃を喰らわし、ドゥ・カテはそのまま動かなくなった。

「やったぜ!」

トトが思い切り腕を振り上げて、勝利をアピール。
すると、奧からヘイソンとハッソンが出てきた。

「俺達って似てるよな。」

「ああ、いざって言うときにはからっきしだ。」

トト達はドゥ・カテの尻尾を手に入れた2人とともにジャングルの入り口まで戻る。
そこにはサザビーが待っていた。

「は〜い、皆さん、お疲れさまでちた。」

「足が棒になっちったぜ。」

サザビーはトトに向かって、

「あなたもわざわざご苦労さまでちた。
これはお礼です。」

そう言って500ルクをトトに差し出す。

「後、これも。」

差し出したのは砂で出来たバラと、何かが書いてある石盤を差し出した。
トトはそれらがアーティファクトだと判ったようなので、

「ありがたくいただいておくよ。」

「礼には及びましぇん。
それでは、るったら〜。」

サザビーはそう言ってとことこ歩いて帰っていった。
ヘイソンとハッソンもぶつくさ文句を言いながら後を追う。

「さあて、帰るか。」

「ねえ、トトさん。
家で何か言いかけたけど何だったんですか?」

コロナがそう聞いてきたので、

「ああ。
またティアラを呼ばれちゃかなわないからな。」

トトは笑ってそう答えた。
その答えにバドとコロナも笑う。
そして、リュオン街道をドミナ方面にむかって進み始めた。
途中トトはドミナの町で買い物があると言って2人と別れる。
その手に袋を持って。

 

 ドミナの町に着いたトトは、まっすぐあるところに向かう。
そして、

「ティアラ!」

「あっ、トト。
どうしたの?」

トトが寄ったところとはティアラの家。

「近くまで寄ったからさ。
そうだ、これ。」

そう言って持っていた袋を差し出す。
その中には花束が入っていた。
薄い青色は彼女がもっとも好きな色である。

「うわ〜、綺麗。
どうしたの、これ?」

「今日、あいつらと一緒にジャングルに行って来てな。
そこで摘んできたんだよ。」

顔を真っ赤にしてトトが答える。
殆ど夕焼けの光に隠れて確認は出来ないが。

「ありがとう、トト。」

そう言ってティアラはトトの頬にキスをする。

「よせよ、恥ずかしい。」

「ふふっ。」

そんなトトとティアラの様子を、遠くからあの双子はじっと見ていた。

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サボテン君日記

じゃんぐるにいったら、
おおきくていたずらずきのけものと、
ぐ〜たらでねそべってばかりいるけものがいたんだって。
ぐ〜たらはよくないとおもう。

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トト(?)の一言

まったく、師匠って嘘が下手だよね。   byコロナ

ホント、ホント。   byバド

おまえら飯抜きだ!   byトト


こんなので二日かかっている俺って一体・・・。
次回頑張ろう。

 

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