声を聞かせて それだけで元気になれるから

 

「CALL」

 

『バン・フライハイトは現在、訓練に出ています』

「・・・・・」

『ご用件のある方は後ほど、おかけな・・・』

機械的に言う電子音声を最後まで聞くことなく、フィーネはため息をついて電話を下ろした。
こういう風に電話が繋がらなくなって、今日で何日目だろうか。

「何じゃ。今日もあいつは電話に出んのか」

頃合を見計らったように部屋に入ってきたディは、開口一番そう言った。

「Dr.ディ・・・」

「仕方ない奴じゃの。お嬢ちゃんがこれだけ心配しておるというのに・・・」

渋い顔のディに、フィーネは顔を横に振る。

「良いんです。バンはきっと、今一生懸命になってるから・・・」

言って、笑った。
しかし、わずかな陰りは隠せない。
ディはふう、と息を吐いた。
フィーネの元気の無い原因にひとつ怒鳴りに行ってやりたい所だが、今はそうは言ってられない。
また新しい遺跡が発見されたのだ。
すぐに調査に行かねばならない。

「今日は西のほうへ行くぞ。動いていれば気も晴れるじゃろ」

「・・・はい」

ディの気遣いに感謝しながら、フィーネはディの後について部屋を出る。
出かけざま、ふと電話を振りかえったが、
すぐに向きなおして、静かに扉を閉めるのだった。

 

『フィーネは今、Dr.ディと出かけてまーす』

「・・・今日もフィーネ、いないのか・・・」

『用件のある方は、またかけなおしてくださいねv』

一通りメッセージを聞くと、ため息とともにバンは電話を下ろした。
こういう風に電話が繋がらなくなって、今日で何日目だろうか。

「何辛気臭い顔してるんだ?」

「うわぁ!!・・・って、何だ、おっさ・・・あ」

いきなり横から顔を出してきたクルーガ―に驚いて、思わず出てきた言葉にバンは口をふさぐ。
それを見たクルーガ―は、

「今はおっさんでいいぞ」

気にするなと手をふった。

「・・・。で、何してるんだよ、こんなとこで」

「お前こそ、こんな所でこそこそ何をやっている。もうすぐ訓練再開だというのに」

「べ、別に、何でもねえよ!」

顔を真っ赤にしながら(本人は気付いていないが)言うバンに、
クルーガ―はふむ、と、手を顎にあて、

「何でもいいが、彼女への電話は公共のじゃなく、渡してやった自分のを使ったほうがいいぞ。
誰が聞いてるかもわからないからな」

「!!おっさん!!!」

怒鳴るバンに、クルーガーはハハハと笑って去っていく。

「ったく、なんなんだよ・・・」

クルーガ―の姿が見えなくなったのを確認すると、
ふと、一度下ろしたはずの受話器を思わず握りしめたまま、また持ち上げていたのに気がついた。
バンはひとつため息をついて、そろそろと受話器を置き、そのまま訓練場へと向かうのだった。

 

思えばそれは、半年以上前のこと、旅先で出会ったクルーガ―の一言が始まりだった。
バンは軍の訓練生として、フィーネは遺跡調査をするDr.ディの助手として、
同じ共和国軍に身を置きながらも、それぞれ違う道を進みだした。
しかし、離れることに抵抗が無かったわけではない。
最初は毎日のように電話で連絡を入れていた。
あまりに見せ付ける長電話(本人達は全く気付いてない)なものだから鬱陶しいと、
クルーガ―が他の訓練生からの、ディが他の遺跡調査のメンバーからの苦情を受け、
それぞれに自分の電話を与えたぐらいだ。
だが、日が経つにつれお互い忙しくなったせいか、
連絡どころか電話さえもあまり出来なくなり、最近ではこうしてすれ違ってばかりいる。
そんな日が続くにつれ、不安や苛立ちはつのっていく。
怪我してない?とか、そっちの様子は?とか、他愛のない会話が妙に懐かしく思えてくる。
会いに行けばいいのだろうけど、お互いがお互いの邪魔をしたくなくて、結局それも出来ない。
今の2人の距離はあまりに遠い。
声を聞くだけでさえままならない。
思考回路が、ただひとつの言葉だけを延々繰り返す。

 

   今、あなた/お前はどうしてる?

 

「バン・・・どうしてるかな・・・?」

無意識に、そんなことをつぶやいてみる。
塩がすっかり無くなっているのにも気付かず、
フィーネはコーヒーにビンを傾けながら、ただぼんやりと外を見ていた。
すっかり作業が終わった遺跡に人気は無く、二つの月の淡い光がその岩肌を照らしている。
半年以上、こうして遺跡を回っているけれど、何も出てこない。肝心なことが思い出せない。
そのことが、彼女を不安にさせる。

   何故、こんなに不安なの?
   バンやジークといたときは、ここまで不安になることはなかったのに・・・

「・・・・バン・・・・」

フィーネはふう、と静かに息を吐き、立ち上がる。
そして、コーヒーをそのままに機材の並ぶ部屋へ足を運ぶと、そこに置いておいた電話に手をかけた。

 

「フィーネ・・・今どうしてるんだろ」

ふと、そんなことをつぶやいてみる。
訓練はとっくに終わったのに、バンは訓練場に佇むブレードライガーに乗ったまま、ぼんやり空を眺めていた。
星がくっきり見えるほど、明かりが最小限に抑えられた訓練場に人気は無く、
それがいつもより広くなったように感じる。
半年以上、こうやって訓練生として軍にいる。話せる友人もいる。
ジークも一緒だ。
でも、何か周りがスース―して落ち着かない。

   何でこんな気分になるんだろう・・・
   フィーネといたときは、こんなんじゃなかったのに・・・

「・・・フィーネ・・・」

バンは急いで身を起こし、ブレードライガーから飛び下りる。
近くで待機していたジークに「ライガーを頼む」と言い残し、自室へと急ぎ帰ると、
ベッドの近くの電話を手にとった。

かける相手はただ1人。

 

   お願いだから出てよ、バン・・・

   頼むから出てくれよ、フィーネ・・・

   留守電なんかじゃなく、話がしたい。
   あなたの/お前の声が聞きたい!!

 

カチャッ

電話はすぐに繋がった。
当然だ。
お互い、全く同時に電話をかけたのだから。

「・・・バン・・・?」

「フィー・・・ネ、か?」

2人ともすぐに相手が出たことに驚いて、そのまましばらく沈黙が続く。
そして、どちらからともなく笑い出した。

   話したいことが、たくさんある。
   けれど、まず聞かなきゃならないこと。

「「元気だった?」」

   元気になった あなた/お前の声を聞いたから

END


双 開葉さんから頂きました。
ちょっとレイリー色が強かったので、バンフィーにしてみましたが。
いいですねぇ、信じ合う2人って・・・。(妄想モード)
少しでも声が聞けないと、不安と苛立ちが募ってしまう。
それほどお互いが大事なんでしょう。
いやぁ、いいものを読ませていただきました。
すてきなバンフィーをありがとうございました。

 

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