美しき訪問者
〜ビットを巡る戦い?〜

 

「ビット、いる?」

ある日突然、トロスファームにやって来た女性。
開口一番のセリフが、これだった。

 

「おい、ジェミー、あの来客、誰だ?」

「ええ、ビットさんがいないかって来たんですけど。」

「ビットに?女の?・・ふーん。」

キッチンでバラッド、ジェミー、リノンの3人が訪問客について話している。
謎の女性は、ビットがいないと知ると中で待たせてもらっていいか、と
ジェミーの制止を無視して半ば強引に入ってしまった。
明るいが押しが強い姿勢は、ハリーの姉、マリーを思わせた。
そして今、ミーティングルームでトロス博士が女性の応対をしている。
ジェミーは来客用のお茶の用意をしていた所に、バラッドとリノンがやってきたわけである。
当のビットは、ついさっき「ライガーと散歩してくる」と言って出かけてしまっていた。
すなわち、留守である。
ビットに来る来客なんて、リノンを巡って勝負してくるハリーとか、
他にはゾイドバトル関係のウォリアーとかで、彼らも顔を知っている人物ばかりである。
ビット目当て、というよりチームブリッツ全体に関わる客が多い。
しかしその女性は、チームブリッツの面々は今までに知らない客であった。
しかも明らかに「ビット」目当て。
賞金が一番のバラッドも、彼女を案内したジェミーも多少なりとも気になる。
そしてビットの彼女であるリノンは、大いに気になっていた。

ビットに女性のお客。
・・・一体何者なんだろう?

「ビットさんに何の用事なんでしょうねえ?」

「昔の女とかだったりしてな。」

「バ、バラッドさん!!」

ジェミーが慌てて口止めするも、時すでに遅し。
リノンの耳はしっかりそれを聞いてしまっていた。
彼女の顔がだんだん険しいものになっていく。

「リノン、じょ、冗談だぞ、今のは。」

「そうですよ、そんなことありませんって。」

リノンのオーラに怖いものを感じた二人は、全然弁護にならない弁護を口走るが、何にもならない。

「・・・ジェミー、そのお茶、私が持っていくわ♪・・いいわよね?」

「・・・は、はい。」

にっこりと極上のスマイルでリノンがお茶を持っていく。
それがますます怖い。
リノンが去っていってから、ジェミーはバラッドをきっと睨んで文句を言った。

「バラッドさんがあんな事言うから!僕、寿命がちぢみましたよ!!」

「・・す、すまん。」

うかつだった、と彼は素直に謝った。

 

「お茶をどうぞ〜♪」

にこにことリノンがお茶を出す。

「あ、ありがとう。」

女性はにっこりと笑顔を返す。
リノンは彼女をじーっと見た。

歳は20歳くらいだろうか。
まあ、整った顔立ちで美人ね。
・・私にはかなわないけど。
肩までの長さの銀髪。
前髪に入った青いメッシュ。
海色の青い瞳。
小さな琥珀のピアスをしている。
服は若草色のキャミソールにジーパン。
・・身軽で活動的なイメージね。
スタイルもなかなかいいかも。
むむむ。

しだいに睨む形になったリノンに向かって、
彼女は「?」という表情をしながらも、落ち着いた口調で言った。

「えーと・・貴方、確かリノン=トロスさんよね?」

見知らぬ相手にフルネームで名前を呼ばれて、ついきょとん、となる。

「は、はあ・・。」

「レオン=トロスさんの妹ね?初めまして。」

「お兄ちゃんを知ってるの?」

「ええ、まあね。」

女性はにっこり笑って、リノンの後ろに呼びかけた。

「そちらがバラッド=ハンターさん、ジェミー=へメロス君。
またの名を天空の荒鷲・・よね?初めまして。」

リノンが何かしでかさないだろうな、と心配になって後ろから入ってきた二人も思わずびっくりする。

「名前、まだ言ってませんでしたね。
・・私はジュジュ。ジュジュ=フォレスト。
ゾイドバトルのカメラマンをしています。」

女性は自己紹介をした。
バラッドは彼女の席の隣においてあるスチールバッグを見て、なるほど、とうなずいた。
おそらくその中には、カメラなどの機材が入ってるんだろう。

「この雑誌、知ってるだろう?」

トロス博士がテーブルに差し出したゾイドバトルの雑誌を見て、ジェミーが「あ!」と小さく叫ぶ。
彼はその雑誌の愛読者であった。

「それ、先週あったレオンさんのバトルが載ってましたよね。
バトルの写真が迫力ありました!」

「それ、私が取ったものだわ。」

レオン=トロスが乗る深紅のブレードライガーが敵チームのゾイドにブレードを開き、
猛スピードで切りかかる寸前の迫力満点の一枚。

「貴方が取ったんですか・・。すごいや。」

「ふふ。ありがとう。ジェミー君。お褒めに預かり光栄だわ。」

にっこりと微笑まれ、ジェミーは思わず照れてしまった。

「それで、そのカメラマンさんがビットに何の用事なんだ?取材か?」

バラッドが尋ねる。
彼はお金に関すること以外にはあまり興味が無さそうだ。

「ああ、そのことなんだが・・・。今、ジュジュさんと話をしてて・・」

トロス博士が続きを言おうとした、その時、
軽い振動と獣の咆哮が聞こえてきた。

「あ、帰ってきたみたいですね。ビットさん。」

ジェミーがポツリ、とそういうが速いか。

だっ!!!

疾風のように走り出したのは、ジュジュだった。

「ビットオオオオ!!あんにゃろおおお!」

絶叫しながら駆けて行く。
先ほどの落ち着きはどこへやら、彼女の急激な変化に驚いたメンバーはしばし硬直したが。

「は!ち、ちょっと待ちなさいよ!!」

一番先に気を取り直したリノンが慌てて後を追い、
メンバーもそれに続いて後を追いかけていった。

「一体何がどうなってるんですか、博士?!
ジュジュさんて、何者なんですか?!」

「ビットの昔の女とかか?博士。」

ジェミーとバラッドが走りながら博士に問う。

「いや、そうじゃなくて、ジュジュさんという人はな・・・。」

 

ライガーのコックピットから降りてきたビットは、
いきなり目の前に現れたジュジュに驚く間もなく、

「ビットオオ!この薄情者おおお!」

どばき!!

彼女にいきなり腹に強烈な一撃を食らい床に倒れた。

「な、何だ何だ何だあああ?!」

起き上がろうとするビットの上にのしかかり、服の襟を持って激しくゆさぶる。

「あ〜ん〜た〜はあ!!
いつになったら私に会いにくるのよおおお?!」

ゆさゆさゆさっ!!

ジュジュの攻撃にビットは三途の川寸前である。

「く、苦しい・・死ぬ・・・。」

「うわ!!ビットが死んじゃう!ち、ちょっとジュジュさん、落ち着いてよお!」

その現場に駆けつけたリノンが慌てて間に入って止めに入る。
ジュジュは興奮状態であり、おそらく外の声なんぞ聞いちゃいない。
その光景を後ろから発見したトロス博士ら。
ジェミーがぽつり、とつぶやいた。

「何か・・ジュジュさんて、リノンさんに似てませんか?」

「・・・怒るとな。」

バラッドが同意する。
ビットのあのやられっぷりは、リノンにやられたあとの様である。

「あのー、僕らは止めに入んないでいいんですか?」

「せっかくの家族の再会だ。
邪魔しちゃ悪いだろう。」

「いらぬ火の粉を浴びるのは遠慮したいねえ。」

それぞれ勝手な事を言う三人に、リノンの絶叫が刺さった。

「あんたたち!手伝わないとぶっとばすわよ!」

・・男たちが駆け出したのはそれからすぐの事だった。

 

それから数分後。ミーティングルーム。

「ビットのお姉さん?!ジュジュさんが!?」

リノンが驚きの声をあげる。
バラッド、ジェミーはさっきトロス博士に聞いていたため知っていた。

「正確には、私とビットはいとこに当たるの。」

ビットの両親が早くになくなって、彼の母の兄にあたるジュジュの父が彼をひきとり、
姉弟として育ったのだとジュジュが説明する。

「でも、うちの両親も忙しい身でね。よく二人で遊んでたわ。」

「・・・姉ちゃんの遊びは、ハードだったけどな。」

ビットがぽつり、とつぶやく。気を取り戻した彼は突然現れた”ジュジュ姉ちゃん”に驚いていた。

「・・ハードって?」

「プロレスで技かけられたりとか、森でサバイバルごっことか、ゾイドとかけっことか。
・・姉ちゃんには鍛えられたよなあ。」

しみじみと語るビットに、ジェミーとバラッドは彼のうたれづよさはそこから来てるのか、と納得した。
リノンに何度痛い目に合わされてもこりない強さの根源は、彼の姉の特訓の賜物なんだなあ、と。

「あんた、自分の夢、かなえたんでしょ?だったらどうして私のところにこないの?!
あの約束、忘れてたわけ?」

「いや、忘れてたわけじゃないんだけど。借金とか色々あってさ。
それに姉ちゃんどこにいるのかわかんなかったし。」

「根性で捜しなさい!
私はこんなにも可愛い弟を見守ってきたっていうのに!」

そう言うとどこから持ってきたのか、でん!と大きな音を立てて、一冊の分厚いアルバムを突きつけた。

「な、何だよこれ?」

「私が撮ったチームブリッツ、ゾイドバトルの記録写真!
私が取材にいけなかった所は友人に譲ってもらったりしたのよ!」

アルバムを開くとそこにはビットがチームブリッツに入った初戦、
チームニャンニャン(タイガース)とのバトルから、ナオミ=フリュ-ゲルとのバトル、
チームチャンプ、チームライトニングなど今までの戦歴が撮影されている。
ロイヤルカップでのバーサークフューラー戦や、
驚く事にBD団とのダークバトルの写真まであるのだからすごい。

「・・よくこんなに撮りましたね。」

ジェミーが言うと、ジュジュは得意げに言った。

「ええ。ライガー0が出たバトルはほとんど収めてあるわ!
BD団とのバトルシーンは苦労したわ!」

「一体どうやって撮ったんですか?」

「それは企業秘密ですvジェミー君。」

「プロだな・・。」

バラッドがぽそっとつぶやく。
一日にいくつもゾイドバトルは展開されてるし、ウォリアー達が戦わない日もある。
こんなに一つのチームのデータを長い間取り続けるのは、並みの根性ではできないだろう。

「あ、これ僕のプテラスだ!」

「私のディバイソン!懐かしいなあ♪」

「俺のコマンドウルフもあるな・・。」

「む!これはラオンのホエールキング!こんな写真まであるのか?!」

ライガー0の他にも、ブリッツメンバーのゾイドバトルの記録写真が載っているのを見て、
ビット以外のメンバーはそのアルバムに注目し、会話に花を咲かせている。
それとはまた別にビットとジュジュは話をしていた。

「こんなに近くにいつもいたなら、そっちからくればいいだろ?!」

あきれながらビットが言うと、ジュジュはきっ!と睨んだ。

「この薄情者!私はね、あんたのほうから来て欲しかったの!
いつか気づくかなーって思って!
なのになのに、あんたときたら!
ロイヤルカップに優勝して、Sクラス入りして、それでもまだ私をたずねてこないか!
もう我慢の限界が来て、こっちから来ちゃったわよ!」

「わ、悪かったよ・・。
それで、今日は例の約束を果たしに来たのか?」

「・・・そのつもり、だったんだけどね。」

はふ、とため息を一つ。
それから腕時計を見て、言った。

「2時間後に始まるゾイドバトルの取材に行かないといけないの。
・・・ついさっき、連絡が入っちゃってね。」

「え、それってチームアウトローズの?」

ジェミーの問いかけに、ジュジュはにっこりとうなずいた。

「そう、期待の新チーム特集って奴でね。
メンバーが元BD団でしょ?そういう意味でも注目されてるのよ。
・・・さすが、ブリッツのブレインね。
他チームの情報にも詳しいのね。」

思わぬお褒めに預かり、ジェミーはまたも照れる。

「じゃ、そういうわけだから約束はまた今度、ね。
・・・皆さん、ビットを宜しくお願いしますね。
体だけは丈夫だから、せいぜいこき使ってやってください。」

「なんて紹介すんだよ・・。」

げんなりとした口調でビットが言うと、ジュジュは意地悪く微笑んでいった。

「何年も連絡なしで、心配したんだからね。
その慰謝料よ。安いものでしょ?」

 

「じゃあね、ビット。
せいぜい元気で過ごしなさいね。」

「・・姉ちゃんこそ、元気でな。
ま、そんだけ口悪かったら大丈夫か。」

「そうね、お互いにね。
・・じゃあね、ビット。」

灰色のヘルキャットに乗ってバトル取材に向かった姉を見送った後、
ビットはやれやれといった感じで大きく伸びをした。

「・・・いい人じゃない、ビットのお姉さん。」

リノンが言うと、ビットは「口うるさいのが、たまに傷だけど、な。」と言った。

「そういえば、さっきなんかリノンにちゃんが何か言ってなかったか?」

「え?ああ、”今度ゆっくりとお話しましょう”って言ってたのよ。」

「?ふーん・・。」

”私にとって、ビットは可愛い弟だから、安心してね♪”と言ったのは秘密である。

「そういえば、約束って何だったの?」

「え?ああ・・・写真だよ。
小さい頃、姉ちゃんと将来の夢について話したときにさ、約束したんだ。」

「・・・写真?」

「姉ちゃん、ゾイドの写真撮るのがずっと夢だったから・・。
小さい時からずっと、人間の男よりゾイドが好きなんて言ってるんだぜ?」

 

”ぼくは、最高のパーツを集めて、最高のゾイドをつくるんだ!!”

”私は、世界中まわってゾイドの写真をたくさん撮るの!
最強のゾイドの最高の瞬間を撮るのー!”

”じゃあ、ぼくが夢をかなえたら、写真撮ってー!”

”ビットが自分のゾイド見つけて、私が一人前のカメラマンになったら写真とろーね!”

”しっかりとってよ!”

”あ、生意気!”

 

「最強のゾイド乗りを、最高のゾイド撮りが撮るってわけだね。いいじゃん♪」

リノンがそう言うと、ビットは笑った。

「あのー、ビットさん。これ、ジュジュさん忘れていったんですけど。」

後ろからジェミーがやってきて、チームブリッツのバトル記録が収められたアルバムを抱えて、
どうしましょう、と聞いてきた。

「あ!・・・姉ちゃん、そそっかしいからなあ。」

まあ、また来た時に渡せばいいか、と思い、
俺が預かっとくよ、とビットが言うと、ジェミーが言った。

「あ、じゃあこれもう少し借りてていいですか?
プテラスの写真が懐かしくて・・。
ああ、僕のプテラス・・・。」

しみじみしてしまったジェミーを見て、
ビットはじゃあジェミーが持っててくれ、と言った。

「この写真て、焼き増しとかしてくれないかなあ。
バラッドさんも欲しいって言ってたんですよ。博士も。」

「じゃあ私もお兄ちゃんの写真欲しいなあ。
ブレードライガーカッコいいよねえ。
バラッドはナオミの写真欲しいとか言ってたりして。」

「あ、そうかもしれませんねー。」

ジェミーとリノンの話を聞きながら、ビットは一言。

「・・今度来た時、姉ちゃんに聞いてやるよ。」

また騒がしくなりそうだけどな、とビットは青空に向かって、そう思った。

END

 

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あとがき

こんにちわHAZUKI様!はじめて送ります。
しかも0のリノビっぽい作品なんて初めてですので緊張してます。
もしよろしかったらもらって下さい。
作品にでてくるジュジュ=フォレストは私が考えたオリジナルキャラです。
ビットの姉!(正確にはいとこ)
ゾイドが大好きで、ゾイドバトルの写真をとる女性カメラマン。
ビットとはまた違ったところでゾイドの魅力にとりつかれた人です♪
ジェミーとリノン、ハリーなどに兄弟、家族がいて、
ビットはブリッツに入る前、流れのジャンク屋時代とかその前はどうなんだろなーとふと考えて、
ビットの過去を知るキャラクターである彼女が浮かびました。
カメラマンという設定は、テレビでゾイドバトルが中継されてたり、
ロイヤルカップに女性アナウンサーさんがいたので、
じゃあゾイドバトルの雑誌とかもあるでしょ、と思って、そこから決めました。
彼女は普段は落ち着いた雰囲気なんですが、ビットには素です、
(つまり普段はねこかぶりー♪)
だから愛機がヘルキャットなんです(あほ)
きれるとリノン並みに怖いです。
ビットがリノンの攻撃にあんなに強いのは姉の教育の賜物なのです。(笑)
この作品を作るに当たりまして、
HAZUKI様のビットとリノンが恋人であるという設定と、
チームアウトローズの設定を拝借いたしました。
お許しください。
そしてまた、ジュジュには活躍して欲しいと思います。(笑)
リノンとジュジュの話描きたいなあと思ってますので。
そうしたらまた送ってよいですか?
では、失礼します。


初心者さんから頂きました。
ビットの姉さん、ジュジュがいい味だしてます。
嫉妬するリノンもまたグッド!
カップルの雰囲気が出まくりで、嬉しい限りです。
設定はうちに飾る分にはいいでしょう。
あと、ビットとリノンは結構このカップリングが好きな人もいるので、
どこで使っても構わないかと。
(ハリー×リノン派もいるので注意)
どうせだったらバスターズでもいいですしね。
では、本当にありがとうございました。

 

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