「ビットの家族」
〜姉ちゃんと爺ちゃん〜

 

「ビットの家族の話って、聞いた事無いね。」

夕食後、ミーティングルームでそれぞれ思い思いに過ごしていた時のこと。
リノンがビットにそう話し掛けてきて、彼の隣に座った。

「そうだったっけ?
・・・まあ聞かれなかったしなあ。」

聞かれた当人はそう言って、読んでいた雑誌を閉じ、テーブルに置いた。

「姉さんがいるなんて知らなかった。
この間はびっくりしたわ。」

ついこの前、トロスファームに来た銀髪の女性。
彼女の第一発言は“ビット、いる?”であった。
彼の事をよく知っていそうな感じに、
リノンは“ビットの昔の彼女?”と思って最初はムカムカしていたのだ。
そんな彼女の正体は、
ビットのいとこで姉貴分の、ジュジュ・フォレストという腕利きのカメラマンであった。

「綺麗な人でしたよね。
ビットさんと家族だなんて全然わかりませんでした。
・・・はい、バラッドさんの番です。」

ジェミーとバラッドはビット達の座る席の向かいがわに座って、
ゾイドのチェスの対戦をしながら話を聞いていた。

「美しさは私と互角ね。
ねー、ジェミー?」

リノンがジェミーにそう言うと、彼はひきつった笑いで「そ、そうですね。」と答えた。

「確かに(怒ると)リノンに似てる感じはあるな。
・・・よし、こう行くか。」

バラッドは「怒ると」の部分のみをものすごく小さな声で言って、チェスの駒を動かした。

「あら、バラッドわかってるじゃない!
ビットもそう思うでしょ?」

リノンにはどうやら聞こえなかったようであった。
誉められたと思い上機嫌でビットに振り向くと尋ねた。

「ああ、リノンと姉ちゃんって怒った姿が良く似てるぜ。
鬼みたいな顔とか、馬鹿力とか。
恐い話はからきし駄目で、普段は所構わず無茶苦茶する所とか。」

「なんですってええええ!!??」

馬鹿正直に言ったビットが次の瞬間“ドバキ!!”と、
リノンに強烈なアッパーカットをもらって天井に吹っ飛ぶ。

「ぐはあ!」

その様子を見てため息をつきながらジェミーとバラッドはチェスを進める。

「“姉”と言ってるが、正確には“いとこ同士”だって言ってたな。」

バラッドがそう言うと、天井から落ちてきたビットが顎をさすりさすりしながら答えた。

「そうだけどな。
小さい頃に“姉ちゃん”って呼べって言われてからずっと“姉ちゃん”なんだ。」

彼のその言葉を聞いて、リノンはジュジュが初めてここに来た時に話していた事を思い出した。
ビットの両親は早くに亡くなり、
彼の母の兄、ビットの叔父であるジュジュの父親が彼をひきとって、
2人は姉弟として一緒に育ったのだ、と。

 

“いーい?私は貴方より3つ上なんだから、
私の事は「お姉ちゃん」って呼ぶのよ、ビット。”

“・・・ジュジュ・・・姉ちゃん?”

“「お」をつけなさい!
「お姉ちゃん」!
・・・はい、もう一回。”

“お・・・姉ちゃん。”

“何で間を空けるの??!
・・・・・・まあ、いいか。
じゃあ、「姉ちゃん」って呼ぶのよ?
いいわねビット!”

“うん、わかった姉ちゃん。”

“よーし、それでいいのよ。ビット♪”

 

「ジュジュさんのご両親て、どんな方なんですか?」

ジェミーの質問にビットはしばし“う〜ん”と考え込んでから、
あっけらかんとした顔で「よくわからん。」と答えた。

「小さい頃に2、3度会ったくらいで、ほとんど覚えてない・・・。
大きな貿易会社に勤めてて、長年ず〜っと海の向こうの異大陸に行ってるんだ。
・・・姉ちゃんも“顔、覚えてない”って言ってた気がする。」

「それはまた、すごいな・・。」

バラッドがあきれたように言う。
リノンが「あれ?」というように何かに気づいた表情をした。

「じゃあ、小さい頃ってビットとジュジュさんて誰に育てられたの??」

「ああ、爺ちゃんにだよ。
ジョージ・クラウドって名前。
俺と姉ちゃんは爺ちゃんに育てられた。」

「・・・お爺さん、ですか?
・・・あ、こうきたか・・・。
じゃ、こうしましょう。」

ジェミーが駒を動かすと、バラッドがむむ、と難しい表情をして考え込んだ。
腕を組みチェスの画面をにらむ。
その間にビットはリノンに爺ちゃんの事を簡単に話していた。
昔はゾイド乗りだったジョージ爺ちゃんは、
年を取ってから流れのジャンク屋になって世界中あちこち巡りまわっているのだと言う。
2人の孫は大量のパーツと一緒にトラックに乗って、旅から旅へ流れる暮らしを過ごした。
ゾイドに関するあらゆる知識や技術、乗り方など多くを爺ちゃんから習った。
一箇所に長く滞在することが無かったので同い年の友達などはいなかったが、
その分各地の工場や店の主人、
ゾイド乗り達と知り合いになって色々面白かった、とビットはそう言って笑った。

「じゃあ、ビットがジャンク屋やってたのって、お爺ちゃんの影響なんだ。」

「まあな。
光学迷彩機能つきトラックも、
爺ちゃんから旅立つ時にプレゼントされたんだ。」

“最高のパーツを見つけて、最高のゾイドを作る。”

いつしか抱いていたその夢をかなえる為に、
ビットが爺ちゃんの元を旅立ったのは、13の時だった。
その時16だったジュジュはすでに3年前に家を出ており、
とある著名なカメラマンの元で助手として腕を磨いている最中であったが。
弟の門出にはわざわざ見送りにやってきた。

“約束、忘れないでね!
体に気をつけるのよ!
パーツ以外は落ちてるもの、無闇に拾っちゃ駄目よ!
いざって時はお爺ちゃん直伝のサバイバル術を駆使して、
たくましく生きるのよ!努力と根性と気合よ!”

・・・などと言って。
爺ちゃんはただ一言、

“大丈夫じゃい。
わしの孫じゃからな。
・・・達者でな。”

門出祝いのプレゼント、“ヘル”に乗った姉ちゃんが、家を出る時かけた言葉と同じ事を言った。
そうして旅立ってから3年後、
チーム・ブリッツと出会うまでビットは一人で流れのジャンク屋をしていた。
夢の為に。

「へえ〜。
あのトラックのおかげで最初出会った時は、
レオン兄さんが怪我するわ、バトルは無効になるわで散々だったけどね。」

リノンが初めてビットと出会った頃の事を思い出してそう言うと、ビットはこう言った。

「でも、俺はライガーに会えたし、
今ここにこうしていられるわけだし。
いいじゃんか。」

「・・・なあ〜に言ってんだか。」

あきれつつもくすり、と笑うリノンに、ビットもまたへへ、と笑顔を向けた。
一方その頃、ジェミーとバラッドのチェス勝負は決着がつこうとしていた。

「はいバラッドさん、チェックメイトです。」

ジェミーがそう言うとバラッドはやけにあっさりと答えた。

「賞金が出ないと、俺は本気になれないのさ。」

席を立ったバラッドに代わってビットが今度は座ってきて、
ジェミーをびし!と指で指すと言った。

「よしジェミー!
今度は俺と勝負だ!」

「いいですよ。
受けて立ちましょう。」

そうしてジェミーとビットがチェスの勝負をし出した頃、
リノンはもう一台チェスのゲーム機を出してきてバラッドに勝負を持ちかけていた。

「この前勝負した時は負けたけど、今度は私が勝つからね!」

「・・・負けそうになったら暴れるのは、やめろよ・・。」

バラッドはそう言うと、リノンの挑戦を受けてたった。

 

「あれ、先輩何を見てるんですか?」

会社の机で何かを見ているジュジュに、彼女の助手で後輩のアリスが話し掛けてきた。
ジュジュは一枚の古い写真を見ていた。
そこにはサングラスをかけたアロハシャツの老人と金髪の男の子、
銀髪の女の子が3人で集まって笑顔でピースをしている、
実に微笑ましい感じのする写真であった。

「ああ、昔の写真よ、アリス。
10年位前の私と弟とお爺ちゃん。」

昨日、部屋の掃除をしてたら出てきて、懐かしくなって持って来たのだと言った。
アリスは写真を見せてもらった。

「へえ〜、先輩可愛いじゃないですか。
弟のビットさんは・・・、なんかバンソウコウだらけですね。
何でですか?」

アリスが写真を見てそう感想を述べると、
ジュジュは照れくさそうに頬をポリポリとかいた。

「あ〜・・・。
よく、二人で遊ぶといつもそうなっちゃうのよ・・・。
元気があり余っちゃって。」

「そうですか・・・。
そう言えばこの間、弟さんに会いにいかれたんでしょう?
どうでしたか?」

「元気だったわ。
体は大きくなってたけど、中身は変わってなかったわねえ・・・。
今の場所は、あいつにとってとっても居心地いいみたい。
とても楽しそうだったわ。」

そう言ってふふ、と笑うジュジュに「よかったですね。」とアリスもまた微笑んだ。

「・・・写真、ありがとうございます。
大切な思い出ですから、早く閉まったほうがいいですよ。」

アリスはそう言うとジュジュに写真を返した。
ジュジュはそうね、と言って写真を大切にバッグに閉まった。

「それで、何の用だっけ?アリス。」

「この前取材したゾイドバトルの写真ができたんです。
確認をお願いしたくて。」

そう言うと抱えていた大きな封筒を差し出し、ジュジュは中身を机の上に広げていく。
たちまち机の上はたくさんの写真で隙間無く埋められていく。

「この中からどれを次回載せるか・・・。
う〜ん、チームごとに分けていきましょうか。
アリス、手伝って。」

「はい、先輩。
・・・じゃあ私はアウトローズさんとチャンプさんの二つを集めますから、
先輩は残りのチームさんを集めて下さいね。」

アリスはチーム名を「さん付け」するくせがある。
ジュジュはそのくせがなかなか気に入っていた。
そうしてまずは複数のチームの写真が混ざった状態から、
チームごとに写真を分けてゆく作業を開始した。

 

「・・・ふう、じゃあチーム・チャンプはこの写真を記事に載せましょう。
これが一番面白いから。」

ジュジュがそう言って抜粋した写真を記事担当のアリスに手渡した。

「チャンプさんて、毎回どこか笑えるショットですよねえ・・・。
どうもバトルシーンに見えないんですよ。」

アリスがそう言うと、
ジュジュは

「一風変わってて、読者の受けはいいみたいよ。」

と自分でもよくわからないフォローをした。

「アウトローズさんはこれとこの3枚で・・・、ライトニングさんはこの2枚。
チャンプさんはこれ。
あと何チームですか先輩?」

写真の枚数を確認しながらアリスは尋ねた。
ジュジュは「あと1つよ。」と答えると最後のチームの写真の束に手を伸ばした。
その様子が嬉しそうに見えたので、アリスはピン!ときた。
最後に残ったチームは多分・・。

「・・・やっぱりブリッツさんだ。
弟さんのチームの写真ですね・・・。」

「そうよ♪
・・・ねえアリス、このパンツァーのショットはこれとこれのどっちが迫力あると思う?」

ジュジュはそう言って両手に持ったライガーゼロ・パンツァーの写真を見せた。
両方をジ〜・・・と見比べてアリスは右を指し示した。

「・・・こっちですかねえ。」

「いや、こっちもいいと私は思うよ!
ジュジュの写真はどれも最高だから選べないなあ。」

突然現れ、間に乱入してきたのは同僚のカイル。
アリスとは逆に左の写真を指しながら彼は言った。

「カイル?!貴方どこから?!」

いきなりの彼の登場にジュジュはびっくりする。
アリスも驚いたが、彼女は結構慣れていたので、冷静に戻るのも早かった。

「・・・いきなり沸いて出てきて仕事の邪魔しないで下さい、カイルさん。」

ぴしゃり、と言い放つ。
全てを見透かすような目のアリスが苦手なカイルであったが、負けじと反論した。

「邪魔とは心外だね。私はジュジュが困ってるようだから助けようとしてだね・・・。」

「・・・あれが、ですか?」

アリスがジュジュの方を見ろ、と指を向けるのでカイルが彼女を見ると、
ジュジュは机の上でぶつぶつ・・と何か言いながら何かを必死に考えているようであった。
先ほどの2枚の写真をじ〜っと見ていて、微動だにしない。
完全に自分の世界に入っている。

「あ・・・、あの、ジュジュ・・・?」

カイルが話し掛けるが微塵も聞こえていない。
アリスがは〜、とため息をついて言った。

「・・・カイルさんが余計な事しなきゃすぐに決まったのに・・・。
一度考え込むと先輩、長いんですよ。
外の世界完全シャットアウトしちゃうんですから。
もうすぐ終わりそうだったのに・・・ぶつぶつ・・・。」

アリスはじろり、とカイルを睨んだ。
彼は思わず後ずさりする。呪いでもかけそうな勢いの彼女は恐ろしい。

「う〜ん、どっちがいいんだろうな・・?
パンツァーの重厚で威圧的な魅力が最もよく出てるのはこの場合・・。」

写真とにらめっこしてしまったジュジュの後ろ姿とアリスの静かな怒りのオーラに挟まれ、
カイルはどうしようもない程の孤独を感じていた。

「わ、私は悪くないぞ!!
ジュジュの写真は全て最高なのだ!
選べと言うほうがどうかしている!」

「そうですね。
記事の原稿のつまらない誤字脱字でしょっちゅう編集長にカミナリくらってるカイルさんとは、
レベルが全っぜん!!違いますよねー!!」

カイルの必死の自己弁護にアリスは強烈な毒を吐く。
彼女は「全っぜん!」の部分を特に強調した。

「ぐ!!
ア、アリス、君は鬼か・・・?!」

彼女の強烈な言葉の刃にずたぼろに切り裂かれたカイルがそう言うと、
アリスはにた〜、と不気味な笑顔を浮かべた。

「・・・じゃあ、地獄にたたき落としてあげましょうか??
今度は手加減無用、問答無用で。」

「・・・え、遠慮しておくよ・・。」

これ以上彼女の毒を食らったら、心が再起不能になる。
そう危機を察したカイルは拒否した。

「・・・残業になるかもしれませんね・・・。
・・・コーヒー入れてきてもらえます?
先輩の分も。」

「・・・承知した・・・。」

アリスの要求に、カイルはおとなしく従い、給湯室に向かった・・・。
後ろでそんな事が起きてたとは全く知らないジュジュは、未だ悩んでいた。

「あ〜どっちにしよう???」

 

「・・ビット、お爺ちゃんて今一人なんでしょ?何してるの?」

そろそろ寝る時間だから、と解散したメンバー達。
リノンとビットは一緒に歩いていた。
バラッドにチェスで勝って機嫌のいいリノンはふと、隣を歩く彼に聞いた。

「ん〜・・・、相変わらずさ。
流れのジャンク屋やってるって聞いた・・・。
世界中流れてるぜ。
もしかしたら、どっかで会う事もあるかもしれないな。
姉ちゃんみたいに結構近くにいたりして。」

そう言って彼は窓の前に立ち止まり、外の星空を見やる。
この同じ星空のどこかに、きっとあの頃と同じく元気に飛び回ってるのだろう。

「・・・ビットの家族ってさ、皆元気よね・・。
たくましいっていうか。」

世界中流れてる爺ちゃんと、世界中駆け回る姉ちゃん。

「リノンもそうだろ?
博士もレオンも元気じゃん。
元気で丈夫なのが一番だって!」

「・・そうね。ビットの言うとおりだわ。」

元気で丈夫で、毎日笑顔で。
・・・それが一番なのだ。
リノンの部屋の前までビットは彼女を送る。
二人は互いに挨拶をした。

「じゃ、おやすみビット。また明日ね。」

「ああ。おやすみ。また明日、な。」

そうしてリノンは部屋に入り、ビットも自分の部屋に向かっていった。

「・・・爺ちゃんか。今ごろどこで何してんだかなあ。
・・・ま、元気なのは間違いないな。」

部屋の前でそう呟くと、ビットは中に入っていった。
その日の夜、彼は眠りの中で、久しぶりに子供の頃の夢を見た。

“爺ちゃん・・・俺も姉ちゃんも、元気だからな。”

“皆、元気だよ”

END

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あとがき

HAZUKI様こんにちわ。
ジュジュの事をビットがまだ話してなかったな〜と思い、
ビットにジュジュを始め、自分の家族について語ってもらいました。
設定としては2人目にあたるマイオリキャラ、ビットのお爺ちゃんジョージ・クラウド。
名前と思い出のシーンのみで初登場です。
ビットってあんまり・・?というか全く過去とか振り返らなさそうですが、
たまにはこんな彼もいいかなーと思って書きました。
何気にリノビも含めてます(笑)
しかしこうしてみるとジュジュとリノンて似てるかも・・・(汗)
こんなつもりじゃなかったんだが?
ビットがシスコンに見えてしまうかもしれない!?とちょっと危機を感じてます。
どうか誤解しないで下さい。
ジュジュにとってビットは弟、ビットにとってジュジュは姉ちゃんですので。
完璧完全に。(どきっぱり)
ジュジュとアリス、カイルの仕事のシーンもちょっと入れました。
いや〜やっぱちゃんと仕事してるところも書かないとなーとか思いましたので(汗)
カイル、ジュジュにメロメロ、アリスにずたぼろです(笑)
う〜ん描くたびに何か設定当初と違ってくるような・・・。
まあいいか(おいおい)楽しいから(お〜い!)
最後の言葉はビットでもジュジュでも、リノンでも・・・、お好きにとってください(笑)
私には、家族が皆健康で幸せなら本当に嬉しいです(^▽^)
1人じゃないって素敵です。
それではどうか、受け取って下さい。
失礼します。


初心者さんから頂きました。
私はアリスを敵に回したくない・・・。
たぶん、対抗できるのは、クールなリッドぐらいでしょう。
彼はある意味無敵です。
ちょっとマッドサイエンティスト気味ですが・・・。
焦点を戻しましょう・・・。
ビットの幼い頃、やっぱりジュジュはジュジュですね。
いろいろな意味で・・・。
何でだろう?
ジュジュの幼い頃を見てたら、リノンの幼い頃が容易に想像できる・・・。
やっぱり似てますね、この2人。
ジョージさんはいつ頃出せるかなぁ・・・。
まだまだ未定のことが多いですね。
でも、ビットがたくましく育って良かったですね。(笑)
初心者さん、ありがとうございました。

 

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