「未来予想図の欠片たち」
〜ジュジュのとある休日〜

 

「こんにちわ〜。
誰かいるかしら〜?」

「あ、ジュジュ。
こんにちわ〜。」

晴れた日の昼頃、トロスファームにジュジュがやってきた。
倉庫の近くをたまたま歩いていたでリノンが気づいて、挨拶をする。
ビットの“いとこ姉ちゃん”であるジュジュと、彼女であるリノン。
二人は仲がよかった。
始めは“さん”づけしていたリノンも、
ジュジュの希望もあって今は気軽に名前を呼び捨て合っている。

「今日は仕事、休みなの?」

「うん、それでビットに会いに来たんだけど・・・。
ライガーゼロ、ビットは中にいるの?」

ジュジュは上を見上げてビットの相棒、ライガーゼロに尋ねた。
“彼”がここにいるという事は、普段ならビットもいるのだが・・。

“グオン”

ライガーゼロが短く一声鳴く。
“彼”はビットの姉である彼女に、結構素直に反応するようであった。

「“今はいない”って・・・。
どこに行ったのかしら?」

「ジャンクパーツ拾いに行っちゃったの。
1時間くらい前に。」

リノンが答える。

「ふ〜ん・・・。
ジャンク集めに、か・・・。
まあウォリアーは色々お金かかるもんね・・・。」

「週に1回くらいのペースで、一ヶ月に4,5回は行ってるかなあ?
半日はかかるよ。」

「せっかく、たまの休みに可愛い弟に会いに来たってのに・・・。
あ〜あ。」

ジュジュが不満げに頬をふくらます。
と、ふいに何かを思いついたように顔を上げた。

「・・・追いかけるか。
ここまで来て顔も見れないなんて悔しいわ。」

「え?どこにいるかわかるの?」

ビットはいつも外に出かける時、どこに行くかを言わずにささっと行ってしまう。
それを探すと言うのだろうか。

「大丈夫、まかせて。
・・・リノンも来る?
ビットのジャンク屋の仕事、見に行ってみない?」

「う〜ん、そうね・・・、興味あるわ。
私も行く!!
支度してくるから、ちょっと待っててね、ジュジュ。」

そう言うと、リノンは奥の方に駆け去っていった。
その後ろ姿にジュジュの叫び声が響く。

「慌てなくていいわよ〜!待ってるから!」

リノンが見えなくなってから数秒後、
ジュジュは肩にかけていたバックからがさごそと何かを取り出した。
それは赤い手帳であった。
ゾイドに関するあらゆる情報をこの中に書いている、彼女の自慢の逸品である。
ページを開いてパラパラとめくりながら、
ジュジュは頭の中でビットのいる位置の予測を立てる。

「・・・ここから近い場所で、ゾイドバトルしたての所・・・。
・・・ビットが出かけたのが1時間前なら・・・。」

数分後、リノンが戻ってきた。

「ごめん、待った〜?」

「全全平気よ。
・・・だいたいの場所はわかったわ。
さあ、行きましょうか!」

手帳をパタン!と閉じてジュジュはにっこりと微笑んだ。

 

荒野の中を砂埃を上げ、激走する一台のジープ。
運転しているのはジュジュ、助手席に乗っているのはリノンであった。
ジュジュは灰色のヘルキャット、“ヘル”にいつもは乗っているのだが、
ここ数日遠方のゾイドバトルの取材が連続であったので、
彼女いわく「相棒にも休暇をあげなくちゃ」とのことで今日はジープに乗ってきたのであった。
ヘルはジュジュが暮らしているマンションの一階にあるゾイド置場で、
今日はゆっくり休暇をとっている。

「私は〜荒野の〜カメラマン〜♪
ゾイドを求めて〜西へ〜東へ〜♪」

「・・・ジュジュ、それ、なんの歌??」

運転しながら楽しそうに歌うジュジュに、リノンは尋ねる。
何とも変な歌詞だ。
聞いたこともない。

「ン?この歌?
・・・題名「荒野のカメラマン」。
作詞作曲、歌はわ・た・し♪」

「え〜何それ〜?
おっかしい〜!
ジュジュが作ったの?自分で自分の歌を?」

リノンが笑うと、ジュジュは「別バージョンもある」と曲調は同じだが違う歌詞で歌いだした。

「ビットは〜流離う〜ジャンク屋さ〜ん♪
だけど今は〜ゾイド〜ウォリア〜♪」

ちなみに題名は「流離いのジャンク屋さん」だそうだ。

「あははは!ビットのバージョンだ!
・・・ねえねえ、他にもあるの?!」

「もちろんあるわよ。
誰のバージョンを聴きたい?」

「え〜じゃあ・・お兄ちゃんの場合は?」

「ではリクエストに答えて。
題名「優しいお兄ちゃん」。
レオンは〜優しい〜お兄ちゃん〜♪
だけどバトルは〜厳しいの〜・・・♪」

それから5人くらいのバージョンを歌いあげた後、ジュジュがふいに叫んだ。

「あ!ビットのトラックが見えてきたわ!リノン!
真正面にある!!」

「え?どこどこ?
・・・・・・・・・見えないけど?」

リノンができる限り前に身を乗り出して前方にじ〜っと目をこらすが、
ビットのトラックは見えない。

「ちゃんと真正面にあるわよ。4キロくらい先の。」

その言葉に一瞬ぎょっとなるリノンであったが、
そういえば、と思い出した。

“ビットもすごく目、よかったんだっけ・・・。
ジュジュもそうなんだろうなきっと。”

「さあて、行くわよ!
しっかりつかまっててよ!」

ジュジュはアクセルペダルを思いっきり踏んで、一直線にジープを爆走させる!

「ジュジュ、スピード出しすぎ〜!!
止まれるの〜?!」

リノンの叫びも聞こえてないのか、ジュジュはひたすらにこにこと笑っていた。

 

「「おい!そこのパーツ泥棒!!」」

突如後ろからかかった二重声に、びく!とビットの背中が跳ね上がる。

「うわああ!違う!!
俺は泥棒じゃないって!!」

大声をあげながら慌てて振り返ると、
そこにはクスクス、とこちらを見て笑っているリノンとジュジュがいた。
ビットの目がしばし点になる。

「・・・リノンと・・・姉ちゃん?
何でここにいるんだ?」

「せっかくの休みに、弟に会いにきちゃいけないのかしら?」

手に持っていたパーツを下に置くと、
ビットはぽりぽり、と頭をかいた。
こういう所を見られるのが、
ちょっと照れくさいのかもしれない。

「よくここがわかったな〜。
・・・て、姉ちゃんならわかるか。
・・・リノンはなんでここにいるんだ?」

「ジャンク屋ってどんなものなのかな〜って、見に来たのよ。
悪い?」

「いや、別に悪くはないけど。
・・・じゃあ2人とも、悪いけどちょっと手伝ってくれないか?」

結構いいパーツが広範囲に散らばって落ちてて、
一人だと時間がかかりそうだという。

「・・そんな予感がしてたわ。
ま、可愛い弟の頼みだもの、いいわよ。」

「へへ、サンキュー姉ちゃん。」

リノンはパーツの事などよくわからないので返答に困った。
するとジュジュが助け舟を出した。

「リノンはビットについてればいいわよ。
・・・あんた、しっかり守るのよ。
怪我とかさせるんじゃないわよ。」

「言われなくてもわかってるさ。
・・・じゃあ姉ちゃんはそっち頼む。
リノンは俺についてこいよ。」

「うん。」

走り出すビットの後ろについていこうとするリノンを呼び止め、
ジュジュが軍手を渡した。

「はい、これ使って。
重いパーツは無理しちゃ駄目よ。
ビットに持たせなさい。」

「ありがとうジュジュ。
・・・でもこの軍手はどこから??」

「備えあれば憂いなし、てね。
いつもバックの中に入ってるのよ。」

そう言うとジュジュも自分の手に軍手をはめて、「じゃあ。」とさっさと行ってしまった。
リノンも軍手をはめるとビットの所に向かっていった。
遠くから彼が叫ぶ。

「お〜いリノン、早く来いよ〜!
何やってんだよ〜?」

「今行くわよ!
・・・女の子は時間がかかるのよ!
それくらいわかってよね!」

ちょっと離れた所でリノンの叫びを聞いていたジュジュはうんうん、とうなずいた。

「ビット、それくらいわかりなさいよ・・・。」

鈍い弟である・・・。
と彼女は思ったとか思わなかったとか。
そして、ビットとリノンとジュジュのパーツ収拾作業が始まった。

 

「ビット〜このパーツはどう?」

「う〜ん、それは駄目。使い物にならない。」

「ビット〜このパーツは??」

「それは分解して使えるものだけ取って、あとはそこにまとめとけ。」

「ビット〜これは・・。」

「・・・あのなあリノン、いちいち俺に聞くなよ。
よく見て、自分で考えてみろって。」

「だって私、パーツの事なんか知らないもん。
どれが高くてどういうのが使えるのとか。」

リノンが不満げに声を漏らすと、
向こうの方からジュジュがパーツをいくつか抱えて持ってきた。
2人の様子を見て近づいてくる。そうして話を聞くと、彼女は言った。

「ビット、ちゃんとリノンに教えてあげなさい。
彼女は初めてなんだから。」

「だって俺、教えるのってよくわからないしさー。
“よく見ろ”としか言えない。」

はあ〜あ、とため息をついた後、ジュジュはリノンに言った。

「いーい?リノン。
傷、焦げ跡、さび、へこみ、欠け、汚れ等が少ない物・・・、
簡単に言えば、綺麗で元の状態に近そうなパーツが高く売れるし、また使えるの。
・・例えば、貴方から見て、これとこのパーツはどっちが綺麗に見える?」

そう言ってジュジュが両手に持ったパーツは同じ物だったが、左の方が焦げ跡が大きい。
リノンは右を指さした。

「・・・こっち。」

「そう、パーツとしては両方ともまだ使えるんだけど、
こっちの方が高い値段で売れるのよ。
・・・わかったかしら?」

「・・・なんとなく。
つまり、綺麗で形が完璧なものに近いものが、高く売れやすいって事ね?」

「そうそう。
じゃあ、そういうのをリノンは集めて、そこに並べておけばいいわ。」

右手にパーツを持ったまま近くの地面を指し示し、ジュジュはリノンに言った。

「わかった。
教えてくれてありがとう♪」

元気よく答えるとリノンは近くのパーツが散らばってる箇所に駆け出していった。

「・・・リノンが集めたパーツは、あんたが後でまとめて判別するのよ、いーい?」

リノンに教えていた時とはうって変わって、
鋭い口調でビットに言葉を投げるジュジュ。

「わかってるって。
やっぱ難しい説明は姉ちゃんの方が上手いなー。」

「どこが難しいのよ。
基礎中の基礎も満足に説明できんのかあんたは!」

ポカ!とビットの頭をごつく。
彼女をリードしてやらんでどうする!?という怒りの鉄拳であった。

「いって〜!パーツ持ったまま殴るなよ!!
頭は大事な所だぞ!?」

「このパーツより高い価値があるのかしら??
その頭は?」

「ひっで〜・・・。
相変わらずきつい言葉・・・。」

「そんな事よりビット。
向こう側のパーツ収拾、終わったから拾ったものトラックに入れとくわよ。」

「あ、ああわかったよ・・・。
あ〜いて〜。」

彼女がトラックにパーツを運ぶために去っていった後も、ビットはしばらく頭をさすっていた。

 

その場所でのパーツ収拾を終えた後、
まだトラックと時間に余裕があったので、3人はもう2,3箇所まわる事にした。

 

次に来た所はあんまりいいパーツがなかったので、作業はすぐに終わった。

「使い物にならないのばっか・・・。
あ〜あ、ここははずれたな。」

「う〜ん、まあBクラスのゾイドバトルじゃこんなもんじゃないの?
ないよりマシだって。」

元気なくつぶやくビットをジュジュがはげました。

「そういえば、ジャンク屋に引き取られないパーツはどうなるの?
ずっとそこに置きっぱなし?」

リノンが尋ねると、ビットが答えた。

「別の業者が拾って、どっかに持ってって溶かして精製しなおすとかなんとか。
・・・まあ、あれも最終的には拾われるんだ。」

「でも新しい物を作るには時間がかかるでしょ?
だから使える物は使えるだけ使い尽くす!
資源は無駄にしないのよ。」

バトルを終えた後そのまま放置されていたら、
いずれバトルフィールドはジャンクパーツでいっぱいになってしまう。
ジャンク屋はゾイドのパワーアップに関わると同時に、
バトルフィールドの掃除屋さんでもあるわけだ。

「あ〜なるほど。
今まで気づかなかったなあ。」

リノンが感心すると、ビットがニヤニヤと笑いながら言った。

「リノンなんか撃ちまくってるから後始末大変なんだぜえ。
部屋みたいに散らかり放題で・・・、ぐえ!!」

ビットの腹に強烈なパンチがめりこんで、彼は気を失った。
やったのは当然リノンである。

「大バカ・・・。
プライバシーの侵害・・・。」

ジュジュは白目をむく弟を見て、大きなため息をついた。

 

次に向かった所は、ただいまバトルの真っ最中であった。
ひっきりなしにところどころで爆発と爆音、砂煙が巻き起こっている。
バトルしているのは、チーム・タイガースVSチーム・チャンプであった。
3体の黄色いセイバータイガーと3体の赤いアイアンコングが闘っているのが遠くから見えた。
ビット達はバトルフィールドの外から様子をうかがっていた。
ちなみにリノンとジュジュはジープを安全な所に止め、ビットのトラックの中に乗っている。
運転席にビット、助手席にリノン、後ろにジュジュがいた。

「・・・で、どうするのビット?
まさかバトル中に飛び込んでいくの?!」

ジャッジマンやバトルの関係者に見つかればバトルは中止になるし、
攻撃の巻き添えを食ったらこちらが怪我をする。
色々な意味で危険なので、
普通はバトル真っ最中に入っていってパーツを集めようなんて奴はいない。
だがビットの場合は、そのお気楽な性格と、トラックについている秘密兵器があった。

「大丈夫、見つからなきゃいいんだよ。
こうすれば・・・。」

そういって運転席にあるボタンをカチッと押す。
するとトラックは見る間に周りの風景と同化し、見えなくなった。
別の言い方をすれば、トラックがいきなり消えたように見えるだろう。
“光学迷彩”の能力であった。

「これならフィールドに入っても気づかれない。
ゾイド達から離れていれば、そうそう攻撃にも巻きこまれないさ。
とにかく、気をつけてれば平気だろ。」

リノンはビットに、自分達と初めて会ったときは気をつけていなかったのか?
と突っ込みたくなったがやめておいた。
色々あったが、今こうしているのもそういう出会いがあったから、なのだから。

「チーム・チャンプのバトルは高いパーツが落ちてるのよね。
さすがお金持ち、取材中も思わず拾いたくなるわ。」

ジュジュがうきうきして語る。
実際はアリスに止められるからやっていないけど。
フィールド内に侵入したビット達は、
バトルが繰り広げられている中心部から、
やや離れた所にパーツが落ちているのを発見し、トラックを止めた。
周囲をうかがってからパーツに近づく。
まだ熱を持っており、ついさっき落ちたばかり、という感じであった。

「ねえ、これアイアンコングのパーツよ!!
グレネードランチャーの弾、まだ使ってないよこれ!!」

ジュジュが興奮しながら叫び、満面に喜びを浮かべる。

「あいつら慌てて移動して、落っことしでもしたのか?
もったいねーなー。
新品じゃんか。」

「何でもいいよ、とっとと運んじゃおう!
どうせハリーの奴、拾いになんか来ないわよ!」

「あー!
あっちに落ちてるのはセイバータイガーのパーツかしら?!
まだ使えるわよーこれ!」

「姉ちゃん!
まずこっちの大きいのから運ぼうぜ!!
そっちは後!」

3人は協力して、次から次へパーツをトラックに積んでいった。
時折バトルの状況に目を光らせながら、
えっちらおっちらと、実に手際よく作業は進められていった。
・・・はずであった。
突如アイアンコングの1体からスピーカーで最大音量、
ハリー・チャンプの雄叫びがバトルフィールド内に響き渡った。

『マイハニイイイ!!!
リノオオ〜ン!!!
君との愛の為に俺はああああ!
勝あああああああっっつうううう!!!』

もはや名物と化している「ハリーの愛の叫び」である。
彼は自分のバトルで、相手が誰であろうと必ずリノンの名を叫び、愛を誓うという。
・・・・誓われている本人には公害並みの大迷惑に過ぎない行為である。
そしてその本人であるリノンは怒りにまかせて大声で叫んだ。

「誰があんたのハニーだあああああああああ!!!!!!
その呼び方やめろおおおおおおおおおお!!!!」

「うわ!リノン駄目!!
見つかっちゃう!!」

ジュジュが慌ててリノンを抑えるが、ビットはけろっとしていた。

「大丈夫だって。
この距離じゃジャッジマンにも誰にも聞こえないさ。」

「・・・・そう、かしら。
とにかくリノン!落ち着いて!
あれはもう習性!恒例行事!朝の挨拶みたいなものなのよ!!」

ジュジュが何かハリーにひどい事を言ってるような気もしないでもないが、
とにかく必死にリノンを落ち着かせようとした。
・・・が、ハリーの絶叫タイムはまだ続いていた。
リノンの怒りに拍車をかける。

『リノオオオオオオン!!
俺は!俺は!!君をあきらめないぞおおおおおおおお!!
リノンマアイラアアアブ!!』

リノンはもう一度力の限り、魂の限り叫んだ。

「私はビットが好きなんだあああああ!!!!!
いい加減にしろおおおおおおおおお!!」

叫んだ後、はっとなってリノンが振り向くと・・・、
そこにはぼーぜんと立ち尽くすビットとジュジュの姿があった。
ビットの手からポロ、とパーツが落ちる。
顔は真っ赤である。
ジュジュもまたぼーぜんとしていたが・・・、
ふいに、こらえきれない、といった表情で思いっきり笑い出した。

「ぷ・・・あはははは!!
リノン、あ、あなた最高だわ!
あははははははは!!」

硬直したビットと、顔を真っ赤にしたリノンと、笑い続けるジュジュ。
3人はしばしずっとその状態であった。

 

一方その頃、コクピットにて絶叫タイムを終えたハリーは、
ふとどこかからリノンの声が聞こえたような気がした。
が、突如タイガーズの攻撃をまともに喰らってしまい、そんな考えは吹き飛んでしまう。
彼らは律儀にもハリーの絶叫タイムが終わるまで待っていたのだ。

「そっちの雄叫びは終わったようやな!
今度は猛虎の雄叫び、聞かせたるでええええ!」

「猛虎魂、燃やしたるぜええええ!!
覚悟しいや!」

待たされた分、タイガース達はやる気満々である。
ハリーのコクピットにベンジャミンの怒鳴り声が届いた。

「ちょっとハリー!
何やってるのよ!!
しっかりバトルしてちょうだい!!
私のジャッジマン様の前で負けるなんて嫌よ〜!」

今日のバトルに投下されたジャッジマンは、
ベンジャミンが思いを寄せるジャッジマンであったのだ。
恋する人の前で、みっともない姿は見せたくない・・・乙女(?)心である。
燃える想いである。

「やかましい!
わかっとるわい!!
俺は王者となる男なんだあああ!」

アイアンコングの腕のパルスレーザーガンを敵に向け、一斉に発射するハリー。
・・・彼もまた、燃えていた。
燃える者達の集うバトルフィールド・・・、
バトルは再び激しさを増していった。

 

バトルフィールドから離れた所に設けられた取材席。
そこには各方面のマスコミ記者達が集い、ゾイドバトルの取材をしている。
その中にジュジュの同僚で彼女に想いを寄せている、事情があって身分は明かせない
が本当は財閥のお坊ちゃまである青年、カイルがいた。
彼はこのバトルの取材に来ていたのだが、バトルの方は見ておらず、誰もいない隅っ
こでただただため息をつくばかり。

「はあ・・・。
ジュジュ、君のいない取材席はなんて淋しいものだろう・・・。
私は君に会いたい・・・。」

カイルは先ほどの「ハリーの愛の叫び」を聞いて、非常に彼に好感を抱いていた。
想いが伝わらない者同士、何かあるのだろう。

「ハリー・チャンプ・・・、王者を目指すチャンプ財団の御曹司・・。
君と私はよく似ているよ・・・。
私もまた、愛する人に想いが届かず苦しんでいるのだから・・・。
だが、君に比べて私には勇気がないんだ・・・。
君がうらやましいよ、ハリー・チャンプ・・・。
私の中で、君はまぎれもなく王者だ。」

黄昏モードに入ったカイルは窓の外をふと見やると、
一瞬、ジュジュの姿が遠くの岩山の間に見えたような気が・・・した。

「?!
・・・い、今あそこにいたのはジュジュ?!
な、なぜこのバトルフィールドに?!」

慌てて目をこするも、そこに姿は見えない。
ただ、岩山が連なるばかりの風景。
彼は想いのあまり、幻を見たのだと思った。

「ふ・・・、君を思うゆえに幻まで見てしまったか・・・。
そうだよな、君は休暇中・・・。
こんな所にいるはずがないのに・・・。
ああ、だが本物だったらどんなにかわいいだろうと願ってしまう私は・・・、
どうしようもないな・・・。」

カイルは言った。
“本物だったら”と。
・・・・・彼が見たのはまさしく本物の、ジュジュである。

 

・・・説明しよう。
ビット達がジャンク収拾をしていた場所とカイルのいる取材席は近かったのである。
彼が偶然見たのは作業を終え、
撤収しようとトラックに乗り込む瞬間のジュジュだったのである。
消えてしまったのは光学迷彩だからである。
カイルは「ジュジュに会いたい」という願いが見事に叶っていたのである。
だが、彼はそれを知らない。
・・・以上、説明終わり。

 

「カ〜イ〜ル〜さん!!
こんな所で何黄昏てるんですか!!
取材はしたんですか取材は!!」

突如後ろからものすごい怒鳴り声が響き、カイルが恐る恐る振り向くと、
そこにはジュジュの後輩で助手の記者、アリスが怒りの表情で仁王立ちしていた。
その鬼気迫る迫力にカイルはたじろぐ。
彼はもともと彼女が苦手であった。

「や、やあアリス・・・。君はいつも元気だね・・・。」

「ええ、編集長に誰かさんのお目付け役を頼まれてしまいましたからね。
責任重大ですからね、元気じゃなきゃやってられませんよ。
大体この仕事、体が丈夫じゃなきゃやってられませんしね!!」

ぐさぐさ、と容赦なく言葉の槍を刺すアリスにカイルは次にかける言葉を詰まらせる。

「さ・・・さっきそこでジュジュを見たよ・・・。
い、一瞬だったけど・・・。」

「・・・・なあ〜に寝ぼけてるんですか。
そんな事言ってごまかそうったって、そうは行きませんよ!
さあ取材してください!
取材取材!!
バトル終わってしまいますよ!!」

アリスはカイルの背中を必死で押して前に進めようとした。
だがカイルは元気がない。
このままでは写真は自分が撮っても記事が白紙のままになってしまう。彼女はとどめ
の一言を刺した。

「・・・先輩、仕事のできない男性は嫌いだって言ってたな〜。
記事を白紙で出すなんて最低最悪、とか・・。」

途端にカイルの背中がシャキッ!としてすたすたと前に歩き出した。

「何やってるんだアリス!
さあ取材取材!
カメラしっかり頼むよ!!
早くしないとバトルが終了してしまう!!」

「・・・・本当に、単純ですね・・・。」

アリスが言っていた事はでまかせである。
ジュジュがそのような話をしたことはない。
だが、カイルにはジュジュが、と言っただけでなんでも真実になってしまうのだ。
彼女いわく“嘘も方便”。
・・・編集長は、部下の事をよく知っているようであった。

「ジュジュ!
私は君に相応しい男になる為に頑張るよ!!
見ていてくれー!
あの男になんか負けるものかー!!
うおお!」

カイルの叫びを、周囲の人々は何事か、という目で見ていた。
彼と距離を離してアリスがぽそ、と囁いた。

「あの男って・・・。
カイルさん、まだ勘違いしてるんですね・・。
まあ面白そうだし、このままにしとこ〜っと。」

私は別に、誰の味方でもないしね。
あえて言うなら、彼女は「自分の味方」であった。

 

日が暮れる頃、ビットのトラックとジュジュ、リノンの乗るジープが、トロスファームに戻ってきた。

「ただいま〜・・・。」

ビットとリノンがややくたびれた表情で言った。
あの後2人ともしばらく照れくさいのか黙っていたが、
数分後には元に戻って、
今疲れてるのはパーツ収拾でお腹が空いていたからであった。

「あ、ビットさん、リノンさん、お帰りなさい。
・・・あ、ジュジュさん、こんにちわ。」

ジェミーが2人を出迎え、後ろにいるジュジュに挨拶をした。

「こんにちわ、ジェミー。」

ジュジュも挨拶を返した。
ビットはトラックを倉庫の奥まで移動させ、
ジャンクを貯めてある部屋に入っていった。

「ジェミー、夕飯まだ〜?
お腹空いた〜。
いっぱい動いて叫んだし・・・。」

「叫んだ・・・?
何を叫んだんですか??」

ジェミーが眉をしかめると、リノンが「何でもないわよ」と言って、
後ろでジュジュがくすくす、と小さく笑っていた。

「??
・・・夕飯までは1時間くらいですよ。
それまで休んでたらどうですか?」

「う〜ん、そうねえ・・・。
じゃあシャワーでも浴びてこようかな、汗と埃と砂まみれだし・・・。
ジャンク屋って大変なのねえ。」

リノンが言うと、
ジュジュは奥でビットがパーツを整理している部屋の方をちろっと見て、言った。

「でも、楽しかったでしょ?」

「うん、また手伝ってもいいかな。
・・・あ、そうだ。
ジュジュもシャワー浴びてく?
服なら私の貸すよ。
ついでにご飯も食べていけば?
ねえジェミー、いいでしょ?
夕飯もう1人前追加できるよね?」

リノンがジェミーの方を振り返って尋ねる。ブリッツの家事担当は彼だからだ。

「え?ええ。
よかったら食べていってください、ジュジュさん。」

「ありがとう。
・・・じゃあお言葉に甘えて、頂くわ。」

そして夕飯の支度にジェミーは向かい、リノンは2人分の着替えを用意しに行った。
パーツとトラックを閉まってきたビットがやってきて、ジュジュに近づいてきた。

「姉ちゃん、夕飯いるのかよ〜・・・。
俺の取り分が減るじゃんか。」

ジュジュは「やかましい」と弟を軽くごついた。
彼女はその身からは想像できないほど・・・大食いなのである。

「やっぱり、来て良かった。
・・・パーツ拾いなんて久しぶりにやったわね。
お爺ちゃんの所、出て以来か。」

「子どもの頃はよくやったよな〜。
爺ちゃんと姉ちゃんと俺で。
・・・懐かしいな。」

子ども時代の思い出を、姉弟は思い出していた。

「・・・私ね、子どもの頃、
『弟より妹が欲しかったな〜』
って、思ってた時があったのよ。」

「俺だって、
『姉ちゃんじゃなくて兄ちゃんが欲しいな〜』
って思ったことあったぜ。」

「・・・リノンが“妹”になってくれたら、とっても嬉しいんだけどな〜、
・・・って思ってるんだけど・・?
ビット〜?」

にや〜・・と不気味な笑みを浮かべてジュジュがビットの方を見た。
ビットは少しだけ顔を赤らめる。

「私は“妹”。
あんたは“お兄ちゃん”。
どっちも叶うじゃない。」

リノンにはレオンという兄がいる。
ビットとはよき好敵手である。
こういう話には疎いビットは、話の方向を変えようと姉に質問返しをした。

「お、俺の事より姉ちゃんはどうなんだよ!?
姉ちゃんのほうが年上なんだから、そういう話はそっちが先だろ!?」

ビットは17歳。ジュジュは20歳。
年から考えれば確かに彼女の方がそういう話は先であろう。
だが子どもの頃も今も、姉には全全そう言った話が出てこない。
美人でスタイルもいいし、もてそうなのにな、と弟は思っていた。
“人間の男よりゾイドが好き”子どもの頃姉はそう言ってたが、今でもそうなのだろうか。

「ゾイドよりときめく人って、いないのよね〜。
やりたいこともたくさんあって、そういう事まで考えてる余裕ないかな。」

「やりたい事って?
今の仕事とかか?」

「それもあるし・・・。
お爺ちゃんも心配だし、親にも長い事会ってないし。
う〜ん、・・・色々、かな。
それがどうにかなるまでは、落ち着かないっていうか、落ち着けないわねー。」

そしてビットの方を見て言った。

「それに何より!
あんたがもう少ししっかりするまでは、とても安心できないわよ。
昔っから危なっかしいんだから。」

「それは姉ちゃんも同じようなもんだろ〜?
俺のせいにするなよ〜!」

「あ〜んな可愛い子、逃がすんじゃないわよ!
リノン以外は嫌よ、私!」

弟の運命を勝手に決めようとする辺り、
ハリーの姉ちゃんのマリーさんに似てるような・・・と思ってしまうビット。
年上って皆、年下の世話をやきたがるもんなんだろうか?
ビットには弟や妹はいないからわからない。

「姉ちゃんこそ俺の事にばっか構ってて、行き遅れても知らないからな。
その時になって俺のせいにするなよ。」

「私の事はいいの!
私には“ヘル”がいるから大丈夫ですー。
一人じゃないもん。」

「俺にだって、ライガーゼロがいるぜ。」

「あら?
・・・じゃあリノンはあんたにとって何なのよ?ビット?」

ジュジュの質問に、ビットは返答に詰まる。
つい姉ちゃんと会話すると、
いつのまにか張り合ってしまって取り返しのつかない事になってしまう事もある。

「・・・あなたの“相棒”より大事なの?
どうなの?」

ジュジュは真剣にビットを見つめていた。
その瞳の奥にある答えを見透かそうとするように。

「・・・そんなの、比べられるわけないだろ・・・。
何聞いてるんだよ、姉ちゃん・・・。」

「私は、真剣に聞いてるんだけど・・・。
答えてはくれないのかしら?ビット。」

ライガーゼロも、リノンも、俺にとっては・・・。

「・・・俺は・・・。」

「ジュジュー!!
着替え、これでいいかな?」

リノンがジュジュを呼びにくると、
ビットとなにやら深刻そうな顔をしている彼女を見て、一瞬動きが止まってしまった。

「あ、リノン、ごめんね今行くわ。」

ジュジュが彼女に気づくと、パッと明るい顔を見せたのでリノンもほっとした。
ビットの前を立ち去る寸前、小さな声でジュジュは弟に言った。
それはリノンには聞こえなかった。

「・・・・いい男になったわね。ビット。
お姉さん、少しだけ安心したわ。」

そしてビットの方を振り返ると、
人差し指を口に当てて“静かに”というポーズをとった。

今の話は内緒、という意味である。

「俺はいつだって、いい男だぜ。」

ビットがにっ、と笑ってみせた。
すぐに立ち直る所は、彼の強い所だと思う。

「ねえ、なんの話してたの?ジュジュ?」

「ん?
ビットの“相棒”について話してたのよ、リノン。」

ジュジュの休暇は、そうして終わっていった。

 

そしてそれから3日後。
レリードタウンのアーサーディーリングショップのカウンターにて、
休暇の出来事をケインに話しているジュジュの姿があった。
どうして彼女がここにいるのかというと、
今日の午後、この町の近くで行われるゾイドバトルの取材に来たのだが、
現場に少々早く着きすぎてしまったために、
町の中にある友人の店で時間つぶし、という事であった。
そしてその友人の店、というのがケインの店であったのだ。
いつも大抵、急に訪れるその客に、
店の者達もすっかり慣れてしまっている辺りがつきあいの長さを物語っている。

「・・・以上が休暇の出来事だったんだけど、
いや〜お姉さんはちょっと弟の成長にびっくりするやら嬉しいやらで、
内緒って言ったんだけど、誰かに聞かせたくって聞かせたくって、
それでここに来ちゃったのよー。」

「何で俺なんだ?
他に友達いないのかお前は?」

店の中に客はジュジュ以外いなかったが、一応営業中なのである。

「いるけど、兄弟持ちの人でそこまで親しい人っていないんだもの。
話すと記事にしちゃそうな人もいるしさ。
ケインだったら弟も妹もいる“お兄ちゃん”だし、
年も近いからわかってくれるかなー、と思ったのよ。
この親心みたいな感じ。」

秘密も守ってくれそうだし、と付け加える。
ジュジュは彼を全面的に信頼していた。

「・・・ようするに弟の成長が嬉しかったと、そういう話なわけだな。
・・・でもお前、なかなかきわどい質問するな。」

“相棒”と“恋人”どっちが大切か、などと。
すぐに答えられる奴なんているわけがないだろう、と思う。

「なんかね、あんまりじれったいからいらいらしちゃって、つい、ね・・。
私も、どちらかなんて選べないわ。」

“恋人”がいたら、の話だけどね。
と言ってジュジュは笑った。

「・・・それで、もしビットが“ライガーゼロ”を選んだらどうするつもりだったんだ?」

「ぶっ飛ばす。
恋心弄ぶのは同じ女として許せないから。」

「・・・“リノン”を選んだら?」

「はっ倒す。
ゾイド乗りの資格なしとみなしてライガーゼロ没収。」

「・・・どっちを選んでも痛い目に合うんじゃないか・・・、それ・・・。」

ケインがあきれた様子で言うと、ジュジュはけろり、とした表情で言った。

「選ぶ必要ないもの。
どっちも本気。
どっちも大切。
・・・ケイン、貴方だったらどちらか選べるの?
貴方に恋人がいたら、貴方の相棒と比べられる?」

彼には実際、恋人はいないが想像してみて、首を横に振った。
どちらかなんて・・・きっと選べないだろう。
ビットにとって、ライガーゼロも、リノンもかけがえなく大切なのだと、
ジュジュは彼の答えから確認した。
そしてもう一つ。
彼女は弟に試した事がある。

「・・・私がもう一つ、聞きたかったのは。
大切なものを“大切だ”って言えるかどうか。
・・・心の強さ。」

何かをー誰かを大切だと思うこと、思い続ける事には、
覚悟、勇気が必要だと彼女は言う。
思い続けるには覚悟がいる。
周りに振り回されない信念がいる。
失うかもしれない、という恐れや不安、迷いはいつだってあるから。
知られることが恥ずかしい、知られることで奪われるかもしれない。
・・・そして偽って、隠して本当の気持ちを閉じ込める。

「でもね、私そう言うのは嫌なの。
はっきりしないのは嫌いなのよ。」

隠していても本当の気持ちは消えない。
ならばはっきりと好きなら好き、と言った方が楽だし自然な事ではないのだろうか。

「失うかもしれないとか・・・、
そういう、あるかないかわからない事におびえたり、壊れるのを恐れたり・・・、
そういうのにとらわれすぎて、結局大切なものも大切にできないなんて、
そっちの方が私は嫌だし相手にだって嫌じゃないのかな?」

「大事にしすぎるのも問題があるぞ。
あと、相手の気持ちも考えず一方的に押し付けるのもな。」

ケインが突っ込むとジュジュはそれもそうだけどね、と言って続けた。

「不安要素だけ考えてたら結局、何も始まらないし。
大切なものは一つじゃなくてもいいと、私は思うの。
「相棒」「恋人」「家族」「兄弟」「お金」「仕事」・・・、
色んな形の“好き”や“大切”、“必要なもの”があって、
一つなんて選べないわ、私は。」

自分の思いを素直に伝える事。
ただそれだけの事が、実際には結構、難しい事なのだ。

「だからね、ビットが私の望む答えを出してくれて、すっごく嬉しかったのよ。
おお、大きくなったなーって。」

「・・ふ〜ん。
まあ、そこまであいつが考えてるかどうかは疑問だが、
出した答えはいかにも、あいつらしいな。」

「でしょ〜。
いや〜我が弟ながらいい男になってくれて嬉しいわ。
あ、これ誰にも内緒よ。
言ったら背骨砕くからね。」

にこにこと何気なく恐ろしい事を吐くジュジュに、
ケインは「こいつ自身の教育にどこか間違いはなかったのだろうか」とちょっと疑問に思ったが、
それは口に出さなかった。

「わかってるよ。
・・・で、ちゃんと時計は見てるんだろうな、ジュジュ。
遅刻しても俺のせいにするなよ。」

「え?
・・・あ、いけない!
そろそろ行かないとアリスに怒られる!」

腕時計を見て驚いた彼女は慌しくがたん、と席を立った。
後輩のアリスの大切なものは「お金と時間」なのである。
そろそろ取材場所に行かないと、またアリスのカミナリを喰らってしまう。

「じゃあね、ケイン。
話聞いてくれてありがと。
バイバイ!」

「ま、頑張れよ。」

ジュジュはスチールバックを肩にかけると、
店を出て行ってヘルの待っている場所へ駆けていった。
それからしばらくして買い物に行っていたシエラが帰ってきた。
ジュジュらしい人の後ろ姿を見かけたので、
店にきていたのか、とケインに尋ねた。

「何の話してたの?
ケインお兄ちゃん?」

「こないだの休みにビットの所に遊びに行ったんだと。
・・・で、ジェミーの作った夕飯を食べて帰ったそうだ。」

「ええ〜!?
いいなあ・・・。
私もジェミー君の作ったご飯食べたいなあ・・・。」

シエラはジェミーに片思い中で、
将来結婚するなら絶対に飛行ゾイド乗り、と決めている。

「お前、俺達の作る飯じゃ嫌だっていうのか?」

ケインが思わずそう言うと、
シエラは「そういう意味じゃないよ」と言って不満げな声を漏らした。

「好きな人が作ったご飯を食べてみたいって乙女心、お兄ちゃんわからないの?
・・・そんなんじゃ一生恋人はできないわよ。」

「俺はリッドやお前がしっかりするまでは、
そういう事には関わらないことにしている。」

ケインがきっぱり言うと、後ろから通りすがりにリッドが言った。
彼は今の今まで奥の倉庫で作業をしていたのだ。

「・・・世話好きなのはありがたいが、
もう少し余裕を持ってもいいんじゃないか・・・?」

「ん?何か言ったかリッド?」

ケインには彼の今の言葉は聞こえていないようであった。
リッドは「別に・・。」というとさっさと奥に引っ込んでしまった。

「私もリッドお兄ちゃんも、そんなに子どもじゃないわよー。
15と17なんだから。」

「俺から言わせれば、お前もリッドもまだまだだよ。
・・・手のかかる弟と妹だよ。」

子どもじゃないといってるうちは、まだ子ども。
ケインはそう言って、不満げな顔をする妹の頭を、軽くなでた。

 

アリスとの待ち合わせ場所にヘルを走らせながら、ジュジュは歌を歌っていた。
それは、彼女が作った最新作の歌だった。
歌うジュジュはとても笑顔で、コクピットに響く歌声はとても楽しげで、
ヘルもまた上機嫌で荒野を走っていった。

「これは、ヘルの前でしか歌えないわね。
・・・私と貴方だけの秘密の歌よ、ヘル!」

ジュジュが自分の相棒にだけ教えた歌の内容は、こんな歌詞であった。

“ビットは流離うジャンク屋さん♪
だけど今はゾイドウォリアー♪
彼の大事な相棒は♪
なんと2人もいるのです♪
「俺はライガーもリノンも♪どちらも大事な相棒さ♪」
最高の相棒♪
大切な相棒♪
大事な相棒に愛されて♪
弟ビットはいい男♪
私のビットはいい男♪“

 

END

 

*********************************************************************************

あとがき

こんにちわHAZUKI様!
何か最近のBBSでのやりとりを見てましたら浮かびまして、書いてしまった作品です。
アスカとケインとジュジュ、ビットとリノンの話のプロローグというか、
伏線めいたものになればいいかなーと。
そういうつもりで書きましたが、
何か別物に変貌(汗)ケイン君たちの無断借用、申し訳ありません・・・m(__)m
“いとこお姉ちゃん”としてのジュジュを書きたくなって、
彼女の休暇のある一日を追ってその周囲の人々を書きました。
場面展開激しいし、人は多く出てくるし・・(汗)まあにぎやかでいいかな(逃)
タイトルの未来予想図の欠片たち、というのは彼ら一人一人のことです。
まだはっきりときまった未来はないけれど、
どんな欠片が組み合わさってどんな未来図が描かれるのかわからないけど、
どんな絵ができるのかな〜とか想像するのが楽しくなるような、
そんな感じをあらわしたくてつけました。
・・・でも、ややこしい言い方(汗)
ジュジュ、歌歌ってるな・・・。
ムンベイさんみたい。
曲はご自由にお考え下さい。
それでは、もらって下さい・・・。
HAZUKI様。失礼します。


初心者さんに頂きました。
ジュジュとビットとリノンの話です。
この2人、組ませると無敵ですね・・・。
しかも、ビットには効果覿面だし・・・。
ジュジュの歌、ムンベイの魂は彼女が受け継ぎました。(んな訳ねーだろ!!)
まぁ、歌唱力はこの際問いませんが・・・。
(ケイン、聞き耳を立てるな!)
リノンの思わず言ってしまったビットへの気持ち、
やっぱり両想いか・・・、いったいどっちが「付き合おう」と言ったんだか・・・。
後、ケインとジュジュの会話・・・。
やっぱり、お兄ちゃんにお姉ちゃんですね。
弟たちのことばかりに目が行ってます。
この2人、ゴールインはいつになるんだか・・・。
シエラがジェミーのご飯を食べたがっている・・・。
こっちもこっちで目が離せませんね、この2人も。
そして、リッドは相変わらずクールでした。
初心者さん、どうもありがとうございました。

 

コーナーTOPに戻る        プレゼントTOPに戻る         TOPに戻る