「Love Message」
〜アスカの予感〜

 

『今週の貴方の運勢は恋もバトルも絶好調!
正にラッキーウィーク♪
何事にも積極的に取り組むとさらに吉。
外に出かけたり新しい事に挑戦すると、貴方の魅力は大幅にアップです!』

「うわ〜い!
今週の私の運勢は正にム・テ・キ・ね!」

ある晴れたバトルのない日の事。
チーム・ブリッツの面々が過ごすトロスファーム。
リノンは雑誌の占いコーナーを見て歓喜の叫びをあげた。
すると、後ろを通ろうとしたバラッドがそんな様子を見てリノンに聞いた。

「何だ、占いに興味あるのか?」

リノンは当たり前でしょ?という風に力強くうなずく。

「女の子だったら気になるわよ!
恋愛運とか金運とか!
そういうものよ。」

その瞬間バラッドは固まり、
近くのソファーで洗濯物をたたんでいたジェミーは洗濯物をバサバサ!と落とした。
まさかリノンの口から“女の子”発言が出ようとは思ってもみなかった。
彼らの目から見れば、彼女は普通の女の子とはかけ離れて過ぎている。
・ ・というか見えない。

「・・何よ、あんた達?その目は何よ?」

彼らの態度をじろ〜っと睨むリノン。
・・・怒らせるとまずい。
バラッドは危険を回避すべき、と咄嗟に判断した。

「占いに興味があるなら、アスカの所に行ってみたらどうだ?」

バラッドの幼馴染みで賞金稼ぎをしているアスカは、占いを得意としている。
彼女の占いはあくまで副業だが、
結構当たるとウォリアー達の間でも評判であった。
バラッドとナオミと共に彼女が初めてトロスファームに来た時、
ビットとの相性を占ってもらった事がある。
『大きな試練』が二人に起こる、と出て間もなく、
ハリーがリノンを賭けてビットにバトルを申し込んできて、
それは正に彼女の占いが的中した瞬間であった。
ラオン博士と組んで、負けたら引退するとまで言っていたハリーは、
最強のゾイドと噂されるゴジュラス・ジ・オーガを持ち出してきて、
ビットのライガーゼロと激しいバトルを繰り広げた。
・・・結果はビットが勝利し、二人を祝福し引退すると思われたハリーだったが、
「2人が結婚するまではあきらめない!」と未だに変わらないのだが・・・。

「・・・そういえば、ハリーの邪魔が入ってきてちゃんと占ってもらってないかも。
・・・よーし!」

思い立ったが吉日、と言わんばかりにリノンはすくっ、と立ち上がると部屋を出ようとした。
どこに行くのか察したジェミーがその背中に声をかける。

「ビットさんなら、格納庫でライガーの整備してましたよ。」

「サンキュー、ジェミー!」

そうしてリノンが出て行った後、
バラッドはソファーに横になってぽつり、と呟いた。

「これで静かになるな。
・・・やれやれ。」

「・・・少しは手伝ってくださいよ〜、バラッドさん・・・。」

ジェミーはまだまだ山のように積まれている洗濯物をたたみながら、
無駄とは思いつつもバラッドにぼやいていた。

 

 そして1時間ほど過ぎた頃。
リノンはビットを連れて、アスカが住んでいるロワンシティ、という所に来ていた。
なかなか発展した都会であるこの町は、近代的な集合住宅が多く立ち並んでいた。
彼女はここで一人暮らしをしているらしい。
占い屋の店もその近くにあるらしいのだが・・・。

「困ったな〜・・・。
道がわからないよ〜。」

リノンは忘れてしまっていた。
バラッドにアスカの住んでいる所を詳しく聞いてくる事を。
しかもそれに気づいたのが町についてだったから、
今更ファームに引き返すのも面倒だった。
ビットはリノンにつられるような感じで来たから、彼が知ってるはずもない。

「お〜いリノン、どうすんだよ〜?」

当てもなく歩くにはこの町は結構広い。
ビットは道の脇にしゃがみこんでしまった。
リノンは何か手がかりはないかな〜と道路の向こう側などをキョロキョロしていたが、
そんな彼女の目に映ったもの。

「・・・あれ?!
ねえビット、ちょっと見てよ!」

「何か見つけたか?
看板でもあったか?」

立ち上がったビットは、リノンが道路の向こう側を指差すのでそっちの方向を見てみた。
すると、ちょうど道路を挟んで彼らの真正面を過ぎようとする2人の人物を発見し、
思わず叫んでしまった。

「ケインと・・・姉ちゃん?
何で2人が一緒にいるんだ?」

「何してるんだろね?
ちょっと行ってみようよ!」

言うが早いかリノンはさっさと道路を駆けて横切っていく。ビットもまたそれに続く
形で道路を足早に横切っていった。
・・・傍から見れば危ない行為である。
良い子はまねをしないように。

「おーい!
ジュジュー!ケインー!」

歩道を歩いていた2人は、突然道路から名前を呼ばれてそちらを振り向く。
するとリノンとビットがやって来るのが見えた。
彼らは2人の目の前にやってくると「こんにちわ。」と明るく挨拶をしたので、
2人も軽く挨拶を返した。

「・・・お前ら、こんな所で何やってるんだ?」

最初に口を開いたのはケインだった。
隣にいるジュジュも不思議そうな表情で弟を見ている。
まさかこんな所で会うとは思っていなかった。
それはビット達も同じである。

「それはこっちのセリフだって。
姉ちゃん、こんな所で何してるんだ?」

「何で2人で一緒にいるの?
・・・まさかデートとか?」

ビットに続いてリノンがニヤリ、と笑みを浮かべ問い掛けるが、
すぐさま否定の返事が返ってきた。

「違う。」

「あはは、リノンはずれよ。」

ケインはきっぱりと、ジュジュは明るくさらっと。
その様子にリノンは目をぱちくりさせ、次に伺う出鼻をくじかれてしまう。
代わってビットが姉に言った。

「もしかして、仕事なのか?」

「そう、当たり。
今からアスカ・ファローネさんの所に行く所なの。」

「え?!アスカの所に行くの?!
やったあついてるわ!!
やっぱり私ってついてるゥ!」

急に元気になったリノンの反応にやや驚いたケインとジュジュであったが、
ビットからこの町へ来た理由を聞くと納得した。
そしてケインとジュジュもお互いの理由を説明しだした。

 

ジュジュはつい先月、
「紅い閃光」と言われるナオミ・フリュ−ゲルの個人戦の連勝記録を抜いた、
「黄昏の狩人」、アスカ・ファローネについて取材してくるように、と、
編集長から命を受けて許可をもらい、
約束の今日、彼女が住むこの町にやってきたのだが、
初めて来る町なので道がわからず迷ってしまい、
このままでは約束の時間に間に合わない、とあせり出した。
正にその最中に、道端でばったりケインに出くわしたのだった。
ケインはどうしてここにいたかと言うと、
今日、この町へのパーツの配達があったからであった。
配達を終えた彼はついでにシエラに頼まれた夕飯の買い物をしようと思って歩いていた所、
迷子のジュジュとばったり出くわしてしまったのである。
互いに出会ったときは驚いたが、
ジュジュは正に藁をも掴みたい一心でケインに必死になって頼んだ。

「お願い!
私をアスカ・ファローネさんの所まで連れてって〜!!
道がわからないの〜!!」

「・・・はあ?」

一瞬、何を言われたのかわからなかったケインだったが事態を素早く察し、
「仕方がない」と案内をかってでたのだった。
・・・正直、ジュジュの顔が今にも泣きそうだったのである。
そうとう長い間迷っていたらしい事が容易に見て取れた。
傍から見ればケインがジュジュを泣かしているようにも見える。
時折、通行人の視線が痛く感じたのは気のせいではないだろう。
また、世話好きという彼の性格上、断れるわけがない。
・・・手のかかる奴を放っておけない、お兄ちゃんの性質である。
・・・そして、ビット達が来るまで2人で歩いていたというわけなのだった。

 

説明を終えた所で、ケインはジュジュ、ビット、リノンを見て、
はあ、と一つ重いため息をついた。

「ったく、3人揃いも揃って迷子かよ・・・。
同じ目的地で・・・。」

返す言葉もございません、とばかりにしばし沈黙する3人であったが、
ジュジュが努めて明るい口調で言った。

「まあ、こうなったのも何かの縁ということで。
・・・ケイン、道案内よろしくー。」

「「よろしくー。」」

ビットとリノンが同時に口を開き、
ケインはまた一つため息をついた後、小さな声で呟いた。

「・・・くされ縁って言うのかな?
こういうのって・・・。」

そうして4人となった一行は、再びアスカの所に向かって歩き出した。
前を歩くケインとジュジュを、ビットとリノンがついていくようにして歩いている。
時折聞こえる会話からは、2人がかなり親しそうな、そんな感じがした。
ビットは長く離れて暮らしていたせいもあり、
姉が年の近い他の誰かとこんな風に親しげに話す姿を、今までに見た事がない。
そもそも二人が知り合いだったという事自体、この間知ったばかりである。
しかしその経緯については詳しくは知らない。
ジュジュは何かを隠してる風だったし、
ケインにいつか聞いてみたら「ジュジュに聞け」としか言わないし。

(あんまりしつこいと姉ちゃんにきつい一撃(ですめばいいが)もらうしな。
・・・やっぱ仕事関係で知り合ったんだろ。)

リノンは以前、ジェミーがシエラに会った時、
ジュジュさんについて話していて“ケインお兄ちゃんとよく話してる”と言うような事を聞いたことがあった。
・・・その内容が互いの弟や妹に関することで、
「傍から聞いてると親同士の会話みたいで、聞いてる方は子供扱いされてるみたいだ」
とシエラがややむくれたように言っていたらしい。
ビットが子供みたいに見える会話ってどんな内容だろうか、
とリノンはその時思ったのを覚えている。

「・・・レオン兄さんも、私の事子供扱いするのかしら?」

思わずそんな事を考えてしまう。
自分のお兄ちゃんの事を。

(でも、私もう、子供じゃないわよ。
・・・きっと。)

「ねえビット、私達って子供かしら?」

「・・どうしたんだ、リノン?」

「・・ううん、何でもない。」

彼女の質問の意味がいまいち飲みこめないビット。
ケインとジュジュが曲がり角あたりで立ち止まり、
遅れているビット達に声をかけた。

「おーい2人とも、早く来いよ!」

「もう少しで着くみたいよー。」

ビットがわかったよ、と言うように軽く手をあげ、隣にいるリノンを見る。

「リノン、行こうぜ。」

「うん、そうね。」

彼女は笑顔で答え、2人は前にいるケイン達に向かっていった。

 

ケインがジュジュのメモを元に探し出したアスカの占い屋は、
上品で落ち着いた感じのする建物であった。
派手でなく地味でもない扉の装飾。
神秘的で穏やかな雰囲気がする。周囲の環境も静かで心地よい。
扉には「OPEN」という札がかけられているが、人のいる気配はなさそうだった。
リノンとジュジュが家の周囲をまわっている間、ビットとケインは扉の前に立っていた。
2人が両脇から帰ってきて、
やはりアスカは留守みたいだと告げると、ケインがジュジュに言った。

「ジュジュとの約束があるんだから、
待ってればそのうち帰ってくるんじゃないか?」

「それもそうね・・・。
じゃあ待ってる事にしよう。」

「ここまで来たんだもの!
私達だって待つわよ!」

リノンが力いっぱい言うと、ジュジュが「じゃあご一緒させてね」と微笑んだ。
一方、ケインは案内の役目は終わったから、と買い物に戻ろうとするが、
それを慌てた様子でジュジュが引き止めた。

「帰り道がわからない」

・・・きっぱりとそう言われてしまい、ケインはあきれた表情で立ち尽くす。

「お前は子供か?!
大体ビットやリノンがいるから心配ないだろうが!?」

「姉ちゃん、ヘルはどこに止めてるんだ?
俺達の止めた所には見かけなかったけど。」

ビットがふいにジュジュに問い掛ける。
そうして判明した事があった。
・・・ケインとジュジュとビット達、ゾイドを止めた所が見事に離れてバラバラなのである。
つまりは帰る場所が違う。
アスカの所を出てから先、帰りのルートで迷子になる確率は充分に考えるかもしれない。

「わかった・・・。
一緒にいればいいんだろ・・・。
さっさと仕事終わらせろよ・・・。
遅くなってシエラに色々と言われるのは、俺なんだからな。」

「ごめん・・・。
今度はアリスを一緒に連れてくるわ・・・。」

2人のそんな様子を見たビットはそういえば、と昔の事を話しだした。

「姉ちゃん、時々ものすごい方向音痴になる癖があったな。
昔、何度か行方不明になって騒ぎになったし。」

「それって癖って言うの・・?
行方不明って・・・、一体どういう所に・・・。」

リノンが聞くとビットは記憶の糸を辿るように視線を上に向け答えた。

「崖の下とかに引っかかってたり、どっかのビルの屋上にいたり、
通りすがりのゾイドの背中に張り付いてたり・・・。
姉ちゃんが隠れたら一筋縄じゃ見つからないぜ〜。
かくれんぼで半日かかってたもんな。」

「未だに治ってないんだな〜成長してないぜ〜それ。」とのん気に語る弟の背中に回りこみ、
ジュジュはコブラツイストをかけた!
めきめきめきめき・・・と体中の関節が締め付けられるいい音が響き、
ビットの顔が見る間に青ざめていく。

「うわ〜!
姉ちゃん、ギブギブ!!死ぬう〜!!
ロ、ロープロープ・・うえええええっ!」

「やかましい!
成長してなくて悪かったわねえええ!
弟に言われると腹立つわああ!」

「いや、技はアップしてるけど・・・ってうげえええ!!
ま、まじで死ぬ・・。」

その光景をやれやれ、と言った感じで見つめるケインにリノンが話し掛けてきた。

「せっかく来たんだし、ケインも何か占ってもらえば?
“よく当たる”ってバラッドも言ってたのよ。」

「おあいにく、興味はないな。」

「でも、ちょっとくらいは気になるでしょ?
自分の未来とか運命とかさー。
知りたいとか思わない?」

「それが怪しいもんだな・・・。
大体占いで未来とか人生なんて、本当にわかるのかよ・・・?」

リノンの誘いに対してケインがうさんくさそうに答えた、その時。

「ええ、全くその通りね。」

唐突に聞こえた凛とした声に、一同は振り返った。

「ごきげんよう、皆さん。
・・・そろそろ来る頃だと思ってたわ。」

水色のローブを身に纏った、ダークブルーの髪が印象的な女性。
そこには優雅な微笑みを浮かべ、アスカ=ファローネが立っていた。
彼女のいきなりの登場にあっけに取られるビット達であったが、
次に動いたのはジュジュであった。
肩のバックから名刺を取り出して、アスカに駆け寄り差し出す。

「初めまして、アスカ・ファローネさん。
私こういう者です。ゾイドのカメラマンをしています。
貴方のコマンドウルフ、とっても素敵ですね。」

「俺の姉ちゃんなんだ。
取材に来る途中で道に迷ってて、一緒になったんだよ。」

「私達はアスカに占ってもらいに来たの。
前はハリーの邪魔が入ったからさ。」

ジュジュに続いてビットとリノンが簡単な説明をする。
アスカは取材の事は聞いていたが、どういった人物が来るのか詳しい話はなかった。
渡された名刺をしばし見た後、彼女はジュジュの方を見て自己紹介をした。

「ジュジュ・フォレストさんね、よろしく。
アスカ・ファローネです。」

「よろしくお願いします。」

ジュジュはぺこり、と礼をした。
少し緊張しているようである。
アスカは後ろの方に腕組みをして立っているケインの方に目を向ける。

「・・で、ケインは何をしに来たの?」

「俺は道案内だよ。
こいつら、揃いも揃って道に迷ってるんだから・・・。
・・・帰りの道も不安だって言うし・・・。」

やや不機嫌ながらも、丁寧に状況を説明するケイン。
リノンはそんな彼に再度言った。

「だからーせっかくだし、ケインも占ってもらえばいいじゃない!」

「俺は興味ない。」

「別に強制するつもりはないわ。
でも、私の所まで皆を案内してくれたんだもの。
お礼はしたいわ。」

アスカはケインの目の前まで近づいていくと、にっこりと優雅な微笑を浮かべる。

「お茶でもいかが?」

丁寧で温厚だが、底知れないオーラというか、
言い知れぬ迫力を感じたケインはあっさりと降参する。

「・・・わかったよ。
行けばいいんだろ、いけば・・・。」

その様子をおお〜と興味深そうに見てたビット達の方を振り向き、
アスカは微笑を絶やさぬまま言った。

「皆さんもどうぞ、中へ入ってください。」

そして扉を開け、アスカ、ビット、リノン、ジュジュ、ケインの順に一同は中に入っていった。

 

中に入ってみると、そこは待合室のようなスペースになっていた。
棚に置かれた水晶球や皿、壁に掛けられた絵が目に付く。
清潔に片付けられていて、花瓶には花が飾られていた。
全体的に落ち着いた雰囲気で、壁の青色が涼しく爽やかなイメージを出していた。
占いをする部屋はこの奥だと、アスカは正面のドアを指差した。
ジュジュがビット達を先に行かせる様に促し、
ビットとリノンはアスカと一緒に奥の部屋に入っていった。
奥の扉が閉じられると静寂が訪れ、
ジュジュは部屋の中を見回っており、ケインは近くの椅子に座っていた。

「・・・ごめんね、用事あったのに。
道案内頼んじゃって。」

ふいにジュジュの声が聞こえ、ケインは彼女の方を見た。
彼女はケインに背を向けて立っており、
壁に飾ってある絵を見ているような姿勢であった。

「・・・別に、もういいさ。
長い付き合いだし、もう慣れちまったよ・・・。」

口調が先程より幾分柔らかくなる。
過ぎた事をいつまでも悔いても仕方ない。

「・・・ケインは優しいよね。
時々、本当にジェノブレイカーのパイロットなのかな、って思うわ。」

「・・何だそれ?
どういう意味だ?」

ジュジュの言葉を聞き返すケイン。
誉められたのかけなされたのか微妙な所だ。

「だって、小さい頃聞いてた御伽話に出てくる“魔装竜のパイロット”と、あまりにイメージ違うんだもの。
・・・初めてその話を聞いた時は、怖くて眠れなかった。
お爺ちゃんが言うのよ、“いい子にしてないと悪魔が来るぞ”ってね。」

遠い遠い昔にあった戦争の時代。
そこに生まれた多くのゾイドとゾイド乗りの話が、数千年経った今でも残っている。
中でも、風と雲と冒険を愛し、
世界を救ったと言われる「伝説のゾイド乗り」の話と共に有名なのが、
魔装竜の出てくる「もう一人の伝説のゾイド乗り」の話であった。
彼は非常で残忍で、魔装竜で多くの街を破壊し、命を奪ったといわれている。
共に天才的な腕前を持ちながらも、前者は「英雄」と言われ、後者は「悪魔」と言われ、
両者は戦場で何度も戦ったという。
彼らの名はどこにも残ってはいない。
ただ、物語の最後にはこう伝えられているだけ。
《世界を滅する危機に共に立ち向かい、闘い、破壊神に勝利する。
そして戦争が終結した後、いずこかへ旅立っていった。》

「・・・子供の頃、誰でも一度は聞く昔話だな。
その時はまさか、自分がジェノに乗るなんて思わなかったけど。」

「私も近くで見られるとは思わなかったわ。
・・・子供の頃は怖かったけど、でも時々思ったりした。
そのパイロットはどうしてそんなに破壊したんだろうって。
何を思って闘ってたんだろうって。
・・・そう考えたら、怖さより“知りたい”って気持ちの方が勝っちゃったのよね。
いつのまにか怖くなくなってたわ。
・・・真実はわからないけど、色々想像するのは楽しいわ。」

「もしかしたらケインと伝説のゾイド乗りには、何か関係があるのかもね」とジュジュが言うと、
ケインはただ一言「アホか」と突っ込んだ。
・・・そういうぶっ飛んだ考えを何気なく言える所が彼女のすごい所だが、
同時にやっかいな所でもある。

「お前は年がら年中夢見てる様なもんだろ。
危なっかしいぞ、それ。」

「大丈夫よ、健康には自信あるわ!」

「そういう問題じゃない」と突っ込もうとしたケインだったが、
奥の扉が開く音が聞こえて二人の会話は中断されてしまう。
中からビットとリノンが出てきた。
その表情は明るい。
少々頬が紅くなっているようにも見える。

「終わったの?
占いの結果はどうだった?」

「あ、ジュジュ・・・。
えへへ、それは言えないな〜♪」

リノンはかなり舞い上がってて嬉しそうであった。
・・・非常によい結果だったのだろう。
一方、ケインはビットに同じような質問をしたが、
彼は頬をぽりぽりかきながらただ一言だけ。

「よかったぜ。」

「・・何だそれ?はっきりしねーな。」

ケインはやや不満げそうであったが、
ジュジュは弟と未来の妹(?)の幸せそうな感じを見てニコニコしていた。
2人はまだ時間もあるし、適当に町中を歩いて行くと言う。
つまりはデートであろう。

「じゃあお先に失礼しま〜す。
ケイン、ジュジュ!」

「じゃあな姉ちゃん、仕事あんまり無茶するなよ。」

そしてやや浮き足立った感じで外に出て行った2人を見送るケインとジュジュであった。

「・・何だ、あれ。」

「見ればわかるでしょ?
いい結果だったってことよ。
よかったじゃないの。」

すると、奥の部屋から頭と顔を青い布で覆った姿のアスカが出てきた。
どうやら彼女の占い師のスタイルらしい。
布を取るとダークブルーの髪が肩に流れ、優雅な微笑みが現れた。

「お茶を入れるわ。
2人とも、そちらのテーブルに座って下さい。」

数分後、テーブルの上に出された人数分の紅茶とお菓子の皿を挟んで、
アスカと向かい合う形で座るジュジュとケインがいた。
ジュジュは手帳とテープレコーダーを出してアスカにインタビューをしている。
個人戦の連勝記録更新について、「黄昏の狩人」の異名について、
自分の相棒について・・・とゾイドバトルに関する事から、副業の占いについてなど、
1つ1つの質問に、アスカは落ち着いた口調で丁寧に答えていた。
優美な微笑みを絶やさずに。
2人の女性が話し合ってる間ケインは少し離れ、ずっと黙って紅茶を飲んでいた。
仕事の邪魔はしたくない。
質問が終わり、許可を頂いてジュジュが写真を何枚か撮った。
フラッシュの眩しい光が部屋中を一瞬白くさせる。
そうして取材が終わった後、彼女はアスカに丁寧に礼を述べ、
テープレコーダーと手帳をカメラと共にバックに閉まった。
しばらくしてから、アスカのカードに興味を持ったジュジュが彼女に問い掛けた。

「・・よかったら、私を占っていただけませんか?
お話聞いてたら、“フォーチュンカード”を見てみたくなって。」

ジュジュは普段占いを見たりしないが、
アスカの話を聞いている内に興味を持ったようであった。
横ではケインが意外そうな顔でジュジュを見ていた。
アスカは一言「いいわよ」と答え、それから何を占うのかと尋ねた。
ジュジュは言ってはみたものの、内容については考えていなかったので、
咄嗟に救いを求めるようにケインの方を見た。

「ケイン、何がいいかな?」

「俺に聞くなよ。」

彼の答えは早かった。
ちなみにアスカのカード占いには運勢を占う「ヘキサ・ヴァ−ル」と、
恋の行方を占う「アスター・スコープ」の二種類がある。
女性は大抵、恋の運勢を占ってもらいにやってくる。
先ほどのリノンとビットの様に彼氏同伴で来る女性もいる。
ジュジュとケインがせっかく一緒にいるから、と、
アスカは二人の相性を占ってみてはどうかと切り出した。

「お2人ともとても仲がよろしいようですけど、
互いをどう思っているか、という事は話さないでしょう?
この機会にどうかしら?」

「う〜ん、そうね・・・。
ケイン、どうしようか?」

「だから、俺に聞くなっての。
・・・勝手にすればいいだろ。」

俺は関係ない、といわんばかりに横を向いてしまうケイン。
言い返す気力がないのかもしれない。
ジュジュはそれを聞いて「じゃあ、お願いします。」とアスカにぺこり、と頭を下げた。

「それでは2人とも、奥の部屋に来てくださいね。」

紅茶とお菓子の皿を片付け戻ってきたアスカの頭と顔には、再び青い布が覆われていた。
奥の部屋は透き通った青い薄布に覆われ、空の中にいるかのような感じを思わせた。
中央に小さなテーブルと2つの椅子があるだけの小さな部屋なのに、空間的な広がりを感じる。
窓は見当たらないが天井の照明で昼のように明るい。
空を切り取ってきたかのような雰囲気のする部屋であった。
占い師、アスカは奥の椅子に座り、ジュジュは扉の方の椅子に座った。
ケインは扉の辺りに背をつけて立っている。
ジュジュは占いなどするのは初めての経験なので盛んに辺りをキョロキョロしていた。
落ち着かないようである。
アスカはそんな彼女に深呼吸を促す。
そうして落ち着いたジュジュに透き通ったブルーのカードの束を渡した。

「では、占う事柄を心の中でイメージしながらこのカードをかき混ぜてください。」

アスカの凛とした声が静かに聞こえ、ジュジュは彼女の言葉に従ってカードをかき混ぜる。
その表情は真剣である。
つられるように後ろのケインも表情が真剣になっていった。

「結構です。
では、始めます。」

ジュジュが手をどけ、アスカはささっと手馴れた様子でカードをまとめ、
片手で2つに分け、再び一つにまとめた。
そして左手にまとめて持つと、1枚ずつ右手でカードを並べていく。
1枚目、3枚目、6枚目・・と6枚目ずつのカードを星の形を描くように並べて、
最後に中央に6番目のカードを置いた。
アスカから見て一番上、星の頂点にあたる位置のカードを最初にめくる。
“輪に手を添えて目を閉じた乙女の絵”が出てきた。
アスカは説明をする。

「まず、相手の本質ね。これは「輪《ループ》」、意味は「絆」、「チームワーク」。
・・・ケインの場合だと、友達とか家族の事に集中し過ぎって事かしら。
・・・でも、ジュジュさんとの基本的な相性はよいと思うわよ。」

「う・・・。」

ケインが言葉を詰まらせる。
実際、弟や妹に対する彼の悩みは尽きない。
当たっている・・・。
ジュジュは相性がよい、といわれてほっと安堵した。
「疫病神とか思われてなくてよかった〜」という意味である。
今度は左下のカードをめくる。
出てきたのは“羽の形に燃え盛る炎の絵”であった。

「ジュジュさんの現在の状況は・・・「火《フー》」。
今は仕事に夢中になってるわね?
1つの事に夢中になってて、周りが見えていない、ってことよ。」

先ほどケインにも同じような事を言われたな〜と思う後ろで、
彼が「当たってるな・・・。」とぽつりと呟く声が聞こえた。
次に右上のカードをめくると、“星砂の零れる砂時計の絵”が表れた。

「問題点は・・・「時《タイム》」。
経験不足の意味になるわ。
・・・今までに恋愛経験ないでしょ?」

今度は二人とも言葉を失った。
・・・ズバリその通りである。
両者の頬に汗が一筋流れた。
原因は家族や仕事のこと、あとは運がない、という所であろうか。
続いて左上のカードがめくられる。
出てきたのは“緑豊かな樹を纏った乙女の絵”。

「2人の障害になるのは・・・「樹《フォーレ》」。
この位置だと「未発達」って意味になるわ。
たぶん、2人の心がまだ成長しきってないという事よ。」

「それって子供ってことですか?
・・・ビットより?」

ジュジュが尋ねると、
“恋愛においては、多少、そうかもしれないわね。”とアスカが返答した。
ケインは複雑な顔をして黙ったままである。
・・・妹のシエラの方が実際、そう言った方面には詳しい。
それが悩みでもあるが。
右下のカードをめくる。
“水面の様な鏡に映る精霊の絵”であった。

「アドバイスは・・・、
そうね、「鏡《ミラー》」が出てるから、仕事以外に目を向けることが大切ね。
ケインももう少し、自分の為の時間を持ったほうがいいわ。」

「1人だけの時間を持て、という事か?」

「まあそういう事ね。
ジュジュさんも休暇では、仕事の事を考えるのは一休みしたら?」

「それは言えてる。
ビットにも言われてるしな。
お前いつか過労死するぜ。」

アスカとケインに言われて、ジュジュはたはは、とあいまいな笑顔をした。

(・・・そんなに仕事の鬼のように見えるのだろうか?
こっちは楽しいんだけどなあ。)

そして最後に中央のカードをめくると、
“月、星、太陽を浮かばせる乙女の絵”が出てくる。

「最終結果・・・「力《フォース》」。
発展のカードよ。
視野を広げるって意味もあるから、
今は焦らず、知らない分野に目を向けることが大事ね。」

知らない分野・・・、簡単に言えば2人の場合は、ゾイド以外の分野という事になるだろうか。
とにかく焦らずに色々やってみろ、という事だけは飲み込めた。
礼を述べた後、料金を払おうとしたジュジュだったがそれを止めてアスカは言った。

「素敵な記事を書いてくだされば、それが料金よ。
・・・それと、よかったらまた来てくださいね。」

アスカは最後まで、優美な微笑みを絶やさずにいた。
そうして丁寧に礼を述べ、ジュジュとケインは外に出た。
まだ日は暮れておらず、
ケインは急いでジュジュを彼女のゾイドを置いた場所まで案内した後、
夕飯の買い物をしようとしたが、ジュジュ本人がそれを止めた。
迷惑をかけたお詫びに買い物を手伝うと言ってきたのだ。

「お前、会社に戻らなくてもいいのか?」

「今日はここで終わりにするわ。
アスカさんが言ったものね、“仕事以外にも目を向けること”って。」

「ふ〜ん・・。
ま、いっか、好きにするんだな。」

そうして足早に歩き出す。
しばらくするとビットとリノンに再会した。
彼らは今まで色々楽しんできたらしい。
向こうもケイン達を見つけ、近寄ってきた。
ちょうどビット達のゾイドはケイン達が向かう店の方向にあったので、
途中まで一緒に行く事になった。

「ねえねえジュジュも占ってもらったの?
どうだった?」

「そうね、面白かったわよ。」

「姉ちゃんそれ、答えになってねーよ。」

「その言葉、そっくりお前に返すぜ、ビット。」

こんな調子でリノン、ジュジュ、ビット、ケインは会話しながら歩いていたが、
ふと、ジュジュが何かを思いあたって、
弟の耳を掴むとごにょごにょ・・・と何かを囁いた。
途端にビットが硬直する。
ケインとリノンは「?」という表情で2人を見た。

「ちょっと、ビットどうしたのよ?
ビットってば?!」

システムフリーズしたビットを盛んにリノンが呼びかける後ろで、
ケインはそっとジュジュに尋ねた。

「・・・ジュジュ。
お前ビットに何て言ったんだ?」

“恋愛においては弟の方が上”と聞いた姉が、
果たしてどの程度なのかと弟に尋ねた事。

「“もうキスはしたのか?”
・・・って聞いたんだけど?」

ケインは思いっきり脱力しそうになる。
当のジュジュはきょとん、としていた。

・・・そういうぶっ飛んだ考えを何気なく言える所が彼女のすごい所だが、
同時にやっかいな所でもある。

(わかってはいたが、わかってはいるが、それにしても・・・。
アスカの占いに出てた「未発達」って、実はこいつだけじゃないのか??!)

思わず頭を抱えそうになる。

(妹のシエラやリッドは早熟だが、こいつは未熟なんだな・・・。)

方向は違えど手のかかることに変わりはない。

「私、何かいけないこと言った?」

「・・・いや、むしろお前らしいが。
・・・子供だよな。
・・・子供なんだろうなぁ・・・。」

(こういうとき上手く説明できない自分も、
おそらく、シエラやリッドや、彼女の事ばかり言ってられないかもな。)

そんな事を考えてしまう。
ジュジュは相変わらず「??」と言う表情のまま。

「ま、気にすんな。
・・・焦らずに、な。」

そう言って、ケインはふっと微笑んだ。

 

 一方、アスカは先ほどのカードを並べながら考えていた。
カードには様々な意味があって、
先ほどジュジュとケインに言った事のほかにも、こう言った見方がある。

相手の本質・・・「輪《ループ》」には、以心伝心、気持ちの伝わり、という意味もある。
ケインは相手の気持ちを汲み取り、
相手の気持ちを察し、受け止める事のできる優しさを持つといえる。

現在の状況・・・「火《フー》」では情熱、アクティブな行動力、大胆なアピールという意味もある。
ジュジュは積極的で行動的、情熱的であるから、
一度火がついたら面白い事になるかもしれない。
力を送る側と受け止める側のバランスが取れているし、基本的相性はいいのだ。

問題点・・・「時《タイム》」があるが、時を経て経験を積めば磨かれて、
別の意味「パートナーとの出会い」に変わるかもしれない。

障害・・・「樹《フォーレ》」も時と共にいつか花開くかもしれない。
苗木は苗木のままではないから。

アドバイス・・・「鏡《ミラー》」は自分を見つめ直す事。
・・・兄弟をもう少し信用してもいいだろう。
子供はいつまでも、子供のままではない。
素直になる、という意味もある。
・・・嘘や偽りの感じはなかったが、
気づいてないという事はありえるかもしれない。

最終結果・・・「力《フォース》」には発展、望みの成就、という意味もある。
こうしてみると、長期戦の様に見えるけれど、

「・・・意外と、転べば早いかも。」

占いは「悩みや未来に対するヒント」をあらわすものであり、
また「自分自身の見えない事柄に気づく為の力」でもある。
今までの答えはカードが示す通り。
・・・そしてこれからの答えは、彼らしだい。

「・・・楽しくなるかもね。
フフ・・・。」

そんな予感を感じていたアスカの表情は、優美な微笑みをたたえていた。

END

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あとがき

祈願達成!悲願成就!アスカの占い話ができましたあああ!(感動!)
ああもう本当に占って欲しかったから夢の様です・・(T▽T)
さくら様、多大なるご協力、本当にありがとうございました!
アスカはとっても底知れない、神秘的な女性だな〜と書けば書くほどそう思ってしまい、
私程度の腕では書ききれない彼女の魅力(涙)書かせていただき、
本当にありがとうございました!(深々)
ジュジュのカードは”火”でしたが、リノンもきっと”火”かもなあ、と何となく思いました。
だから二人揃うと”炎”になるのね(笑)とかあほな事を・・・(−−)
ビットは”風”かなあ?”火”と”風”・・・相性いいですねえ。
風が火を燃え上がらせ火が強い風を呼ぶ。
”火”と”輪”で”火の輪”?
何か、猛獣使いっぽいですね。
でも息はあってそう(笑)
本当に、さくら様、ありがとうございました!

こんにちわHAZUKI様!
この作品で2人の役割分担が決まったようです(笑)
うちの娘から迫らないと駄目って事ですね!!(お〜い!)
やっぱゾイドは女性が強いみたいですね。
でもその方が楽しいかもです(^▽^)
ケインがどんどん保護者になってます(汗)お兄ちゃんは苦労症(あうう〜すみません!!)
ジュジュがどんどん幼くなってる・・(汗)
体は大人でも精神が子供です(何で?)
彼女は仕事では本当にしっかりしてるんですよ・・。
生活も一人暮らしだから家事とか一応一通りできますからね。
でも料理とかはケインの方が上手かったりして(笑)何かそんな気が・・・(汗)
まあ、女は二つの顔を持つ、という事で(逃!)

では、二人の運命がひっくり返る様な、
転変地異並みの何かが(それを考えろって!)起きるように祈ります(汗)
失礼します!


初心者さんから頂きました。
ケイン・・・、いろいろと苦労してますね・・・。
シエラやリッドは早熟気味、ジュジュは妹以上に手が掛かる。
まぁ、多少は苦労しないとね・・・。
この話でバンとレイヴンの話が出てきて、
やっと繋がったなぁ〜、と思いました。
まぁ、もうちょっと密接にするつもりですが・・・。
ケインの性格は、「ロスユニ」のケインと殆ど同じです。
ちょっと熱血を抑えたと言う感じでしょうか。
この2人、天変地異でも起こらない限り、無理でしょうね。
どっちも鈍すぎ・・・。(爆)
初心者さん、どうもありがとうございました。

 

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