「夫と娘と・・・」

 

「ダークネス、ママのとこまで後どれくらい〜?」

「グオゥ…。(あと少しでございます。もう少しお待ちを…。)」

黒いワンピースを着て、白い髪と赤い瞳の少女が、
黒を超える闇色のオーガノイドと一緒に小さな丘を歩いていた。

「あれ?パパは?」

少女が自分の父がいない事に気づく。

「お〜い、ルナ待ってくれ〜・・・!」

「あ、パパ来た!」

薄い金髪を後ろで束ねている男が来た。
目の色はブラウンで彼女の父とは思えない。
どうやってこんな髪と瞳の少女が生まれるのですか?と誰もが思うだろう。
まあ、ともかく少女も父親も今どこかに向かっているようだ。

 

小さな緑の丘を越えて見えたのは小さな木だ。
緑の葉が周囲を優しく包み込むように。
そしてその小さな木を守るように巨大な石化したゾイドがいた。
タイラント。
ダークネスのオーガノイド進化したガン・ギャラドの進化体である。
力は数年前まで最強を誇ると言うほどの存在であった。
しかしその力はたった一人の人物だけにしか使わなかったゾイドである。
黒い巨大な石はすでにあちらこちらに苔が少しづつある。
鳥や小動物たちの巣にもなっている。
それほどこの木の所が落ち着くのだ。

 

ルナはもう8歳。
彼女がいなくなってもう4年経つ。
彼女の体はもうほとんどが限界で、ぼろぼろの状態だった。
それでも彼女は4年間ルナを精一杯育てた。
医者の話だとルナはレイナの力は受け継いだものの、肉体的には余り心配ないらしい。
それが心配だった。
彼女と同じ様に早く自分の下を去ってしまうのではないかと思うからだ。
強すぎる薬は毒ともなる。
彼女の力を受け継いでルナも短い寿命になるかと思ったからだ。
だから心配しなくてもすんだ。

 

ルナ様は元気で私たちと暮らしていますよ。
レイナ様は心配しないで下さい。
私とイーグル様がルナ様をお守りしますから。

 

イーグルとルナたちが丘を越えたところである人物の姿が見えた。
薄汚れたフードを被っていて、顔は良く見えない。
ただ分かるのは青年と言う事だけだった。
青年はイーグル達の方を見てすぐその場を去った。

「あの人誰だろうね?」

「さあな・・・。」

イーグルは青年の去った方を見続ける。

(何処かで会った様な・・・?)

小さな木の下には墓がある。
彼女の墓。
小さな彼女の墓。
そこにはある物が置いてあった。

鈴蘭。

彼女の好きな花。
淡い紫の花がいくつも咲いてある花。
ちょっとした毒をもっているが、それでも彼女が好きな花。

彼女が好きな花を知っているの人物はあまりいない。
知っているとしたら自分とダークネス、それと娘のルナだけだ。
後知っているとしたら彼女の義兄妹である・・・。

「まさか!?」

「どうしたのパパ?」

「あ、いや何でもない。」

自分の推測が当たってるなら・・・。
彼だ。

「ねえパパ。ママにお花をあげよう。
誰かのは知らないけど隣にあげようよ。
そうしたらママも喜ぶから。」

「ああ、そうだね。」

ルナは置いてある紫の鈴蘭の隣に白の鈴蘭を置いた。
彼女の髪の色と同じ色の鈴蘭は風に少し揺れる。
同じように紫の鈴蘭も揺れる。
空のすぐ下で、踊るように。

 

 夜、その場所には満天の星空と、二つの月が静かに照らしていた。
石と化したタイラントは静かにその場にうつむき小さな木を守っている。
そんななか昼間のフードの青年がいた。
しかし今はフードを取っていて、月の光が彼の素顔を照らす。
燃えるような赤い髪に黒い瞳。
すぐ傍には髪の色と同じ赤いオーガノイドがいた。

「やっぱり貴方だったのか。」

青年とオーガノイドは声のした方に振り向く。

「あの花を知っている人物はかなりいたって少ないからな。
知っているなら俺とダークネスとルナ。
そして貴方と貴方の妹だ。」

タイラントに隠れていたイーグルが姿を現す。
そしてダークネスも。

「なあ、ヒルツ。」

「覚えて頂いて光栄だ。」

「忘れてるわけないだろ。彼女の『兄』なんだからな。」

静かに風が丘を通り抜けていく。

「今日はただこれを持って来ただけだ。」

ヒルツの手には銀の懐中時計があった。
蓋を開くとある音色が流れてくる。

レクイエム

彼女が好きだった音楽。

「これをただ持って来ただけだ。今日はな。」

蓋を閉じて墓に懐中時計を添える。
そしてすぐ後ろを向き歩く。

「ルナに会わないのか?」

「私にあの子と会う資格はない。」

「お前はレイナの『兄』だ。」

「会ってしまえばあの子は汚れてしまう。
私のように、赤くな。」

振り向かずに言葉を出し、その場から離れていく。

「それでも・・・。」

イーグルは声を出す。
それと同じようにヒルツの足が止まる。

「それでも彼女は『笑う』ぞ。」

ヒルツが不意に空に浮かぶ二つの月を見る。
朱と珍しい蒼の月の光が重なり合い、綺麗な夜だ。

「ああ・・・。」

空を見ながらヒルツは言う。

「そうだな。」

 

空が良く見える丘にそびえ立つ、石と化したゾイドの亡骸。
たった一人の主の眠り守る為だけにその場に立つ。

一人ぼっちにならないように。
一緒に大好きな人を見守るように。
一緒に誰かを待つように。

彼女を思ってくれる人たちの目印になるように。

そう、私は今はただの目印。
つまらなくて平凡だけど。
でも大切な役目だ。
彼女が大好きな人たちのための目印なのだから。

太陽の昇る時間は小鳥や動物たちが傍にいる。
月が光る時間は空いっぱいの星がある。

ああ、こんなに思っていてくれる人がいてくれて私は嬉しい。
貴方も嬉しいですか?
ねえ、マスター・・・。


桜神さんから頂きました。
折角だから飾らせていただきますね。
第3部を読んだ人はわかりますが・・・、私の設定とは若干違いますね。
・・・感想に戻りましょう。
結局、レイナはダカーポと同じ運命を辿ってしまうんですね・・・。
そして、残されたルナは、イーグルと共に健やかに育っている。
泣けるじゃ、ありませんか。
ちなみに私の小説では・・・、ネタバレになるので止めておきます。
結構いろいろと考えてはいますね。
どうやったら、皆さんの希望に答えられるかと・・・。
結果は終わってみないと分かりませんね。
・・・いつ終わるか、分からないんですけど。(荷電粒子砲)
桜神さん、どうもありがとうございました。

 

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