「竜の黒い牙」

 

共和国軍補給基地・ホワイトバレー。
この基地は地の利を生かして建設されており、難攻不落と有名である。

ここでは首都、ニューへリックシティからの補給物資・武器弾薬、
そして増援に来た大部隊が前線へと向かうところだった。
この先、数十キロ離れた前線では、数ヶ月前から激しい戦闘が続いている。
だが共和国軍・帝国軍共に戦力はほぼ互角で、今は互いに消耗戦に入っていた。

そこで数日前、共和国側は本部から軍の中でも精鋭と呼ばれる
「共和国軍第3機甲師団」を増援に呼び一気に決着をつけるつもりだった。

『この大部隊で総攻撃をかければ、すぐにでも相手は降伏するだろう』

そう目論んでいた司令官の思惑は今となっては明らかに外れていた。
今現在、この基地は帝国からの攻撃を受け、ほぼ壊滅状態にある。

―――――――基地では、紅蓮に燃え盛る中に一体のゾイドが動いてる。

 

また一つ大きな爆発音がした。
今度はゴジュラスが崩れ落ちたようだ。

「これでゴジュラスはほとんど片付けたな。」

その“黒いゾイド”はその砲身を次の相手へと向け、唸り声をあげた。

 

部隊の指揮官のコックピットにふいに通信が入った。

「大佐・・・・・ダメです・・・プテラスもほとんどが何者かに・・・・・」

おそらく部下からだろう、その通信は緊迫した内容だった。
画面と音声にはところどころノイズや雑音が混ざり、
あまり鮮明ではないが青ざめた表情の青年が映っている事位はわかる。
その時、モニターの背後に黒い影が急速に接近するのが映り、
そして通信は途絶えた。

「大尉!・・・応答しろ!・・ダメか。
ゴジュラス・コマンドウルフ部隊!照準を合わせろ!
“あいつ”を止めろ!」

その指示でゴジュラス・コマンドウルフ数十体は、
この基地を襲撃した一機のゾイドに向かって、一斉に砲撃した。
轟音と共に爆発と砂煙があがる。
共和国軍の誰もが予想していた。
この煙が晴れると、相手が粉々になって無残な残骸をさらしている事を。
そしてこの“地獄”が終わりを告げる事を。
だが、その予想は外れた。
その“黒いゾイド”は左手からE・シールドを展開し攻撃を防いでいた。
そしてその表面には傷すら見られない。

「バカな・・・・・あれだけの砲弾をくらって無傷だと?・・・・・・・」

その指揮官は強い恐怖を感じ、それが判断力を鈍らせる事となった。
そのゾイドのパイロットはその隙を見逃さなかった。

「ここまでだな。」

そのゾイドは咆哮をあげ、口から光の槍を放つと、その指揮官の乗ったゴジュラスは
周りにいた数十体のゴジュラスやコマンドウルフごと光に包まれ消滅した。

「リーベル大佐のゴジュラス・ジ・オーガ、
及びコマンドウルフ・ゴジュラス部隊、反応が消えました。」

オペレーターのその報告を聞いて
―――いや、この基地の司令官はすでに戦意を消失していた。

「馬鹿な・・・、相手は立った一機だぞ?
たった一機に・・・、わが共和国の誇る第3機甲師団が・・・・・・、
・・・ほぼ全滅だと・・・?」

そう言った男の顔は、まるで信じられないといった様子で、
戦場、正確に言うと“この基地”をモニターで見ていた。

 

戦場の後方に待機していた帝国軍機甲師団に基地から降伏をつげる
通信が入るのにそう時間はかからなかった。

「まったく・・・何が
『俺が陽動してやるからそのスキにお前ら本隊は基地を叩け』だ。
まさか本当に降伏させるとは・・・・。」

カール・リヒテン・シュバルツはその通信を聞き、そう呟いた。

 

 夕日に赤く染まる無数のゾイドの残骸。
その中にひとつだけ無傷の黒いゾイドが立っている。
そして、そのゾイドの足元に黒い戦闘服を着た銀髪の男が、目の前に広がっている光景を見ていた。
その男の名前は・・・ゲイル・ヘルシング。
帝国軍特殊部隊員だ。
そして、この基地を壊滅させた張本人である。
しかしその表情は戦闘に勝利したものとしては決して明るいとはいえなかった。

『ゲイル中佐!
応答しろ!ゲイル中佐!』

“メシア”のコックピットから通信が聞こえてきた。 
彼の操縦し、この無数のゾイドを残骸へと変えたこのゾイドは小さく咆哮をあげ、コックピットを彼に近づけた。

「どうした。
何か不都合でもあったのか?
シュバルツ少佐。」

ゲイルはやれやれといった様子でコックピットに戻り、通信に答えた。

『今、向こうが降伏した。
任務終了だ。引き揚げてくれ。』

「了解した。
ところで、お前らはあんな連中に手間取ってたのか?」

『そう言うな。
向こう側は砲撃戦に強いカノントータスやゴルドスに
対地攻撃を強化されたプテラスが多数配備されていたんだ。
もっとも、大部隊用に考えられた部隊だから、お前には攻めやすかっただろうがな。』

「それは言えるな。
中にはカノントータススーパーキャノン仕様なんてのもいたが、
あんなもの砲撃戦以外ではほとんど役には立たない。」

『そんなことよりも早く戻れ。お前の任務は終了だ。
もっとも、その後片付けを手伝ってくれるんなら別だがな』

「それはごめんだな。
ゲイル中佐、これより帰還する。」

そう言うと通信を切り、数時間前に出撃したホエールキングのほうへ向かった。
ちなみにその時「これで賭けは俺の勝ちだ・・・・・・・。」と言ったらしい。

 

 夜空に広がる満天の星と二つの三日月・・・、
そしてその下の荒野には焼け焦げた後や、爆発で出来たクレーター等がいくつも出来ていた。
ゲイルは右手の、先ほどシュバルツから巻き上げ・・・・もとい、
おごらせたスピリタスを飲み、荒野を見ながら物思いにふけっていた。

「・・・なんだ。カー坊。」

半分になった酒を飲みながら、
ゲイルに近づいてきたシュバルツに向かって言った。

「今日の活躍は勲章ものだな。
ゲイル中佐殿」

シュバルツはゲイルの隣に腰をおろした。
顔は心なしか笑っているようだ。

「なにいってんだ。
俺たちにはそんなもの貰う必要はない。
それと、中佐殿は止めろ。」

ゲイルがほとんど空になった瓶を脇に置くと言った。

「了解した。」

シュバルツはゲイルの隣に腰をおろした。

「それよりも・・・、
お前は何時になったら“カー坊”って呼ぶのを止めてくれるんだ?」

シュバルツがうんざりしたような顔で訊ねた。

「さあな。
これからもずっとそのままかもな。
カー坊。」

その答えを聞いて、シュバルツは苦笑した。

「昔から変わってないな。
その性格は。」

「だから何の用だ。酒の追加でも持ってきたのか?」

「2ダースやったろうが・・・。
ところでそれは何だ?」

ゲイルが左手に何かを握り締めているのを見て言った。

「このメスか?
あいつの形見さ。」

「・・・すまん。
思い出させてしまったみたいだな。」

ゲイルはふっと笑って、

「いや、気にするな。
もう俺なりに受け止めたつもりだ。」

「そうか。
・・・たしか四ヶ月位前だったな・・・。」

「ああ、原因はまだわからないが、おそらく誤爆だろう。」

「民間ボランティアの医療キャンプが破壊されるとは、不幸な事故だったな。」

吐き捨てるよう彼は言った。

「ああ、それもこれも、全てこの戦争のせいだ。
もうこんな事は繰り返したくない。
いや、繰り返してはならないんだ。
だから俺は戦場に出た。
長年続くこの戦争を終結させるために。」

「そうだったのか。あんなに昔から戦争、人殺しを嫌がってたお前が、
上から特殊部隊として派遣されてくるのを知った時はまさかと思ったが、
そんな理由があったのか。」

シュバルツが昔を思い出しながら言った。

「特殊部隊でも面白い事はあったぞ。
ちょっと暗いが面白い奴とも出会ったしな。
そういうお前はどうなんだ?
昔からなかなか浮いた噂が少なかったが、そろそろ恋人でも・・・・・」

ゲイルの質問の途中で立ち上がった。

「お前が変わってなくてほっとしたよ。
ではそろそろ書類をまとめなければ、ではこれで失礼する。
ゲイル中佐。」

そう言い、ゲイルに向かって敬礼し戻っていった。

「・・・・あいつ、上手くごまかしたな。
ま、俺がどうこういうことじゃないか。」

そう言うと彼は24本目の酒瓶を飲み干した。

 

シュバルツが帰ったのを確認すると、後ろの闇に向かって呟いた。

「もう次の仕事か。
少しは休ませろとネルソンに伝えておけ。」

背後の闇から、急にゾイドが現れた。
光学迷彩を使用していたようだ。
そのゾイドの漆黒の翼の下から、一人の男が出てきた。
年はゲイルと同じぐらいだ。

「お前さんには楽な仕事だったろ?
この“闇夜の烏”がプテラスを落としてやったし、
それにこの基地の見取り図を調べてやったのもこの俺じゃないか。」

「何言ってる。アレは俺だけでも十分だった。
お前がでしゃばったんだ。」

さらりと言ったゲイルの言葉に、メスを投げつけたくなる衝動を抑えながら、
黒服・黒髪の男は次の指令を伝えた。

「このテープが次の仕事場への案内状だ。それじゃあな。」

そう言うと彼は相棒、“ファントムクロウ”に乗り込むと、
光学迷彩を発動させ、姿を消した。

『“竜の頭”から“竜の黒い牙”へ
次は“痺れた鯨”について調査してもらう。
調査の結果次第では、破壊してもらってもかまわん。
では、健闘を祈る。』

テープが再生し終わったのを確認すると、
彼はコートの中から出したショットガンをそれに向かって撃ち破壊した。

基地にあった古代遺跡の調査結果を記録したデータが今回の混乱の間に
何者かに盗まれていた事は、誰も知らない。

 

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どうも。エスケーパーです。
これが私の処女作ですがいかがでしたでしょうか。
なんかラストがしりすぼみっぽいですね。
カールの言葉づかいもあれでよかったのかな。
それにバトルシーンもいまいち迫力がないし・・・。
ゲイルの魅力も上手く書ききれてないし。
これが今後の課題ですね。精進していきたいです。
ちなみに、今回は第1部より前の話しです。

「オイ。お前。」

ん?お前は・・・ああ、クロウに乗ってた奴。

「『クロウに乗ってた奴』じゃねえ!
俺の出番は最後のあれだけかよ!!」

なに言ってんだ。
最初の方でプテラスを落とすところ、書いてやったろうが。

「あんなものは出番とは言わないんだよ!!!!!
それに名前もないし。」

あーうるさい。まだ考えてないんだよ。
それに、作者に逆らう奴は・・・、ゲイル、やれ。

「了解。(これで次も俺がメインだよな)」

パシュ

「ゲイル、お前麻酔弾を・・・・・・」

どたっ

よし、倒れたな。墓にでも埋めとけ。(わかってる。ご苦労さん)
では。また、いつか続編を書きたいと思います。(好評だったらね)
それでは。


エスケーパーさんから頂きました。
ゲイルの話です。
シュバルツ大佐も友情出演(?)で面白かったです。
で、これを見て、うちのキースが偉く張り切ってます。
なんか、クロウに感化されたようで・・・。
飛行ゾイド乗りの血が騒いでしまった様です。

「最近、陸上戦ばかりでストレス溜まってるんだ。
たまには暴れさせてくれよ。」

と言っても、この頃の彼のゾイドって、レイノスなんですけどね。
次回作、出してもらえないかな〜、と考えています。(図々しい!!)
一応、彼も共和国空軍第3編隊の隊長です。
特殊部隊並の訓練も受けているので、結構強いですし。
・・・ちょっと格好付けなのが玉に瑕なのですが。(爆)
次回作、期待してます。
エスケーパーさん、ありがとうございました。

 

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