「二人の会話」
〜第4話後日談〜

 

「はあ〜。」

「・・・?
どうした?ため息ついて。」

店にやって来て、いつもの様に受付のカウンタの隅に座ったジュジュに、
カウンタの向こう側にいたケインが声をかけた。
元気のない彼女の姿というのは珍しい。
・・・というか、こいつらしくない。
何かあったのだろうか。
ジュジュはカウンタに顔をふにゃ〜、とつっぷすと力なく言った。

「・・デッドスコルピオ団の事で、ちょっと、ね・・。」

「・・ああ、この間の奴らか。」

ケインがまだ真新しい記憶の糸を辿る。

 

かつてゾイドバトル界を荒らしまわった闇組織、バックドラフト団の遺志を継ぐ新たなる組織。
彼らが突如現れ、ビット達のゾイドバトルをジャックした事件が起こったのがつい2日前の事であった。
新たなるバトルジャック、ダークバトルへの不安。
無論ゾイドバトル連盟は何も対策を考えていなかったわけではない。
ロイヤルカップ終了後、第2、第3のバックドラフト団が現れた時の事を想定し、
闇バトル潰しの集団を作り上げた。
その名は「ダークバスター」。
連盟が選んだ腕利きのウォリアー達で構成されていて、
その全体構成は明らかにされていないが、
彼らは闇バトルが行われた時、その現場に最も近い場所にいるメンバーに連絡が行き、
関係者以外立ち入り禁止のバトルフィールドへの進入を特別に許可される。
そして活動の内容は独自の判断で闇バトルを解除、被害を最小限に食い止める事、
最終目標は組織の壊滅に当たる事となっている。
報酬は月ごとの一定額の他、戦闘後に応じ支払われ、
また、戦闘後のデータ、情報を提供する事も含まれている。
こう言うと難しそうだが、簡単に言えばジュジュいわく「困った時現れるお助けマン、ね。」という事だ。
そして「ダークバスター」としての顔を最初に明らかにしたのが、ケイン達であった。
ゾイドバトル専門のカメラマンであるジュジュは、
必然的にゾイドバトルに関するあらゆる情報に長けている。
連盟が「ダークバスター」の存在を最初に発表したのはおよそ半年ほど前。
その時彼女にはすぐにケインの事が浮かんだ。
彼らがゾイドバトル界へ登録をした数日前、
名乗っていたチーム名が「バスターズ」だった事を思い出したのだ。
リーダーであるケインの相棒のゾイドの事もあるし、
もしかしたら、関係しているんじゃないかと思った彼女が彼の所に行くと、本人はあっさりと言ったのだ。

「ああ、そこから名前取ったんだ。
俺たちが一番目なんだとさ。」

「・・・いくらなんでも名前、単純すぎない?
すぐにばれるんじゃないの?」

「別に秘密にしてる訳じゃないし、いいんじゃないのか?
登録は問題なかったぜ。」

ケインの相棒であるゾイド、ジェノブレイカーは“伝説の魔装竜”と言う名をもつ凄腕のゾイドである。
当然、誰でも乗れるものではない。
実際彼は今最もSクラスに近いウォリアーといわれ、Aクラスの中でも特に秀でた腕前である。
闇バトルを潰す「ダークバスター」は並みの腕では務まらないが、
彼と相棒なら正にうってつけだろう。
また、彼ら自身のデータがまだ広く知られていない事も選ばれた理由かもしれない。
それからケインの場合、引き受けた事に関してもう一つの理由があった。

「ジェノがバックドラフト団から盗んだものだって事、黙認するってさ。
一切お咎めナシだと。」

「・・何、それ?」

そう、ジェノブレイカーは元々盗んだものだった。
バックドラフト団から。
・・・それに関してはジュジュも少し関係している。
幾ら相手が闇組織とはいえ、盗み自体は立派な犯罪となってしまうのである。
・・・当たり前であるが。
だが、ジュジュは納得できん、と大いに不満をあらわにして文句を言った。

「別にバックドラフトなんだからいいじゃないねえ?
むしろ世のため人のため考えれば、すっごくイイことしたと思うんだけど。
あいつらの所になんかいたってジェノにとって百害あって一利なし、
全全イイことなんてないんだから!」

・・・なにやらボロクソな批評を言っているなあ、とケインはその時思ったが、
彼自身は別に不満はなかった。

「別に強要されたわけじゃない、「ダークバスター」に入ったのは俺達の意思だ。
もしもまた、バックドラフトみたいな連中が出てきたら、やっぱりほっておけないしな。」

実際、そんな事は絶対にない、と言えないのが現状なのである。
かつての団員は多くが逮捕、
あるいは自首して組織は壊滅になってもその実態の多くは謎のままであり、
“頭”である主力のメンバーで逮捕されていない者もいるのだ。
油断はできない。
“組織は、頭を潰さないと本当の意味での壊滅にはならない”
記者仲間の誰かがそんな事を言ってたな、とジュジュは思った。

「・・・そう。
ケインがいいなら何も問題はないんだけどさ。
・・・でも、なるべくならバックドラフト団みたいなのは、出てきて欲しくないわねえ・・・。
平和であって欲しいわ。」

もしも願いが叶うなら。
淡い期待。はかない夢。
・・・それでも思わずにはいられない。
「ダークバスター」・・・か。
「闇砕くもの」。
・・・願わくば。その「砕くべき闇」が二度と現れる事のないように。
ジュジュはその時、心の中でそう思っていた。

 

「やっぱ、神様っていないのよね、きっと。」

「・・・はあ?
何言ってるんだ?お前。」

相変わらずカウンタに突っ伏したままぽそっと呟くジュジュに、ケインは問い返す。
神様?・・・ゾイドバトルの神様という事か?
んなもんいるのかどうか、それ自体あやしいものだが。

「もしさ、神様っていうのが本当にいたらさ、
日々真面目に明るく楽しく、平和にゾイドバトルしてるウォリアー達を暖かく見守ろうとかさ、
慈悲深さっての出して欲しいわよ!
なーんでデッドスコルピオ団なんて連中が出てくるのよおおお!?」

途端にがば!と起きると両方の拳をダンダンダン!とカウンタに何回もぶつける。
このままだとカウンタが真っ二つに割れそうな勢いだ。

「お、落ち着けって。
店を壊す気か?!」

どうどう、と彼女をなだめ、ジュジュは落ち着いた。
ケインは店に客がいなくてよかった・・・と安堵する。
彼女の行動に驚いて、退散してしまうかもしれない。
まあ悪気がないのはわかっているが。

「・・・何でなのかなあ・・・。
ゾイドのウォリアーの気持ち無視して、皆壊して、バトルメチャクチャにして・・・、
何が楽しいんだろなあ・・・。
何が目的で、何がきっかけで、そういう組織ができちゃうのかなあ。
何考えてるんだろうね?」

怒ったと思ったらまたふに〜、と力なくカウンタに突っ伏してしまうジュジュ。
落差の激しい奴だ。
・・・何が目的で、か。
かつてバックドラフト団にいたある人物は、
「ゾイドバトル連盟の決めたルールは子供の遊び。
大人の楽しめるより高等なバトルを目指し、
バトルを盛り上げる余興の一つとして反則技を使用している。
危険を承知で闘うのがウォリアーであり、
客に満足を与えるのが役目だ」と過去語っていたらしい。
・・・今はどう思っているのかはわからないが。
闇バトルを行う事で得をする、誰かが苦しむ姿を見て楽しむ、
そういう連中がいるという事が理由の一つかもしれない。
「他人の不幸は蜜の味」という事だろうか。
考えただけで気分の悪い話だ。
だが、それをジュジュに言うと「そんな連中、絶対許せない!」とか言って、
また怒り出す事が容易に想像できるので黙っていた。
その代わりにケインはこう言った。

「ま、連中が何考えていようが仕掛けてこようが、絶対に倒す。
思い通りにはさせないさ。」

それが「ダークバスター」だからな。

「そうね・・・、大変な事になっちゃったけど、負けないでよね。
・・・あ!」

笑っていたジュジュがふいに何かに気づいて、がばっと起き上がりケインの方を見た。

「言うのが思いっきり遅れちゃったけど、
この前のバトルは助けてくれてありがとう。」

かしこまってぺこっとお辞儀した後、せめてものお礼の気持ちだと、
リボンのかかったでっかいメロンを差し出してきた。
今日ケインの所に来た目的はこれだったのにすっかり後になってしまった、と彼女は言った。

(ジュジュは何度か今までにもこう言ったお礼とかおみやげとか持ってきてくれたことがあるが、
それらは全て食べ物関係なのである。
というか食べ物しかない。
彼女いわく「味は保証つき!」・・・前もって自分で味見してるらしい。
ジュジュのおみやげ、実は「こいつのおすすめ」なんじゃないだろーか?と思うときがある。
・・・いや、実際においしいし、別に文句はないのだが。
しかし毎度毎度違う、こういう上手い物をどこから見つけてくるのやら。
・・・小さい謎である。)

「バトルの観戦は遠くからにしておけよ。
またああいう事になっても知らんぞ、俺は。」

「バトルジャックが起きなかったらね。
・・・また連中が出てきたら、大人しくしてる保証は全然ないけど。」

ケインの忠告に平然と答えるジュジュ。
これも仕事なんだから、と付け加える。

(隠れてた所にビットのライガーが知らずにぶつかって姿さらす羽目になり、
弟共々命の危険にあったというのに・・・、こいつは。)

「・・・お前、懲りてないなあ。
またヘルが踏み潰されたらどーすんだよ?」

危険なんだからな、と念を入れるがそんなのわかってるわ、ときっぱり応えられる。

「ここに来て、リッドに見てもらうわ。
ヘルは大事な相棒だもん。
万が一の時は絶対信用できる腕の人に見てもらうの。」

この前はリッドが点検した結果、重い異常はなかったが、
今までにも何回かヘルの修理はあった。
その度にケインの店でリッドのお世話になっているのだ。
彼女の相棒は普通のヘルキャットに比べて色々と弱冠性能アップの為に、
あちこちカスタマイズされていて、
見た目ではわからないが、微妙にややこしい箇所が幾つもあるのだそうだ。
リッドがいつかこう言った。
「ピアノの調律並み」と。
微妙な調整が音全体の響きを左右する。
それでも直してしまうのが彼のすごい所である。
恐るべし改造マニア。
それまでジュジュはここなら大丈夫、と言うような所が見つからなくて各地を調べていたらしい。
だがリッドの腕を一目見て絶賛し、信用し、今では必ず何かあるとここに来て見てもらっている。
「リッドって絶対、いい腕してるわよ!
今までお爺ちゃん以外にヘルの調整できる人いなかったもの!」と褒め称えている。

「ヘルは、私のことわかってくれてるわ。
私だって本当に無理な事はさせないわよ。
大丈夫。
・・・一昨日の“あれ”は事故よ!
ビットがあんな所であんな動きするからたまたまぶつかったの!
うっかり近づき過ぎた私も不覚だったけど・・・。
でも、もう二度とあんなヘマはしないわ!大丈夫!」

「いや、ヘマ以前に本来反則・・・。
ばれたら大変だぞ?」

通常の公式試合で姿がさらされようものなら、
部外者侵入で即座にバトルは中止という自体になってしまう。
バトルジャック時は大抵ジャッジカプセルが壊されるので、
その時点で公式判定もできなくて無効試合に陥ってしまうが。

「わかってるわよ。
・・・でも、私だってバトルはできないまでも、何かできる事があったらしたいし、
ただ見てるなんて性に合わないのよ。
・・・バトルの邪魔は絶対にしない。
それは、ルールよ。」

逃げたくないけど闘うなんてできない。
ヘルを傷つけたくない気持ちも存分にある。
でも、何かできる事はあるはず。
ウォリアーでなくても。
・・・まあ、ジュジュの場合はかなり強引で無茶苦茶だが。

「ライガーとぶつかったのは、本当に不覚だったのよ。
でも、あれだけよ!
今までは見つかってないもん。」

「いや、そんな自慢げに言われても・・。」

(どうしろというのだ?)

ケインは応答に困り、挙句の果てにこう言うしかない。

「・・まあ、程ほどに。」

「大丈夫!一応これでもプロだもん。
二度の不覚は取らないわ!」

「・・大人しく、てのは最も無駄な言葉だな、お前には・・。」

あきれながらも実際、その言葉は信用できるだろうとケインは思った。
彼女が本気になればケインが気づかない内にマークされてる、というのもできる。
・・・過去、そういう経験が実際にあった。

(まかり間違って、盗賊などに道を踏み外すなよな・・・。
まあ、ゾイドが大好きなこいつに限ってそれはないと思うが。
結構色々と物騒な技、知ってたりするからなあ・・・。
本人があっさり何気に行ってしまうのも怖い。
間違ってばれたら前科になりかねんものもあるんじゃないだろーか??
・・・不安だ。)

「あー・・・、でも万が一ね、
・・・万が一、なんだけど。」

「・・・?
何だよ?」

「またああいう事になっちゃっても、無理だったら助けなくていいからね。
バトルに集中して、自分のお勤め果たしてね。」

ジュジュが突然変な事を言い出したので、ケインは思わず「はあ?」となる。

(何を言ってるんだろうか、こいつは。)

「そういうわけにはいかねーよ。
“被害を最小限に抑える事”も勤めの内なんだからな。」

「でも、迷惑にも負担にもなりたくないもの。
私だって一応“ゾイド乗り”だし、いざって時は自分の身は自分で守るから。」

ヘルはバトルゾイドではないが一応、一通りの装備はある。
・・・護身用に。
最も、ジュジュが実際に戦ってる姿を知ってるのは弟のビットくらいであるが、
並みの腕ではあるらしい。

「この前は守れてなかったじゃないか。
ビットも動けてなかったし。」

ケインがあっさり言うと、ジュジュはう、と気まずそうに黙ってしまった。
まあ、ああいう絶体絶命!な場合でも言う言葉が「助けて」でなく、
いかにも彼女らしいセリフだったのには流石、と思ったが。

(そういえば、こいつが誰かに助けを求める時というのは、どんな状況なんだろうか?
想像できないが。)

「だーかーら、あれも不覚だったの。
・・・二度の不覚は取らないわよ。
・・・頑張るわ。」

そう言った後にジュジュは話題を変えて、
今日発売した自分の会社の雑誌「Z−TIME」の記事の中でダークバトルの事を載せたこと、
その際に「ダークバスター」について少し公表した事を告げた。
名前は知らされていたものの、
具体的にどういったものかは詳しく発表されていなかった為、
この際説明をつけ一般の観客やウォリアー達に安心感をもたせるためだ、と言った。
もちろん内容を明らかにしたのはこれが最初である。
それまでは敵がいた場合に、手の内を多く見せるのは危険だという案があり、
特に厳しく秘密にしていたわけではないが、
詳しく書くことを敬遠していたのである。
だが事態は起こってしまった為、こういう風になったのだ。

「別に俺は構わんが。
連盟からも別に何も言われてないんだろ?」

「うん。
編集長は“頑張ったな”って誉めてくれた。
“ヘルも無事でよかったな”とも言ってくれたし。」

「ばれなくてよかったな、の間違いじゃないのか?」

「それも多少、あるかもね。」

くすくす、と笑った後別に記事に関しては問題はないのだと、ジュジュは言った。
ただ、ちょっと心配な事がある、と。
かつてバックドラフト団は、
アルティメットXという伝説の機体であるビットのライガーゼロを幾度も狙い、
チームブリッツにダークバトルを挑んできた。
ゾイドを手に入れるという目的の他に、
徐々に力をつけつつある邪魔者を片付けようとする動きもあるだろう。
ビット個人が狙われた事もある。
ライガーゼロのみでなく、パイロットである彼の命も。
始めに「バトルジャック」が起きたと聞いた時、
ビット達の所に忠告しに言ったのは姉としての心配であり、
記者としてできる精一杯の、唯一の事だった。
口にあからさまには出さないし怪我させてばっかいるが、これでも弟思いなのである。

「彼らがバックドラフト団の意思を継ぐなら、
ケインとジェノも狙われる可能性があるんじゃないかな、と思ったの。」

「・・まあ、否定はできないな。」

それにゾイドバトル連盟の存在を疎ましく思うに違いない彼らにとって、
連盟が結成した「ダークバスター」もまた野望達成の大きな邪魔であり、
これから幾度となく衝突するであろう事は必至である。

「どんな手段をとってくるかわからないわ。
ビットみたいに、夜中に天井に穴開けて、
ザバットで上からゾイドを拉致する、なんて事もあるかもしれない、とかさ、
誘拐されてファイヤーデスマッチで焼かれる危険とかさ、
そういう事考えたりしない?」

「家はリッドが造ったセキュリティがあるからな。
大丈夫さ。
・・・お前もよくわかってるだろ、それは?」

「あはは。
・・・そうね、大丈夫ね。」

思い当たる節が大いにあるので、ジュジュは苦笑する。

「ちょっと心配だったけど、強いから、大丈夫よね。」

「人の心配より、自分の心配をしろよな。」

ゾイド乗りとは言え、
ウォリアーよりは一般人に近い彼女では、彼らとはまともに戦えないだろう。

「大丈夫、大丈夫。
私、ウォリアーじゃないから。」

バックドラフト団は、筋は通っている所は通っていた。
例えばチームの戦力低下、戦闘放棄を狙ったウォリアーの誘拐や個人的な襲撃は何度かあっても、
一般人に無闇に危害を及ぼした事はない。
それに元バックドラフトのメンバーだったアウトローズの面々の様に、
立派なウォリアーだっているのだから。
本当になりふり構わない外道の組織だったら、もっと早く足がついていただろう。
バトルジャック以外での彼らの活動は比較的水面下にあり穏やかなもので、
静かなものであったのだ。

「あのね、もーし、本当に万が一ね、
何かあって連中に捕まっても、私が大人しくしてると思う?」

「いーや、見えない。
むしろ騒動を起こして逃げるだろうな、と思う。」

(普通ならそっちの方が難しいだろうが・・・、普通じゃないしな。
大人しく、というのはこいつには最も無意味な言葉である。)

それを知ってるから力いっぱいケインは答えた。

「当たり前よ。
あんな奴らのいいなりになんか絶対ならないわよ。」

「・・・その心意気は認めるが、
無茶しすぎるとしまいにはビットが泣くぞ?」

事故とはいえ姉とヘルを踏んでしまったビットがバトル終了後どんな目にあったか、
傍から見てても恐ろしい光景であった。
あの後意識を失って他のメンバーに部屋に運ばれたが、
はたして意識は戻ったのだろうか?

「気絶しても、涙見せるな男なら!
・・・今後ビットに迷惑かけないようにするわ、バトルでは。
・・・なるべく。」

「・・バトル以外だとするのか?」

「んっふっふ♪
さあて?」

ケインの突っ込みにただただ、いたずらめいた笑みを浮かべるジュジュ。
ふと、子悪魔の尻尾が見えたように思えたのは気のせいではない・・と思う。
まあ姉弟のコミュニケーションだろう。
これも愛の形。
時に相当過激だが。
・・・頑張れよ、ビット、などと心の中で思いつつあるケインであった。

「さて、じゃあそろそろ行くわ。」

ジュジュは立ち上がり、それからふと考えた後、「頑張ってね」と言った。

「ビットの所に行くのか?」

「その前に、もう一つの「ダークバスター」に会いに行って来る。
・・・心配だし。」

「・・・ああ、ホークの所か。」

ジュジュの言葉に頷くケイン。
まだこれは明らかになってはいないが、
2人と親しい人物のいるそのチームもまた、「ダークバスター」なのだ。
彼らの名は「チーム・ラグナロク」。
ケイン達と同じ頃にゾイドバトル界にデビューし、Aクラス入りした実力のあるチームだ。
リーダー、ホーク・シューマッハとその妹であるセナ・シューマッハの兄妹と、
従兄弟のディアス・ハイウィンドの3人で構成されており、シューマッハ兄妹と2人は親しい。
またトロス兄妹とも縁がある。
親友といった関係であった。
最近はお互い忙しくて会っていないが、バトルで好調な様子だというのは聞いている。
ケイン達も同じAクラスなので、その内にバトルをする事になるかもしれない。
楽しみである。
ジュジュにしてみればどちらも大事な友達なので、
「どっちを応援したらいいの〜!?」と言うに違いない。

「何か伝言とかあったら伝えておくけど?」

親友としてでも、「ダークバスター」の先輩としてでも。
ジュジュはケインの方を見た。
彼はしばし視線を宙に舞わせた後、静かに言った。

「・・頑張れよ、って言ってくれ。」

「何それ?こうもっと気の効いたアドバイスとかないの?
ダークバスター遭遇1番目なんだから。」

「お前だって遭遇者だろが。」

そう突っ込んだ後、ケインは、
情報を効率よくわかりやすく言うのはジュジュの方が得意だから、
お前の方で何かあったら言ってやってくれ、と告げた。
実際、詳しい事はまだわからないのが現状ではあるが。

「あいつらの腕なら大丈夫さ。
強いからな。」

「じゃあ、その言葉も伝えておくわね。」

ふふ、と笑った後、
「メロンはよーく冷やして食べてね」と付け加え、ジュジュは店を出て行った。
本当に大人しく、という言葉が無意味な奴だよな、とケインは思い、
何故か奥に引っ込んでいた妹のシエラを呼んで(シエラに言わせれば「気を使った」のであったが)
冷蔵庫にメロンをしまう様に言った。
その日の彼らの夕飯のデザートに、メロンが出た事は言うまでもない。
好評であったそうな。

 

 ちなみにジュジュは小一時間ほどセナ達の所で話をした後、
ビットのいるトロスファームに向かった。
ビットはちょうど意識が戻ったところであったが、
姉がそばにいたので2日経ってる事に最初気づかなかった。

「え?俺2日寝てたのか?」

と言うのまでは普通だったが、その後の姉弟の会話には、
チーム・ブリッツのメンバーは果たしてどう反応していいものか困ったそうだ。

「昔だったら一週間は寝たよな、あの技かけられたら。
2日なら軽い軽い。」

「今回の事は私も反省すべき点があるからね。
手加減したわよ。
それにあんたも丈夫になったし、昔の様にはいかないわねー。」

あはははは、と笑う姉弟であったが、姉いわく「2度目はないけど」とその後言った。
笑顔であったが目は笑っていない。

「バトルフィールド内は関係者以外立ち入り禁止だろ?
姉ちゃんは外にいてくれよー。
バトル中に気をつけてらんないって。」

ビットが言えた義理ではないが、最もな意見である。
だが無駄だろうなー、と誰もがわかる。

「私が気をつけるから、バトルに集中してればいいわよ。
気にしなくていいから。」と言うと「そっか。」とあっさり答えた。
周りから見ればそれでいいのか?!
という会話であるがそれでいい姉弟なのだ。

「あんた、ケインに会ったらお礼言いなさいよ?
助けてくれたんだから。」

ジュジュがそう言うと、ビットは「ケインの所行ったのか?」と聞いてきた。

「あの時も思ったけどさ、姉ちゃんとケインて絶対知り合いだろ?
いつ会ったんだよ?」

「・・・だ、だからバトルロイヤルの時だっていったでしょ?
しつこいなあ。」

視線をあさってのほうに泳がせる姉の様子を見て、
ビットはやっぱり納得がいかない様子であった。
姉は嘘が嫌いだが、つくのも苦手であった。
正直者なのである事を知っている。
あの時の姉の答えに納得がいかないままだったのを思い出して、再び聞いてみたのだが。

「あー、もう!
ビット、主役ならいちいち細かい事にこだわるな!
あんたはこれからの事を考えてなさい!
いいわね!?」

・・・と、ぴしゃりと言われてしまう。
せっかく起きたのにまた意識を飛ばされてはたまらないので、
ビットは大人しくなった。
そして姉が帰ったあと、ケインの所にお礼の電話をしたそうな。
・・・逆らうと後が怖いので。
最も「あの時はありがとな。」という、非常に短いものであったが。
ちなみにビットはここでも同じような質問をしてみた。

「ケインて何で姉ちゃんの事知ってたんだ?」

受話器の向こうでしばしの沈黙。
そして出てきた答えはこうだった。

「ジュジュに聞け。
それしか言えん。」

こちらから説明する気にはなれない、色んな意味で。

「ちえ、何か面白そうな気はするんだけどなー。」

「面白がるなよ・・・。」

そうして、「ダークバトルに負けるなよ」というような事を言ってウォリア−達は電話を切った。
チーム・ブリッツがダークバトルに遭ってから2日後の、出来事であった。

 

END

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あとがき

こんにちわHAZUKI様!
HAZUKI様の/0話第4話の後日談を勝手に考えてしまいました。
きっかけは「ビットに何を食らわせたんだジュジュ?」という考えでした(汗)
本当に何を食らわせたんでしょうねえ?アハハ。
回を追うごとにジュジュがよく動く、暴れる(?)常識飛び越えて(爆)
まとめるのが一苦労(汗)もう元気すぎて(笑)落ち着きがない、
というわけではないが大人しくない、
リノンみたいな感じだよなー
つくづく、と思います。
まあ彼女が捕まったらリノンと唯一違う所は、
手当たりしだいぶっ壊すのでなく情報とか荒らしまわりそうですがね。
彼女の心ときめかすゾイドに出会っちまったらどうなるかはわかりませんが(逃)
わッはっは。(やけ)
BD団については私の考えです。
TV本編でリノン、ビット、バラッド、ハリーが拉致られてますが、
皆ウォリアーですし、ラオン博士の場合は勧誘でしょう。
まあ元々ウォリアーじゃない人を探す方が難しいですがね。(マリー姉さんとか?)
悪には悪のルール、守るべき道があると思うんですよ。
ストラさんとかいい人たちもいるんですし、
BD団はそういう黒い規律は取れてたんじゃないかな、と思います。
ポルタとアルタイルが時々勝手に動きましたけどね(笑)
タイトルは会話の対象が変わるんで大雑把にわかりやすく(汗)
ケインとジュジュ→ジュジュとビット→ビットとケイン。
本当はリノンとの会話も入れたかったがややこしくなるしなあ、と断念。
ジュジュとリノンは書いてて楽しいんだけど。
Yuki様にご許可頂いて、
ケイン、ジュジュ、トロス兄妹と縁の深い「チーム・ラグナロク」のメンバーをちょこっと書かせていただきました。
ありがとうございます。
では、どうかもらって下さいー。
失礼します。


初心者さんから頂きました。
うちの/0第2部のその後です。
なんか、書かせてばっかりで申し訳ないです・・・。
本当に・・・、この二人は進展しないなぁ・・・。
何か事件でも無い限り無理か・・・。
ビットは打たれ強いですねぇ〜。
普通だったら死んでますよ・・・。
そして、ジュジュがケインと会った時の事を知ったら、どんなことになるか・・・。
たぶん、ケインがばらす→ビットが大笑いする→ジュジュが怒る(恥ずかしさから)
→締め技かけられビット意識不明→バラしたケインに飛び火・・・
ビットのためにも、自分のためにも秘密にしておけよ、ケイン。
初心者さん、ありがとうございました。

 

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