「3つの約束」

 

「お嬢様!
ルイネお嬢様!!
どこにいますか!?」

パタパタとバックドラフト団本部通路に足音が響いた。
メイド姿で肩まである黒い髪。
まだ13歳辺りの少女である。
そんな子供がこのBD団本部で誰かを捜していた。

「シエル、どうしたんだい?」

通路で彼女を呼びかけたのは高齢な老人。
横にはガードマンらしき人物が二人。

「あ、伯爵様。ルイネ様がどこかへと消えてしまわれまして・・・。
えっと、あの、その・・・。」

シエルは戸惑いながら伯爵と話す。
伯爵と呼ばれる老人はこのバックドラフトではとてつもない人物である。
バックドラフト団の中で最高権力者の七人の内の一人である。
下級のクラスの者たちには一目さえ見られない。

「やれやれ、あの子の性格は相変わらずか・・・。
あの子にあったゾイドを見つけてきてやったというのに・・・。」

「ジェノブレイカーの事ですか?」

「ふむ、アルタイル君が遺跡で発見してな。
しかし、乗り手を選ぶ頑固者なのだ。
まったく、あの子そっくりでプライドが高いというか、
それとも好き嫌いが激しいというのか。
まあ、見つけたら一回支部基地の方の格納庫に行きなさいと言っておいてくれ。」

「承知しました。」

シエルは深々と頭を下にやり、通路を走って行った。

「やれやれ、あの子にも困った物だ。」

そう言って、伯爵はガードマン二人を連れて通路を歩いて行った。

 

「やっぱ暇ね〜、バックドラフトってダークバトル以外はホントつまらないわ〜。」

欠伸をしながら白いワンピースを着た白髪の少女はゾイド整備工場の通路を歩いていた。
しかしその工場の実態はBD団の基地の一つ。
彼女はその通路を自分の家のように歩いている。
そして、ちょうど格納庫前を歩いていた。

(そういえば、前アルタイルとか言うお祖父ちゃんの部下の一人が、
遺跡で何か見つけてこの基地に置いてあると言っていた気が・・・。)

格納庫の方に首を向けて少し考えた後。
彼女は格納庫に足を向けた。

 

此処は何か嫌だな〜。
暗くて、静かで。
なんか寂しい雰囲気がある。
此処のゾイド達はシステムの一部を改良されていて、
BD団の「忠実な」ゾイドとされている。
とても悲しい気分になる。

 

『お祖父ちゃん、どうしてこの子達は自由にできないの?』

その言葉を度々に言うと。
お祖父ちゃんは悲しい顔で私を見る。
まるで謝罪しているような感じで。
目はサングラスで見えないけど。
何かに謝っているような感じで。

 

少しの間ゾイド達を見ながら考えていると、見た事のないゾイドを見つけた。
他のゾイド達とは特別扱いのように、離れておいてある。
しかし、僕から見ればまるで一人ぼっちで隅に泣いているような気がした。
これが、見つけたゾイドなのだろう。
それを近くでよく見てみる。
そして、それを見て目を大きく開いた。

「ジェノ・・・ブレイカー・・・。」

幻のゾイドと誰かが言った。
紅い機体は発掘されたと言ってもまるで新品のような輝きを帯びている。

「綺麗・・・。」

その一言しか言えなかった。

「君が、遺跡で発見されたゾイド?」

フリーラウンドシールドは内側に巨大なエクスブレイカーが隠されている。
足には高機動スラスターがあり、力強さが伝わってくる。
シエルが言うにはこのジェノブレイカーは、
格闘、防御力、砲撃力、機動力などがトップクラス。
伝説と噂される「魔装竜」と言われる。
興奮してきていると、自分が認識している。
それほどこのゾイドの前にいて平常心が保てないのだ。

「君が、発見されたゾイドなの・・・?」

ゆっくりと紅い装甲を撫でる。
湧き上がる興奮・・・、でも。
この子もいつか、改良されて。
私たちの言う事をちゃんと聞くように改良され、何も感じず、私たちに「忠実な」ゾイドとなる。
楽しくもないバトルをむりやりさせられて。
ただの道具として扱われる。
いつしか僕は、ゾイド達の感情がわかってきた。
ジェノブレイカーは此処から出たいという。

「でも、僕は君を出すわけには行かないし〜・・・。」

ああもう、しっかりしろ僕!
この子はちゃんとした自由な空の下にいなきゃダメなの!!
ちゃんとした空の下、ちゃんとしたバトルで楽しまなきゃ!
僕はダークバトルも普通のバトルの好きだけど。
でも、このプライドの高いゾイド達は本来自由でやらせるべきだ!
そんな時、人の気配を感じた。

「ヤバ!誰か来る・・・!」

しかし今から隠れる所など見つかるか・・・・。
そうだ!

「ちょっと隠れさせて!!」

僕は軽々とジェノブレイカーのフリーラウンドシールドを登り、
そしてジェノの頭部に隠れる。
上から良く見渡すようにと・・・。

「この子が・・・。」
声からして女性。
歳は10代後半だろう。
僕の方が若いね。(なんじゃそりゃ?)

しかし、BD団の下のクラスの者じゃ、この格納庫には簡単には入れないはずだ。
侵入者?

「この子が・・・、もう大丈夫だからね。」

その言葉を言って彼女はジェノに触れようとする。
そんな時だ。
警報が鳴った。

「嘘!ばれた!?」

どうやら侵入者である事が判明。
どうしようかな・・・・。
このまま黙っているか。
それとも捕まえるか・・・。

え?
それ本当?

僕は心の内で呟く。
侵入者の女性は慌てて格納庫から出て行く。
そのまま姿は見えなくなる。
が、そんな事はもうどうでも良い。

「それ、本当?」

心の中で呟いた声は格納庫に響く。

「君を此処から出してくれる人が来るの?」

ジェノが先ほど呟いた言葉。
それはもうすぐ自分を連れて行ってくれる人は来るという。

「本当?君は此処から出て行けるの?」

グオオ・・・ン。
少しだけ重い声を出す。
わからないとジェノは言う。

「そりゃそうか。」

でも。
出してあげたい。
この子が敵となっても、それは僕にとっても嬉しい事。
だって、僕は強いゾイドとそのウォリヤーと闘う事が大好きだから。
この子と闘いたい。
今はそれが最優先となっていた。
また、人の気配がした。
別の人物だろう。
そして、ジェノの言った人物だろう。

「君が逃げ出すのを手伝ってあげる。」

ジェノの頭の上で僕はそう言った。

「でも、約束して。」

僕の言葉にジェノは疑問を持ちながら唸る。
僕の約束、それは第3まである。
その第3までの約束とは。

 

「俺と・・・、来ないか?お前。」

その言葉が格納庫に響く。
そして、僕に伝えてきたその思い。

「そう。」

僕は優しい口調で出したのだと思う。

「彼と、共に歩いていきたいんだね。」

僕はシンカーのコクピット内でボソッと呟く。
僕にジェノの道を勝手に作る権利は無い。
だから、ジェノに選ばせた。
第1の約束。
今から来る人物についていくか。
それともまた新たな侵入者を待つか。
それを選ぶ事。
後者の方を選べば数日後には必ずBD団専用として改良され、
自らの意思も関係なくダークバトルの道具として戦わせられる。
お祖父ちゃんは私にこのジェノのことを言っていたんだね。
数日前、お祖父ちゃんが珍しいゾイドが見つかったと言った。
多分、そのゾイドがこのジェノブレイカーの事なのだろう。
でも。
こんなに誇り高いゾイドは闇の世界ではなく。
様々な色彩の世界を歩むべきだ。
それに、ジェノは僕を「選んでくれなかった」。

「僕って、どうしてこんなに人が良いのかな〜?」

と、少しからかうような声で言ってみた。
無論ジェノに。
ジェノの歓喜の咆哮が響く。
その瞳には紅い光が灯り、ゆっくりと動き出す。

「行っておいで。世界はとても広いから。
君は広々と生きた方が良いから。」

ジェノブレイカーが壁を破壊する。
そして、レブラプターの大群の相手をし、
そのままトンズラこいた。
僕はブースターを改良された光学迷彩シンカーでジェノの後ろに続いた。
無論ジェノは気付いている。
しかし黙っている。
これが第2の約束だ。
第1で前者を選んだらその人のアジトまで連れて行って。
それが第2の約束。
もし、BD団みたいに悪く使われたら嫌だもんね。
だから、これが第2の約束。
悪い奴だったらすぐにでも逃げてくる!
無論逃げるお手伝いをするときの為にジェノについて行っている。
ただ暇だからというわけじゃないからね!!
ほんとに心配して付いて行ってあげてるんだからね!!

 

 そんななか、もうすぐ深夜だ。
レリードタウン、ジェノの入って行った場所はゾイドのディーリングショップだ。
・・・、どうやらあの青年はパーツ泥棒で侵入して来た様だ。
・・・、大丈夫かな・・・?

「あ、そうだ、クラインに連絡しなきゃ。」

シンカーでギリギリ追いついた僕だが、すでに深夜を越えて朝日が出てきそうである。
一応留守電になっている。
やっぱ大騒ぎだろうな・・・。
ま、いいか。(良くない善くない!)

「クライン〜、僕だよ〜。ルイネ〜。
ちょっと野暮用なんだけど〜。
レリードタウンのゾイドディーリングショップを調べて欲しいの。
大至急にね。
あ、あと僕の事は心配しないでってお祖父ちゃんに言っておいてね〜。
それじゃ、僕もう寝るから〜。」

プちっと。回線を切る。
さてさて、寝るとするか。

「あ、シンカー、お昼になったら起こしてね。
あと、ジェノが倉庫から出てきたら。
それと〜、なんかクラインたちから連絡が来たら起こして。
でもそれは11時以降ね。
それじゃお休み〜。」

コクピットの付属されている毛布を被って夢の中へ。
それではお休み〜。

 

辺りは白い霧に包まれたように、ぼやけていた。

『此処は・・・?』

辺りに僕の声が響く。
その白い霧の世界に僕はいた。
そんな中、足音が響く。

ガキャン、ガキャン

それはゾイドの足音。
しかし、それはある特徴のある足音だった。
ヘルキャットの消音性の様な機能を付けたゾイドのようにも感じる。
でもその音はヘルキャットの物ではない。
では他のゾイド?
しかし、どれもこれも当てはまらない。
そのとき。
霧の中からゾイドが現れた。
小型ゾイドとは2倍あたりありそうな大型ゾイド。
全体が黒く、強暴(凶暴)性を感じる。
身体の体型はかなり細い。
しかし、腕の部分は横に広がっていて、
小型ゾイドの頭部を簡単に片手で包んでしまうくらい大きい。
爪や牙が鋭く、そのゾイドの強さが強調されている。

ガアアアァァァ・・・!

身体が震えそうなそのゾイドの咆哮。
ビリビリと感じられる。
そのゾイドは乱暴で、強くて、そして何より誇り高いプライドを持っている。
会ってみたい。
君に。
手を伸ばす。
触れてみる。
あと少しで冷たい金属の感触がある。

 

『お嬢様、捜しましたよ。』

ぱちりと目を開く。

「お嬢様、捜しました。」

目を開くと長い茶髪で銀色の眼の僕と同じくらいの少年。

「言われたとおり、あのディーリングショップの資料などを持ってきました。」

「ありがと〜レイル。」

手を伸ばし書類に目をやる。
え〜と何々・・・。
あのゾイドディーリングショップは3人+バイト1人で経営されている。
店長(だろう)のケイン・アーサー17歳。
たぶん彼がジェノの選んだ相棒だろう。
え〜と、黒髪、青眼。
性格はカッコ付け屋で出明るい事。
弟たちの面倒見が良い。
・・・カッコ付け屋ではないけどクラインに似てるかな・・・?
店の担当はゾイドの買い付けと接客。
ふむふむ。
で次の資料はと・・・。
リッド・アーサー15歳。
兄と同じ黒髪、青眼。
兄とは違い、冷静で物静か。
しかしかなりの重武装マニアという噂あり。
ディーリングショップのエンジニア。
趣味、メカいじり。特技、パーツ開発。好きなことはパーツ設計図を書くこと。
・・・・。
これは置いといて。
次々。
シエラ・アーサー13歳。
金髪・青眼で明るくハキハキものをいうタイプ。
上の兄達よりしっかりしている。
ほ〜う、この子は要チェック。
店の受付をしていて趣味は占い雑誌を読む。
特技は金勘定。好きな事は・・・無いみたいね・・・。
でバイトはレイス・クリスナー16歳。
銀髪に黒眼。
軽い性格。しかし、女性(特に美人)に弱い。
ルーを送ってみようかな〜。
そしたら値切ってもらえるかもしれないし・・・。
え〜と、リッド・アーサーの親友でゾイドの手入れを任せている。
ちっ、そんなんじゃ値切れないな・・・。
趣味はゲーム。特技ダンス。高速戦闘がとくい。
好きな事は相棒のゾイドで最高速では知らせること。

「大丈夫かな・・・こういう人たちなら・・・。」

「何がです?」

レイルが不思議そうな顔で僕を見る。

「あ、なんでもないよ。」

「そうですか・・・。
お嬢様、今回の事は目を瞑っておきますので、帰りましょう。
皆心配しています。」

・・・やっぱり気付かれているか。

「お嬢様、伯爵様から伝言で、【お前の好きのようにしなさい。】だそうです。」

「う〜みゅ。お祖父ちゃんには迷惑かけちゃったな〜。」

「七人委員会はこのことを秘密処理にするそうです。
しかし、次はありませんのでご承知ください。」

「はいはい、そんなの分かるよ、僕も今回「だけ」手を貸してあげたの。
次は手を貸さないよ。
もし戦う事になっても本気で倒すもん。」

「お嬢様、実はこのような情報が入りました。」

レイルの口調が変わる。

「ん?どうしたの?」

「アルタイルの事を知ってますか?」

「ああ、知っているよ、たしかアルティメットXの発見、
それのダークバトル実用だっけ?」

「はい、そのアルティメットXが発見されたようなのです。」

「・・・ライガー0でなく、遺跡で発見されたの?」

「はい。」

アルティメットX。
「オーガノイドシステム」をゾイドコアに搭載された伝説のゾイド。
全体的に気性が荒く、選ばれた者しか乗りこなせないという。

「それが、発見されるとは・・・。搭乗者は誰?」

「ベガ・オブスキュラ。」

「へ〜、あのキングがね〜。」

ベガ・オブスキュラ。
BD団のキングとしてゾイド乗り達から恐れられている。
しかしその実態は僕より年下の男の子。
彼がキング(王)というなら僕はクイーン(女王)である。
僕と同等までとはいかないけど、僕を楽しませる相手だ。
一度きりしか会っていないが、とても楽しませるバトルを見せてもらった。
彼が、あのアルティメットXに乗るとは。

「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。」

僕は背伸びをしてレイルに振り向く。

「承知しました。」

レイルは岩陰に潜ませておいたライトニングサイクスに乗り込む。
僕はジェノのいる倉庫に振り向く。

「最後の約束、忘れないでね。」

そして、僕はシンカーを走らせる。
BD団本部に向けて。

良い、第3までの約束をして欲しいの。
第1、 今此処に来る人物についてくか、それとも此処に残るか。
第2、 第1に前者を選んだ場合。その人物が良い人か悪い人か確かめ、
そして悪い人の場合はすぐさま逃げて来る。
そして最後は簡単。
いつか君と僕は戦う事が来る時がある。
その時、君と君の選んだ相棒は僕と全力もって戦う事。
いい、全力だよ。
でないと怒るからね。
それが僕と、あの時の約束ね。

 

「ん?どうしたんだ、ジェノ?」

ケインがジェノに問う。
ジェノは何でもないと少し唸る。
ジェノは思い出した。
1年半前。彼女の約束。
彼女は今どうしているのだろう?
いつか、約束は果たせるのだろうか?

「この子が、僕のゾイドなんだね。」

「はい、ドラゴン型アルティメットX、
『カーディナルドラグーン』(破壊の竜騎士)と言います。」

「ふ〜ん、まあよろしくね、カーディナル。」

薄暗い格納庫にはそのゾイドと、彼女と従者がいた。
夢に出て来たあのゾイド。

「これからよろしくね。」

楽しいバトル。
お祖父ちゃんが望んだバトル。
それをやってみたい。
力を貸してね、僕の相棒。

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変な終り方になってしまいました。
しかもカーディナル出てきてるし。
すいませんこんな風に書いてしまい。
しかもジェノに約束してるし。
ビットと戦う前に約束は果たしましょうという感じかな〜。
まあ、まず最初は約束を果たすのが先という感じかそれとも、
ビットが先か・・・。
でもルイネって約束を先に済ませる方です。
こんな子ですがよろしくお願いします。
それではすいませんでした〜。
久方ぶりにダーク系統の壁紙じゃないですね。
こういう話は。


桜神さんから頂きました。
おー、ジェノブレイカーが出てる。
あと、ケインとジュジュも。
なんか、いろいろなところで繋がってますね。
これでシーリウス達やノエルも参戦するんだから、結構面白くなるかも。
あと、この壁紙は「夜更け」のイメージでよく使います。
なんか、ゾイドの話って夜に進むことが多いですね・・・。
桜神さん、どうもありがとうございました。

 

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