「真冬の星」
〜シーリウスとダーク〜

 

 僕には昔、守りたい人がいました。
その人は、僕のお母さんでした。
お母さんは、お父さんが大好きでした。
・・・・でも、毎日毎日、仕事が忙しくて。
帰ってくるのは、ほんの数えるほど。
お母さんは、生まれつき体が弱くて。
お父さんとはお見合いで出会ったと、言いました。
広い屋敷で帰らない人を待つ日々は、どんなに寂しかっただろう。
心細かっただろう。つらかっただろう。
・・・・・お母さんは、時々、泣いていました。
それを僕は、誰よりも知っていたのに。
・・・何も、できなかった。何も。
ただ、見ていることしか、できなかった。

「シーリウス・・・あの人は・・・今日も帰らないわ・・。」

僕の生まれた家は代々、ゾイマグナイトの発掘で富を築きあげてきました。
お父さんは、たくさんたくさん働いて。
豊かなお金を、たくさん手に入れたけど。
・・・この大きな屋敷も、広大な土地も。
お金は多くのものをくれるけど、本当に望むものは、与えてくれなかった。

「ゾイマグナイトなんて・・・・ゾイドなんて・・・なくなってしまえば、いい。」

お母さんは、どこか遠くを、いつも見つめながら、そう言っていました・・・。
呪文のように。

「あの人さえ、いてくれれば・・・。私は何も、いらないのに・・・。」

・・・ねえ、お母さん。
僕は、いらないの?
僕の事は、見てくれているの?
・・・それは、怖くて、聞けなかった。
・・・・・・でも、僕はお母さんが、大好きだった。
だから、お父さんの代わりに、僕がお母さんを守らないと。
僕は、男だから。
お父さんとお母さんの、子供だから。
・・・僕は、お父さんには、なれないけれど。
何でもするから。頑張るから。
だから、いつの日か、僕を認めて。
僕を呼んで。
僕の居場所は、ここなんだ。
ここにいたいんだ・・僕は。
・・・いつの日か・・・笑って欲しい。
元気になって欲しい。
そう、思っていた。
・・・・・笑って、欲しかった。

 

今はもう、お母さんは、いない。
・・・・雪の降る日に、静かに、いなくなってしまった。
何もなかったかのように。
静かに。眠って。
・・・・・全ては静寂に包まれて。
懐中時計のオルゴールだけが、絶え間なく・・・・レクイエムのように・・・悲しい旋律を奏でて。
守りたかった。
・・・・・守れなかった。
非力な僕。弱い僕。
大好きな人を守れない、小さな僕。
・・・・こんな僕、いらない。
ーこんな僕なんて・・・・・いらない。
いっその事、なくなってしまえばいい。
大切な人一人、守れないなら。
ここにいることに何の意味が、あるの?
いらない、いらない、いらないー!
・・・・・・・・壊れてしまえ。

 

・・・・壊してやろうか?俺が、お前に代わって。
何を?どんな風に、壊すのが、望みかい?
・・・・・へえ、ゾイドと、自分の心を。
始めから、なかったかのように、ね。
シーリウスは自分を壊すために、俺を生み出した。
・・・・ゾイドを壊すのは、守れなかった母親への、懺悔かい?
・・こっけいだねえ。
今更死んだ人間に何かしたって、無駄なのに。
死人にレクイエムなんぞ、聞こえるのかい?
懺悔など、届くのかい?
一度なくしたもんは、二度と戻りはしないんだよ。
無駄無駄。
・・・まあ、それでも、それが望みなら、そうしてやるよ。
その為に、俺は生まれたんだからな。

 

お前自身の闇から生まれた、俺は・・ダーク。
いい名前だろう?
俺が、俺自身につけたんだ。
シーリウスって、星の名前なんだってな。
真冬の夜空に輝く、青白い星。
・・・じゃあ、俺はその星を包む闇だ。
いつか星を食い尽くしてやる。
望みどおりに。
弱い自分が嫌なんだよな?
消えたいんだよな?
母親が不幸なまま死んだのは、自分に力がなかったからだよな?
そう、思ってるんだよな?
まあ、そうだろうなあ。
そうだろうよ。
お前がもっとしっかりしてりゃ、よかったかもなあ。
何か変わってたかもなあ。
でも、10歳にも満たないガキだったし、ガキは、弱いものだよ。
そして、わがままなものさ。
ああしてこうしてというくせに、
いざとなりゃ自分の始末を、自分でつけることもできやしない。
自分を消したくても、お前にはできないから、俺が生まれた。
つらい記憶を持つ事に耐え切れなくて、それも俺に渡したんだ。
お前は、忘れてしまった。
そうすることで自分を保ったんだ。
弱く小さな、自分を。
・・・・・こっけいだねえ。
俺はお前自身が嫌う、目をそむけたがってる部分から生まれたんだ。
だから、お前は俺の存在を知らない。
・・・知ろうとはしない。
ああ、でも、俺は構わないぜ。
俺は。強いからな。
なんたってお前の望みどおり、「壊す」のが俺の生まれた理由なんだからな。
一人の方が気楽さ。余計なもん抱えて、自滅するよりな。
何も無い方がましさ。
そう、死んじまったお前の母親の望みどおり、お前の望み通りに俺が壊してやるよ。
そして最後にお前を壊す。
それでいいだろ?楽にしてやるよ。
・・・・まあ、折角外に出たんだし、しばらくはお前を生かしておいてやるよ。
器がないと動けないしな。
・・・さて、色々と楽しむとするか。
・・・弱いくせに、守る守れないなんてうるせーんだよ。
始めから何もなけりゃ、もっと楽になれるぜえ。
何も考えなくていいしな。
弱いなら、恐れるなら、はじめから立ち向かわなきゃいいんだ。
そうだろう?
なんで人ってのは、わっざわざややこしいものを抱えたがるのかねえ・・・わかんねーなあ。
力なんてのは、壊す事が目的なんだからな。
守るとか活かすとか、所詮はお綺麗事さ。
壊す事は結構、楽しいもんさ。
痛みも慣れちまえば鼻歌ものだぜ。
さあて、今日は何を壊そうか?
壊しがいのある奴ならいいけどな。
退屈させるんじゃねーぜ。
せいぜい、楽しませてくれよ。
・・・・そう、俺は壊す為に生まれた、星喰らう闇。

 

「シーリウス、はじめから強い人なんて、いないわ。」

亡くなったお母さんととてもよく似たもう一人の”お母さん”は、僕にある日こう言った。

「生きてく限り、色んな困難が、訪れるわ。
それに立ち向かいながら、だんだんと強くなっていくのよ。みんな。」

”お母さん”は、とてもよく笑う人。
明るくて、元気で、お母さんなのに、お母さんとは正反対の・・人。

「私ね、ドジばっかりなの。
アリスみたいにしっかりしてないし、ビットみたいに強くないし、
リノンみたいに素直じゃないし、ケインみたいに器量よしじゃない。
・・・失敗とかしょっちゅうよ。
めげそうになる時だってあるわ。」

その笑顔の裏側に、”お母さん”も色々なものを、抱えてるんだろうか。
乗り越えてきたんだろうか。

「・・・でもね、一人じゃないから、自分の居場所があるから、
私は頑張ってこられたし、頑張れるんだ。」

こんな自分にも、誰かがいてくれたから、力が、湧いてくるのだという。

「ゾイドには、遠い遠い時代からの、想いが受け継がれてる。
それはきっと、この世界を、時代をつないできた程の尊い想い。」

時を越えた深く、大きな強い想い・・・。
それらに応えるべく生まれた大いなる命。
・・・優しき意思。

「ゾイドは私にとって、・・・何よりも変えがたい”絆”かな。
・・長い間家族と離れ離れの時も、ゾイドを通じて、どこかでつながってるんだって思えた。」

私はゾイドが好きだと言って、笑うその顔が、僕にはとてもまぶしく思えた。

「貴方はまだ、子供よ。
弱くても、わがままでもいいのよ。
・・・もっと素直になりなさい。
そして、もっと誰かに甘える事を覚えなさい。」

僕は一人ではないのだから、と言うその人は、
当然「お母さんには、甘えるものよ。」とまた笑った。

「”自分の殻に閉じこもってたら、未来は見えてこない。抜け出す勇気も必要さ”
・・・って、貴方が憧れるウォリアーさんなら、そういうかもね。」

僕には、夢がある。ウォリアーになりたいという、夢が。
・・でもそれは、ゾイドが嫌いだったお母さんを、裏切ることにならないだろうか。

「親というのは、子供が幸せなら嬉しいものなのよ。
・・・・貴方のお母さんだって、きっと、ね。」

私なら飛び上がって喜ぶわ、と言った。
その顔を見て、僕も笑ってしまった。”お母さん”といるのは、とても楽しい。

「”なろうと思えば、なれるさ!”
・・・・と、これもあのウォリアーさんならいうでしょうね。
あと、私の弟もね。」

自分のカンは当たるのだと、”お母さん”は言った。
「貴方はきっと、強いウォリアーになるわ。」

「だから、あきらめないで。
貴方は一人じゃない。
これから強くなるのよ。貴方は・・・。
アルやデネブや・・私もいるわ。大丈夫よ。」

どうして、僕が”お母さん”に似てたから勝手に呼んでるのに、ここまで思ってくれるんだろう。
・・本当の、お母さんみたいに。

「それはね、貴方が好きだからー。」

それだけで?

「私って、単純だからね。
難しい理屈はよくわかんない。
・・でも、それじゃいけない?」

ぶんぶんぶん。
僕は首を激しく横に振った。
・・とても、嬉しかった。
”お母さん”は、いつも僕の欲しい言葉を、くれる気がする。

「そう?
・・・ああ、雪が降ってきたわね。
シーリウス、風邪ひくといけないから中に入ろうか?」

門の所に、アルがやってきた。
・・・・僕の上着を持って。
ああ、そうだ・・僕は、きっと一人じゃない。

「・・じゃあ、私はそろそろ帰るわね。
シーリウス、またね。
風邪ひかないように、ね。」

そうして・・雪の降る中、”お母さん”は帰っていった。
”お母さん”の相棒のヘルの足跡だけが、点々と続いていた。
それもやがて、雪に消えてしまうだろう。
そして何もなかったかのように、埋められるだろう・・真っ白に。
だけど、あの人は確かにここにいた。
僕に笑ってくれた。
・・それは、いつまでもきっと、僕の中に消えないで在る。

真冬の夜空に輝く青白い星、シーリウス。
僕は冬に生まれたから、この名がつけられた。
・・・冬は一番星が輝く季節だという。
その中でもシーリウスは、全天でも一番明るい星なのだという。
僕もいつか、輝けるだろうか。僕自身の闇から抜け出して。
いてつく寒さの中にも、夜空の闇にも負けないで。
・・・・・僕の名のままに。

負けないで。あきらめないで。
輝きは確かに、ここに在るから。
貴方は一人じゃないから。どうか。

祈りを捧げた、青白い星ーその名は。
真冬の灯火、シーリウス。

END

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あとがき

暗い!!暗いぞー!!(><)
シーリウスとダーク、そして”お母さん”とであってからのシーリウスを書いてみました。
しかし・・くらいなあ。
これ/0でいいんか?
シーリウスは、正式には”シリウス”です。
冬の星座、おおいぬ座の中にある星です。
当初、ベガに対比するよう作ったキャラなので、ベガが夏の星座にたいし冬の星座の中の星から名をとりました。
まわりまわって激突するだろう相手が変わりましたが、
まあそれはそれでよし♪というかそっちの方が嬉しかったり(>〜<)
ダークだしな、いいでしょね、そっちの方が♪というか、
もはや”お母さん”が誰なのかという時点でわかるっての(汗)
シーリウスは彼女を”お母さん”といってるし、
彼女も「そう呼んでいい」と言ってるので、あえて名前を出しませんでしたが。
ちなみにシーリウスが憧れるウォリアーさんというのも、もうおわかりでしょう(笑)
彼がチャット会で言ったせりふを、今回お借りしました。
かっこよかったし、核心をついてるなーと思ったので。
またパクリか貴様(汗)
うう、でも間接的にでも出したかったんだですー!!(><)
多重人格というのは、自分を守る術を持たない子供が作り出す自己防衛の一種と聞きます・・悲しいですが。
「こんな目にあってるのは自分じゃない」「自分じゃないんだ」と強く思うことで、
痛い事や苦しい事、その記憶などをその人格の中に閉じ込めてしまう事で精神の均衡、安定を保つ・・。
それは守りであり、逃げともとれるかもしれない。
生み出される人格の中には主を守るものもあれば危害を加えようとするものもあります。
でも、何が悪いとかいうなら、
そういうものを生み出してしまう発端、きっかけを作らせてしまうほうに問題があるんです。
シーリウスの場合は、孤独とあまりに深すぎた悲しみと自責の念が発端と、考えています。
純粋すぎた、彼。
あまりに幼く無垢で。
純粋、無垢と言うのは、どんな色に染まってしまうかわからないから、
強くもあり弱くもある、素晴らしくも在るが恐ろしいものだと私は思います。
綺麗過ぎる水には魚も住めない、というし、多少にごってた方が人間らしいといえばらしいのかなあ・。
その濁りが何かと言うのは色々でしょうが。
ああ、何か変な事語ってる・・。
すみません、では、どうかもらって下さい、失礼します。


初心者さんから頂きました。
ちょっと星空っぽい背景にしてみました。(本当は雪なんですけど・・・。)
シーリウスともう一つの人格、ダーク。
彼が殻に閉じこもるほど、その存在が大きくなっていく・・・。
でも、彼は1人じゃない。
アルやデネブがいる。
そして、ジュジュやケインも・・・。
ジュジュとケインが結婚するって言ったらどんな反応を示すんでしょうかね?
しかも、見る限りでは「出来ちゃった婚」・・・。
ちょっと気になりました。
初心者さん、どうもありがとうございました。

 

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