「Fighting Girls」
〜彼女たちの戦い〜

 

 生まれてくるとき、男か女か、という事は、きっちり2分の1の確率。
そんなの、自分で決められるわけ、ないじゃないですか。
外見がどうこうだって、親を選べるわけじゃなし。
・・・それなのに人の性別や見た目をどうこう、言われるのは不条理ですね。
自分自身のこと、好きか嫌いかと言われれば、私は嫌いなほうかもしれません。
幼い頃から、私は背も小さい、非力な女の子でした。
たった一人の子供という事で、親からは大変可愛がってもらえましたが。
近所の男の子たちからはいつも、いじめられていました。
おもちゃをとりあげられたり、お母さんが綺麗に編んでくれた三つ編みを引っ張られたり。
転ばされて怪我をしたり、服を汚されたり・・・
最初はただ、どうしていいかわからなくて、泣いてばかりでした。
でもそのうち、泣くよりも、くやしくてくやしくてたまらなくなって。
ある日とうとう、怒りが爆発して反撃に出たんです。
たまたま近くに落ちてた棒を拾い上げて、思いっきり振り回すと途端に彼等は言いました。

“ぼ、棒を使うなんて卑怯だぞ!!”

卑怯?私の事を卑怯呼わばりですか?
面白い事言いますね。
だったら小さな女の子1人に3人でいじめる貴方たち男の子は、正々堂々と言えるんですか?

“これくらいでビビるなんて、大したことないですね。
こんな棒っきれが怖いんですか?”

もう、泣くのもやられっぱなしなのも飽きました。
これからは遠慮なく、反撃に出ますからね!
私は、こんな奴等なんかに、絶対に負けない。
負けるもんか!
それから私は、勉強や家の手伝いを必死でやって、大人達に評判の「いい子」と言われるようになりました。
・・・世の中を動かすのは、大人の人たちです。
ですから、彼等に好かれる様にしていれば、色々と安心です。
大人を味方につけた私に、彼等も段々手出しができなくなりました。
こそこそと“卑怯だぞ”とか言ってるのは知ってましたが、だったら堂々と言えばいいでしょ?
そんなこそこそしてないで。
・・・小物ですね。
これは立派な戦略ですよ。

 

 勉強を頑張りすぎて、視力が落ちてしまい、10歳くらいから眼鏡をかけるようになりました。
でも、レンズ一枚隔ててある世界は、シールドが張られてる感じがして、ちょっと安心してます。
他人に踏み込まれる心配が、ないから。
どのような態度や性格がこの人には好かれるのか、人を見る目も鍛えました。
実家が商売をやってるので、そういう人と人との駆け引きの場面は、結構目にする機会がありました。
商売においては、そう言った事をあらかじめ計算したり先読みしていくのが結構重要なんですよね。
人間というのは、態度や言葉の一つ一つで、実に面白いくらい反応が変わります。
「笑う」というしぐさ一つにしても、そこには楽しい笑いや苦笑い、
裏がある笑いや毒を含んだ笑いとか、不敵な笑いとか挑発的な笑いとか。
様々種類があり、また相手がそれをどう感じたか、どう返すかというのも見てて面白いものです。
私の場合、親のおかげか、そういう才能に恵まれたみたいです。
涙がある程度自由にできるようになった時は、女優になろうかな、とも考えましたよ。
・・・ただ、なれたとしても、子役でしょうけどね。

 

 いわゆる「お年頃」の年になっても、私の体は相変わらずでした。
チビで童顔で幼児体型で。
・・・・・牛乳も、効果ないなあ。
・・・・・当時の私は非情にコンプレックスに感じてました。
それは、今も残ってるんですが。
「いい人に出会ったら、きっと女の子らしくなれるよ。」と、親は言ってましたが。
・・・私は、男にさんざん嫌な目にあったから。
負けたくないですから。
はっきり言って、男の方には、深く関わりたくないです。
でも、世の中が男と女で成り立ってる以上、そうもいかないでしょうし。
なら、誰からも認められるような、文句を言われないような私に、なろう。
世界各地で行われるゾイドバトル。
ゾイドに関わる仕事はあらゆる方面で需要も高く、誰からも認められやすくわかりやすい職種です。
実際にゾイドバトルで戦うウォリアー。
彼等を支え、力となるメンテナンスやオーナー。
ゾイドに乗ったことは愚か、直接関わった事のない私でも、出来る仕事といえば情報関連でした。
それに、“ゾイド”への興味も大いにありました。
力強さを感じて、自分も強くなれる気も、しました。
世界中のあらゆる老若男女に人気のあるゾイドバトルに関する情報を広域で最新で伝える。

「よりよいものをよりはやくお手軽に。
なおかつ皆で楽しめるように。」

・・・・これはうちの商売のモットーなんですが、情報も同じ様なものかもしれません。
そんなわけで、私はマスコミ関係の仕事につく事に決めました。
私が入ったニューセンチュリー社は、あまたの出版会社の中でも最も人気と実力のある一つです。
特に、ゾイドバトル関連においては“Z−TIME”という雑誌が大変人気があります。
そんな所の編集長さんは、さぞかし威厳のある方なんだろな、とか思ってたのですが。
初めてお会いした時、とても優しく、穏やかな感じのする方で。
アットホームな感じです。
なんと言うか・・・私の中で今まで抱いてた、人の上にたつ人、というイメージが変わりましたね。
言葉使いも大変穏やかで丁寧なのですが、はりきると少しぶっきらぼうになります。
編集長さんは私に一通りここでの仕事の内容や決まりなどを説明した後、こう言いました。

「私は、社員一人一人、全て自分の子供みたいに思ってる。
だから親の欲目と言われるかもしれんが、みんな優秀で優しい子だと思っているよ。」

君も含めてね。と微笑まれて、私はありがとうございます、とお辞儀をしました。
今まで尊敬できる男性は、うちの父親くらいしかいなかったのですが。
この方は、尊敬します。

「君には、その中でも最も元気で快活な子の、助手を担当してもらおう。」

「・・・男の方、ですか?」

「いいや、女性だよ。
・・・ただ、並みの男より男らしいかもしれないが。」

同じ女性同士の方が、君も馴染みやすいだろう?
そう言って、なぜか編集長さんは笑っていました。
・・・一体、私がつく事になる方って、どんな人なんでしょう?
それがわかったのは、話が終わって、記者の方に会社内を案内してもらっている時でした。

どっしゃーん!!

曲がり角を曲がろうとしたその時、
私は向こう側から駆けて来た誰かと、思いっきりぶつかってしまいました。
しりもちをついた私は、頭上からかかった声に顔を上げました。

「うわ!ごめんなさい!
怪我なかった?!」

銀髪で、前髪に青いメッシュの入った女性がこちらを見てしきりに慌ててました。

「いえ・・・大丈夫です。
ご心配なく。」

立ち上がったその後ろで、記者の方がその女性の方に声をかけました。

「ジュジュ、彼女が君の助手になるアリスだよ。
・・・全く、とんでもない初対面だな。」

「え?彼女がそうなの?!
私って初対面の人とは痛い出会いしやすいのよね。
あちゃ〜。またやってしまったわ〜。」

・・・・“また”?
以前にも、こんな初対面で出会った人がいるんですか・・?
どういう人なんでしょう、この人・・?
それはともかく、この方が私の先輩ですか・・。

「ええと、アリス=ウォーカーさん、だっけ?
ごめんね!いきなりこんな感じで。
・・・私、ジュジュ=フォレスト。
これから色々、よろしくね!」

「アリス=ウォーカーです・・・。
よろしくお願いします。
・・・廊下は、右側通行を、お願いいたします・・・。」

そう、私が言うと、先輩は目をぱちぱちした後、こう言いました。

「やっぱりどこか痛い?!
うっちゃった?!ごめん〜!!」

・・・名前だけは、よく大きな記事に載ってて、知ってましたが。
・・・・実際はこういう方だったんですね。
それが、私と先輩の、初めての出会いでした。
編集長さんが『最も元気で快活な子』と言ったとおり、ジュジュ先輩は非常によく動く方でした。
落ち着きがない、という意味じゃなくて・・・、
とにかく、ゾイドが好きで好きでたまらないんだなあ、という事を真っ先に理解しました。
先輩の行動力の源は、正にそこから来てるのでしょう。
・・・というか、それしか考えられない。

「彼女にとって、ゾイドは“恋人”みたいなものさ。」

・・・先輩と同期の記者の方が面白げに言った言葉も、納得です。
よく動くけど、よく食べるし、よく寝るし。
よく笑うし、よくしゃべる。
・・・・・なんで、こんなに元気なんでしょうこの人?
男性陣に混じっても負けず劣らずの先輩は、人付き合いもよい様で。
確かに仕事以外では結構ドジだったりそそっかしかったりしますけど。
・・・・先輩には、悩みとか不安とか、あるんでしょうか?
まるで正反対の先輩に、私は当時、憧れと弱冠の嫉妬が混じったような、
そんな複雑な思いを抱いていました。

 

 そんなある日の事でした。
私は先輩と別行動で、とある工場のお偉いさんに取材をしに行ったのですが。
・・・あのはげ親父のむかつく事と言ったら!!

“君が?記者なの?ふう〜ん・・・。
よくいるんだよねえ、そう言って入ってくる近所の子供とか。”

・・・・・・ああ、腹がたつったらありゃしません!!
ちゃんと社員証見せたってのに、じろじろと不信そうな目で見て!!
笑顔でインタビューしましたけど、腹の中煮えたぎってましたよ!!
何で、外見だけでそこまで言われなきゃなんないんですか?!!
・・・誰にも負けない、負けるもんか、と思ってましたけど。
・・・正直、くじけそうです・・・・。
先輩は、友達が営業しているというお店にいると言ってたので。
待ち合わせの時間に合わせて、私はそこに行きました。
・・・「アーサーディーリングショップ」・・・。
ゾイドのお店みたいですね・・・。
アーサーって・・・確かどこかで聞いたような・・・?

「あ、アリスお帰りー!」

店に入ると、カウンターの隅で椅子に座って手をふる先輩がいました。
・・・な、なじんでますね先輩・・・。
常連ですか・・・?
そんな先輩をやれやれ、という目で見ている男の方を見た時、私は「あ!」と思い出しました。
ケイン=アーサー。
確か、この間ゾイドバトル界に華々しくデビューした新チーム「バスターズ」のリーダー。
伝説のゾイド、魔装竜「ジェノブレイカー」のパイロット。
・・・この人のお店だったんですね・・・。
確か、同じチームメンバーの弟さんと妹さんと、弟分の方もいるとか聞いたけれど・・・?
その時、後ろから声がかかりました。

「あれ?このちっちゃな子、誰だ?」

・・・・・ちっ・・・・・・ちゃな・・・・・・・・子??
振り向くと、そこにはサラサラの銀髪の男の人が立っていました。
確か・・・。
チームメンバーのサイクス乗り、レイス=クリスナ−!!
私の中で、何かがぷっちん、と音を立てて消えていく様な気がしました。
さっきの取材のせいで、そうとう、たまっていたのかも、しれません。
それがたまたま、この人の一言で臨界点を突破して、しまったんでしょう。
何で・・何で初対面の人に、そんな事言われないといけないんですかっ!!
そんな事、だけっ!!
・・・私だって、好きで小さいわけじゃ、ないですよ!!

「・・・どうせ私は、どこもかしこも小さいですよ、悪かったですね・・・。」

ぽそ、と一言呟いたら、もう止まりませんでした。

「ア・・・アリス・・?どうしたの・・?」

遠くで先輩が私に声をかけましたが。
・・・返事、できませんでした。
代わりに私は彼に向かって、思いっきり叫んでしまいました。

「確かに私はちいさいでしょうけど!!
これでも記者だし、17なんですよ!!
初対面の貴方にどうこう、言われたくありません!!
私の背がどうだろうと、貴方に関係ないでしょう?!
何か迷惑かけました?!
都合悪いですか?!
なんだって言うんですか?!
余計なお世話ですっ!!」

「ア・・・アリス、落ち着いてええ!!
何があったのよ!!?」

「1・・・7・・・?」

嘘だろ、と言うように唖然としている彼等を背に、私はずかずかと早歩きで店を出て行きました。
走り出さなかったのは、せめてもの・・・私の、意地です。
最後のプライド、でした。
・・・ああ、もう。
自分が、とことん情けなくて・・・大嫌い・・・です。
先輩にも、あの店の人達にも・・・。
顔向けできません・・・。
もう・・・。

「・・・ねえ、アリス?
何があったの?話してみてよ?」

後を追いかけてきてくれた先輩に、私は事情を・・・ぽつりぽつりと・・・話しました。
やっぱり、抱え込むのは、もう・・・限界です・・・。

「ふう〜ん・・・。
そういうわけ、か・・・。
わかったわ。任せて。」

先輩はそう言った後、どこかに行ってしまいました。
・・・任せて、て・・・何をしに・・・?
しばらくぼーっと立っていると、ふいに後ろから声をかけられました。

「え〜と・・・。
・・・アリス?」

「ひあっ!!?
だ、誰ですかっ?!!
・・・・・・・て、・・・レイス、さん・・?」

いきなり声をかけられたので、びっくりして振り向くと。
そこには先ほどの彼が、いつのまにか後ろに立っていました。
・・そうだ、私、彼に謝らなくては。
思いっきり八つ当たりしてしまって。そう、思いました。
・・・ですが、様子がおかしいのです。
彼はしきりにこちらを見ないようにしています。

「あ、あの・・?」

「うわ!
わ、悪いけど、こっち向かないでくれ!!
頼む!!」

「・・・・・・は?」

・・・何なんですか?この反応は?
“こっち向かないでくれ”・・・って・・・??
私が続けて言おうとした時、レイスさんが小さな声で、言いました。

「・・・・・・俺・・・。
女の子見ると、固まっちまうんだよ・・・・だから・・・・・。」

・・・・・・は?
それってつまり・・・・。女性に対し弱いって・・・事ですか?
でも、さっきは私を見ても平気だったと思うんですけど・・?
そう言うと、レイスさんは14歳までならセーブゾーンなのだと、ますます小さな声で、言いました。
・・・あ、そっか。
さっきは私のこと子供だと思ってたけど、17と言ったから・・・。
・・・何か、それって都合よくないですか?
実年齢知った途端、こうなるなんて。
でも、目の前の彼が本当にいっぱいいっぱいで耐えてたので、なんだか気の毒になってしまいました。
私が軽度の男性嫌悪症というなら、レイスさんは重度の女性あがり症なんですね・・・。
彼の場合はなんだか生まれつきみたいです・・・。
難儀な事ですね・・・。

「あの、さっきは・・・すまなかった。
でもけっして馬鹿にして言ったとかじゃなくって・・・。」

「いえ・・・。
私のほうこそ取り乱して、申し訳ありませんでした。
お店の方にも迷惑かけてしまって・・・。」

お互いに謝りあう。
でも、女性に弱いのにわざわざ謝りに来てくれるなんて、悪い人じゃないですね。
こういう方も、いるんですね。
ちょっと、見直しました。

「あのさ・・。俺も結構、苦労とかするけど、何とかなってるから・・・。
だから、何とかなるよ。きっと。」

なんだか、笑いたくなりました。私、本当にまだまだ・・・です。
そう言えば、先輩はどこに行ったんでしょう?
それがわかったのは、先輩をお店で待つ事にして、1時間ほど経った頃でした。
私の携帯が鳴って、さっきの所が・・・謝ってきたんです。
驚きました。
正に手のひらを返したかのように。

“こちらの対応が不手際極まりなく、非常に申し訳ない事をした。
もしよろしければ後日改めて取材に来てはもらえないでしょうか?”

・・・という、内容だったのですが・・・。
一体、どういう事・・で、しょう???
訳がわからない、と言う風に首をひねる私に、今度は先輩から電話がかかってきました。

「アリスー!もう大丈夫でしょ?!
むこうから電話来た?」

「・・・ええ、さっき来ましたけど・・・?
・・・先輩、何をしたんですか・・・??」

「アリスがいかに優秀でよくできた記者かってのをとくと聞かせて、再取材のお願いしただけよー♪
じゃあ今からそっち戻るからね!」

ぷつ、と電話が切れて、私は携帯をバッグにしまいました。

「あの・・・今から先輩が戻るそうなので・・・、
もう少し、ここで待たせて下さい・・・。」

私がケインさんにそう言うと、彼は先輩が何て言ってたか、と尋ねました。
私が答えると、彼はしばらく黙った後・・・、こう、言いました。

「ヘル同伴で、な・・・。
一体どういう“お願い”したんだか・・・。」

「!!!!」

 

 後日、私は先輩が編集長に呼び出されて、「反省文5枚」と言われた事を知りました。

「別に、怒られたわけじゃないわ。
・・・これだって、まあ形式みたいなものだから。」

手渡された作文用紙5枚をひらひらさせながら、先輩はアハハ、と笑ってました。

“元気なのはいいが、元気すぎる行動はひかえるように。”

・・・編集長さん・・・。
すごい人です・・・。

「あの・・・すみませんでした。
私がしっかりしてないから、先輩にこんな迷惑かけて・・・。」

「あら、アリスは十分しっかりしてるわよ?
お金にも時間にもきっちりしてるし。」

友達の悪口を言われるのは、自分の悪口言われるよりはるかに我慢がならない。
自分は自分のしたい事をしただけだし、
正しい事を言ったんだから迷惑とか思ってないわよ、と先輩は笑っていた。

「・・・まあ、反省文くらう先輩なんて、頼りないでしょうけど。
これからもよろしくね、アリス。」

「・・・はい。
こちらこそ、よろしくお願いします。」

ままならない自分に、苛立つ事もあります。
だからあの頃は誰にでも、認められたかった。
でも今は、誰か一人だけでも、自分を見てくれる人がいるなら。
それできっと、何度でも歩き出せる。
ままならない自分でも、上手くやっていけそうな、そんな気がしました。
あるがままの、私で。
・・・今は、自分のこと、好きだと思います。

 

「・・・女ってのは、それだけである程度の事は許されるから、いいよねえ〜。」

あるゾイドバトルでの、取材席でのことでした。
とある別の会社の記者達が、これみよがしにそんな事を言ってきました。
・・・女性が外に出るとなると、いい事もあれば悪いことも多少はあります。
それはわかってます。
いわれのない偏見や差別とか、妬みとか。
・・・下らない奴等ですね。
心の貧しい・・・。
うちの会社がどこよりも正々堂々としてるのは、世間では周知の事実です。
先輩も私も、無視していました。
あんなの相手にするだけ時間と労力の無駄です。
ですが・・・。
先輩の方が、段々我慢できないと言うように、なってきました。

「個人的に仲良くなったウォリアーとかにさ、
情報とか流して八百長とかさせたりしてるんじゃないの?」

「!!そんな事しないわよ!!」

と、先輩がどなりかかろうとする寸前に、私は彼等に向かってあついコーヒーをぶっかけました。
・・・コーヒー代がもったいとか、少し思いましたけど。
さすがに私も、ムカついていたので。
・・・人が黙ってれば、好き放題して。
ここからは遠慮なく、反撃に出るとしましょうか。

「あら、ごめんなさい!」

しれっといい放つ。
・・・ファイト、開始。

「あち!あちち!
てめえこのやろう!今のわざとだろ!!」

当たり前でしょ?
・・・でも、口と顔には出さないで。
満面の笑みをたたえて、穏やかな口調で。

「てめえ?このやろう?
“野郎”・・・ていうのは男の方を指しますから、この場合適切な言葉じゃないですね。
勉強不足ですね。
今のがわざとやったっていう証拠でもあるんですか?
それとも、わざとこういうことされるだけの行為を、そちらがなさったんでしょうか?」

「なんだと・・!」

「もし証拠がなかったら貴方達は私たちに言いがかりをつけて、人権を侮辱したことになりますね?
・・・ああ、仕事の邪魔をした事にもなりますか。
侮辱罪、人権侵害、営業妨害。
これだけでも、罰金も懲役もかなりのものですね〜。」

にこにこにこ。
“法に訴える”という言葉に、相手方は萎縮したようだった。
こちらが落ち着いているのも、彼等の不安をかきたてるには効果がある。

「他人の努力と才能をねたむ暇でもあれば、
自分たちのお仕事をしっかりなさったらどうです?」

「なんだよ、この小娘・・・!
黙れよ!」

「あらら、その発言は脅迫罪ですね。
・・・殴りますか?別に構いませんよ?
殴ったら間違いなく貴方、傷害罪ですからね。
殴られて眼鏡壊れたら器物損壊も加わりますね〜。
それに、女性に怒鳴ってる貴方達、まず間違いなく冷たい目で見られてますね。」

私の言葉で、周りを気にしだしたらしい。
・・・よし、あと一押し。

「ここで私が悲鳴でもあげたら、世間は貴方達と私と、どちらを信じると思います?
・・・試してみます?」

にっこり顔から一転して、涙を浮かべる。
・・・よ〜し、カウントダウン。
3・・・・2・・・・1・・・・。

「お、おいやべえよ・・。」

「行くぞ!!」

どたどたどた・・・。
引き下がる相手方。
・・・勝利!
背中にあかんべーをしてやる。
もちろん周囲にばれないように、小さく。
ちょっと離れたところでボーゼン、としていた先輩に声をかける。

「先輩、コーヒー駄目にしてしまって、申し訳ありません。」

ぺこり。
先輩ははっ、と我に返って私を見た。

「アリス・・・貴方って、すっごい物知りなのね〜!
圧倒されちゃったわ!」

「ああ、あれは・・・・はったりです。
本当の所はよく、わかりません。
難しい、いかにもな言葉並べれば大抵圧倒されますから。
ああいう人たちは。」

お決まりの言葉しか吐けない、ボキャブラリー貧困な人にはね。

「泣きそうな顔なんて、本当に本物よ〜!
あれ、演技なの?」

「・・・ええ。
まあ・・・。
“笑顔と涙は、女の子の最強の武器”だって、お母さんが言ってたので。
・・・こんなに効果覿面とは思いませんでしたが。」

「へえ〜・・・・・。」

ひたすらひたすら、感心してる先輩を見て。
私はなんだか、得意げな気持ちでいました。
・・・えっへん。

「・・・先輩。
私達は、何も恥ずべき事なんか、ないんですよ。」

だから、ああいう奴等をまともに相手にするだけ、もったいないです。

「にっこり、笑ってればいいんですよ。」

・・・いざとなれば、涙も使って。
・・・それくらい、特権ですよね?
そう、まずはともあれ、楽しくなくちゃ。

 

ーなぜ、君達を組ませたか、その理由はわかるかね?
もちろん最初に言ったとおり、同じ女性同士の方が、馴染みやすいだろうという事もあるんだ。
・・・だが、それだけでは、ないのだよ。
お互いの成長の為に、互いに学び合えると思ったからなんだ。

アリス=ウォーカー。
君は、人の顔を良く見て判断する事が出来る。
つまり、自他の表裏を見て、相手や自分に都合のいい環境を察知する事ができる。
だが、世の中には打算や予測をまるで気にせず、
損得考えずに行動する人間もいるのだという事を、
思いもあるのだという事を、学んで欲しい。
世の中は常に、未知数で動いているからね。
常に計算や推測が上手くいくとは限らない。
法則通りにいくとはいえない。
君の先輩は正に、予測不可能な人。
そんな人だからこそ、君にぴったりだと思ってね。
・・・あとね、君の文章能力と彼女の写真を合わせれば、きっと今まで以上に素晴らしいものが出来る。
そう、思っているんだ。
・・・頑張りなさい。

ジュジュ=フォレスト。
君のカメラの師匠さんと私は、古い馴染みに当たる。
君をここに紹介しに来た時、彼は言ったのだ。

“・・・彼女は強い心の持ち主だ。
いい“目”と“耳”を持つ・・・だが、心はいつも、強いとは限らない。
何かの拍子に、たやすく壊れてしまう事もある”

世の中は正しい事ばかりではない。
目に見えるもの全てが正しいとはいえない。

“裏表のない、駆け引きのない気持ちを持つ彼女が、
今までの価値観や思いを激しく揺さぶられるような“何か”に出会った時。
深く傷つき、“目”と“耳”を塞いで、心を閉じてしまうかもしれない。
・・・それが、私は心配だ・・。”
とね。
君の後輩は、君よりも深く、多角的に物事をとらえられる“目”と“耳”を持っている。
ゾイドは人の心に共鳴する。
だから人間研究をしていきなさい。
顔の裏を・・・心の闇を知っても、尚恐れず突き進める強さへと、磨いていきなさい。
私は、社員一人一人、全て自分の子供みたいに思ってる。
だから親の欲目と言われるかもしれんが、みんな優秀で優しい子だと思っているよ。
・・・頑張りなさい。

END

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あとがき

アリスとジュジュの、コンビ組んで間もない頃の話です。
・・・最近過去話ばかり書いてるな・・・。
カイルとかも書きそうな感じだな・・・。(−−)この分だと・・・・。
ケインとレイスをちょこっとお借りしました。
レイス、怒鳴ってごめんよ〜!!(懺悔)
君も苦労してるのにね・・(><)
ジュジュがどんな“お願い”したかは、ご想像にお任せします・・・。
アリス視点で書いた今回の話で、
アリスの事ますます苦手に感じてしまった人いるんじゃないかな〜とか(|||)
回を増すごとに性格が・・・でも、書いてるほうは結構楽しかったりする私は何なんでしょう?
・・・そうか、作者が捻じ曲がってるんだ!(おいこら)
男と女ってのは、どんなに“平等”って言っても、どうにもならないことって、やっぱあると思うんですよね。
でも、そういう事にとらわれすぎず行く事が大事ですよ。
/0じゃそういう人はいないと思いますが。
特にウォリアーとかでは、ゾイドの性能差はあれど一番ゾイドバトルって、
あくまで“個人”の特性や特徴が反映する、差の関係ない世界じゃないかなって、思います。
いいなあ♪
影の主役、編集長(笑)いい職場でいい上司に恵まれたら、もー仕事ガンガンにはりきっちゃいますよお!
イメージは・・・森本○オさんです。アットホームな感じなのに“社長ー!”って感じで。
ああいう人が上司だったらもういいですねえ♪
「○さんの笑ってこらえて」という番組である日、
凄腕だったとある女性モーターボート乗りの話をしてたんですが、
その中で予想屋だった夫の人と結ばれた時、
「八百長疑惑」が出て、妻のレースの時は夫は予想屋を休み、二人三脚で頑張ったという話を聞いて、
ふと「ウォリアーとマスコミって関係は大丈夫だろうか?」とか心配してしまいまして。
・・・大丈夫だよな・・・「YA○ARA!」とかだと平気そうだし(今回伏字多いぞ・・・)
就職活動とかいう話を聞くせいだろうか・・・ゾイドバトル界をビジネス視点とか、
女性の就職とか色々考えちまったい・・・(/0だってーの!!)
いい仕事といい上司といい人間関係に恵まれたい・・・。
お金も大事だけど、人、大事だよな・・(−−)
とか愚痴ってしまった・・・ああごめんなさい!
HAZUKI様ー!!もらってくださいー!!
では失礼します!


初心者さんから頂きました。
アリス、凄いっすね・・・。
いろいろとトラブルも起こしてますけど、女の意地って奴なんですね。
レイスは相変わらずですね。
まぁ、彼も努力するって言っているし、今後が期待できます。
ジュジュとアリス、やっぱりいいコンビですね・・・。
これにカイルが加わって、立派な“面白記者トリオ”の出来上がり!!
頑張っていて欲しいですね、彼等には。
あと、編集長さんはいい人ですね。
Z−TIME編集部は今日も活気に満ちてます。
初心者さん、ありがとうございました。

 

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