「追憶」

 

 ゾイドバトルの無いある日、トロスファームの中で、
チームブリッツのリーダー、ビット・クラウドはテレビを見て、
同じくブリッツのメンバーリノン・トロスは雑誌を読んで、
ジェミー・ヘメロスとバラット・ハンターはゾイドチェスをしてそれぞれ自由な時間を過ごしていた。
その内、ジェミーとのゾイドチェスを終えたバラットが部屋の外へ向かおうとした。

「あれ、バラット、どこに行くの?」<リノン>

「ちょっとフォックスの整備をしてくる。」<バラット>

「ふ〜ん。」<リノン> 

その後、バラットは部屋を出てゾイドの格納庫でフォックスの整備を始めた。 
彼がフォックスの整備を終えた頃、
彼がふと外を見ると一頭の緑色のシールドライガーがここの方に向かってるのに気が付いた。
そのシールドライガーはゾイドの格納庫の中に入って停まり、
キャノピーが開いてコックピットの中から一人の少女が降りてきた。
その少女は白いティーシャツにジーパンという格好で黒い野球帽みたいな帽子を被っていた。

「済みません、トロスファームってここですか?」

「ああ、そうだが。」<バラット>

「それじゃリノン・トロスさんはここにいますか?」 

「リノンならここにいる。
なんならあいつのいる所に連れてってやろうか?」<バラット>

「あっ、そうですか。
それじゃお願いします。」

ゾイド格納庫でそういう会話が交わされた後、
その少女はバラットと一緒にリノン達の居る部屋へ向かった。

 

「リノン、居るか?」<バラット>

バラットのその言葉が聞こえたと同時にリノン達の居る部屋にバラットと先程の少女が入ってきた。
そこにはリノンの父スティーブ・トロスの姿もあった。

「バラット、どうしたのその人?」<リノン>

「ああ、なんでもリノンを訪ねてきたらしい。」<バラット>

リノンの当然ともいえる疑問にバラットが簡単に答えた。

「ところでお前誰だ?
リノンを訪ねてきたみたいだけど。」<ビット>

「ああ、自己紹介が遅れました。
僕の名前はセナ・シューマッハ。
リノンさんを訪ねてここに来ました。」

そう言って少女が被っていた帽子を脱いでビット達に向かって礼をした。
するとその少女の目元の辺りの緑色の刺青を見てリノンが何かを思い出した。
トロスの方もこの少女に見覚えがあるようだ。

「セナ、あなたセナなのね。
久しぶりだわ。」<リノン>

「思い出してくれましたか、リノンさん。
久しぶりです。」<セナ>

「そいつと知り合いなのか、リノン?」<ビット>

そのビットの疑問にはトロスが答えた。

「ああ、セナは私の友人の娘さんだ。
ジェミーの親父さんやラオン程じゃなかったが親しかったよ。
後、彼女の従兄弟のディアスの両親も、私の友人なんだ。」<トロス>

「私とレオン兄さんは、
幼い頃、少しだけセナと彼の兄さんのホークさん、
彼等の従兄弟のディアスさんと遊んだ事があるの。」 <リノン>

「へ〜っ、そうなんですか、リノンさん。」<ジェミー>

「セナ、11年ぶりだね。
ディアスの両親は元気にしてるか?」<トロス>

「ええ、エクセル叔父さんもアクセス叔母さんも元気にしてます。」<セナ>

すると今まで会話を聞いていたビットがある疑問を持った。

「ところでさっきから聞いてないんだけど。
セナの両親ってどんな人達なんだ?」<ビット>

「ああ、そういえば話してなかったな。
彼女の父の名前はガルシア・シューマッハ、母はアンティ・シューマッハ。
彼等はエクセル達と共にチームアイゼンクローという名でゾイドバトルをしてた、
Aクラスのゾイドウォーリアーだったんだ。」<トロス>

「そうなのか。
ところでセナの両親の方はどうなんだ?」<バラット>

「それはな・・・・・・・。」<トロス>

バラットの質問に答えようとして途中で言葉を止めたトロスにリノン、セナ以外の人達は怪訝そうな顔をした。
すると、

「11年前のゾイドバトル中の事故で僕の両親は亡くなりました。」<セナ>

そう言ってセナが沈黙を破って答えた。

「それじゃ聞かせてくれないか。
君達兄妹の11年前の過去とその後の経緯を。」 <トロス>

「ええ、分かりました。」<セナ>

そういうとセナはジェミーが出したブラックコーヒーを飲んでその事を話し始めた。

 

 時は11年前、ニーベルゲン山脈の麓セントラタウンの郊外で、
今、まさにゾイドバトルが行われようとしていた。
片方のチームは緑色のセイバータイガーにコマンドウルフ、青色のレイノスにブラックレドラーのチームだ。
もう片方のチームはストームソーダーが2機、シールドライガーにガンスナイパーというチームである。
そうこうしてるうちに空からジャッジカプセルが落ちてきて中からジャッジマンが現れた。

「フィールド内スキャン終了。
バトルフィールド、セットアップ。
バトルモード0982、チームウィザードVSチームアイゼンクロー、
レディー、ファイト。」

ゴングが鳴った瞬間、バトルが始まった。
先にしかけてきたのはチームウィザードのシールドライガーとガンスナイパーだ。
ガンスナイパーが後ろを向いて狙撃を行い始めたと同時にシールドライガーが向かってきた。
すると背中にロングレンジライフルを装備した緑色のコマンドウルフが、
器用に攻撃を避けながらガンスナイパーの方へ向かう。
セイバータイガーも対ゾイド30mm二連装ビーム砲を撃ちながらシールドライガーの方へ向かっていった。
ガンスナイパーはコマンドウルフが近づいてきたので、
狙撃を止めて腕のマシンガンを撃とうとしたが、
時すでに遅く、緑色のコマンドウルフのロングレンジライフルを足に喰らって倒れてしまった。
シールドライガーの方も背中のビームガンで応戦するが、
緑色のセイバータイガーのキラーサーベルで喉元をやられてコンバットシステムフリーズを起こした。
一方、空の方では空中戦が終わりを迎えようとしていた。
一機のストームソーダーがウィングソードを展開して青いレイノスに迫るが、
そのレイノスはアクロバット飛行で避けて、足のシュツルムクローでストームソーダーの装甲を引き裂いた。
するとその中からそのストームソーダーのパイロットらしき人物が非常脱出装置を使って地上に降りていった。
もう一機のストームソーダーの方もブラックレドラーの可変レーザーブレードのよってやられた。

「バトル、オールオーバー、バトル、オールオーバー。
ウィナー、チームアイゼンクロー。」

ジャッジマンがチームアイゼンクローの勝利を告げてそのゾイドバトルは終わった。
すると青いグスタフの方から二人の少年と一人の少女がチームアイゼンクローのゾイドの方へ向かって走ってきた。

「お母さん。」

その言葉が聞こえた瞬間、
茶髪で緑色の眼の少女が、緑色のコマンドウルフから降りてきた金髪で青色の眼の女性に抱きついた。

「セナ、いい子にしてたか?」 

「うん。」

彼女達がこのような会話を交わしている側では

「やっぱり父さん達は強いな。
だって今日も勝ったんだから。」

「まあな、だがホークも努力すれば強くなるぞ。」

セナ、ホークと同じ刺青のある茶髪で緑色の眼の男性と、
ホークと呼ばれた茶髪で青い眼の少年の間でこういう会話が行われていた。
彼等はひとしきり会話を交わした後、

「アンティ姉さん、ガルシア義兄さん、そろそろ帰ろう。
もうすぐ日が暮れるよ。」

頬の辺りに緑色の刺青のある青髪で紫色の眼をした少年の相手をしていた、
その少年と同じ髪の色で赤色の眼の男性のこの一言で自分達の家へ帰った。

 

 その2時間後、彼等は緑色のセイバータイガーのパイロット、ガルシアの家にゾイドを集結させて、
そこで夕食をとっていた。

「今日の試合に勝ったから、また連勝記録を更新したな。」

おかわりの分のシチューを食器に盛りながら、
頬の辺りに緑色の刺青がある緑髪で紫色の眼の女性がそう呟いた。

「最近、勝ちが続いてるからな。」

青髪で赤色の眼の男性がその言葉に応じるかの様に言った。

「ふふっ、エクセル、アクセス、
今日のお前達の空中戦はなかなか劇的だったよ。」

「そうか?
アンティ義姉さん、ガルシア兄さんの方のバトルも凄かったと思うよ。」

金髪の女性アンティの放った言葉に照れをを隠すかの様に緑髪の女性アクセスは淡々と呟いた。
すると、茶髪の男性が何かを思い出したかの様に食べ終わった食器を片付けて席をたった。
数分後、彼は小さな木箱を手に持ってその場に戻ってきた。

「父さん、その木箱どうしたの?」

「これか。
この中にはセナ、ホークに渡す物が入ってるんだ。」

「僕達に渡す物?」

茶髪の少年と少女の疑問に簡単に答えると、その男性は木箱を開けた。
その中には龍を彫刻した青い水晶と黒い水晶のペンダントが入っていた。

「これは、父さん達が大切にしてたペンダントだよね。」

「ああ、そうだ。
これをお前達に渡したかったんだ。」

「本当?
ありがとう、父さん、母さん。」

茶髪の男性と金髪の女性からそれぞれペンダントを受け取って茶髪の少年と少女は嬉しそうだ。

「よかったな、セナ、ホーク。」

『うん。』 <セナ、ホーク>

青髪の男性エクセルの言葉にも彼等は笑顔で応じていた。
そしてこの日は彼らにとって忘れられない一日となった。

 

 だが、その1ヶ月後のチームスフィアとの対戦の日にそれは起こった。
その日、ディアスの家でセナとホークがディアスと一緒に遊んでいると、突然、電話が鳴った。
その時、偶然電話に近かったセナが出ると受話器から、
彼女の叔父エクセルの慌てたような声が聞こえてきた。

「セナ、大変だ。
ゾイドバトルの最中に事故が起こって、
大怪我を負ったアンティとガルシアが病院に運ばれた。」<エクセル>

「えっ、父さんと母さんが。」<セナ>

 

 その後、セナ、ホーク、ディアスはプテラスでセントラタウン近くの病院へ向かった。
病室へ入ると、ディアスの両親エクセルとアクセスが深刻な表情で彼らを出迎えた。
側にはベッドに横たわるセナ、ホークの両親ガルシアとアンティの姿がある。
ディアスの母アクセスの話によると、ゾイドバトルの最中に、突然、凶暴化した野生ゾイドが乱入した。
彼等とチームスフィアの活躍によってそれは収まったが、
アンティのコマンドウルフはゾイドコアに致命傷を負って再起不能になり、
他のゾイドもかなりのダメージを受けたという。

「ガルシア義兄さんの方は重体だけど少しは意識があるが、
アンティ姉さんの方はさっきからずっと意識が無いんだ。」<エクセル>

エクセルとアクセスの言葉にセナ達の表情は曇った。
すると少しだけ意識が戻ったのかガルシアが言葉を放った。

「セナ、ホーク。」<ガルシア>

『父さん。』<セナ、ホーク>

それに気付いたセナとホークが彼に声を掛けた。

「セナ・・、ホーク、よく聞くんだ。
これからお前達はしっかりしなくちゃいけない。
その意味が・・分かるな・・・セナ、ホーク。」<ガルシア>

「分からない。
そんなのできっこないよ、父さん。」<セナ>

「大丈夫・・・、お前達ならできる。」<ガルシア>

そう言った後、セナ、ホークの父ガルシアは静かに息をひきとった。
アンティの方はその後意識が戻ることなく2日後に亡くなった。

 

 この事故の後、セナ、ホークはディアスの両親エクセル、アクセスに引き取られ、
ディアスと一緒に彼等の元で育てられた。
その後エクセル、アクセスの指導の元セナ、ホーク、ディアスの3人はゾイド操縦の腕前を上げ、
ビットがゾイドバトルに戻ってくる半年程前にチームラグナロクとしてゾイドバトルにデビューして、
現在Aクラスのトップレベルぐらいになっている。

 

「セナ、かわいそうだな。」<ビット>

「ああ、そうだな。」<バラット>

「かわいそうです、セナさん。」<ジェミー>

セナが話し終わった後、ビット、バラット、ジェミーはそれぞれ感想を口にした。

「私が最後に彼等に会ったのは事故の3ヶ月前だった。
だから事故の事を聞いた時は本当にショックだったよ。」<トロス>

トロスが少し曇った表情でそう呟いた。
そうしてるうちに腕時計を見たセナがおいとまをしようと立ち上がった。

「あれっ、セナ、もう帰っちゃうの?」 <リノン>

「ごめん、リノンさん。
この後、兄さん達と約束があるんだ。
それに今日は11年目のあの日だから。」<セナ>

「あっ、そっか。
それじゃ、また会おうね、セナ。」<リノン>

「ええ、そうですね、リノンさん。
それじゃ、皆さん、僕はこれで失礼します。」<セナ>

そう言った後、セナはトロスファームを去っていった。

 

 2時間後、セントラタウン郊外の墓地の一つの墓の前で手を合わせているセナの姿があった。
 その墓には彼女が持ってきた花束が添えてある。
その後、彼女は胸元にある青い水晶のペンダントを見つめて少し物思いに耽っていた。

「セナ、ここに居たのか。」

不意に後ろから聞き慣れた声が掛かったので彼女はゆっくりと振り返る。
するとそこには黒いカウボーイハットが特徴的な彼女の兄ホークと従兄弟のディアスが居た。
彼等も手に花束を持っている。

「ホーク兄さん、ディアス兄さん。」 <セナ>

「俺の両親の家に居なかったから、ここだと思った。
それに今日は君達の両親の11年目の命日だから。」<ディアス>

その会話をした後、ホーク、ディアスも墓に花束を供えて手を合わせた。

「あれから11年か。
時間が経つのは早いな。」<ホーク>

「その間に僕達の実力は父さん達に近づけたかな?」<セナ>

「さあ、それは分からない。
けど俺達なりに頑張ってこれたんじゃないか。」<ホーク>

その言葉が交わされた後、彼等は爽やかに晴れ渡る青空を見上げた。
その青空はどことなく彼等の表情を表しているかのようだった。

 


Yukiさんから頂きました。
セナの過去の話です。
過去に父親を亡くしたこの兄弟。
その悲しみにも負けず、立派なウォーリアーになりました。
この先、彼等が行き着く先はどこでしょうか?
そして、彼等は両親に近付けるのでしょうか?
これからが楽しみなチーム・ラグナロクの3人でした。
Yukiさん、どうもありがとうございました。
(感想遅れて済みません・・・。)

 

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