「ある日のDS団の光景」
〜シドとシュダの休日〜

 

 かつて、ゾイドバトルを乗っ取り、
ダークバトルを申し込んでは極悪非道の反則攻撃を用いて勝利し、
各地のゾイドバトルを荒らしまわっていた闇の組織、『バックドラフト(BD)団』。
その意思を継ぐ新たなる闇の組織『デッドスコルピオ(DS)団』が登場した。
彼等は「BD団のやり方は甘い」と豪語し、さらなる高みを目指し、騒乱を起こす。
過去のバトル記録において、シド、シュダという団員の存在が確認された。
しかし組織の多くについてはいまだ、謎が多いままである。
ゾイドウォリアー達はダークバトルの復活に震撼しつつも、
公式のルールにのっとり、正々堂々と戦い、己の腕と誇りをかけて、
相棒たるゾイドと共に熱きバトルを繰り広げる!!
そして、世界中のゾイドバトルをまとめあげる総司令本部『ゾイドバトル連盟』は
「ダークバトル潰し」の新組織、『ダークバスター』を結成、対抗の意思を華々しく示した。
世界各地のウォリアー達と闇組織DS団の、
広大な台地をバトルフィールドとした戦いはまだまだ、始まったばかりである・・・・。

 

・・と、いう事だが。
某場所にあるDS団の本部。
ここは常日頃多くの団員達が出入りする「集合所」である。
彼等は普段、個々の様々な事情により、世界の各地に散らばっている。
それらをまとめあげるリーダー的存在であり、
上層部と部下達をつなぐパイプの役目を担うのが
コードネーム「ヘッダー」(司令塔)と呼ばれる司令官、シドである。

フルネームはシド・ウィンディッツ。
身長175p程、ダークグレーの髪、赤い瞳をした青年である。
シドはかつて「天才」と言われる程のウォリアーだったが、
ある事件がきっかけで3年前に引退、その後DS団の幹部となった。
冷静沈着、頭脳明晰、多くの部下に慕われる優秀な手腕は、上層部でも実に高く評価されている。
「チーム・シド」のリーダーでもある彼は数ヶ月前、
メンバーのビスト、オスカーと共に「チーム・ブリッツ」にダークバトルを申し込んだ。
新たなる闇組織からの宣戦布告。
シド達は彼等をかなりの所まで追い詰めたものの、
突如ケイン・アーサー率いる「チーム・バスターズ」の助太刀が加わり、敗北してしまった。
これは、連盟が作り上げた新組織「ダークバスター」の初出撃であった。
彼が本気になれば、Sクラスのトップも楽に狙えるという噂がある。
だが、弟の事で何かあって、本来の実力を出せないでいる、と。
シドには同じDS団内に弟がいるが、顔も性格も全く似ていない。
そんな彼に対し、兄は様々な思いがあるらしい。
だが、弟の尻拭いをいつも黙ってこなす理由には、「単に弟には甘い性格だから」とも、言われている。

彼は今朝早く本部に呼び出され、新しい指令を告げられた。
しかし・・・。
普段なら即座に敬礼をするはずが、
今回はモニターの向こうにいるサングラスの男を見つめたまま、
しばらく呆然と立ちつくしてしまった。

『・・・・というわけだ。
本部をはじめ各地に散らばる団員達に、そう伝えておく様に。』

サングラスの男は、シドの反応がないので眉をしかめた。

『・・シドよ、どうしたのだ?
何か疑問な点でもあるのか?』

その声にハッとなった彼は、即座に体制を立て直して敬礼をした。

「はっ!い、いえ何もございません。
・・・では、そのように各団員たちに報告しておきます。」

『うむ、頼んだぞ、シド。』

そう言って通信は切れた。
シドはその後、大きく肩を落とし深〜いため息をつく。

「・・・・朝早くから呼び出されてみれば・・・、
何という指令だろうか・・・。」

ちなみに時計は今、朝の9時である。
彼がこうまで気落ちした指令の内容は、以下のようなものだった。

「ダークジャッジマン」を発射する「ダークサテライト」の調子が悪い。
2、3日程修理の必要がある。その間はバトルジャックが行えないので、
各団員達に休暇を言い渡す。
休暇中、軽はずみな行動や騒動を起こし、我々の事が敵側にもれる事のない様に。
万が一のため、彼等の監視、管理を“全て”シドにまかせる。
以上。

「彼等を全て、私一人で統括しろというのか・・・。」

腕は強いがそれ以上に、個性がめっぽう強い人物の多いDS団。
彼等をまとめあげるなど一筋縄でいくわけがない。
無茶な事を・・・・。
今回はダークバトルができないのだ。
どんな行動に出るかわからない輩が弱冠・・・いたり。
あれこれ考えるシドの胸に、大きな不安がぐるぐると渦巻いていた。
だが、ずっと落ち込んでもいられない現状。
休みと言えど仕事はたくさんある。

「・・とりあえず、各団員からの報告書をまとめて・・・・。
その後に休暇の報告をするか・・・。」

シドは椅子に座り、机の上のノートパソコンを開くと、
やがてカタカタカタ・・とキーを素早く打ち始めた。

 

 そうして、一時間程経った時のこと。
突然、シドの部屋の扉が”だん!!”と乱暴に開き、一人の少年が素早く中に入ってきた。
”だん!!”と足で乱暴に扉を閉じ、「はあはあ・・」と息を切らしている。
柔らかな金髪と茶色の瞳。
小柄で華奢な体つき。
一見女の子のようだが、目つきの鋭さではっきり男の子とわかる。
彼の名はダーク。コードネームは「死神」(ジョーカー)。
BD団最強と言われた「王」(キング)と同等の腕を持つと言われている。
彼はDS団の1チーム、「チーム・デッドエンド」のメンバーである。
いきなりの来客にシドは驚いたが、事情を聞く前にダークが駆け寄ってきて、

「シドッ!!頼むっ!
か、かくまってくれ!
あいつらにはもう関わりたくねえええええ!!」

・・・と絶叫した。
かなり深刻な様子のダークをとりあえず机の下にかくまい、シドは仕事を再開した。

 

しばらくして。

「ダー君、ここか〜い?」

と言う男の声が聞こえてきて、シドは思わず“う・・・”とうなった。
その声の主はダークとシド、二人が苦手な人物だからだ。
理由はズバリ、からかうから。
実に楽しく、自信たっぷりに。
「ダー君」とは、その人物がダークに勝手につけたあだ名である。
ひどくこの呼び方を嫌った当人は、最初は激しく抵抗した。

「ダー君なんて呼ぶんじゃねえ!
てめえ、その口ぶっ壊すぞ!!」

すると、その人物はこう返してきた。

「ハハハハ!
ダー君怒っちゃ嫌だよ。
僕と君の仲じゃないかぁv。
今度手合わせしてあげるから怒らないでよ〜v」

「てめえとは何の縁もゆかりもねえ!
手合わせだと?!
荷電粒子砲で跡形もなくしてやるっっ・・・・・!!!」

「ハハハハ!
ダー君怖いことを言っちゃいやだよ。
う〜ん、それじゃあダー君のほかに何ていえばいいかな?
ダー吉?ダーさん?ダーちゃん?ダーぴょん?ダーりん?ダーリン・・・。
ダーリン!!これだ!!よし!これだ!もはやこれ以外は無い!
と言うわけでこれからこう呼ぶからねvダーリンvv」

「や・・・やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」

その時のダークの絶叫は本部中、至る所に響いたと言う。
これはほんの一例で、彼は他にもいろいろ、どえらい目にあってるらしいが・・・
「言いたくねえ・・。」と繰り返すのみで、詳しくはわからない。

ちなみにシドでの一例を言うと・・・話を聞かされたのである。
機嫌が良いから、突然だが自分の髪が長い話でもしてあげようと言うので、
暇だったシドはつい聞いてみたのだが・・・後に大失敗、大後悔した。
23時間45分という長さ、内容のほっとんどが意味不明の用語で解読不可能、
人の理解を超えた内容・・・。
シドは、倒れた。
文字通り“ブッ倒れ”て、医務室に緊急で運ばれた。
・・・最悪だった。
だがその人物に後日会った時、彼はシドにこう言ったのだった。

「アッハッハッハッハッ!
あの話は少し長すぎたかい?
悪かったね〜。
じゃあ今度は別の話を・・・」

最後まで聞かず、即座にその場を去った、シドであった。
・・・そんなに話をしてたら、普通は、ぶっ倒れる。
23時間45分聞いていたシドも、相当強靭な精神力の持ち主だ。
しかし彼の精神はそれを上回る所か、人類の規格からかーなーり、外れている。
・・・わかりやすく言えば、すっっっっっごく、楽観的な性格である。
ものすっごく、ひたすら、とことん、骨の髄まで、ゴーイングマイウェイ(わが道を行く)。
巻き込まれるほうははっきり言って、というか絶対に、たまったもんじゃない。

そして、その人物が実に軽やかな足取りでシドの部屋に入ってきた。
彼の名はティクス。
コードネーム「皇帝」(カイザー)を、自ら名乗っている青年である。
フルネームはティクス・ファースト。
しかしこれはどうやら偽名らしい。
彼には大抵、2人のお供が傍に控えている。
左腕が義手、右目は見えず、感情を喪失している老人レクイエムと、
彼とレクイエムの前でしか笑わないゲレーゲンハイト(通称ハイト)。
しかし、今日は彼等の姿はなかった。
ティクス自身について紹介すると・・・、彼は裁縫、特に刺繍を大の得意とする。
お供たちをはじめ彼の妹、メイドの服などは全て彼が作ったものだ。
袖口の十字架の刺繍やらフリルやらなにやら・・・、すみからすみまで全て彼のお手製。
・・・極度の細部にまでこだわり尽くしきったオーダーメイド。

「これは作品完成品のホンの一例なのだよっっ!!
次は愛読書中の漫画の中に出てくるプラスチックスーツを造ろうかと思ってるのだよっ!!
はーっはっはっは!」

サニータウンという所に店もちゃっかり出しており、色んな客が来ると言う。
かなりの人気があるらしく、支店も色々と出てるらしい。
店の看板は趣き深いんだか胡散臭いんだかわからないデザイン・・・、らしいが。
実は、彼等はかなり暗い過去を背負っているのだが、
普段の様子からはそんな感じはいっぺんたりとも見受けられない。

「ワッハッハッハッハッ!
暗くなっていてもしょうがないからね!
そんなものとっとと忘れてしまう方が良いのだよ!!」

だからといって笑顔で自分勝手な理屈をほざいたり、
シドとダークをからかっていいという事は、全くないのだが。

「いつもいつもつまらないバトルは嫌いだから、
彼らをからかって楽しく過ごしているのだよ。
ハーッハッハッハッハッ!」

他人をからかうのが大好きな彼に狙われてた事が、運の尽きなのか。
そして、そんなティクスのお気に入り(の標的)がダークで、次点がシドであった。

ティクスはシドに気がつくと意気揚揚と近づいてきた。

「おやシドさん、休みでも仕事かい?
大変だね〜。
ところでダー君見なかったかい?」

「・・いや、見てないが。」

机の下を内心気にしつつ、シドは答えた。
気付かれた様子はない。
ティクスの言葉にふと、疑問を持ったシド。

「・・・ティクス、今“休みでも”と言ったな。
・・・なぜその事を知っているんだ?」

まだ発表していないのだが。
だが彼はさらっとこともなげに答えた。

「そりゃ僕は“王族”だからね!
はーっはっはっは!」

・・・聞くんじゃ、なかった。

「・・・ところで、なぜダークを探してるんだ?
・・・また、からかって遊んでるのか?
彼の“事情”はお前も知ってるだろう?
いつでも出てこられるわけじゃないんだ。
・・・あまり、追い詰めるんじゃない。」

シドの忠告にほんの一瞬、笑顔の消えたティクスであったが。
次の瞬間にはもういつも通りであった。

「いやあ、僕の新作ができたから、
折角だし彼に着てもらおうと思ったんだが、逃げられてしまったよ。
あっはっは。」

「・・・新作・・?」

「この黒の主体としたワンピース(フリル付き)とか青のドレスとか、
黒と白の豪華なドレスとかだよ!!」

びらびらっ!!とどこからか新作の数々を出して自信満々に披露するティクス。
・・・四○元ポケットでもあるのか?
しばし唖然とするシドであったが、同時にまた疑問が浮かんできた。

「・・・どうして全て“ドレス”なんだ・・・?
ダークは男だぞ。」

「人気商品だからさー!!
彼の容姿ならば十分似合うしサイズも案ずる事なかれ!
心配は至極ご無用の門前払いなのさ、
はっはっはー!!」

彼の言葉にシドが心底あきれた、その時。

「お〜い、そっちいたか〜ティク〜?」

と声がして、大柄で背の高い、赤い長髪を後ろで縛った紫の瞳の青年がやってきた。
彼の名前はデネブ・フィスト。
ダークと同じ「チーム・デッドエンド」のメンバーでダークの従者なのだが・・・、
ちっとも従者らしくない性格だ。

「あ、シドさんいたんすか。
どーもこんちわ。」

と、いけしゃーしゃーと目上の人物にも気軽に接する彼は、
自分の主人も名前で呼び、平気でからかう。
・・・すなわち、全く、“従って”ない。
DS団には、己の従者をメンバーに引き連れたチームがいくつかあるが、
ここまで自分の主人に好き勝手するのは彼くらいのものだ。
この2人は「デネさん」「ティク」と互いに言い合う仲の良さで、
他にあと2人加わってマブダチカルテット(四重奏)なるものを結成している。
気の合う仲間同士が何となく集まったのだろうが・・・これがなかなか曲者揃い。

「シドさん、ちょっと聞きますけど、うちの主人見なかったっすか〜?」

「いや・・・、見てないが・・・。
君も参加してるのか?
自分の主人なのに・・・。」

「そりゃあほら、ほかならぬ親友の頼みっすから。
(自分が見たいというものあるけど)なあティク?」

「デネさん・・・、君の友情にもう僕は胸もお腹もいっぱいさー!」

「光栄だぜ・・ティクにそう言ってもらえるとは・・。
今夜はいい夢が見られそうだぜ・・。」

そうしてしばし見つめあい、「よし!」と親指を互いに突き出すと、
デネブとティクスは実に爽やか〜な笑顔を交し合った。

「・・何が、よし、なんだ??」

シドには彼等の行為の意味がさっぱりわからない。
・・まあ世の中、知らない方がいい事もある。
2人は何やらひそひそと話し合い、ここにダークはいない!・・と判断したらしい。

「「んじゃまたねシドさ〜ん!!バイバーィ。」」

声高らかに、はずんだ二重唱で彼等はあっという間に退散していった。

 

 2人の気配が遠ざかるのを確認すると、シドはふ〜・・と安堵のため息をつく。
それから机の下に向かって話し掛けた。

「・・・彼等はいったぞ、ダーク。
・・・もう大丈夫だ。」

だが、机の下からは何の反応もない。

「・・・・おい、ダーク?どうしたんだ?
もう大丈夫だぞ??」

シドがかがんで机の下をのぞきこむとーそこにはすかぴー、とのん気に寝てるダークがいた。
相当長い間、彼等から逃げ回った疲れが出たのだろう。

「おやおや・・元BD団内トラブル処理係の”死神(ジョーカー)”も、
まだまだ子供なんだな・・・・・。」

・・そう、彼はまだ心身共に正真正銘の子供だ。
こういう寝顔を見ていると、いつもの様な凶悪さが信じられんな・・・。
微笑むシド。
自分の上着を脱ぐと、健やかに眠る少年にそっと、かけてやった。

「仕方ない、しばらくこうしておくか・・後でアルビレオに連絡を取るとしよう・・。」

「チーム・デッドエンド」のメンバーで、ダークのもう一人の従者。
デネブとは全く対極な性格で、従者の鏡の様な少女だ。
ダークの体質の“秘密”に対して、最も上手く対処できる人物でもある。
彼女は大抵、主人と一緒に行動するからこの建物のどこかにいるだろう。

「ん〜・・・むにゃむにゃ。」

寝返りをうつダークの様子を優しく見つめながら、シドはふと呟いた。

「・・・シュダにも・・こんな頃があったな・・・。」

そして、兄は同じ血を分けた弟の事を、思うのだった。

 

 一方、本部の中にあるトレーニングルーム。
青い鉢巻き状のバンダナを巻き、毒々しく赤い目をした“怖い蛇顔”の青年が、
タオルで顔の汗をふいていた。
兄と同じ色の髪と瞳で、背は弱冠低く173pぐらいであろうか。
若干、猫背気味。
「ふしゅ〜」と息を吐くのが癖。
彼が「司令塔」(ヘッダー)、シドの弟でDS団の幹部、シュダであった。
コードネーム「毒蛇」(スネーク)。

フルネームはシュダ・ウィンディッツである。
彼の戦いはダークバトル中、最も卑劣な手段を使うと言われている。
一度狙ったターゲットをどこまでも追いかけ、いたぶり、ぼろぼろになるまで追い込み、
相手をただ負かすのでなく肉体的にも精神的にも多大なダメージを与えてからとどめをさす。
・・・一言で言うなら、「陰険」。
毒蛇とは彼自身が名乗っている名前で、自他共に「ぴったりだ」と認められている。
技の名前にも蛇の名前があるなど、とことん蛇づくしな性格。
彼のひねくれた性格は「天才」と呼ばれている兄と比べられ続けた事が原因らしい。
ウォリアーになる前には、すでにDS団に入っていたという。
趣味はナイフ投げ、特技はナイフの軌道を曲げて投げる「バイパー・ナイフ」と言う技。
いつも持っているナイフの数本には蛇の毒が塗ってあり、
かすっただけでもかなりの苦痛を味わうらしいが、死にはしないらしい。
万が一の為に血清を持ち歩いている。
また、いつもは毒を塗ってない方のナイフを使っているので安全と言えば安全だ。
だが、彼はキレやすい性格なので言動に注意しないと即座にナイフが飛ぶ。

 

その事に関して・・・以前、こんなことがあった。
彼が本部の近くに捨てられていた子猫を抱き上げている様子を偶然、目撃した一人のDS団員。
ある日、たわいもない世間話の中に、その事をかる〜く話そうとした、その時。

“ヒュンッッ!!”

風を切る音がした瞬間、何かが彼のすぐ横を通り過ぎ、
目の前の壁にびい〜んんん・・・・と、ナイフが深々と突き刺さっていた。
・・その団員は、思いっ切り、腰を抜かした。
恐ろしくて恐ろしくて、到底後ろを振り向く事はできなかったが、誰がやったのかは・・・・一目瞭然。
彼は、以後ものすっごく無口になり、
今も時折、何かにおびえるように後ろを何度も確認するらしい。
・・・いわゆる、トラウマになっている。

 

・・・弟シュダはつまり、兄とは全く逆の性格だ。
とにかく暗く、陰険でキレやすい。
だが、そんな一方で動物好きで、かなりの努力家とも言われる。
実際、彼は動物を飼っている。
いわゆるペットだ。
部屋には大きな水槽の中に、これまた大きなニシキヘビがいる。
また、放し飼いで時々基地内を彷徨いている飼い猫にかなり懐かれている様子が、たまーに目撃される。
動物の世話が得意らしい。
・・・なんか信じられないが、これも事実である。
シドに続きダークバトルに「チーム・ガンナーズ」という名で参戦するようになった彼は、
今までに5件、ダークバトルをこなしている。
最初の3件は相手のゾイド、ウォリアーともにひどい重傷を負わせ勝利をおさめた。
そのうち1件で連盟のダークバスターと遭遇したが、壊滅させた。
だが5件目にして逆に罠を張られた。
「チーム・ブリッツ」と「チーム・フリュ−ゲル」。
4戦目の時にとどめをさし損ねたウォリアー、アスカ・ファローネと
新しく生まれ変わった相棒、“王狼 ケー二ッヒウルフ”。
彼等の手により、シュダは見事に返り討ちにあってしまった。
・・・初めての敗北。味あわされた屈辱。
彼は今、次のバトルまでに力を上げようと、日夜トレーニングに励んでいる。
毎日毎日、演習用のレブラプターがかなりの数、破壊されている。
努力家の彼は、毎日毎日血のにじむような猛特訓を重ねていた。
いつか、努力が天才を超える時が来る事を、信じながら。

しかし、どんなに鍛えられた肉体だろうと腹は減る。
シュダは食堂へつながる通路をすたすたと歩いていた。
すると・・・・・。

「うっうっう・・・・。」

こげ茶色の長髪、白衣を着た少女がなにやら激しく思いつめた表情をして、座り込んでいる。
通路の真ん中にいるので、そのまま避ける事は出来ない。
シュダは仕方なく、彼女に声をかけてみた。

「おいこら。
俺の目の前で何やってんだ?」

「ヒイイィィィッ!!
止めないで下さい止めないで下さい!!
わたしは今日こそ本気なんですゥゥ!!」

途端に少女が顔を引きつらせものすっごい反応を返したので、シュダも思わず飛びのきそうになる。
・・俺とした事が・・・。
ところでこいつ、誰だ??
彼女の名前はブラック・ルシアンといった。
もう自分の上司に苛めて虐めていじめられ続ける哀れなこの少女は、ついに決断し、
小刻みに震える手で何かを書いていた。
当然、字はものすんごく震えており、所々に涙が落ちてできたシミがあった。
シュダがその方に目をやると、それにはこう書かれていた。

『私を捨てたお父様お母様・・・。
先立つ不幸をお許しください・・・。
ルシアンはもう某上司たる博士のイジメに耐えられません候・・・。』

遺書か・・・・?
シュダはふしゅ〜・・・と、彼独特の息の吐き方をした後、こう言った。

「あのな、少し落ち着け。
こんな所で死ぬんじゃねえ。
通行の邪魔だろーが。」

いや、そういうレベルの問題でもない気がするが・・まあ、この際置いておこう。
卑劣で情け容赦ない行動の数々で恐れられ、嫌われているシュダではあるが、
兄が語るとおり、根は優しいのかもしれない。
動物に好かれてる人に、悪い人はいないとも言うし・・・。

「うっうっう・・・・。」

尚も鳴き続けるルシアンに、シュダは気を確かに持てと言い、
何でそんな風になったのかと理由を聞いてみた。
今日中に本部に届けなければいけない書類があるのに、
彼女の上司・・・フローズンがまだ書いていないまま、今どこにいるか分からない状態。
いわゆる“雲隠れ”。
もう絶望一直線のルシアンはDS団の通路で自害をはかろうと・・・。
と、そこへ。
場の緊張感をまるで無視した、お気楽極楽な声がかけられた。

「おやどうしたんだいシュダ君?そんな所で?」

その途端ルシアンが絶叫した。

「ちっくしょう馬鹿博士っ!
どっから出てきやがりましたぁ!!」

そこには白衣の女性が立っていた。
自称「天才科学者」。
一体いつからのばしてるんだ、お手入れはどうしてるんだ?
と突っ込まずにはいられない程の長さの蒼い髪を、ポニーテールでかなり高い位置で結んでいる。
それはすぐにでも地面に届きそうな感じである。
目は丸いサングラスをかけているが、美人である。
コードネーム「蒼」(ブラウ)。
フルネームはフローズン・ブルー・マルガリータ。
かつてBD団において最高の地位を持った七人委員会。
その彼等から一目置かれていた優秀な幹部であり、科学者である。

彼女は専用のホエールキング『リキュール』を持つ。
艦長的な存在である彼女をいれ、搭乗員は約150人。
クルー達は「テキーラ」「ウィスキー」「ブランデー」「ジン」「ウォッカ」「ラム」と言った
それぞれの専門分野のチームに分かれている。
彼等はほとんどルシアンの様な捨て子であったり、もしくは犯罪者などだ。
他にも生い立ちは様々だが、ほとんどがフローズンに助けられた人たちである。
こう言うとなかなかいい人の感じなのだが・・・、
実は、フローズン自身は長々と人の嫌なことや恥ずかしい事を口で長々と説明するクセがある。
それは同時に彼女の好きなことでもあった。
そしてかなりの快楽主義者。
助手であり、その奇抜な性格にも何とかついてきている一人、ルシアンは博士に日夜、泣かされ続けている。
彼女ばかりそんな目に合う理由は、とても簡単だ。

「だってからかうと面白いんだもん。
君の他にはそうだねえ、ラオン博士やルーにレイル達をからかうのも面白いね。」

・・・と、あっけらかんと述べる博士。
さすが天才と言うか・・・なんと言うか。
ちなみに、フローズンは先ほどのマブダチカルテットの3人目である。

 

ティクス、デネブ、フローズンと続き、残る一人は誰か?
・・ちょっとここで説明しておこう。
カルテットの最後の一人は彼女の兄、アドニスである。
彼についてこの際、ここで紹介しておこう。
今日はいないし。
アドニスはライオンのような赤い髪と、金と赤のオッドアイが特徴的な青年である。
しかし普段はバイザー状のサングラスをかけ、この瞳を隠している。
ちなみに、フローズンは青い長髪に緑と青のオッドアイ。
・・・・凄いくらい、目立つ兄妹なのである。
彼のコードネームは「紅」(ツィノーバ)。
フルネームはアドニス・フィースト。
基本的には妹と似た性格だが、ティクスとデネブが加わると彼等の世話役になってしまう。
ティクスは彼を一番尊敬し、「フィーさん」と呼ぶ。
デネブは「ア」ドニス・「フィ」ーストだから、「アフィ」と呼ぶ。
「ティクス、五月蝿いから止めろ」とか「デネブ、主人を玩具にするな」と彼が言うと、
彼等は異常なほど大人しく、いう事を聞く。
正に鶴の一声。
・・・彼については、このくらいにしておく。
後は彼が実際に登場したときに、見てみるといいだろう。

 

フローズン達はBD団壊滅のきっかけとなったロイヤルカップ・バトルジャッジの時は全員休暇中で、
南にバカンスを楽しんでいた。
だから捕まりはせず、その後DS団にスカウトされたのである。
『リキュール』のクルー達の間ではチーム・ブリッツなど密かにファンがいると噂が出て、
早く彼等と楽しくダークバトルをしたいと言ってるらしい。
・・楽しくダークバトルって、何なんだろうか???
・・まあ、それはこの際置いておく。

ちなみに、この『リキュール』艦内にはもう一人、
DS団のウォリアーが従者と共にお世話になっている。 
彼女はフローズンがお守りをしている子であって、
コードネームは「女王」(クイーン)。
BD団最高位にいた一人、伯爵の孫娘である。
名前はルイネ・ファースト。
そして彼女にはメイド2名、執事2名の4人がいる。
名前はシエル、ルールー、クライン、レイルという。
クラインとレイルは男性である。
・・ここでさらに、説明を加えておく。
この『リキュール』艦内にはなんと、彼等二人『だけ』しか男性が、いない。
正に花園!両手どころか周り中に花だらけ!!状態である。
それについて艦内では色々、問題があるのだが・・・そろそろ話を戻そう。
ルイネ達については、また後でくわしく語ることにする。

さて、両手を白衣の、ぶかぶかのポケットに突っ込んだ状態のフローズンは、
ルシアンの絶叫にものほほん、としている。
今までどこで何をしてたのか、と訪ねられると、彼女は答えた。

「散歩してたの。」

あっけらかんと答える博士に対し、またまたルシアンの絶叫が通路中に響く。

「散歩はええから書類っ!!
書類ギブミーーー!!」

血でも吐きそうな勢いだな・・、
シュダはつい、そんな事を考えた。

「原稿〜〜〜?
そんなのできてるわけ無いじゃん。」

「・・・・・へ?」

フローズンの言葉にぽかん、とする助手。

「原稿、できてないよん♪
全然やる気が無いから書けないよ〜そんなの♪」

「それやばくないか・・・。
アニキになんか言われるぞ・・・。」

シュダが思わず突っ込む。
ルシアンはムンクの叫びのごとく“ひいい〜〜っ!!”と青ざめた後、またもや一際高い声で絶叫した。
今度はまるで、心臓が鼻から飛び出すんじゃないかと言わんばかりである。

「書けないじゃないですゥゥ!!
そんな事したらもう私生きていけません!!!
書いてくださいいいイイィィイィィィィ!!!
何、語尾に楽しそうに♪なんかつけてるんですかああああああああ!!!
いやああああああああああああ!!!」

「え〜嫌だなあ。面倒くさいなあ。」

助手がもはや魂まで飛び出そな寸前の勢いでさかんに叫ぶのに対し、
のん気にぽりぽり頭などをかいているフローズン。
ルシアン・・・虐められすぎ、あまりに・・・・哀れである。
見てるこっちが・・・なんつーか・・・イタイ。痛すぎる。
その光景をしばらく見ていたシュダだったが、
やってられん、とばかりにチ!と毒々しく悪態をつくと、
ど修羅場続くその場をさっさと通り過ぎ食堂に向かった。

「・・・たく、もう知るか!!!」

ホントにな。

 

それから約1時間後の事。
食事と休憩を終えたシュダは、再びトレーニングルームへと向かっていた。
すると向こうから、機械油や培養液の染みと匂いをまとわりつかせ、
右目に片眼鏡をかけた白髪の中年男性が歩いてきた。
彼の名はアンタレス。
フルネームは不明。
コードネーム「隠者」(ハーミット)。
彼もまた、かつてBD団に所属していた幹部で、科学者の一人である。

ゾイドの研究開発部門の担当。
独自の理論を固く信じ、その他は一切受け入れず、
基本的に自分以外の人間は愚かだ、と思っている、救いようのないマッドサイエンティスト。
日夜研究室にこもり、滅多に外に出ない事と、
やりたい事だけやって責任や失敗は全て他人になすりつける。
彼の頭脳は確かに優秀ではあるのだが、人間として大いに問題のある人物だ。
他の団員とは当然、仲が悪い。
その点ではシュダをも上回るであろう。
同チームのメンバー達は彼にとって、大事な実験台の“過程”に過ぎない。
ダークはそれを知りつつも、あえてのっている。
・・彼自身の目的の為に。
デネブとアルはダークの従者であるから一緒にいるだけである。
シュダでさえ彼を「薄気味悪い野郎」と思うし、
同じ科学者であるフローズンは彼の名前など口にしたくない、と言って「あれ」呼わばりしている。

「私と“あれ”なんかを断じて一緒になんかしないで欲しいね。
“あれ”の研究はあまりに美しくないし、面白くもないね。
“あれ”と同一視されるのは、全く持って心外だね、不愉快極まりないね。
人権侵害だよ。」

最もアンタレスも始めから彼等を相手にしていない。
彼が興味があるのは、己の実験に関しての事のみ。
ダークの頼みを聞くのもDS団にいるのも、単に実験をスムーズに行う為だけ、それだけだ。
・・・・本当にやな奴だな。

シュダは彼を見て一瞬ぴく、と眉を動かすが、そ知らぬ感じで通り過ぎようとした。
だが、すれ違い様に、向こう側から声をかけられた。

「お前さん、前のダークバトルで負けたらしいな。
・・・・どうじゃ、わしの実験にそろそろつきあう気にはならんかね?」

シュダは振り向かずに即答した。

「てめえのうさんくさい実験に、興味はねえ。」

アンタレスの研究とは、“最強最高のゾイドの力”。
彼はそれを“ゾイド本来の凶暴性の解放、すなわち原始への回帰”にあるとしている。
人の手、人の意思を越えた姿のゾイドこそ最も強く、最高の力を発揮する。
そう考える彼は、ゾイドの凶暴性を故意に引き出し攻撃力をあげる
「デッド・ドライブ・システム(通称DDS)」を開発、
自らが所属するチームのメンバー、ダークの機体に実験的に搭載している。
だがパイロットは子供。
体力と精神許容量の限界があり3分しかもたない。
よりよいデータを多く取るため、精神力はDS1といわれ、
子供ではないシュダに前々から声をかけているが、彼にその気はさらさら、ノミの毛ほどもない。

「やれやれ・・・お前さん、天才と言われた兄を越えたいのじゃろ?
強くなりたいんじゃろう?」

その途端、シュダは壁をだん!!と拳で叩き、ぎろり、と鋭い目線で彼を睨んだ。

「それ以上言うと、本当に殺すぞじじい。
・・・俺は自分の力で、いつか兄貴を越えてやる。
あきらめねえぞ、絶対にな。
・・・・確率が何百分の一だろうが、何万分の一だろーが、
絶対あきらめねえぞこら!」

声を荒げてそう告げると、すたすたとその場から去っていった。
へこんでしまった壁の部分を冷ややかに見つめながら、アンタレスは呟いた。

「・・ふん、愚か者が・・・。
何もわかっとらん、どいつもこいつも・・・。」

彼は思い通りにいかないと爪を噛むくせがある。彼の爪は常にぼろぼろだ。
アンタレスは忌々しげに左の親指の爪をかじると、シュダとは逆の通路を歩いていった。

 

 さてさて、暗くイヤ〜な感じから一転して、場面は変わり。
先ほどチラッと紹介した、ルイネの出番である。
もう一度、彼女の説明をしておこう。
コードネームは「女王」(クイーン)。
BD団最高位の一人、伯爵の孫娘。
フルネームはルイネ・ファーストだが、本名ではないらしい。
銀髪に赤い瞳で、白く長いワンピースをいつも着ている。
普段は冷静沈着だが、怒ると誰にも手がつけられないらしい。
ずば抜けたゾイド操縦の腕を持ち、特に第六感が優れており「未来位置」が測定できる。
この能力は元BD団の最強ウォリアー「王」(キング)、ベガ・オブスキュラも持っている。
ルイネは現在ビット・クラウドに熱を上げており、彼とバトルをしたい〜!と猛烈に願っている。
ビットの恋人であるリノン・トロスは大嫌い。
彼女は魔装竜、ジェノブレイカーと少し関わりがあるが・・それは、この場合置いておく。
シエル、ルールー、クライン、レイルという4人の従者がいる。
普段はフローズンがお守りをしており、
彼女とその兄のコードネームを用いた
「チーム・ブラウ」と「チーム・ツィノーバ」という専属のチームがある。
以上。

ルイネは暖かな日差し差し込む部屋で、のどかにお茶を飲んでいた。
・・・とても、幸せそうである。

「オレンジペコにいちごジャムをいれると幸せの味がするんだって、ノエル。
おいしそうだね。」

「そうだねェ。
クッキーもおいしいねェ。」

向かい側の席に、長めのセピア色のショートヘアー、リーフグリーンの瞳をした、
ルイネより小柄な女の子がお茶菓子のクッキーをほおばっている。
・・こちらもとても、楽しそうである。
ああ、なんかいいねえ〜この感じ。
心安らぐねえ。

ここで、ルイネが「ノエル」と呼んだこの少女について説明しよう。
彼女はルイネの従妹で、フルネーム、ノエル・ファースト。
コードネーム「堕天使」(ルシフェル)。
性格を簡単に述べれば「子供らしい子供」である。
子供特有の無邪気さと残酷さ、わがままさと素直さを併せ持ち、自分にも他人にも正直に動く。
ゾイドに関しては一言で言うと、「愉快犯」。
ゾイドを「おもちゃ」、バトルを「遊び」と考えている。
好きな事は強い人とゾイドバトルで遊ぶ事、趣味はゾイド関連のゲーム。
どんな人にも自然体で近づき、その可愛らしい姿に多くの人の警戒心は消えうせる。
ルイネは彼女の事を「間違いをちゃんと認められる、いい子なんだよ。」と語る。

「おいしいね。」

「のどかだよねェ・・。」

ほのぼのほのぼの〜・・とルイネとノエルがの〜んびり、していると。

どどどどどどどど・・・・・!!どすどすどす、バタン!!

突然、馬の大行進並みの騒々しい足音が近づいてくると、
彼女たちの部屋の扉が大きな音と共に開き、
デネブとティクスが文字通り、転がりこんできた。
その顔は笑っているが・・・・青ざめている。

「お、悪い!
ちょっとお邪魔するぜ!!お譲ちゃん達!」

「おお、わが愛しの妹、ルイネに従妹のノエルではないか!
乙女達の優雅で可憐で華麗に素敵な、
少し甘い内諸話などもそよ風に聞こえてきそうな
ティータイムのひと時を邪魔してしまってすまないねー、ハッハッハッハ!!」

ティクスとルイネは兄妹である。
「皇帝」の妹が「女王」・・・・王族だ。
ノエルは無礼な来訪者に対し、ぶ〜、とむくれた。

「っもうゥ!!楽しい時間が台無しなのだッ!
“お嬢ちゃん”って呼び方、失礼だよッ!!」

「この際細かい事の一つや二つや三つや四つ、こだわるなよ〜ノエルちゃん?」

「ノエル、君の事だいっ嫌いだッ!!」

デネブを指さして怒る。
一方ルイネは比較的落ち着いており、兄に事情を尋ねた。

「兄さん、一体どうしたの?」

ティクスが答えようとした時。

ダキューーーン!!

突如銃声が鳴り響き、弾が彼等のすぐ横の壁にめりこむ。
扉の向こう側から発砲した人物が、ゆ〜っくりと中に入ってきた。

「き〜さ〜ま〜ら〜・・・・。」

やってきたのはフリルびらびらのかっわいいネグリジェ、かっわいいナイトキャップ姿、
背中に可愛いテディベアを背負った、黒髪に黒い瞳の東洋系の美少女。
彼女の名前はアルビレオ・ノクターン。
シドが先ほど言っていた人物である。
主人と尊敬する人物以外には丁寧だが、無口で無表情。
ピアノと料理を得意とし、心優しく、一途で真面目な性格だ。
彼女の射撃の腕は「紅き閃光」ナオミ・フリュ−ゲルに匹敵するといわれる。
・・・彼女は今、その手に愛用のライフルを構えている。
目の輝きが尋常でない。
正に怒りメガロMAXな状態であった。

「うっわァ〜!
アルビレオの服、可愛いよううッ!!」

「あれ、兄さんの作った服でしょ?
いつもいつもすごいねえっ!!」

ノエルとルイネの感激の言葉に反応する製作者、ティクス。

「そうだろうそうだろう!僕はスゴイのさっ!!
どうだいデネさん、君もこんなボクにもっと賞賛の言葉をかけていいのだ・・・」

ダキューーン!!

「・・・五月蝿い、黙れ。」

また一つ、壁に弾痕が開く。
全員が凍った。
アルはデネブにつかつかつか、と迫り、ライフルを彼の額の真ん中に押し当てた。

「デネブ・・・・何で私はこんな格好で寝てたのか全て白状しろ!!
でないとその脳みそに鉛を投入するっっ!!」

引き金には指がかかり、いつでも発射オーライの状態。
・・・怖い。

「えー、そんな事されたらシエルとルールーが掃除大変だし、やめて欲しいなあ。」

ルイネ・・・そういうレベルじゃない気もするが・・・。
まあ、この際置いておく。
同じ主人に仕えるデネブとアルビレオだが、仲は・・・悪いらしい。
デネブの不真面目さにアルビレオが怒るといった定番のパターンだ。
彼のほうは何度怒られても
「ア〜ルちゃん、怒ったら美人が台無しだぜ。」と言って、反省の色無し。
・・・・結果、悪循環が続いている。
・・・今回は、さらに輪をかけ、悪化の一途をたどる。

「いやティクスの新作を見に行ったらな、
突然な〜んかお前のメイド服以外の格好も見てみたいと思ってな、
お茶に少々睡眠薬を入れて眠らせたのは俺で、
でも着替えさせたのはこいつ(ティクス)の従業員たちで・・・。
あ、俺もティクスも着替えとか見てないからなっっ!!
安心しろよっ!!」

白状しだすデネブと、助け舟か追い討ちかわからないティクスの言葉。

「デネさんが僕の素晴らしき作品の数々を大いに褒め称えてくれた後に
”アルのこういう可愛い格好を見てみたいな〜”と言ったものでね、
僕も“それは僕も見てみたいね〜”と同意してね!
ほらよく言うではないか、善はすべからく速効で急げと!
いい言葉だよねっデネさん!!」

「だからってシルク100%でほんのりピンク、
丈は長めがお気に入り♪のこのネグリジェはちょっとやり過ぎだぜ〜!!
せめて桃まん両手に持ってにっこりうちの店にいらっしゃいませ〜1名様ご案内〜♪の
ドキドキ♪スリット入リ桃色チャイナドレスくらいに・・・・・・・・あ。」

もう救いようないわあんたら。(by「天の声」)

『その時・・・少女は正に、鬼と化したのです。』

「話は・・・・・よ〜く・・・わかった・・
貴様等、今すぐまとめて息の根止めてやるっっっ!!!」

カチャッ。
・・・アルはライフルをかまえ、彼等を睨んだ。

「うっわ〜んッ!!
アルビレオが怖いよおおおッッ!!」

おびえるノエルに近寄ってよしよし、とルイネが慰める。

「うわ待て待て待てって!!
ここにはルイネとノエルもいるんだぞ!
こ〜んな可愛い子達の前でそういう物騒なもの使うのはどうかな〜と・・・・」

が、すでにもはや後の祭り。
塩ゴマ程も聞いちゃいない。

「問答無用!!!!!」

「デネさんっ!
これはもしかして少々気まずい状態かねもしかしてっ!?
僕とした事がしくじってしまったよ!!」

「もしかしなくても、きっとそうだぞ〜!
ティク!!逃げろっっ!」

「逃がすかあああああっ!!」

ダキューン、ダキューン、ダキューン!!

続けざまにライフルを撃つアルビレオ。必死で逃れるティクスとデネブ。
巻き込まれたルイネとノエルはテーブルをバリケードにしていた。

「うきゃあァ!やめてよおッ!」

「兄さん!!危ないから外に行ってっっ!!って言うか行けっ!
ったくも〜う!
クライン!シエル!ルールー!レイル!
どうにかして!!と言うか黙らせてっ!!」

ルイネが自らの従者の名を叫ぶと、瞬時に2人の男性と2人の女性があらわれた。

「あの人たちを何とかしてっ!」

そして・・・・・・・すったもんだの大騒動。

 

騒動から逃げ出したティクスとデネブは、通路を走っていた途中、
曲がり角からきた人物と正面衝突した。

どっし〜ん!!!

「うわ!いって〜!!」

「大丈夫かいデネさんっ?!」

「どこ見て走ってやがる・・・。てめえら。」

なんと、ぶつかったのはシュダであった。
ギロ、と2人を睨む。
普通の子供ならまず泣いている、いわゆる“ヘビ睨み”。
だがティクスは全全大丈夫と言う感じで、逆にシュダにすがりついた。

「うわシュダさん!なんていい所に!
これぞ正に天の恵みだね!
君の力で僕達を助けておくれ〜!」

そう言うと彼は後ろに隠れた。

「はあ?てめえらいきなり何言ってやがる?」

「おい、来たぞティク!!」

途端に2人はシュダを追い越してそのまますたこらと走り去った。

「おいこら、てめえら一体何を・・。」

ダキューン!

銃声と共に横を弾がかすめていき・・壁に弾痕。

つ〜・・・・・・と、シュダの額の横、こめかみにうっすらと血が流れ出す。
ほどなくして尋常でないオーラを放つアルがやってきて、シュダに目もくれずに追い越していった。

「き〜さ〜ま〜ら〜・・・逃がすかあああああ!!」

どどどどどど・・・・・・。

しばし動かなかったシュダだったが。
「・・・ふっ」と実に爽やかに毒々しい笑顔を浮かべた後、かっ!と目を見開く。

「てめえらあああああ!!
いい度胸してやがるなああ!」

アルと一緒になってナイフを投げ、2人を追いかける・・・状況悪化。
・・まさに“やぶをつついて蛇を出す”。

「げっ!
なんかシュダさんまで俺たちを追いかけてるんだけど、なんでだあ〜?!」

「さあ?
人気者は誰しもが放っておかないという事だろうねっ!
はっはっは、人気者はつらいねー、はっはっは!」

どこまでもお気楽極楽快適無敵、天上天下唯我独尊。
マイペースな2人であった。

 

・・・・この騒動で、アルビレオとシュダが基地中の壁に銃とナイフの跡をつけ、
所々血の惨劇などもおき、それらの壁の修理費、ゾイドについた傷の修復費、
巻き添えを食らった団員達の治療費(血清費含む)、その他壊れた機材の修理費など・・
それらの請求書は全て、シドに回ってきたと言う・・・・。

「・・・シュダ、お前まで何をしてるんだ・・・・。
ダークサテライトが治るまで・・。
大丈夫だろうか・・。」

はあ〜・・と暗く重いため息をつくシドであった。
頑張れシド、負けるなシド、あと2日。
明日がある〜さ明日がある〜♪

 

そして、騒ぎの原因となったティクスとデネブは捕まって、
アルにきっついお仕置きをくらおうとしていた。
だがティクスは寸前で自分の従者に救出され、難を逃れた。

「あ〜ずるいぞティクだけ〜!!俺も俺も〜!」

「ああ、すまないデネさん・・!往生してくれ!
大丈夫、君の事はこの僕が一生忘れないでこの胸に深く深く刻んでおくよ・・
ではまた会おう!デネさん!」

「ティクゥゥ〜〜〜!!
お前と俺の友情は永遠だぜ〜!!」

「うるさい、静かにしろ、黙れ。」

いつものメイド服を着たアルがいつのまにか立っていた。

「実に美しい友情で、微笑ましいな・・デネブ。
ではその礼に・・・その薄汚れた精神、友人の分まで鍛え直してやる。
・・・よくも人を着せ替え人形にしてくれたなっ!」

「うわあああ!
アル、俺が悪かった、今度はお前の意見もちゃんと聞くから勘弁してくれ〜!!
それに似合ってたし、いいじゃねえか〜!!」

「目障りだ・・・・・・消えろ。」

カチャ、と何かが装填される金属音が鳴り響いた。
・・・・この後、彼がどうなったかは、ご想像にお任せします・・・・。

 

これは、謎多き闇組織、DS団のとある一日を記録した、貴重な報告書である。
現在、本書以外にそれに関する資料は、全て抹消されている。
・・・・置きっ放しの問題については・・・この際それも置いておくとして。
以上、報告終わり。

END

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あとがき

こんにちわHAZUKI様!
BBSでの楽しきキャラ交流を元についに今回の話を作ってしまいました。
DS団員達のある日の話です。
毎日こうじゃないとは、思います(当たり前じゃ!)
この後シドさんは
「今後同じ様な騒動が起きたら、
一切の弁償は騒ぎの張本人の給料、もしくは自腹で出すように」と命令しました。
・・・当たり前ですね・・。
シュダさんも払ったのかしら・・?と気になったり(汗)
うちのアルは払いました(大汗)
デネブは給料全額没収(うおおお)
ダークはシドに助けられたので、恩返しで資金に上乗せして送りました(借りは返す)
ティクスはどうしたんでしょうか・・・?(聞くのが怖いんだが・・・)
今回の作品を書くにあたり、桜神様、葉月さくら様に大変お世話になりました!
ありがとうございます!m(__)m
色々御忙しい仲、本当にありがとうございます!
それでは、BD団のボケボケも見事に引き継ぎ、
パワーUPしたDS団!(違うだろ!)の話、送ります。
お受け取り下さい、HAZUKI様。
では、失礼します。


初心者さんから頂きました。
今ここに、最高のコメディが誕生。
あ〜、久々に大笑いした。
シドとシュダまで出していただいて、本当感謝してもしきれません!!
やっぱりDS団内のお父さんですね、シドは。
面倒見がよく、物事を冷静に対処、結構美形、
早く彼女が出来ればいいんですが・・・。
そして、シュダ。
たぶん払ったと思います、嫌々・・・。
シュダも顔立ちはいいんですが、性格が顔に出たのかヘビ顔に・・・。
でも、努力家の彼は・・・、もてるのか?
まぁ、それはおいといて・・・、やっぱり蛇ですね・・・。
「藪をつついて蛇を出す」が凄くうけました。
ちなみに彼の猫と蛇の名前は「リネア」と「バイプ」です。
彼がバトルでいないときはミレスが世話してるとか。
あと、ノエルやルイネ、ティスクやデネブ、アルとダークもご苦労様です。
これだけの人で出来た小説も凄いのでは。
次回はミレスも出して欲しいです〜。
次回があればですけど・・・。
初心者さん、ありがとうございました。

 

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