「悲しい勇気」
『忌々しい』
『子供をすり替える醜悪な雌豚の子』
『お前なんか跡取りに相応しくない』
なんで?
なんでそんなこと言うの?母様。
『お前に、母と呼ばれたくない。
お前なんか私の子じゃない。
お前なんかイラナイ、必要ナイ』
お母様は私がイラナイの?必要ナイの?嫌いなの?
『私の子はレミだけ。
お前なんか、大嫌いよ』
やだ・・・嫌だ・・・・・
おいてかないで・・・・
一人にしないで・・・・
いや・・・・いやだあああぁぁぁぁぁぁ!
バッ
「っは・・・・はあ・・・
ゆ、夢・・・・だよな?」
悪夢に飛び起きたセリエルの体は汗に濡れて冷え、息は荒く乱れていた。
−なんで、あんな夢見るんだよ。割り切ったはずなのに−
彼女が見た夢は、彼女に多大な影響をもたらしたあのときの、夢。
実の母親だと信じていた人に捨てられた、あのときの・・・・。
「・・・・・・シャワー、浴びよ」
彼女はそう言うと、部屋に備え付けられているシャワールームへ足を向けた。
−なんか、スッキリしない・・・・−
彼女はシャワーを浴びて、ベランダで夜風に当たっていた。
濡れた長めのショートカットが少し冷たい夜風に揺れ、
気持ちいいはずなのにどこか落ち着かなかった。
−やっぱ、さっきの夢かなぁ−
そう考えながら手すりに突っ伏していると、後ろからみーと小さな鳴き声がした。
「セル?」
それは彼女が飼っている、銀色の瞳をした小さな黒猫のセルのものだった。
「なんだ、お前起きちゃったのか?
ほら、おいで」
セリエルが手招きすると、
セルは手すりに飛び乗って『どうしたの?』と、問いかけるように見上げてきた。
「んー、ちょっとやな夢見ちゃってさ。
聞く?」
セリエルはまた手すりに突っ伏すと静かに語りだした。
「私は今だからこんなだけど、セルが来るずっと前は超がつくくらい暗かったんだ。
母様に、『お前なんかイラナイ』って言われて、殴られたから。
すっごいショックだった。
あの優しい母様が、あんな子というなんて思わなかったから。
私が本当の娘じゃなくても、前と同じように暮らせると思ってたから。
ホント、あの頃は泣いてばかりいて、人が信じられなくなってた。
父様やレミとまともに目が合わせられないくらいに。
母様になんか目を合わすどころか、会うことも出来なかったし、しなかった。
しばらくそんな感じだったんだよ。
でも、判ったんだ。
なんで母様があんな風に私を罵ったのか。
『自分が許せなかった』んだ。
母様は少なからずレミを憎んでいた。
当たり前だ、愛する人の、自分じゃない女の子供なんだから。
でも、その子は自分の本当の娘で、娘だと思っていた子が自分じゃない女の子供だった。
自分の本当の子供を憎んでいた自分が、
自分の本当の子供だと気付かなかった自分が、『許せなかった』。
その怒りを、本当に憎むべき私に向けた。
ただそれだけのこと。
だから、私は文句言える立場じゃないんだ」
そこで、話は終わった。
セリエルが振り絞ったのは、自分のためという悲しい勇気。
静かに聞いていたセルが悲しそうにみーと鳴いて、セリエルにすり寄った。
セリエルの視界がゆがんだ。
気付かぬうちに、銀色の目から涙があふれていた。
「でも、辛い、辛いよ・・・・。
なんで私が捨てられるんだよ・・・・。
私は、何も悪いことしてない、なのになんで、なんでなんだよぉ・・・・・!」
セリエルは突っ伏していた手すりからずり落ち、泣いた。
殺しきれない声が漏れて、
それでも必死に押さえて泣いているセリエルのそばで、
セルは慰めるように鳴いていたいた。
後日、セリエルはダークバスターに入った。
本気で戦っている間は、全てを忘れられる。
でも、普通のバトルじゃ本気になれないときもある。
だから彼女は、ダークバスターに入ることを選んだ。
違法ルールを使う相手なら、本気にならざるえないから。
そして、死ねる可能性があったから。
だが、彼女は知らない。
ダークバスターに入り、色々の人と出会い、自分が変わっていくことを。
彼女は知らない。
そこで、“彼”と“恋すること”を知ることを。
END
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アトガキ
/0第2部の少し前当たりのセルの心境です。
セルがあそこまで自分を取り戻せたのは、割り切るという手段をとったから。
本当は割り切れないけど、自分のために、無理矢理割り切った。
でもやっぱり辛いから、それから逃れるためのダークバスターに入った。
泥沼な気がしてならないのは俺だけでしょうか?
まあ、ダークバスターに入って色々な人(ケイン達含む)に出会って彼女も変わりますけど、
やっぱり一番影響してるのは“ヤツ”でしょう。(笑)
ここまで読んで下さってありがとうございました。
千夏さんから頂きました。
本当に暗いのが多いですね。
私はあまり好きではないのですか・・・。
ケインやシュダに触れ合って(シュダに触れられるのか?)、変わっていって欲しいです。
・・・本当にシュダが心配なんですけど・・・。
千夏さん、ありがとうございました。