「悲しい祈り、密やかな誓い」

 

「お前、最初に俺に言ったよな?」

『なにをだ?』

主語のないアレスの質問に、困ったように聞き返す。

「『俺は探し出して守らなきゃならない人がいる。
封印を解いてくれたことには感謝しているが、その方が見つかれば、お前と別れなきゃならない』って」

『ああ』

デスは思い出したように返事を返した。

「・・・・・・・・・」

その返事にふてくされるように何かを呟いたが、デスの耳には届かなかった。

『なにか言ったか?』

「なんでもない、おやすみ!」

アレスは逃げるようにコックピットにある毛布に潜り込む。
すぐに静かな寝息が聞こえてくる。
デスは腑に落ちない様子だったが、アレスが本当に眠っているらしかったので、
コックピットの明かりを消し、自らも姿を消した。

 

 夢を見た。
父さんが、死んだ前の晩の夢。
俺は父さんのそばでその日のことを話していた。
くだらないことばかりだったけど、父さんは静かに聞いてくれていた。
ふと、父さんが口を開いた。
出てきた言葉は、謝罪の言葉だった。
俺は、『なんで謝るんだよ』って聞いた。
謝られるようなことなんか一つもないのに、むしろ俺が謝らなきゃいけないこと、たくさんあるのに。
父さんは言った。

『アレス。
お前は、俺の本当の子供じゃないんだ』

って。
信じなかった。
いや、信じたくなかった。
だって、俺が父さんの子じゃなかったら、誰なんだよ。
俺は何者なんだよ。
父さんは静かに話してくれた、全てを。
俺が遺跡のある森の木の根に座って泣いていたとき、父さんに拾われたこと。
アレスという名は、名前と聞いたときに俺が自分で言った名だということ。
そして、俺が父さんの養子になったということ。
最後まで、全部聞いた。
途中から涙が流して声を上げずに泣いていたけど。
俺は、そのまま父さんの部屋のテーブルに突っ伏して眠った。

 

 目が覚めて父さんの方を向いたとき、父さんは死んでいた。
血を吐いたのだろう、ベッドが血で真っ赤に染まっていた。
なんで起こしてくれなかったのだろう、苦しかっただろうに。
なんで見取らせてくれなかったのだろう、受け止めたかったのに。
俺は泣いた、昨日上げられなかった声を上げて。
泣いて、泣いて泣いて泣いて、泣きやんだときに父さん言葉を思い出した。

『強くありなさい。
自分の好きなように生きなさい』

『わたしは、お前の父親になれて、
お前という子供を持てて、幸せだったよ』

俺は、父さんの葬儀がすむと村を出た。
父さんの遺言を守るために、見てみたかった広い世界へ。
自分を裏切らない、相棒を探して。
やっと見つけたデスは相棒じゃないから。
いつか、俺を置いていってしまう。
俺はデスに、デスの大事な人が見つかるまで利用されているだけなんだ。
野良ゾイドが1人でいたら、捕まって売り飛ばされてしまうだろうから。
だから、俺もデスを利用する。
自分のゾイドが見つかるまで、一緒にいるだけ。
デスの大事な人が見つからないように祈りながら。

 

 夢を見た。
主が俺に望みを託し、デスザウラーを止めに行った夢。
とはいっても、ゾイドが見る夢は、過去のメモリーだけれど。
主は俺に言った『お前をここに封印する』と。
俺は嫌だった。
主はこれからデスザウラーを止めるために出撃する。
なのになぜ俺を連れてってくれないのか。
主と一緒なら、死すら恐れないでいられるのに。

『お前は、俺の娘を守ってくれ』

主は説明してくれた。
主の娘はカプセルで眠りにつく。
だから、目覚めたとき俺が彼女の相棒になって欲しいと言うことを。
嫌だった。
いつ目覚めるか判らないのに。
目覚めても、彼女が死んでいたら?
彼女が目覚めていなかったら?
俺はどうなるんだ?
1人で、主以外の人間に操られろと言うのか。

『お前とあの子は必ず巡り会う。
だから、お前はあいつを守ってくれ』

主は苦しそうに頼んだ。
ああ、主も別れるのは辛いんだ。
自信過剰だとは思わなかった。
だって、ずっと一緒にいて、戦ってきたから・・・・。
俺を封印して、主は遺跡を出ていった。
薄れゆく意識のかな、破滅の声が聞こえる。
最凶最悪のゾイド、デスザウラーの鳴き声。
俺は眠りにつく、破滅の声を子守歌に。
割り切れないやるせなさと、主を失う悲しみに抱かれながら、長い眠りに落ちる。

 

 目が覚めたときに見たのは、赤い髪の少女。
彼女が俺を目覚めさせてくれた。
彼女は、眠りから覚めたばかりの俺の願いを聞いてくれた。
大地を走りたいという、願いを。
走り抜けた大地に懐かしい面影はなかったが、妙に楽しく思えた。
まるで、もういない主と一緒に走っているような気がした。
そんなはずないのに。
主と似た雰囲気を持つ彼女は、アレス・チェイサーといった。
俺は気づいていた。
アレスが主の娘であることを。
でも言わなかった。
いま言ったら、アレスはアレスでなくなる気がしたから。
それに、アレスは本当の自分に興味がない。
知らなくても生きていけるから、今のままでいい。
そう言ったから。
なら、俺はアレスが過去を望むまで、黙っていようと思った。
望まない過去を、押しつけたくないから。
それまで、俺はアレスのそばにいて、彼女を守る。
俺はアレスのために戦う、あの笑顔を守るために。
そう誓いを立てて。

 

 その日の朝、アレスとデスは同時に起きた。

『おはよう、アレス』

デスが姿を現し、アレスに言った。

「んあ〜っ。
おはよ・・・・・」

アレスはまだ完全に覚醒していないらしく、欠伸をして返事を返す。

『ほら、さっさと起きていくぞ』

「わかってるよ・・・・」

いつもと同じような会話。
そして・・・・。

−今日もデスの大事な人が見つかりませんように−

−今日もアレスを守り抜けますように−

いつもと同じ、悲しい祈りと密やかな誓いを胸に、走り出す・・・・・。

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アトガキ
デスウルフとアレスの気持ち。
複雑です。
アレスはデスが探す人が自分だと知らなくて、デスの探す人が見つからないように祈り、
デスは、アレスが自分の探している人だと気付きながら、黙ってそばにいる。
互いに向き合っているのにすれ違っている2人です。
つーか、最近になって判ったんですけど、暗いの書くの好きみたいです。
死にネタとか多いし。(爆)
ここまで読んで下さってありがとうございました。


千夏さんから頂きました。
いろいろな思いが交錯する中、荒野を走る2人。
さて、この2人はどこに向かうのでしょう?
つい、こんな事を考えてしまいました。
で、気になったのはアレスの対になるオーガノイドですよね。
もしかしたら、デスと一体になっているのかも?
ライガーゼロと同じように・・・。
いろいろと考察が出てきますね。
千夏さん、どうもありがとうございました。

 

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