「嵐と来訪者と犯罪者のはなし」

 

 その日は、ひどい嵐だった。
吹きつけてくる雨風を一手に引き受けている窓が悲鳴をあげる。
壁越しにもはっきりと聞こえる雷鳴の中に、ゾイドの足音が混じっているような気がする。
それを裏付けるように、リーゼが声を出した。
ゾイドの気配がする。
そう言うのだ。

「…なんのゾイドかは、わかんないけど…」

「…そうか…無理しなくていい」

彼女の声は、さっきよりも弱々しい。
心配になって、額に手を当ててみる。
いつもより、少し熱かった。
多分、最近急激に気温が下がってきたせいだ。
平穏な生活に気が緩んだ彼女の体調は、季節の変化についていけなかったらしい。

「……ごめん……僕、役立たずだ……」

哀しそうに目を伏せる…
こんなとき、彼女は本当に消えてしまいそうになる。

「そんなことは、ない」

そっと、頭を撫でてやる。
寒いのか、彼女は少し震えていた。
暖炉近くのソファに連れていく。
少しでも温かい方がいいだろう。

「…少し、休め」

「でも…」

「いいから、眠れ」

強引に、リーゼの頭を自分の膝に押し付ける。
これ以上、無理をしてほしくなかった。
ふと目を向けた窓の外で、また雷がなる。
そこに照らし出された、青い色。
大きさからして中型の陸戦ゾイドだ。
陸戦ゾイドで、中型で、青。

「…ブレードライガー…」

………なぜバンがここに来る!?
一体何をしに来た!!?
わざわざ決着をつけに来たのか!!!?
いや、まともに考えればやはり連行が目的か…
だとすれば、追い返すだけだ。

《フィ、フィーネ!
ここはよそう!
泊めてもらうなんて無理だ!》

ドアの向こうからバンの声が聞こえる。
それを聞き取ったリーゼが、不安げに俺を見上げた。

「大丈夫だ」

そう言ってやると、ふたつの澄んだ瞳に安心したような色が浮かんだ。
少し微笑んで、その瞳が閉じられる。
単純な言葉。
だが、彼女はそれで安心してくれる。

「…それにしても…あいつら、いつまでいるつもりだ…?」

奴等の声が遠のく気配はない。
言い争いらしい事に決着がつく事もないだろう。

「なんなんだ、まったく………」

溜息をついて、軽い寝息を立てているリーゼを膝からおろす。
立ち上がった所で、彼女が震えていた事を思い出した。
ソファにかけてあったショールをかけてやって、玄関に向かう。

「ねっ?
やってみましょ?」

ドアを開けると、女の高い声がはっきりと聞こえた。

「五月蝿い…」

一瞬、バンが石になったように見えた。
まあ、それはそれで都合がいい。
雨が入らないように(バン避けに)ドアを閉ざして鍵をかける。
風でドアが壊れないように(バン避けに)、
物置から使っていない椅子を持ち出してドアの前に積み上げる。
ついでにシャドーを見張りに付けてみた。
シャドーの隣に座りこんで、相手が気付くのを待つ。
緩やかな緊張感がその場に流れていた。
ずっと昔、オーガノイドにかかりきりで構ってくれなかった両親に悪戯を仕掛けた事を思い出す。
結果はどうだっただろう?

《あいつ!ドア閉めやがったな!?》

…やっと気付いたらしい。
バンの大声がドア越しに聞こえる。
なんだか、おもしろい。

《てめえぇ、レイヴン!!!
鍵かけるな、ドアの前に椅子積むな、シャドーに番させるなあぁぁ!!!!!》

「黙れ。
捕まる気はない」

《…?》

…こいつは、忘れてるのか?
自分が軍人で、俺が指名手配者だという事。
苛立ちより先に呆れが頭を擡げた。

《いや、俺さ、退役したから》

《そ!
もう軍人じゃないから、あなたを捕まえる事も出来ないってこと》

《な!これなら入れてくれるだろ?》

「泊める気はない」

《……………》

当たり前だ。
奴らに情けをかけるほど、俺は優しくない。
それから数分、バンの大声が途切れる事はなかった。
諦めて、椅子を片付ける。
奴ならドアを壊してでも入ってくるだろう。

「…先に言っておく」

「ん?」

「追い出されたくなかったら、こっちの言う事に従え」

「…泊めてくれるなら、なんだって聞くよ…」

妙にくたびれたバンの声。
まあ、あれだけ叫べば誰でもこうなるだろう。

「な…なななななななななななな……」

驚きに眼を丸くするリーゼの前に、驚きのあまり硬直したバンが立っている。
あれだけ騒がしかったんだ。
リーゼが目を覚ますのも当然だろう。
次にくるであろう絶叫に備えて、まだ状況を飲みこめないリーゼの耳を塞ぐ。

「なんなんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

 

その日は、ひどい嵐だった。
ブレードライガーが何とかしてくれとばかりに声をあげる。
無理もないよな。
俺だって叫びたい。
ただでさえ外は暗いっていうのに、大雨がスクリーンみたいになって視界がほとんどない。
1時間くらい前から鳴り出した雷も、かなり近付いてきた。
そのうえ、いい加減休みたいってのに家一つ見つからない。
…勘弁してくれよぉ…

「バン、あれ!
家が見える!!」

「ほ、ほんとか!?」

フィーネの目が確かなら、この大嵐のなか 野宿しなくてすむ。
風邪ひかなくてすむ。
誰が住んでるかわかんねぇけど、行ってみるか…
大きめの樹の下にライガーを停めて、風に流されながらも家に近付く。
ドアの前まで来たとき、雷が鳴った。
雷光でゾイドらしい影が浮かぶ。
……なんか、見覚えが……
ま、まさかな!
あいつがこんなとこで悠々と暮らしてるわけないもんな!!
気のせい!目の錯覚!!蜃気楼!!!
あいつに定住生活なんて似合わねぇし!
今頃どっかで野宿してるさ、あいつは。
今日1日疾りっぱなしだったからな、流石に疲れてるんだな、俺。
うんうん。
そんな俺の考え(というか…願いか?)を打ち砕く台詞がフィーネの口から流れたのは、
それから数秒後だった。

「…ジェノブレイカー…」

………………泣きたい………………
ここの住人が泊めてくれる可能性、ゼロ。
でも、他に家は見当たんねぇし…やっぱ野宿か!?
嫌だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!

「フィ、フィーネ!ここはよそう!
泊めてもらうなんて無理だ!」

「一緒にデスザウラーを倒した仲なのに?
泊めてくれるわよ、きっとv」

「どういう仲だよ、それぇ!!
無理!絶対無理!!
なんでそんな笑って「泊めてくれる」って言えるんだあぁ!!」

「でも、やってみないとわからないわ」

「う”…」

「バン、あのとき私に言ってくれたでしょう?」

「……いや、それは……」

「バンが言ってくれなかったら、私はきっとゾイドイヴを停めてたわ」

「うぅ…」

…誰でもいい、誰かフィーネを説得してくれ…

「レイヴンも鬼じゃないんだから、泊めてくれるわよv」

…いや、あいつは鬼以上の存在だと思う…

「それに、バンだって久しぶりに彼と戦えるしv」

…正直、今は戦いたくありません…

「ねっ?
やってみましょ?」

………………………「五月蝿い…」……………………………………

ど、どうする!?どうする俺!!
交渉してみるか!?
回れ右してダッシュで逃げるか!!?
いや、こいつのライバルとしてそれは…
それに、こいつに何言われるか…
なにより、逃げるなんて俺のプライドが…

「…ン!バンッ!!」

「へ…?」

呼ばれて、ドアを見る。
そこには何もいない。

「あいつ!ドア閉めやがったな!?」

ドアの隙間から中の様子を伺ってみる。
と。

「てめえぇ、レイヴン!!!
鍵かけるな、ドアの前に椅子積むな、シャドーに番させるなぁぁぁ!!!!!」

「黙れ。
捕まる気はない」

…?
……あいつ、なんて言った?
捕まる?
あ、じゃ、こいつはまだ知らねぇんだな。

「いや、俺さ、退役したから」

「そ!もう軍人じゃないから、あなたを捕まえる事も出来ないってこと」

「な!これなら入れてくれるだろ?」

「泊める気はない」

「……………」

聞いてたのか、さっきから!!!
それから数分、冷たい雨の吹きつけるなか騒いだ結果、交渉成立。
あのレイヴンに(無理矢理)了解させた事、いつかみんなに会ったら自慢しよう。

「…先に言っておく」

「ん?」

「追い出されたくなかったら、こっちの言う事に従え」

「…泊めてくれるなら、なんだって聞くよ…」

さっきのツケがまわって、声がかすれる。

やりすぎたな、流石に…

「な…なななななななななななな……」

固まる俺を見つめる、フィーネとレイヴン以外の人間。
一度見たら忘れられないだろう、不思議な色の瞳。
忘れない。
忘れられるわけがない。
俺達はこいつに散々苦しめられたんだから。
視界の片隅でフィーネとジークが耳をふさぐ。
かすれた声が元気を取り戻した。

「なんなんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

 

END!!

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〜あとがき〜

まずは、9999HITおめでとうございます。
ウルトラザウルスの歩み並に遅くなって申し訳ありません。
読みづらくてごめんなさい。
バンフィーもレイリーもほとんどなくてごめんなさい。
私にはこれが限界です…(涙)


雛菊さんから頂きました。
バンフィー&レイリーとリクエストしたんですけど・・・、ちょっと無茶言っちゃいましたかね?
でも、凄く楽しませていただきました。
なんか、バンは尻に敷かれてますね・・・。
しかも、リーゼにビックリしてるし・・・。
一番はしゃいでたりして。(んな訳ないない・・・。)
レイヴンはリーゼのこと心配するところが良かったです。
やっぱり熱々だわ〜。(心酔)
雛菊さん、どうもありがとうございました。

 

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