「世界一!」

 

「お〜い!ルーティ、こっちだ〜!!」

「何よスタン!」

気持ちのいい風が吹いて、綺麗な小川が流れる山奥の村、リーネ。
村外れの小高い丘の上に作られた小さな畑で、
ルーティ・カトレットは、長い金髪の青年が、自分の名を呼ぶのを聞いた。

「も〜、スタン、なんだってのよ〜。」

ぼやきながら、青年・・・スタン・エルロンのいる丘のてっぺんへ上って行く。

「ほらほら、ルーティ。この前まいた種がもう芽を出してるよ。」

「あ・・・ほんとだ。」

畑の為に耕された柔らかい地面に、薄緑色の小さな芽がいくつも顔を出している。

「お兄ちゃ〜ん!ルーティさ〜ん!お昼ご飯ですよ〜!」

「今行く〜!!」

「あたしもう、おなかぺこぺこ。」

スタンの妹、リリスが呼んでいるのが聞こえる。
ルーティは、元気良く返事をして歩いていくスタンの後を付いて行った。

かちゃかちゃ、かちゃ。

「なぁなぁルーティ、リオンはどうしてる?」

スプーンを動かしてピラフを口にはこびつつ、スタンが問うた。

「相変わらずよ〜。もう、生意気盛りって感じ。」

「リオンがルーティの事、<姉さん>って呼んだらどうする?」

「病院に連れて行くわ。」

「っか〜!ルーティはきついなぁ。別に俺はそれでもいいと思うけど…。」

「あの子がそんな事するわけないじゃない。」

「そうかな〜?」

「お兄ちゃん!ご飯食べながら喋らないで!って何回も言ってるじゃない!」

「えへへ・・・。ごめん、リリス。ごちそうさま」

「食器は流しにね。」

「はいはい、分かってます。」

「はいは一回でいいの!」

「はぁ〜い。」

スタンは食器を流しに置いて、ドアへ歩く。

「羊達の所へ、行って来るよ。」

「行ってらっっしゃ〜い。」

リリスは、兄の姿が視界から消えるまでずっと見守っていたが。

「ルーティさんっ!」

消えるやいなや、ずずいっ!とルーティの方へにじり寄ってきた。

「な、なに・・・?」

唇を引きつらせて、ルーティが応じると。

「ごめんなさいっ!」

いきなり、リリスは頭を下げた。

「へ?」

きょとん、としているルーティに、リリスはさらに続ける。

「うちのお兄ちゃんちょ〜〜〜!鈍くって。
ルーティさんお兄ちゃんの事好きなんでしょ?
今回うちに
<孤児院の自給自足の為に、野菜の育て方と羊の飼い方を教えてもらう>
っていうのは口実で、ほんとはお兄ちゃんに会いに来てくれたのに・・・。
うちのお兄ちゃんほんと鈍くって。妹としてすまない思いでいっぱいです。」

「え・・・あ・・・う〜。」

リリスの言葉は途中まで疑問文だったが、後半は確信に変わっていた。
ルーティがうろたえていると。

「スタンの奴は熱血単純バカだからな・・・。
やっぱりルーティさんのようなしっかりしたお嬢さんが
嫁さんになってくれたら安心だ。」

「え、ええ?」

そう言って歩いてきたのは、リリスとスタンの祖父だ。
その腕には、エルロン家のアイドル、うさぎのぽてちゃんが抱かれている。

「おじいちゃんもそう思う?お兄ちゃんちょっと純真すぎるところがあるから・・・・・。
ルーティさんみたいなしっかりした人だったら、安心だなって、私思ってたの!」

「やはり長男たるもの、しっかりした嫁を貰って、家督をついでもらわねば・・・。」

うろたえるルーティはそっちのけで、どんどん話が進んでいく。

「・・・これでエルロン家の未来も安泰だ。」

「新婚旅行はどこかしら?子供は何人くらいかしら?」

「あの〜?もしもし〜?」

冷や汗をかいたルーティが遠慮がちに呼びかけると。

「と、いうわけで・・・」

「私達エルロン家一同は、ルーティさんの事応援してるからっ!がんばってね!」

笑顔のリリスとおじいちゃんに励まされてしまった。

「まぁ・・・スタンが世界一鈍いのは、今に始まった事じゃないし・・・。」

苦笑いして、もうどうにでもなれ、と呟くルーティ。

「やっぱり!おじいちゃん、やっぱり脈ありだわ!これは!」

「そうか!それはよかった!」

ルーティは、ひしっ!と抱き合う2人を、

(もう見てらんないわ・・・)

と一瞥すると。スタンのところへ行くことにした。

 

 柔らかい日光が照らす草原を、てくてく歩いていく。
しばらく歩くと、羊達にかこまれて昼寝をしているスタンが見えた。

「まったく・・・食べてからすぐ寝ると牛になるわよ・・・。」

そう呟くと、寝ている彼を起こさないように、静かに横に座るルーティ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

何気なくスタンの寝顔に目が行く。
柔らかい草の上に広がる、ふわふわした長い金髪は、
まるでお日様の光そのもののようで。
閉じられたまぶたのうちには、空のように青くて、
まっすぐな瞳がある事を、彼女は知っている。

「うぅ〜ん、リリス、俺もう食べられないよう・・・。」

お約束な寝言を呟く彼を見ながら、ぼけ〜っと、空を見上げる。
青い空を、白い雲が流れて行く。心地よい風。緑の匂い。
BGMは羊の鳴き声だ。ここは本当に、いいところだ。

(良いところ過ぎて、スタンみたいにおバカになっちゃいそう・・・)

ルーティがそう思ったとき。

「う、う〜ん。あ、あれ?」

スタンが目を覚ました。ルーティがいるのを見て、不思議そうな顔をする。

「ルーティ、いつ来たんだ?」

「あんたが行った少し後よ。まったく、たいした熟睡ぶりね。」

ルーティは、そんなんで羊の世話係が務まるのか…という意味で言ったのだが。

「そうだろ!ここは日向ぼっこするのに絶好の場所なんだ。
こういうあったかい日にここに来て寝そべったら、30秒で眠れる自信があるぞ!」

(変な自信もたないでよ・・・。)

やれやれ、と彼女はため息をついた。
スタンはまたごろん、と草に寝そべって、彼女に問い掛ける。

「なぁルーティ。孤児院の事が落ち着いたら・・・・」

「落ち着いたら、何?」

「また旅でもしないか?」

「な・・・っ!?げほっ、ごほっ!」

<新婚旅行はどこかしら〜?>というリリスの言葉が思い出されて、
ルーティは思わずむせてしまう。

「ご、ごめん!ルーティ。俺、そんなに変な事言ったか?」

「別に何でも無いわよ!」

すまなそうなスタンの手が背中をさするのを感じながら、
ムキになって彼女は言い返した。

「?・・・なら、いいんだけど。俺、ルーティの事もみんなの事も大好きなんだ。
いろんな事も知りたいし。だから、みんな一緒に、いろんな所に行ってみたい。」

(こりゃ、こいつの鈍さは世界一、かつ天然ものだわ・・・)

瞳をきらきらさせながら語るスタンを見て、ルーティは心の中で呟いた。
自分は、まぁ金銭感覚に多少問題があるかもしれないが、
年頃の女の子なんだから。
他意はないとは言え、「大好き」なんて言われたら、
緊張するじゃないか、と思ったりもした。
でも、つとめて普通に、振舞うようにする。

「ま、私はお情けで行ってあげても良いけど・・・。
ウッドロウとか、マリーは無理なんじゃないの〜?」

知り合ったときには、雪国ファンダリアの王子だったウッドロウ・ケルヴィンは、
補佐役のマリー・エージェントとともに、ファンダリアの国王をやっている。
おいそれと旅になど出られるものではない。

「あ、そっか。ウッドロウさんがもう王様だって事、忘れてた。」

「まったく、これだから田舎者は〜。」

いささか大げさにやれやれ、とやってみせるルーティ。

「まったく、なんだよルーティは〜。田舎者田舎者って〜。
それが人に教えを請う人間の態度かよ・・・。」

ぶつくさ言っている。ルーティはくすっと笑って言う。

「さあさぁ!スタン先生!
ぶつくさ言ってないで、羊飼いの辣腕ぶりを見せて下さいませ・・・、
とこうでいいのかしら?スタン。」

「ルーティがそんな事いうと気持ち悪いからいい。」

ルーティの台詞に、げそ〜っとした顔で答えるスタン。

「なんですってぇ〜?!」

「うわ!やめろルーティ!」

もちろん、ルーティにぽかぽか叩かれた。

 

 ちなみに、スタンは数週間後、ルーティを迎えに来たリオンの

「お前さえ良ければ、無期限でルーティを貸してやるぞ。」

・・・・という言葉に、

「え?どうしてそんな事言うんだ?」

・・・と反応し、

(こいつの鈍さは世界一に違いない・・・)

リオンにこう思われた事は、また別のお話である。


これも雷矢さんのところでキリ番を踏んでもらったものです。
ちょっとゾイドだらけになりそうだったので、
あえてテイルズオブデスティニーにしてみました。
このゲーム結構面白いんですね。
ちなみに私のお気に入りは・・・
人呼んで『蒼天の稲妻』(誰も呼んでない・・・)のジョニーです。
私って結構カッコ付けのキャラを気に入るので、彼がお気に入りかな。
私も近いうちにテイルズ小説でも書こうっと。
雷矢さん、本当にありがとうございました。

 

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