混合大レース!

 

 日差しがきつく照りつける砂漠。その中を、一つの黒い影が走っていた。
孤高の盗賊、アーバインと、彼の駆る相棒”閃光の剣”『ライトニングサイクス』だ。
気楽な根無し草の彼とその相棒は、
今日も賞金首を求めて街から街への生活を送っていたが・・・。

「ん?どうした、相棒。」

ライトニングサイクスの目が何かを捉えている。
アーバインの目も、モニターに映ったそれを見た。
ひらひら風に吹かれて飛んでいる、白いもの。

「なんだ・・・ただの紙じゃねぇか。これがどうしたっていうんだよ?相棒。」

「ぐるるぅ・・・。」

ため息をついて足を投げ出したアーバインに、相棒の低い唸り声が聞こえてきた。
だっ!と走り出すライトニングサイクス。
さして遠くはないその紙に向かって一直線。

「な、何やってんだお前!そっちは次の街とは方向がちが・・・」

慌ててライトニングサイクスを元の方向へ戻そうとするアーバイン。
だが、

「けっ・・・お前は昔っから頑固だったよなぁ・・・・。」

やれやれ、とため息をついて、彼は腕を操縦桿からはなした。
しばらくして、彼の相棒顎が開いてまた閉じる、『がちん!』という音がした。
口に紙をくわえたのだ。

「まったく・・・なんだってんだよ・・・。」

アーバインはコクピットのハッチを開いて、外に出た。
彼はきつい日差しに顔をしかめつつ、サイクスの口の方へよじよじと這っていった。
口の隙間に手を伸ばす。

「よっこらせ、っと・・・ん?とれねーぞこんちくしょー!」

彼のもらした悪態に、サイクスが口をあける。

「なわっ!いきなりあけるな!驚くだろーが!」

彼のその言葉に、サイクスはすねたように頭をぶんぶん振り回した。

「うわっ!やめろ〜!落ちる、落ちるって!分かった、俺が悪かったよ!」

必死でサイクスの頭にしがみつき、アーバインは謝った。
そして、やっと口の中の紙を手に取る。

「・・・高速ゾイド大集合!莫大な懸賞金をかけた大レースが行われます!
最高速が時速200キロ以上のゾイドにお乗りの方は、震ってご参加ください。
なお、参加は陸戦ゾイドにお乗りで、
前記の条件を満たす方のみとさせていただきております・・・か。
主催は・・・チャンプ財団?聞いた事無い名前だな・・・。」

またよっこらせ、と呟いてやっとこさコクピットに戻るアーバイン。
もう一回紙を仔細に検分すると、相棒に声をかける。

「お前、これに出たいのか?」

「ぐおおう!」

やっと分かってくれたか、とでも言いたげな相棒の声。
アーバインはため息をつくと、もう一度操縦桿を握りなおした。

「行こうぜ、相棒!行くからには勿論優勝するんだからな、分かってるだろうな?」

「ぐおおん!」

ライトニングサイクスは嬉しそうに身震いすると、会場へ向かって走り出した。

地図に載っている方向へ走ると、
しばらくして砂漠の中だというのに濃密な霧が漂っている場所にたどりついた。

「なんだ?ここは。オアシスか?」

サイクスから降りるアーバイン。そこへ、霧の中から・・・。

「お〜い!その声、もしかしてアーバインか?」

「その声は・・・。」

*    *     *    *    *    *    *    *    *    *    *

「よ〜、アーバイン!久しぶり!」

「アーバイン、久しぶりね。」

「ぐごぎゅご!」

「なんだアーバイン、お前も来たのか。」

「はぁ〜い、アーバイン〜。お久しぶり〜。」

「久しぶりだな、アーバイン。」

「元気そうじゃないか。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

会場についたアーバインとライトニングサイクスを、思いがけないものが待っていた。
その・・・まぁ具体的にいうと。
帝国・共和国共同創設の平和維持組織、ガーディアンフォース所属で、
デスザウラーをアーバインと共に倒した”英雄”バン・フライハイト。
古代の惑星Ziの住人、古代ゾイド人で、
全てのゾイドの命の源、『ゾイドイヴ』の起動の鍵だった少女、フィーネ・エレシーヌ・リネ。
ゾイドに融合、その能力を飛躍的に高めるオーガノイド、バンの相棒のジーク。
バンと同じG.Fの所属の、熱血メカ大好き青年、トーマ・リヒャルト・シュバルツ。
荒野の運び屋、姉御肌のムンベイ。共和国軍大佐のロブ・ハーマンに、
その部下で、アーバインに向かってぺこりとおじぎをするオコーネル大尉。
帝国軍大佐のカール・リヒテン・シュバルツに、
こういう場所には顔を出したがらない筈のレイヴンと、
彼のオーガノイド、シャドーまでもが勢ぞろいしていた。

「お前らも、これに出るのか?確か最高時速200キロ以上の陸戦ゾイドじゃないと・・・」

そう言って、アーバインはトーマと、ハーマンと、ムンベイを見た。
トーマの愛機はディバイソン、最高時速180キロ。
ムンベイの愛機のグスタフは、135キロ。
ハーマンの愛機、ウルトラザウルスに至ってはその巨体ゆえの動きの鈍さで、最高時速は50キロ。
これでは参加資格がないどころか、お話にならない。

「失敬だな、誰が出ると言った。私はフィーネさんのお供で来ただけだ。」

ぷいっとそっぽを向いて言うトーマを見て、アーバインは心の中で呟いた。

(それってかなりむなしくねぇか?
自分の好きな女が他の男と仲良くしているのを見てまでも一緒にいたいのかねぇ・・・。)

彼はバンと笑顔で話しているフィーネをちらり見やった。

「あたしは仕事で来たのよ、し・ご・と。」

「あーそうかい。」

なぜかえらそうなムンベイの台詞は、聞き流す。お次はハーマンだ。

「俺はレースに出る為に来たんじゃないぞ。
スタート係に志願したのだ。オーガでな。」

「ゴジュラス・ジ・オーガで?スタート係ってぇのは、なんだ?」

「レースが始まれば分かるさ。」

そう言うと、ハーマンはふっと笑って、会場に設けられたテントへ歩いて行ってしまう。

「レイヴンはな・・・」

アーバインがレイヴンの方を向くと、頼まれもしないのにバンが喋り始めた。

「フヨウカゾクが増えたから、賞金が欲しいんだってさ。」

「扶養家族?誰のことだ?」

「鈍いなぁ、アーバイン。リー・・・」

ごり。

不思議そうなアーバインにバンが答えようとした時、そんな音がした。

「黙れ、バン。」

レイヴンが、バンの頭に銃をつきつけている。
カチャリ、というのは何の音だろうか?

「わ・・・分かった。黙る、黙るから銃をおろしてくれよ〜。」

冷や汗だらだらでレイヴンに頼み込むバン。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

銃をおろしたレイヴンは、てくてく歩いて行ってしまう。
彼の歩いていく先には、真紅の”魔装竜”『ジェノブレイカー』がいる。
レイヴンの後をちょこちょこシャドーがついていく。

「なんなんだ?一体。」

「だから、レイヴンはリー・・・」

ちゅいーん!ちゅん!ちゅちゅいーん!

こりずに答えようとしたバンの足元を、銃弾が跳ね回る。彼は変なダンスを踊った。

「うわっ!うわわわわっ!分かった!もう喋らない!喋らないって!」

レイヴンが銃をしまったのを確認したバンは、ふぅ、とため息をついた。

「わりぃな、アーバイン。こーゆーことで、喋れない。」

「あ、ああ・・・。」

(こりゃあ、波乱万丈なレースになりそうだぜ・・・。)

アーバインはため息をつきつつ、同時にとてもわくわくするものを感じていた。

*    *    *    *    *    *    *    *    *    *   *   *

「ん・・・?蒼いライガー?でも、シールドライガーじゃないし・・・。
ブレードライガーであるわけもなし・・・なんだ、ありゃ〜?」

あの後。レースまでは選手の愛機のメンテナンスの時間がある、と言う事で。
アーバインはライトニングサイクスの元へと向かうところだ。
その途中で蒼いライガーが目にとまる。
深い深い蒼い色のライガー。
それは高速仕様機らしくすっきりしたフォルムと、背中に大型のブースターを持っていた。
それと、あちこちに突き出たセンサーのようなブレード。

「ライガー、調子はどうだ?レースでは絶対、優勝しようなっ!」

「ぐごああっ!」

その傍では、バンと同い年くらいの金髪の少年が、蒼いライガーをぺたぺたなでている。
ライガーが嬉しそうに咆えているから、彼がライガーの”相棒”なのだろう。

「よう。凄いライガーだな。名前はなんて言うんだ?」

「くぅぅう、なかなかあんた見る目があるな。
こいつは俺の最高の相棒、『ライガーゼロ・イエーガー』さ。」

声をかけたアーバインに、金髪の少年は嬉しそうに答えた。
彼の碧色の目は、相棒を誉められた嬉しさからか、きらきら輝いている。
バンによく似ているな、とアーバインは思った。

「ライガーゼロ・イエーガー?こんなライガー見た事無いが・・・。」

「ライガーはな、その時の状況に応じて、パーツを換装する事が出来るんだ。
今はレースに出る為に、高速戦仕様のイエーガーになってるけど。
オールラウンドなタイプゼロと、格闘戦仕様のシュナイダーにもなれるんだぜ。
見た目もがらっと変わるし。俺もこいつにはじめて会った時は、驚いたもんだぜ。」

「ほほぉ〜。」

アーバインはそれから彼とライガーのなれ初めについて、
延々と聞かされるはめになってしまった。
気づいた時は後の祭、というわけである。

(くそ〜、珍しいライガーに気を取られて、失敗したぜ・・・)

彼も自分の相棒をこよなく愛する一人のゾイド乗りであるから、
金髪碧眼の少年の気持ちも分からないではない。
だが、これはいささかやりすぎだ。
そろそろレースにエントリーする時間が迫っている。

「それでな、俺とライガーは世界一の・・・」

「おーい!ビット!そろそろレースにエントリーしにいくぞ〜!」

金髪碧眼の少年がなおも話を続けようとした時、彼の元に中年の男性が歩いてきた。

「あっ、博士。・・・もうそんな時間か・・・。
悪いな、お兄さん。アンタも相棒のとこへ行くつもりだったんだろ?メンテしに。」

「そうだったが・・・。まぁいいさ。」

博士、と金髪碧眼の少年に呼ばれていたが。
とてもそうは見えないな、とアーバインは茶色の髪をした中年男を見ながら一人ごちた。

「ほんとにごめん。俺はビット。ビット・クラウドだ。あんたは?」

エントリーに向かうべく歩き出した博士と金髪碧眼の少年・・・ビットは、
振り返ってアーバインに問うた。
答えるアーバイン。

「俺は孤高の盗賊、アーバイン。相棒はライトニングサイクスだ。」

「ライトニングサイクス?!うわ〜、あんたとレースするのが楽しみだ。」

「俺も早くあのライガーが走る姿を見てみたいよ。」

「俺のライガーの走りに腰を抜かすなよ?」

「そっちこそな。」

2人は笑顔で手を振り、別れた。
そして・・・レースには最高の顔ぶれが揃う事になる。

*    *    *    *    *    *    *    *    *    *   *   *

「さてさて!紳士淑女の皆様、これよりレースの始まりです!!」

『おおおおおおおおおおー!!』

派手な服の司会の男の言葉と共に、いっきにふくれあがる、観衆の声。

「やれやれ、あの司会の男、服の趣味は何とかならんかね〜?」

ライトニングサイクスのコクピットで、彼はそんな事を思った。
ビットと別れた後、僅かな時間で急いで相棒のメンテを済ませ、
あたふたとエントリーをした為、スタート位置に並ぶ今の今まで、
休む時間が無かったのだ。
やっと一息ついて出た台詞があれだ。

「さ〜て!今回の大バトルレース、ルールは簡単!とにかく一番になればいいんです!
攻撃は許可されていますが、
相手を行動不能にしてしまうと失格となりますのでご注意ください!
主催をさせて頂きますのはチャンプ財団、
司会はこの”王者となるべくして生まれた男”、ハリー・チャンプが務めさせて頂きます!!」

「ハーちゃん、冗談はほどほどにね♪」

「ま、マリーねーさん・・・。冗談じゃないのに・・・。」

そでの下のひらひらした飾りを振り回し、大見得をきった司会に、隣の女性が釘をさした。
どうやら彼の姉らしい。
しょんぼりする声もマイクに入ってるのが少し情けない。

「さて、このぬけるような青空の元、レースをするのは・・・エントリーナンバー一番!
リノン・トロス&ガンスナイパーリノンカスタム!」

「ほほぅ。」

ガンスナイパーのコクピットから観客に手を振っているのは少女だったので、
アーバインは少し驚いた。

「それにしても・・・あんなにごてごてと武装をつけて、よく参加資格を満たせたな・・・。」

少女のガンスナイパーには、これでもかこれでもか、というくらいに武装がつけられている。
ノーマルガンスナイパーの最高時速は200キロ。
あれだけ武装をつけて速度が落ちないなど、とうてい信じられるものではない。

「続いて二番!バラッド・ハンター&コマンドウルフアタックカスタム!」

「ふぅん・・・蒼いコマンドウルフね・・・。」

呟くアーバイン。
会場のテントの傍に設置された大画面モニターには、青いコマンドウルフと長い髪の男が映っている。
ノーマルコマンドウルフの最高時速は210キロ。
彼のウルフは背中に2連装のロングレンジキャノンを背負い、
増えた重量は後足のスタビライザーで補佐しているようだ。

「三番!ビット・クラウド&ライガーゼロ・イエーガー!」

「ぐごあああっ!」

司会の男の声に、ライガーゼロが大きく咆える。

「そして四番!レイヴン&ジェノブレイカー!」

「あいつ・・・シャドーなしでやるつもりか?良心というものが芽生えてきたらしいな。」

アーバインは”魔装竜”のコクピットに、
むすっとした顔で座っているであろうレイヴンを想像してにしし、と笑った。
ジェノブレイカーは最高時速345キロ、
口腔にある荷電粒子砲に代表される数々の武装と、
ブレードライガーにも匹敵する防御力を兼ね備えた、正に怪物だ。
その代わりご機嫌取りが難しいが、シャドーが揃えばアーバインも太刀打ちできない。

「五番!バン・フライハイト&ブレードライガーアタックブースター仕様!」

「ぐおおお〜ん!!」

晴れ渡る青い空に、同じ空色のライガーが咆える。
その背中には、火力と運動性能を同時にUPする優れ物、
アタックブースターを背負っている。
最高時速は330キロにもなるのだ。

「バンの奴、ディじいさんのところから借りてきたな・・・。ちゃっかりしてるぜ。」

台詞とは裏腹に、アーバインは嬉しそうだ。

「六番!カール・リヒテン・シュバルツ&セイバータイガーシュバルツスペシャル!」

赤と黒の体に金色の牙を持つ虎が咆えた。
その背中には小型レーダードームとガンカメラ型赤外線自動追尾装置によって、
抜群の命中精度を誇るビームガトリング砲がある。

「そういやシュバルツと本気で勝負したことってなかったな・・・。」

アーバインは笑いが止められないようだ。

「にいさ〜ん!ファイトですよっ!」

どこからともなく、そんなトーマの声が聞こえたような気がした。

「続いて七番!オコーネル&コマンドウルフアタックユニット!」

「お、オコーネル?!あいつもでてるのか?!」

アーバインは驚きつつも、すぐ隣のコマンドウルフをみやった。
オコーネルのウルフは長距離砲を装備し、
増えた重量を後足のブースターでカバーしているものだ。

「そして最後は滑り込みセーフ!八番のアーバイン&ライトニングサイクス!」

「一言余計なんだよ!」

アーバインは司会の男に怒鳴ったが、
スタート位置のすぐ横にゴジュラス・ジ・オーガが歩いてくるのを見て、座席に座りなおした。

「なお、今回スタートの合図は、
志願して下さったロブ・ハーマン&ゴジュラス・ジ・オーガのコンビにやって頂きます!
実況カメラの映像は、ジェミー・へメロス&レイノスです!」

「今日は珍しいゾイドを良く見る日だな・・・。」

アーバインは見た事も無い緑色の飛行ゾイドに目を細めた。

「さぁてお待たせしました。いよいよスタートです!ハーマンさん、お願いします!」

「了解だ!みんな準備はいいか?」

ハーマンの声に、八体のゾイドがいっせいに前傾姿勢をとる。
そして・・・、

「スタート!!」

ずとごぉん!!

スタートの合図なのだろう、オーガのロングレンジバスターキャノン二門が火を吹いた。

「やるな、ハーマンのやつ。」

凄まじい音のスタートにも動じることなく、アーバインとサイクスは先頭を走っていた。
最高時速325キロ。
背部のブースターによるその驚異的なスピードは、
レースに参加する面々の中でも、遜色無いものだ。

「はえーな、アーバイン。でも負けねーぞ!」

右側にバンのブレードライガーが見える。
まだアタックブースターは使ってないようだ。

「ようバン。今日はジークに助けてもらわないのか〜?」

「ふん、ジークにいつも迷惑かけてられないからな!真剣勝負だ!」

「望むところだ!」

ブレードライガーの背中のブースターが開き、加速。
ライトニングサイクスも、加速する。
残像を残して見えなくなってしまうくらいの加速の仕方なのだが、
そんなところへ、もう一体蒼いゾイドが近づいてきた。

「行くぜライガー!!」

ビットとライガーゼロだ。
こちらも背中の大型ブースターを開き、加速している。
鋭い爪ののついた四肢が力強く地面を蹴り、凄まじいスピードを生み出している。

「な、なんだありゃ?!330キロくらいいってるんじゃねーか?!」

「アーバイン、あんたのライトニングサイクスもいいかんじだな。」

「当然だろ!」

「アーバイン、知り合いなのか?」

「メンテの時に、ちょっとな。」

楽しみにしていた事とは言え、ライガーゼロの運動性能に驚きを隠せないアーバイン。
バンの問いに答える声が少し上ずってしまう。

「でも、強いライバルがいればいるほど燃えるってモンだよな!」

「「当然!」」

アーバインの問いにバンとビットの声が重なる。・・・その時!

「ウィーゼルユニット・フルバーストっ!!」

後ろの方でそんな声が聞こえたかと思うと、

ひゅ〜るるる〜・・・どかどかどかんっ!!
ひゅ・・・どかんっ!
どかんっ!どかん!ばすばすっ!

「な、な、なんだこりゃ?!」

アーバインが叫ぶ。
サイクスの優れた運動性能によって実害は無かったが、
いきなり降ってきた砲弾の雨は、彼を驚かすには十分だった。

「じゃじゃ馬娘がくるぞ、みんな、逃げろ!」

「じゃじゃ馬って?」

いまいち良く分からないふうのバンに、ビットが告げる。

「武装ごてごてなガンスナイパーに乗ったやつの事だよ!」

「誰がじゃじゃ馬よ?!」

「うわ、リノン?!」

「いつのまに?!」

「砲弾の雨を降らせたとは言え、二足歩行ゾイドでここまで追いついたのか・・・。」

舌打ちするアーバイン。
先を急がなくては、と操縦桿を握り締めた時、

「アンタ達にはおしおきが必要なようね・・・。
ウィーゼルユニット、フルバーストっ!」

「うわぁあああっ!やめろ、リノン!!」

「な、な、何で俺まで!!」

「二次災害だ・・・!!」

アーバインとバンとビットは、リノンが降らす砲弾の雨の中を慌てて逃げ回った。

 

 一方、レイヴンはと言うと。

「くそ・・・っ。」

彼はじょじょにアーバインとバンとビットに迫る所だった。
背中のウイングスラスターで、二足歩行ゾイドらしくない運動性能を発揮するジェノブレイカーの事、
すぐに追いつくだろうとたかをくくっていたのがいけなかった。

「すまないな、レイヴン。」

「あ、シュバルツ大佐。では、私も。」

「じゃ俺も。失礼するぜ。」

セイバータイガーSS、コマンドウルフAU、コマンドウルフACの三体のゾイドが魔装竜を踏み台にして加速、
さらにコマンドウルフに標準装備のスモークディスチャージャーから吹き出す煙で、
一時的にレーダーが役に立たなくなってしまった。
煙の中で身動きできずに、あっというまに最下位になってしまったのを、
やっとここまで追いついてきたのだ。
あたりは煙の残滓が漂い、いささか見えにくい。

「無様だ・・・。」

彼はきりきりと唇をかんだ。
・・・その時、通信が入って。

「選手のみなさん、言い忘れてた事が・・・」

やたらと派手な服の司会、ハリー・チャンプだ。
レイヴンがイライラそれを見ていると、

「ただのバトルレースじゃつまらないという姉の言葉で、障害物を設置しておきました。
センサーでオート作動しますから、よろしくお願いします〜。」

「な、なに?!」

その通信が終わると同時に、
まるではかったようにジェノブレイカーの前に巨大な鉄柱が突き出してきた。

ぼこっ!ぼこぼここっ!ぼこぼこっ!

「くそ・・・っ!」

巨大な鉄柱は変幻自在、前に後ろに右左、角度を変えて様々に地面から飛び出す。

「どうしたレイヴン。
いつもの君らしくないな。
シャドーのいない君はそんなものなのか?」

「シュバルツ・・・!!」

シュバルツ大佐からの通信が入ってくる。涼しい顔だ。
前を見ると、彼の駆るセイバータイガーは、右に左に軽やかにステップをふみ、
鉄柱をかわしているのだ・・・。
その近くにさっきのコマンドウルフ二体もなかなかの運動性能を見せている。

「あんた達はつるむのが好きなのか?」

レイヴンは皮肉げにそう言ってみせたが、
毒舌でシュバルツに勝てるはずも無く、

「そういうわけではないさ。このお2人の腕前がいいだけだよ。」

「シュバルツ大佐にそう言って頂けるなんて、何だか照れますね。」

「まぁ、ほんとのことだからな。」

さらっと言ってのけるオコーネルとバラッド。

(こらえろ、耐えるんだ、俺!)

ぎりぎり唇をかみしめて、
荷電粒子砲で全てをなぎ倒したい衝動にかれそうな自分を叱咤するレイヴン。
しかし、そんな彼の努力を無駄にするものが・・・飛んできた。

「いや〜あああ〜っ!!」

「なっ・・・!」

どがっしゃ〜んっ!

「貴様・・・っ!何をする!!」

「何をするって・・・ちょっとあの鉄柱にぶつかって飛ばされちゃっただけじゃないの!!
そんなに怒らなくたっていいじゃない!せっかくビットにお仕置きしてたとこなのに・・・。」

ぷちっ

それはレイヴンの堪忍袋のおが切れた音だった。
もともとさして太くはない彼の堪忍袋のおは、耐久力が無い。
鉄柱に吹っ飛ばされたリノンのガンスナイパーがぶつかっただけで切れてしまうほどに。

「だいたいあなた顔キレイなのに、ちょっと怒りっぽすぎるんじゃないの?
怒ってばっかりいるとしわが増えるわよ?」

ぶつかったのがシュバルツ大佐なら、

『大丈夫ですか、お嬢さん?』

『はい(はぁと)』

ってな事になったかもしれないが。
レイヴンではそうもいかなかった。

「邪魔だ・・・」

「は?」

「きえろぉぉぉぉぉぉっっっ!!」

光の槍が空をないだ。
それは全てを焼き尽くし、跡形も無く消滅させてしまう荷電粒子砲。

「きゃ〜!!いや〜ん!!」

「な、なんだこれは!?」

ジェノブレイカーの事を良く知らないリノンとバラッドは慌てて逃げ回った。
光の槍が暴れまわり、触れたところはどんどん消えて行く。

「ああ・・・、少し言いすぎただろうか・・・?」

「そのようです・・・。」

シュバルツとオコーネルは顔色が少し悪い。
そんな2人も、

「・・・っしまった!!」

「うわっ!」

荷電粒子砲が巻き上げた熱と土砂、それに障害物の鉄柱に吹っ飛ばされてしまう。
先頭を走っていたアーバインとバン、ビットも例外ではない。

「な、なんだありゃ?!」

「レイヴンの奴、やりやがったな・・・?!」

「こうなったレイヴンには、さすがにケンカ売りたくないぜ・・・。」

冷や汗たらりのアーバインとバン。

「ど、ど、どーなっるんだ?!」

今度はバンがビットに説明する番だった。

「とにかく逃げろって事さ!」

迫り来る荷電粒子砲の熱波から逃げるため、
そして一刻も早くゴールに着くために、三人はそれぞれのゾイドを加速させる。

「行くぜライガー!」

「頼むぜ相棒!」

「いっけぇぇぇぇ〜!!」

そんな彼らの目の前に、栄光のゴールが近づいてくる。
ぬきつぬかれつ、一番先にゴールに飛びこむのは果たして誰か?

「さぁ・・・誰が一番先にゴールするか、このカメラでばっちり撮ってあげますからね。」

カメラつきレイノスが上空を旋回している。
ジェミーもまた、ゴールの瞬間を待ち望んでいるのだ。
そして、ライトニングサイクス、ブレードライガーAB、ライガーゼロ・イエーガー。
彼らがゴールに迫る。あと500m・・・400・・・300・・・200・・・100・・・。

*    *    *    *    *   *   *    *    *   *   *    *   *

ひゅ〜・・・がしゃああん!

「なななんだぁ?!」

「とにかく止まれライガー!」

「と、と、止まれ〜!!」

正にゴール目前!という彼らの前に、なにかが落ちてきた。
それは・・・。

「おおっとこれは!オコーネル選手のコマンドウルフAUです!!
しかもゴールの中に入っているぞ?!大番狂わせだ〜!
優勝は、オコーネル&コマンドウルフAUです!!」

「なにぃぃぃ〜?!」

レース出場者全員の声が重なった。

 

・・・『チャンプ財団主催・高速ゾイド大バトルレース』は惨憺たる結果に終わった。
まず、行動不能が二体。リノンのガンスナイパーと、シュバルツのセイバータイガー。
失格が一体。もちろん荷電粒子砲を発射したレイヴンのジェノブレイカー。
無事だったのは、バラッドのコマンドウルフAC、ビットのライガーゼロ・イエーガー、
バンのブレードライガーAB、アーバインのライトニングサイクス。
優勝は、障害物の鉄柱にふっとばされ、落ちてきたところが丁度ゴールだったという、
とてつもなくラッキーな、オコーネル&コマンドウルフAUだというオチだ。

「よくやった!オコーネル!これで基地の皆と飲みに行く事ができるぞ・・・!!」

「やりました・・・私はやったんですね、ハーマン大佐!!」

めでたく優勝した部下と、その上司はひしっ!と抱き合った。
涙を流して喜んでいるその傍で、他のメンバーは抜け殻になっていた。

「まぁまぁ・・・。僕がとった映像でもちゃんとオコーネル選手の方が先でしたし・・・。」

ジェミーの言葉はなんの慰めにもならない。

「ちょっとちょっとみなさ〜ん。大丈夫〜?」

「バン、しっかりして、バン!」

「ごぎゅごぎゅ〜!!」

「リノン、バラッド、ビット!しっかりしろ!」

応援をしていた面々声をかけても、復活しない。

「・・・・・・行くぞ、シャドー。」

「ぐるるぅ・・・。」

だが・・・一番先にレイヴンは立ち直った。彼は急いでいるようだ。
ジェノブレイカーに乗り込むと、さっさと出発してしまった。
他の皆が復活したのは、たっぷり一時間は後だった・・・・。

*    *    *    *    *   *   *    *    *   *   *    *   *

「じゃあな。『チームブリッツ』の皆さん。」

「他人行儀だなぁ、アーバイン。」

「まぁ、別にそれでもいいんじゃないの?」

「お前とはまた勝負したいぜ、ビット。」

「いやぁバン、それほどでもあるぜ・・・。なんて。」

「みんな、そろそろ行くぞ〜。」

「パパ、まってよ〜!!」

「はいはい行きます、行きますよ〜。あ〜あ、いいなバンは。
じゃじゃ馬と違って、あんな可愛い彼女がいてさ。」

一同の別れの挨拶。
手を振るフィーネと、リノンを見比べて呟くビット。

「誰がじゃじゃ馬よ!」

「ひ〜!ごめんなさい〜。」

とかビットとリノンがやってる傍で、

「彼女だってさ。良かったな、バン。」

「バン、彼女ってなぁに?」

「ごぎゅごぎゅ?」

「いやぁ、だから・・・そのぉ・・・。」

本来ならば決して出会う事の出来ない者達。
彼らを出会わせたのはあの漂う霧だったのか、
それとも・・・、時間の流れが狂ってしまったのか・・・。

「じゃあな!」

「またな!」

これがほんとの言わぬが花、というやつなのかもしれない。

 

おしまい。


雷矢さん、どうもありがとうございました。
アーバインメインだったのに、「/0」の輩まで出していただいて。
おかげで楽しく読めました。
レイヴンが荷電粒子砲をぶっ放すのはもうお約束ですね。(笑)
最後にオコーネルさんが優勝して、本当に大番狂わせですね。
本当に楽しい小説をありがとうございました。

 

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