「目標」

 

「なっ!?」

一瞬の閃光、そして強い爆音と衝撃の後に、後頭部に鈍い痛みが走る。
薄れていく意識の中、今一番聞きたくない言葉が頭に響く。

「バトルオールオーバー、バトルオールオーバー!ウィナー、・・・・・・!!」

 

「はぁ〜っ」

ジンはジェノザウラーのコクピットの中で今日何度目かの溜息を吐く。
Aクラス入りを賭けたバトルに負けたのは一昨日のこと。
結局、意識が無くなったのは数秒で、目が覚めて見たものは左腹部から煙を出している相棒の姿だった。
相手は・・・なんて名前だったかな?
とにかく、アイアンコング相手に完敗したわけで、
おまけに使うとは思っていなかった擬似オーガノイドシステムを使ったせいで、
ジェノザウラーは数日間ゾイドバトルが出来ないどころか普段の動きも鈍くなる。

「はぁ〜っ」

再び溜息を吐いてウルトラザウルスに向かうべく操縦桿を握る。
ゾイドウォーリア−になったとはいえ、ゾイドバトル連盟との繋がりが切れたわけではなく、
月に2・3回、情報交換を兼ねてジェノザウラーの運用報告に行くことにしている。
ゾイド研究の最新情報を知ることが出来るし、
何よりチームメイトがいないジンにとって元同僚との世間話は楽しみなのだが、
今日はのんびり出来そうにない。
バトルに負けた後に行くと、元上司に必ず説教をされるのだ。
動きが鈍いジェノザウラーで必死に走り何とか時間通りに着いて、ウルトラザウルスを見上げる。
相変わらすデカイ。
太古の戦闘ではウルトラザウルスを使用したらしい。
どんな敵と戦ったのかいつも考えているが、ジンが知る限りのゾイドではどれも役不足に思える。

(っと、見てる場合じゃない。)

小走りに入っていく。
簡単な報告が終わってから整備ドックに行ってみると、

「お前はまた負けたのか!」

聞き覚えのある声がドックに響く。

「いいかげん出会い頭に怒鳴るのはやめてくださいよ。」

うめいて声の主を見やる。
60代でがっしりした体格、白髪交じりで通称「おやっさん」と呼ばれているベテラン整備士だ。

「ワシだって言いたくないわい!」

頭を掻きながら続ける。

「まったく、Aクラス入りがかかってたってのに、
システムまで使って負けていたら、ジェノザウラーに申しわけないだろうが。
素質はあるんだから、もっと腕を磨いてみろ。
だいたい、バトルが始まってすぐ・・・」

一方的に続く説教の中、ジンは天井を仰いで早く終わることを祈る。
だが、その祈りも空しくたっぷり一時間説教は続くのであった。

「せっかく来たんだから、ちょっと手伝っていけ。」

そう言って精根尽きてグッタリしているジンを引っ張って行く。
元同僚達から同情の視線を受けながらも、ジンには成す術が無かった。

「まったく、いつもタダ働きなんだから」

などとぼやきながら慣れた手つきで進めていく。
手伝わされるのは毎度のことであるが、せめてバイト料くらいは出して欲しい。
しばらくして作業も終わり、やっと元同僚達と世間話を楽しむ時間になった。
数人で昼飯を食べていると、元同僚の一人が聞いてきた。

「そういやジン、前から聞こうと思ってたんだけど、バトルがない日は何してんだ?
ここの仕事辞めてから、賞金以外の収入無いんだろ?」

もう一人も聞いてくる。

「あ、俺も聞きたかったんだよ。
今までの賞金じゃ食べていけないだろ?」

ジンは苦笑いしながら答える。

「まあね。
賞金のほとんどはジェノザウラーの整備費に消えるし、
他に仕事してないからギリギリの生活してるんだ。」

そう言ってサンドイッチを頬張る。

「やっぱチームメイト作ったほうがいいんじゃないか?
少しは楽になるだろう?」

「だめだめ、ジンは人付き合い苦手だから。
俺達と普通に話すのだって二ヶ月はかかっただろ?」

「そうそう、最初全然話さなかったよな。」

「なんかこっちも気を使って話し掛けづらかったよな。」

「そんなんだから彼女の一人もできないんだよ。」

「言えてる、言えてる。」

「「ハハハハハハハッ」」

元同僚達に笑われ、ジンは多少ヒクつきながら残りのサンドイッチに手をつける。

「まぁまぁ、みんなあんまりからかうなよ。
ジン気にすんな。」

そこへ、

「いつまで昼飯食ってんだ!
早く仕事に戻れ!」

「「ハ、ハイ!」」

皆慌てて仕事に戻り、ジンは帰ろうとするが呼び止められる。

「おい、ジン。」

「な、何ですか?」

「3日で相棒を直しとけ。」

「え?」

「直ったらここに来い。」

と言いつつ地図を見せる。

「ちょ、ちょっと?」

思わず抗議の声をあげる。

「いくらなんでも3日じゃ無理ですよ。
ゾイドコアはともかく、左腹部の傷は7日はかかりますよ!
だいたい何なんですか?」

反論するジンの両肩をガシッと掴み、満面の笑みで

「お前に整備技術を教えたのはワシだな?
そのワシが出来ると言ってるんだ。
いいから直して来い。」

「あの、えーと、はい。」

笑顔の奥にある迫力に負けて、つい返事をしてしまった。

「よし!」

そう言っておやっさんはドックの奥へと消えた。
残されたジンは、これからの3日間のことを考えて泣きたくなるのだった。

 

そして、3日後。
ジンが居るのは砂漠の真ん中、遮蔽物は無く見渡す限り砂だけの大地。
近くの町まで数十qあり、人通りも無い。
ジェノザウラーのコンディションは完璧で左腹の傷も完治している。
これはジンがかなり無理をした成果だが、そのおかげでジンの体重は2s減った。
ジェノザウラーのコクピットの中で目を擦りながら、

「あ〜眠い。
えーと、確かここに来いって言ってたけど。」

周りを見ても誰も居ない。
待ちくたびれてあくびを噛み殺していると、レーダーに反応があった。

「これは・・・ゴジュラスとグスタフ?」

レーダーに映っている機影は間違いなくゴジュラスとグスタフだ。
目で確認が出来る距離になって通信が入ってきた。

「すまん、すまん。
こいつを調整するのに思ったより時間が掛かってな。」

モニターに写った顔は・・・

「おやっさん?」

「よう、ちゃんと直ったようだな。」

「結構無理したんですけどね・・・。
それよりそのゴジュラスとグスタフは何ですか?」

「こいつはワシの相棒だ。
昔、ゾイドウォーリア−をやってた時はこいつと一緒にSクラスまで行ったんだぞ。」

「おやっさんってゾイドウォーリア−だったんですか?
しかもSクラス!?」

「言ってなかったか?」

「初耳ですよ。
だから、あんなにゾイドバトルに詳しかったのか・・・。
でもSクラスまで行ったんなら、なんで整備士になったんですか?
どっかのチームオーナーにもなれたんじゃ・・・。」

何気なく聞くと、おやっさんの表情がわずかに曇る。

「ん?
ああ、そのころ自分の力を過信しててな。
ワシの判断ミスでバトル中に相手のゾイドを殺しちまったんだ。
で、そのバトルを最後に引退して、整備士になったんだよ。」

「あ、すいませんでした。」

「いや、いいさ。
ただ、お前はワシのようになるなよ。」

そう言ってグスタフを見やる。

「で、こっちのグスタフは、まぁ、言ってみればジャッジマンだ。
それに、動けなくなったら時にはこいつに運んでもらうことになってるからな。
ちょうど暇そうなのが居たんで、頼んだら快く受けてくれたよ。」

するとグスタフから抗議の通信が、

「嘘だー!無理矢理だー!
今日はデートだったのに・・・」

そこでプッと通信が切れる。

「・・・まぁ気にするな。」

気まずい雰囲気の中、

(ごめん、今度何かおごるよ。)

とジンは心の中で友に謝りながら聞く。

「ん?ジャッジマンってことはバトルするんですか?」

「当たり前だろ?
そのためにこいつをバトル用に調整したんだからな。
いいか、基本ルールはバトルモード0992だ。
ただし、荷電粒子砲の使用も認める。
システムを使ってもいいぞ。」

「え、でもそれじゃあ、おやっさんが不利なんじゃ・・・。」

「それくらいのハンディはあったほうがいいだろ?」

「・・・分かりました。
本気で行きますよ。」

「おう!こっちも手加減はしないからな。」

 

ややあって、グスタフから不機嫌な声が響く。

「バトルフィールド、セットアップ!
ジンVSおやっさん、バトルモード0992、レディー・・・FIGHT!」

ゴングの代わりに空砲一発。

「ジン!勝ってくれー!
俺の仇をとってくれー!」

などという声援のようなものを聞きながら、
バトルが始まるとジンはホバリングで左に旋回しながら相手を観察する。

(見た目で分かることは・・・両肩の長距離キャノン砲と装甲の追加ぐらいか。
ゴジュラスは格闘戦では無類の強さを発揮するから、迂闊に近づけない。
キャノン砲は牽制用か・・・。)

そこまで判断したところで、ゴジュラスがキャノン砲を撃ってきた。

ドウッ!!ドウッ!!

予想に反して砲弾は正確にジェノザウラーを捉えてきた。

「くっ!?」

思わずEシールドを展開し足を止める。
そこを逃さず立て続けにキャノン砲が火を噴く。

ドウッ!!ドウッ!!ドウッ!!ドウッ!!

舞い上がる砂と煙に紛れて飛び出すと、両足のミサイルポッドから2発づつ発射する。
4発のミサイルは真っ直ぐゴジュラスに向かい、

ドグアァァアンッ!!

「よし!全弾直撃!」

並みのゾイドならばこれで勝負は着くのだが・・・

ボフッ!!ボフッ!!

黒煙を貫いた砲弾がジェノザウラーを直撃する!

「!?」

たまらず後方に吹っ飛ぶ。
空中でなんとか体勢を立て直し、着地を待たずにスラスターの出力を上げて右にスライドする。
すると、今まで居たところに砲弾が降り注ぐ!
爆風に耐えながら、蛇行してキャノン砲を交わしていく。

「そんな!?
いくら重装甲でもあの攻撃を喰らって無事なはずが・・・。」

煙の中からは無傷のゴジュラスが悠然と出てきた。
通常、どんな重装甲のゾイドでもあの衝撃と黒煙の中、煤の一つも付かないなんてことは無い。
あるとすれば、衝撃と黒煙を阻害する要素があるはずだが、
Eシールドや電磁シールドを展開していた形跡は無い。

「だとすると・・・」

ある可能性を思いつき、
威力を最小に抑えたロングレンジパルスレーザーライフルをゴジュラスに向け発射する。
ゴジュラスの胸に命中したレーザーがわずかな爆発を起こすと、そこを中心に光の波紋が広がる。

「やっぱりそうか。」

確信すると通信が行ってきた。

「気付いたようだな。」

「ええ、装甲自体にEシールドをかけてますね。」

「その通り、余程の威力がないと貫けないぞ。」

機体の周囲に一時的に展開するEシールドや電磁シールドとは違い、
装甲自体にかけるEシールドはエネルギーを多く使うが、常に効果を発揮する。

「長距離キャノン砲は実弾兵器だからエネルギーを使わない。
だからエネルギー消費を気にしないで戦えるって訳か。」

「さあ、どうする?」

「これならどうだ!」

そう言うなりアンカーで両足を固定し、尾部のファンを開く。
ジェノザウラーの顎が大きく開き光が集まっていく。

「喰らえ!!」

白い光が一直線に放たれる。
光はゴジュラスの手前の地面に突き刺さり、大爆発を引き起こす!
圧倒的な光の奔流が視界を覆い、凄まじい衝撃波と爆風がゴジュラスを飲み込んでいく。
光が収まった後にはクレーターが残り、ゴジュラスはシステムフリーズを起こしている・・・はずだった。
だが、

「こいつの装甲を破るには威力が足りなかったようだな!」

「硬すぎですよ!」

おもわず叫んで、急ぎ体勢を立て直す。
その間にゴジュラスが突進してくる。

「速い!」

ギリギリのタイミングで交わし、慌てて距離をとる。
ゴジュラスが再び砲撃を始めるが、命中率が若干落ちている。
それに気付いたジンはあることを思いつき、
砲弾を交わしつつ残った2発のミサイルを発射して、それらを追走する。
ゴジュラスは交わそうともせず、直撃する。

「この程度では効かんぞ!」

余裕のおやっさんだったが・・・
いきなり視界が閉ざされると同時にレーダーやその他の計器が機能を失う。

「これは、スモークデスチャージャー?」

動きが止まるのと同時に背後に衝撃が走った。

「何だ?」

煙が晴れると、左のキャノン砲の砲身にジェノザウラーが喰らい付いていた。
そのまま砲身を食いちぎり、離れ際パルスレーザーを右のキャノン砲に打ち込む。
さっきのミサイルは爆発と同時にスモークデスチャージャーと同じ効力のある煙幕を出す特注品。
遠隔操作で爆破することもでてきて便利だが、普通のミサイルも倍以上の値段なのが玉に瑕。

「やっぱり!
キャノン砲まではEシールドをかけて無かったですね。」

得意げに言って、距離をとろうとするがゴジュラスの尻尾に弾き飛ばされる。
そのまま地面に叩き付けられて、危うくシステムフリーズしそうになる。

「よく気付いたな。
だが、たいしたダメージじゃない。
格闘戦でゴジュラスに勝てるか?」

機体の限界を知らせるアラームが鳴り響く中、

「負ける訳にはいかないんだ。
ここで勝たないと前に進めない!
いくぞ!!」

擬似オーガノイドシステムを起動させる。

「ぐっ!」

凄まじい加速に体が悲鳴をあげる。
この前のバトルではその加速に体が付いていかず、それが原因で負けた。
ゴジュラスは迎え撃とうと構え、顎を大きく開きジェノザウラーを噛み砕こうとする。

ッガギン!!

左腕をもっていかれたが構わず突っ込み、Eシールドを展開してゴジュラスに体当たりする。

ジジジジジジジッ!!

と耳障りな音が消えると同時にお互いのEシールドが消える。

「いけー!!」

零距離射程でパルスレーザーを連射する。

グオォォォォ!!

ゴジュラスはそのまま後ろに倒れ今度こそシステムフリーズを起こす。

「バトルオールオーバー、バトルオールオーバー!
ウィナー、ジン・フェスター!!
よくやったぞジン!」

グスタフから勝利者を告げる通信を聞いてジンは気を失った。

 

満天の星空の下、ここはウルトラザウルス。
あの後、気を失ったジンを乗せたままのジェノザウラーとゴジュラスをグスタフが半日かけて運び、
ジンを起こしてから双方のゾイドをドックで修理しているのだ。

「今日は本当にありがとうございました!」

「ワシも久しぶりに楽しかったよ。」

「でも、なんでバトルしてくれたんですか?」

「ん?ああ、お前が昔のワシに似てたんだよ。
もちろんBクラスの時のだけどな。
今までお前は相棒の性能に頼りすぎて、本来の力を出せていなかった。
ワシもある人から教えてもらってAクラスに行けたんだ。
まぁ、こればっかりは経験しないとわからんからな。」

そこへ、

「しっかし、よくここまで壊したもんだ。」

元同僚があきれた声で言う。

「こんな無茶なバトルしたのは初めてだったからなぁ。」

「おやっさんのゴジュラスと一緒だからいいけど、ここの設備を私用で使えるのは今回だけだぞ。」

「分かってるって。
でも、これでまたしばらくバトル出来ないなぁ。」

「その間に彼女でも作ったらどうだ?」

「またその話しか。」

「気になる人ぐらいいるんだろ?」

「・・・いるにはいるんだけどね。
居場所が分からないんだ。」

「なんだそりゃ。
まぁ、頑張れよ。」

そう言ってドックに戻る。

「本当にどこにいるんだろうなぁ。」

溜息混じりにそう言うと、

「本当に惚れてるんなら探してみろ。」

「おやっさん?」

「上手くいくかどうかはお前しだいだけどな。」

笑いながら肩をたたく。

「目標が増えちゃったな。」

ジンは窓越しに星空を仰いで呟いた。

「目標?」

「ええ、その人を探し出すのとライガーゼロと戦うことです。」

「ライガーゼロ?
じゃあお前Sクラスまでいくつもりか?」

「はい、彼・・・ビット・クラウドは本当にいいゾイドウォーリア−ですよ。
いつか彼と本気で戦ってみたい。
・・・目標が大きすぎますかね?」

「いいじゃねえか。
若い時はなんだってできる。」

「・・・そうですね。頑張ってみます。」

そう言ってから、明日からの生活をどうしようかと本気で悩んでいるジンなのであった。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

あとがき

最後まで読んでくれて有り難う御座います。
生まれて初めて書いた小説ですが、いかがだったでしょうか。
時期的には、ロイヤルカップから一ヶ月半ぐらい後です。
いやー物語を書くって本当に大変ですね。
何分初めてのことなので誤字・脱字があったらすいません。
また機会があったら、挑戦してみたいと思います。


S.Tさんから頂きました。
凄く面白かったですよ。
ジンも面白いし、バトルもよかったです。
まぁ、まだまだジンは努力をしなくてはいけませんけどね。
壁は厚そうです。
Aクラスでもレオンやジャック、ベガもいますからね。
これからが期待できるウォーリアーですね。
後はチームメイトか・・・。
まぁ、頑張って下さい。
S.Tさん、どうもありがとうございました。

 

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