「魔装竜VS新生魔獣」

 

 青い空、白い雲、照りつける太陽、今日の惑星Ziはいつにも況して平和である。
どこかのフィールドでは白熱したバトルが繰り広げられ、
街では親子連れが楽しそうに買い物を、恋人達はデートを楽しんでいる。
しかし、そんな世間とは裏腹に、ジンはベッドの上で動けないでいた。
水と塩だけで過ごして早3日、そろそろ体も限界に来ている。

「・・・・・・腹減った。」

うめいて目を閉じる。

 

 事の発端は3日前の日曜日。
おやっさんとのバトルから約5ヵ月が過ち、ここまでの公式通算成績は10勝11敗。
今のところ負け越しだが、おやっさんとのバトルを機に調子が上がり最近のバトルでは5連勝。
そこで連勝記念と今までの御礼と感謝を兼ねて、
おやっさんや元同僚達を食事に誘ったのだが、それがマズかった。
ジンは、いつも肉体労働をしている彼らの食欲を甘く見ていた。
そして言ってしまった。
後でひたすら後悔することになる言葉を!

「今日は僕のおごりなので気にせず楽しんでください。」

この時、この連勝で懐に余裕があったジンは特に気にせず言ったのだが、

「よーし、今日はジンのおごりだから好きなだけ食え!」

「「オオオオッ!!」」

おやっさんの掛け声とともに、皆のテンションが一気に上がる。
最初はそれでも遠慮がちに注文していた彼らだが、
酒が入り次第に酔ってくると豪勢な料理や高級酒を次々と注文していった。
それからは、飲めや歌えの大宴会。
料理が吸い込まれるように消えていき、ジンは飲めない酒を無理して飲んであっさり戦線離脱。
夕方から始めた宴会だったが、気付いた時には空が白み始めていた。

「ん?もう朝か。
おい、みんな起きろ。」

「ふぁ〜。
あ、おはようございます。」

「おう、他の奴もさっさと起きろ!
今日も仕事があんだぞ。」

皆もそもそと起きてくる。

「久しぶりに飲ませてもらったぜ。
ありがとな、ジン。」

「いえ、おやっさんのおかげでAクラス入りが見えてきたんですから。
みんなにもお世話になったし。」

「そうか、それじゃあワシ達はそろそろ・・・
コラ!いつまで寝てんだ。
行くぞ。」

そう言って帰っていく皆を見送ってから、いざ清算しようとして伝票を見たジンはそのまま石化する。
そこには予算をあっさりオーバーし、今まで見たことのない額の金額が書いてあった。
滝のような汗を流しながら、恐る恐る聞いてみる。

「あのー、これ間違いじゃないですよね?」

店員は満面の笑みで

「はい!当店自慢の料理をこんなにたくさん注文されたのはお客様たちが初めてで御座います!
ありがとう御座いました!」

「そう・・・ですか。」

放心状態のジンは力なくそう言った。

 

次のバトルはまだ決まっていないのに、
ほとんど無一文で生活しなければならなくなった上に、冷蔵庫の中は空っぽ。
最初の3日間は何とか水と塩で空腹を紛らわせてきたが、それも限界がきていた。

(このまま寝てたら本当に動けなくなる。)

危機感を覚えたジンはゆっくり立ち上がり、再びゆっくり階段を降りていく。
ここはゾイドウォーリア−になってからのジンの家。
地上2階、地下1階の倉庫のような建物で、すでに使われなくなっていたのを格安で手に入れたのだ。
生活や整備に必要な物も、ほとんどリサイクル品ではあるが、まだまだ使えるものばかり。
なんとか1階に着いて、相棒を見やる。
ジェノザウラーは巨大なプールの中で気持ちよさそうに寝ていた。
このプールは床に填め込まれていて、バルブやパイプは地下にある。
この家で唯一の贅沢品と呼べるもので、貯金のほとんどはこれの費用に消えた。
張られている水は金属イオンが豊富に含まれている海水。
野生ゾイドが繁殖に使うものと同じで、ゾイドの成長を促し、自己再生を早めることも出来る。
いびきが聞こえてきそうなくらい爆睡している相棒を見ながら、

「お前はいいな、浸かってるだけで腹減らないもんな。」

そう言って羨ましそうに眺める。

「はぁー、仕方ないなぁ。
背に腹は代えられないもんなぁ。」

そう呟いて、ジェノザウラーを起こすべく目覚ましを作動させる。
パリパリッと一瞬プール内に軽い電気が走り、ジェノザウラーが目を覚ました。
荒っぽいように見えるが、人間で例えると肩を叩かれた位にしか感じないだろう。
いきなり起こされて一瞬不機嫌そうな素振りを見せたが、元気のないジンを見てすぐおとなしくなった。

「眠ってたとこ悪いけど、ちょっと出かけるよ。」

そう言ってパネルを操作して海水を抜く。
ジェノザウラーが乾くのを待ってからフラフラしながらコクピットに乗り込んだ。
我が家を背に出発した時には、もう太陽が真上に来ていた。

 

 それから約4時間後、幸せそうな顔でジンが帰ってきた。
3袋分の食料を冷蔵庫に押し込み、
ジェノザウラーをもう1度プールに入れて2階に上がりそのままベッド倒れこむ。
実は、あの後手持ちのミサイルをジャンク屋に売りに行ったのだ。
バトルは辛くなるが空腹を耐えるよりはマシ、と考えたのだが、
「普通の規格とは違うからなぁ。」とか
「ミサイル単品だと買い手があんまり居ないんだよね。」とか、
散々文句を言われて結局1ヵ月の食事代くらいにしかならなかった。
それでも、久しぶりに満腹まで食べることが出来て満足していた。

「ふー、これでしばらくは大丈夫っと。」

そう呟いて目を閉じる。
だが、寝ながら彼是考えるのがジンの癖になっていて、今日もなかなか寝付けないでいた。

 

 ゾイドウォーリア−になったのは半年ほど前になるが、その間に色々な事があった。
まず、おやっさんとのバトルの後すぐにビット・クラウドがゾイドバトルから姿を消した。
噂によればライガーゼロと旅に出たらしい、まぁ彼ならまた戻ってくるだろう。
エースが居なくなってもチーム・ブリッツは連勝記録を更新し続けている。
さすがはSクラスといったところか。
チームメイトはまだ見つかっていない。
それから、人探しは暗礁に乗り上げている。
日課のように街に聞き込みに行っているものの、分かったことは少ない。
今までのところ、フーマという名前らしいが、本名かどうかは定かではない。
女性で出身・年齢とも不明。
BD団内の暗殺集団チーム・フーマのリーダーで、前回のロイヤルカップ以降、消息不明。
・・・これ位しかまだ分かっておらず、現在の居場所については全く分かっていない。
すでに逮捕されている可能性もあったが、
ただのゾイドウォーリア−に逮捕者名簿を見せてくれるほどゾイドバトル連盟は甘くない。
結局のところ、個人で探すには限界がきていた。
聞き込みをしていると、

「会ってどうするんだ?
相手はBD団だったんだぞ。」

と言われることがある。
すぐには答えれず、なかなか言葉が見つからないこともあった。

(そうだよな。会えたとしたら、どうしたいんだろうな。
告白?もう恋人がいるかもしれないし、結婚だってしてるかもしれないのに?
うーん、でも別に見返りを求めてるわけじゃないし、
一目惚れでも好きになったんだから告白しないとスッキリしないよなぁ。
それに・・・)

などと考えていく内に夜は更けていく。

 

 翌朝になりヌボーッと起きてきたジンは、コーヒーとホットサンドを朝飯にして新聞に目を通す。
見ているのはゾイドバトルの記事。
ミルクを啜りながら、

「えーと、『期待の新星チーム・バスターズ!
デビューして以来連戦連勝!
特にチームの中核を成すケイン・アーサーは一度もピンチになることもなく、快進撃を続けている。』
か・・・。
へー、どのゾイドに乗ってんだろ?」

やがて搭乗ゾイドの紹介欄を見つけ、

「『ケイン・アーサー(19):ジェノブレイカー
リッド・アーサー(17):セイバータイガーAT
シエラ・アーサー(15):ストームソーダー・ステルスタイプ
レイス・クリスナー:(17)ライトニングサイクス』
・・・ん、ジェノブレイカー!?」

驚いて思わず声をあげる。
そう、ケイン・アーサーはあの魔装竜ジェノブレイカーに乗っているのだ。

「何でそんなもんがあるんだ?」

さらに読んでみるが、記事にはそれ以上詳しいことは書いていなかった。

(多分、BD団絡みだろうな。
僕と似たような経緯か・・・。
ジェノザウラーの進化体らしいけど、ゾイドの性能が戦果に比例しないことは良く分かってるし・・・。
闘ってみる価値有りかな。)

「よしっ!」

残りの朝飯を平らげてゾイドバトルの申請に向かう。
もちろんケイン・アーサーに挑戦するためだ。
承諾の返事はすぐに来た。

 

 3日後、魔装竜と新生魔獣が相対する。
この3日間ジェノブレイカーについての色々と資料を探してみたが、古代の文献位しか無かった。
また、考古学者達の研究を読んでみたが詳しい事は分からなかった。

(『ジェノブレイカー・・・ジェノザウラーが何らかの要因で進化したゾイドと考えられる。
詳しい兵装は分からないが、
記録によると背面に装備された巨大なシールドとスラスターが最大の特徴であるらしい。
このシールドの中には、エクスブレイカーと呼ばれる刃上下2枚1組を2対装備していて、
接近戦では恐るべき戦闘力を発揮していたと推測される。
また、ブレードライガーの発現時期と近いため何らかの因果関係があるものと推測することもできる。
今後の研究で更なる発見が期待される。』か・・・。)

「まぁ、幻の機体だ。
今は分からなくて当然か・・・。」

嘆息してモニターを見る。
その幻のゾイドが目の前にいる。
紅い機体から出る威圧感に汗が頬を伝う。

(ケイン・アーサー、全戦全勝は伊達じゃないな。)

戦わなくても分かる、彼は強い。
やがて、雲を突き抜け真っ赤になったジャッジカプセルが降ってきた。
やたらに大きな音を立てて地面に突き刺さる。
砂埃が消えると、相変わらずのやる気に満ちた声で、

「この地点より半径10q以内は、ゾイドバトルのバトルフィールドとなります。
競技者及び、その関係者以外は立入禁止です。
危険なので直ちに退去して下さい。
・・・フィールド内、スキャン終了。
バトルフィールド、セットアップ!
ケイン・アーサーVSジン・フェスター、
バトルモード0992、荷電粒子砲使用禁止、レディー・・・FIGHT!」

開始のゴングが鳴り響く。
お互いの距離は300m以上、

(距離を取って闘えば何とかなるかな。)

それ以上近づかずに、レーザーガンとパルスレーザーを撃つ。
以前と比べて射撃の腕もかなり上達していたが、あっさりと交わされる。

「チィッ!」

舌打ちしてさらに連射する。
幾条もの光が放たれるが、その殆どが空を切る。
運良く捉えたとしても、シールドに防がれてしまう。

「反応速度が段違いだ!」

ジェノブレイカーは光の雨の中を減速することなく突き進んでくる。

(これじゃあ距離が取れない。
なら・・・。)

「システム起動!」

擬似オーガノイドシステムを起動させ、ジェノブレイカーに向かって直進する。

(後120秒・・・。
狙いは背後!)

そう判断してEシールドを展開する。
ジェノブレイカーはウエポンバインダーからショックガンやビームガン、
マイクロポイズンミサイルを撃ってくるが出力の上がったEシールドには通用しない。

(よしっ!直前で右にドリフトして背面に移動、そのままハイパーキラーファングで決める!)

例えジェノブレイカーでも、
運動性能の上がっているジェノザウラーの動きには付いて来れない筈だと考えていたのだが・・・。
予定通り、ぶつかる直前で右に曲がる。
だが突然、厚いガラスが割れるよな音と共にEシールドが弾ける。
その直後、横殴りの衝撃が襲う!
機体が宙に浮く独特の感覚。
宙吊りのまま見ると、ジェノザウラーの胴体をエクスブレイカーが鋏んでいた。

「今の動きを見切った!?」

驚嘆の声を上げている間にも、2枚の刃は食い込んでくる。
金属が砕ける嫌な音を聞きながら、脱出しようと試みる。
だが、これだけ近距離での無理な体勢のままでは銃器を使う事も出来ない。
しかも、動く度に余計に食い込んでくる。
やがて活動限界時間が訪れると、ジェノザウラーはシステムフリーズを起こした。

「バトルオールオーバー、バトルオールオーバー!
ウィナー、ケイン・アーサー!」

 

 その後、ジャッジマンが帰り、双方帰る準備をしていると、珍しくジンの方から話し掛ける。

「・・・流石に強いね。
完敗だ。」

機体のチェックをしてたケインは、

「こいつと一緒に闘ってると負ける気がしないんだ。
最高の相棒だ。」

そう言ってケインはジェノブレイカーを見上げる。

「あんたはどうなんだ?」

「もちろん相棒だよ。
まだ付き合いは短いけどね。」

相棒、ジェノザウラーは傷が痛むのか蹲っている。

「・・・また闘ってもらえるかな?」

照れ臭そうに聞く。

「ああ、いいぜ。
楽しみにしてるさ。」

「君達ならすぐAクラスに入るだろうから、そこまで追い付いてからだけどね。」

苦笑しながら握手をする。
ジェノブレイカーに傷が無い事を確認すると、ケインは帰っていった。

「さて、どうやって帰ろうかな・・・。」

ジェノザウラーは自力で帰れるような状態じゃない。

「運び屋を余裕も無いし・・・。
また頼むかな。」

そう言って通信機を取る。

 

約2時間後、迎えのグスタフがやって来た。

「お前なー、こっちは仕事中だったんだぞ。」

「ごめんごめん、他に頼める人いないからさあ。」

「最近調子良いんだから、運び屋雇う金はあるだろ?」

あんた達の所為で雇えないんだよ、と喉まで出たが堪える。

「昼休みに出てきたからあんまり時間無いんだ。
さっさと乗れよ。」

「ああ、ありがとう。」

帰り道、シートに揺られながらバトルを思い出す。

(圧倒的な強さだった・・・。
ゾイドの性能差もあったけど、ウォーリア−としての腕もあっちが上だったな。
ビット・クラウドに挑戦する前に彼に勝たなくちゃ。)

 

走る事20分、やがてジンの家に着いた。

「助かったよ、ありがとう。」

「今度からちゃんとしろよ。
いつも俺が行けるとは限らないんだからな。
じゃあな。」

そう言って帰っていった。
家に帰ると早速ジェノザウラーをプールに入れる。
傷口に染みるようでしばらく辛そうな声を上げていたが、やがて眠りに入った。
その様子をみながら、

「ごめんな、もっと強くなるからな。」

と小さく呟いて2階に向かい、ベッドに横になった。
後日行われたゾイドバトルで、相棒と共に強くなったジンが快勝するのだが、これはまた別の話である。

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後書き

再び最後まで読んでくれて有り難う御座います。
やっとAクラス入りが見えたと思ったら、ケインとジェノブレイカーのコンビに完敗です。
いつになったらAクラスに入れる事やら・・・。
ビットが帰ってくるまで後半年位です。
それまでにはなんとかAクラス入りさせたいんですが、ちょっと厳しいみたいです。
ほとんどが1人の場面なので、会話無くストーリーを進める事が難しかったです。
えーと、そろそろネタが尽きてきたので次回作はかなり後になると思います。


S.Tさんから頂きました。
ジンは頑張ってますね。
まぁ、ケインにはちょっと及びませんでしたけど。(ちょっとじゃない)
あいつもビット達みたく、天性みたいなところがありますからね。
今後のジンの成長に期待です。
S.Tさん、どうもありがとうございました。

 

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