それは、普段は見えないが、しかし確実に存在している。
それは、自ら掴むことはできないが、気付けばいつの間にか手にしている。
偶然か必然か。
それを決めるのは、手に入れた当人であろうか。
ただ、誰しもが知っている。
それがきっかけに過ぎないことを。
成就するには、天の気紛れと、努力と、何より強い意志が必要なことを。
種が芽を出し、根を張り、大輪の花が咲くように……。
彼にはその気構えがあったのだろうか。
……否、そんなことを考える余裕などありはしない。
なぜならば、それを手に入れた瞬間に、皆その魔力に魅了されているのだから。
「Love at first sight」
―ジン=フェスターの想い人―
太陽はすでに地平線の向こう側へと姿を隠している。
昼から夜へ、そしてまた朝が始まる。
恒久的とも思えるサイクルの一幕。
喧騒、ざわめき、熱気、街には人が溢れ返っている。
整備された道には、未だに昼間の熱が残っているように感じられた。
人の足を支えているの、黒光りする真新しいアスファルトだ。
老若男女、さまざまな人種が各々好き勝手に口を開き、ノイズのような声が無遠慮に鼓膜をノックしてくる。
建ち並ぶ露天商には、手作りのアクセサリーや記念Tシャツが陳列されている。
どれもこれも、市価と比べて割高感があったが。
香ばしい香りを漂わせる料理が、若いカップルを引き込む様子が見て取れた。
鬱陶しいとさえ感じる人ゴミの中に、
黒髪黒目の、特にこれといった特徴のない穏やかそうな男である。
年の頃は20歳前後といったところか。揺れる前髪の隙間からは、紅いタトゥーが覗いている。
額の右に彫り込まれた家柄の象徴。直線と曲線で構成された緻密な模様。
これは、惑星Ziにおける古い習慣の一つだった。今では余り見られないカビ臭い代物だ。
周りに同じような姿の人間がいないため、ジン本人はこの刺青を自分の個性の一つとして気に入っていた。
彼は、いつもの作業着ではなく、TシャツにGパンといったラフな格好で行き交う人々を眺めている。
ここはデボン半島から程近いホープシティ。
普段は人口2千人程度の静かな街だが、この日ばかりは人で溢れ返る。
四年に一度のロイヤルカップ。
ゾイドバトルのイベントは数あれど、1・2位を争う規模で行われる勇者の祭典である。
場合のよっては、Bクラスから一気にSクラスまで昇格できる、“大どんでん返し”もあり得る。
ある意味、毎年Sクラス内で行われるチャンピオンリーグよりも、盛り上がりの度合いは高い。
ジンは人の流れを視線だけで追う。酔いを覚えるほどに、次から次へと人の位置が入れ替わっていく。
彼は、気分転換のつもりで空を見上げた。
二つの月は高く昇り、闇の度合いを幾分薄めているようだった。
時刻は既に深夜の領域に入っている。それでも、人の足は絶えない。
ロイヤルカップの参加者は200人をゆうに超える。
宿を求める彼らに加え、生のウォーリーアーを一目見ようと集まった観光客。
そして、全国各地から観光客を目当てにした行商人などが芋蔓式に集まってくる。
中には、観光客そのものを見ようとする物好きもいるようだ。
期間中、ホープシティの人口は普段の百倍近くにまで膨れ上がる。
それ故、道の幅は十二分に広く、宿泊施設もかなり多い。
目移りしそうな色彩を押しのけ、何より視線を集めているのは、ウルトラシティから出向してきたウルトラサウルスだろう。
全長300mを超えるこのゾイドは、ZBL本部として稼動している。
その大きさだけでなく、単純な戦闘能力を比べたとしても、ウルトラサウルスに匹敵するゾイドは現存しない。
ホープシティは、長旅をしてきたこの巨大ゾイドの中継地点ともなっているのだ。
惑星史上最大のゾイドが――生物が動く。その様子を間近で見ることができる。
ゾイドバトル自体には興味は無くとも、人生で一度は見てみたいと思う人間は多い。
休もうとする気配すら見せない街の中にあって、ウルトラサウルスもその機能を止めることはなかった。
本来であれば、全ての行事が終了次第、ウルトラシティへ向けて出発するはずだった。
今頃は荒野の途中で夜を明かしていただろう。
だが、
結果として事件は解決したものの、ZBLが受けた被害も甚大だった。
通常業務に使用できるジャッジサテライトは粗方撃ち落されてしまった上、ウルトラサウルス自体への直接攻撃すらあった。
高出力の荷電粒子が高層大気圏から降り注いだのだ。
その時はEシールドによって事なきを得たが、衝撃で駆動系の一部が破損した。
物理的・事務的な事後処理ともあいまって、今はホープシティに留まっているのだ。
月明かりに照らされた姿は、どこか疲れているようにも見えた。
作業がある程度区切りが付いた所で、只今ウルトラサウルスは半舷休息中――ようやく訪れた憩いの時間だ。
整備班もご多分に漏れず、“休み時間”を満喫していた。
作業員の多くは仮眠を取っていたが、体力のある若い連中は町へと繰り出していた。
ジンは同僚のコジモ=シェルトンに連れられ、街の様子を覗きにきていたのだ。
ホープシティには、街を切り取るように道路が放射状に広がっている。
上空から見下ろすと、美しい文様を描くように計算された街の血管だ。
人が動き、物を運び、情報が巡る。それらが合流する場所には、広場が設けられていた。
広場には、特設の大型モニターが
画面には、“今日の名場面”と称して、ゾイドバトルの模様が繰り返し映されていた。
ゴジュラスとアイアンコングの力比べから、イグアンとゴドスとの激しい足技の応酬。
シールドライガーとセイバータイガーを始めとした、高速戦闘機獣達の目にも止まらぬ激闘。
ゾイドバトルファンには堪らない熱い闘いが、道行く人々の目を楽しませている。
映像のように、例え優勝はできなくとも、記憶に残る闘いを繰り広げるチーム、ウォーリアーは多い。
……もっとも、中盤以降はBD団の暴挙のために、
すでに生中継が済んだ今となっては、空しい努力とも思えたが……。
場面が切り替わる度、様々な色彩がモニターを見上げている人の顔を染めていく。
それがまるで、びっしりと敷き詰められた小さなスクリーンのように見えた。
様々な表情が幻想的な陰影を作り出している。
広場に詰め掛けている人の半分近くは、大型モニターを眺めている。
その輪から少し離れた所で、ジンは人間観察をしながら時間を潰していた。
一緒に来ていたコジモが用足しに行っているからだ。
時計を確認した訳ではないが、かなりの時間が経っているはずだった。
ジンは手近な売店で炭酸飲料を買い、乾いた喉を潤している。
人待っている以上、この場を離れる訳にもいかず、かと言ってナンパをするような性格ではなかった。
そして彼は小さく嘆息し、他にやることも無く人間観察を続けた。
ビールジョッキを片手に、千鳥足の中年男性が若い女性に話し掛けている。
露骨に嫌は顔をされた後、トボトボと帰っていく後姿には哀愁が漂っていた。
元々の気質なのかアルコールのせいなのか、やたらテンションの高い若い男性が大声で騒いでいる。
中には、顔中にペイントを施し、仮装したような一団も見えた。
十人十色、種々雑多。凡そ、思いつく限りの様々な人間が出揃っている。
ただ、皆一様に“嬉しさ”や“楽しさ”といった感情を体現していた。
騒がしいうねりの中で、一転して息を潜めているような人影がジンの目に付いた。
(何だろう……?妙な違和感が……)
彼は内心首をひねる。
性別はおろか、年齢さえも判断できない程目深に被ったフード。
荒野か、あるいは砂漠でならば溶け込むような薄茶色のマント――見様によってはただの布切れにも見えたが――が体の大半を覆い隠している。
平日の閑静なホープシティであれば、存在感を抑えることに一役買っているのだろう。
が、今夜のように原色が飛び交っている風景の中では、かえって目立っていた。
強引に人ゴミを掻き分ける動きにも、周りの人間は特に気にした様子はない。
もっと騒いでいる輩がいるからだろう。
押し開かれた隙間は、傷が塞がるように人で埋まっていく。
ジンは右手に持った炭酸飲料に口を付けながら、何という訳でもなくその人影を目で追っていた。
特にこれと言った目的はない。コジモが帰ってきた時の話のタネになればいい。その位の軽い気持ちで追い続ける。
――と、その目立つ人影のフードが捲れ上がった。
柔らかそうな生地が、ふわりと夜風になびく。すれ違う時に、どこかに引っ掛けでもしたのだろう。
大型モニターの灯りに、顔立ちがはっきりと見て取れた。
まず目に飛び込んできたのは、癖のある黒髪。大きく外に跳ね、少し硬そうにも見えた。
そして、直前まで駆けていたのだろうか、血色のいい肌には朱が差している。
均整の取れた目鼻には、ある種の脆さが感じられた。
飾り気のない表情の中にあって、まるで最後の砦とでもいうように、紅いルージュが一際存在感を放っている。
……もしかしたら、下手に化粧をしない方が魅力的なのかもしれない。
ともあれ、“絶世の”とまではいかないにせよ、かなりの美人であることに間違いはなかった。
惚けたように見とれ、口の中の甘ったるい液体と共に、空気を飲み込んだことをジンは自覚していた。
突然の来客に、食道が苦悶の声を上げた。
直前のイメージがあるだけに、そのギャップの大きさが効いたのだが、これは一般的な青年の反応とも言えるだろう。
彼は不自然な咳払いで食道から空気を搾り出し、改めて視線を送る。
その女性がジンよりは年上だろうことは直ぐに知れた。
単なる見た目だけではなく、全体的な雰囲気からだったが。見方によっても前後はするが、22、3歳といったところか。
不意に、その女性が顔を上げた。フードが気になったことよりも、何か別のものに気付いたように。
その視線は、何か熱っぽいように思えた。ジンもつられてその先を追う。
二人の視線は、他の多くの視線と交わり一点に集中する。
その先には、大型モニターが先程と変わらず広場を照らしていた。
映像は丁度今日のクライマックス、ライガーゼロとBFとの死闘が決着する所だった。
天まで届く巨大な光の柱を立てる“狂える暴君”に対し、魂を燃やした爪甲を光り輝かせる “白き獣王”。
BFの喉笛に、ライガーゼロの爪が食い込んでいく。前者は押し潰そうと、後者は押し込もうとする。
両者の間には途方もないエネルギーが行き交っているのだろう。
これほどの闘いは、チャンピオンリーグでも滅多に見られるものではない。
力と力、意地と意地、魂と魂が真正面からぶつかり合う。小細工も妥協も損得もない。
いつまでも見ていたい、誰もがそう思う場面だが、強者同士の闘いほど短時間で決するものだ。
舞台の幕切れは突然やってきた。
荷電粒子の本流が途切れ、BFの体がゆっくりと倒れ伏す。
勝利を心から享受するかの如く、ライガーゼロの雄叫びが鳴轟する。周囲の空気さえも喜びに打ち震えているようだった。
古のウルトラサウルスに抱かれながら、雌雄は決したのだ。
ジンは先刻とは違う意味で見とれた後、視線を元の位置に戻す。女性はまだモニターを見ていた。が、表情は変わっていた。
ややキツイ印象だった目元が緩み、柔和で優しい微笑になっている。ジンがこれまでの人生で何度か見たことのある顔だ。
ショウウィンドウ越しにウェディングドレスに憧れる女性。
初めてゾイドを目の当たりにした時の少年。
眩しいほどの生命力を放つ赤ん坊を抱く母親。
微笑には、それらと共通するものがあった。
その微笑みを見た瞬間、ジンは時間が止まったように感じた。
いや、彼にとってはあるいは本当に時が止まったのかもしれない。
この一瞬だけ、世界が彼のために時間を分けてくれたと考えるのは傲慢だろうか。
見る見る内に頬が紅潮し、同時に鼓動が高まっていく。
(え……っと……)
戸惑いとも、喜びとも判然しない。
彼は初めて味わう感覚に軽い驚きを覚えたが、それ以上に、自分の鼓動の大きさに驚いていた。
周りの人に聞こえる――実際に聞こえる訳はないのだが――ように錯覚するほど、心臓が全力で収縮と膨張を繰り返している。
顔色は桃色を通り越し、完熟トマトのようになっていた。心なしか、体温も上昇している。
彼が一体何をしたいのかは判然としないが、体がその女性に歩み寄ろうとしていた。
重心を傾け、足を踏み出そうとした時、いきなり肩が掴まれる。
慌てて振り返ると、染められた金髪に赤いメッシュが入れた男が立っていた。
バツの悪そうな笑みを浮かべながら、コジモが言う。
「悪りぃ悪りぃ!トイレが混んでてよ…」
そう言う彼だったが、左手に持ったバーベキューの串が全てを台無しにしていた。
いつもであれば、半眼でツッコミの一つも入れるジンだが、今はそんな余裕がない。
コジモは、真っ赤になったジンの顔には気付いていない。
夜の闇と、派手な街灯やネオンが上手く隠してくれたらしかった。
「こう人が多いと…」
と続けてくるコジモに適当に相槌を打ちながら、ジンは可能な限り自然に降り返る。そこにもう女性はいなかった。
彼は懸命に瞳を左右に振って探してみたが、蠢く人の波に押しやられたのか、見つけ出すことはできなかった。
会った早々背を向けてきたジンに、
「へぇ〜、ゼロとフュ−ラーか」
背後からコジモが嬉々として身を乗り出してくる。
画面の中では、先のバトルについて解説者や研究家といった人間が、つらつらと何か議論している。
「あれはすげぇバトルだったからなぁ。見とれるのも分るぜ……!」
勝手にうんうんと頷いて納得しているようだった。
頭の動きに会わせて、コジモの金髪も揺れる。
全くの見当違いの洞察だったが、ジンはそれを指摘する気にはならなかった。
「あ……うん」
という気の抜けた彼の返事にも、コジモは特に気にした様子もなく聞いてくる。
「……で、なんか面白そうなことはあったのか?」
その言葉に、またドキリとジンの心臓が跳ねる。
口を開こうとして、止まる。迷っているのだ。隠す必要も、躊躇う理由もないというのに。
『妙な格好をした美人がいた』――それだけを言えば事足りるのだ。
話のタネとしては申し分ないはずだ。一言で済む。
「それなら……あ……いや……これと言ってなかったよ」
口を突いて出たのは必要のない嘘。
ジンの胸の内に、罪悪感と一緒に不思議な充足感が湧いてくる。
それは、自分だけのお気に入りの場所を見つけた時の感覚に似ていた。
「ふーん……っと。そろそろ休憩終わりだ。
さっさと帰らねーと“おやっさん”にどやされっぞ?」
コジモの言う“おやっさん”とは、ZBL整備班の主任のことだ。
豪快で面倒見のいい人だが、こと規則違反に関しては非常に厳しい。
「……うん」
先に駆け出したコジモを追って、ジンもアスファルトを蹴る。じっとりと掻いた汗に、向かい風が心地良い。
一瞬だけ、胸に湧いたモヤモヤしたものを払拭してくれた。
途中、ジンは何度か振り向いたのだが、女性を再び目にすることはできなかった。
「――で、ウルトラサウルスまで帰ったんだけど、帰り道で何を話したかはよく覚えてないんだ」
照れくさそうに言い終わると、ジンは缶コーヒーを喉に流し込んだ。
ロイヤルカップから一年半ほど経ち、彼はジェノザウラーを駆るゾイドウォーリアーになっていた。
身体の成長も止まり、一回り力強い顔になっている。
腕や頬には真新しい傷跡が見えた。まだ直りきっていないものも多い。
これらから、ウォーリアーという仕事の実情を垣間見ることができる。
華やかな反面、危険な仕事なのだ。
変わらないのは黒い髪と瞳、そして額の刺青。
ジンの話しを、じっと黙って効いていたのは黒髪でやや吊り上がったセピア色の瞳をした男。
名前をハンス=クリムトという。
彼は色々なゾイドバトルチームを渡り歩く、所謂賞金稼ぎで、一ヶ月ほど前からジンと組んでいた。
愛機はガイサックの“ナタリー”。
ウォーリアーとしての腕前は、超一流とは言えないものの、プロとして生活していける程度。
普段の言動からは、やや軽い人間という印象を受けるが、時折“頼れる兄貴分”という側面も見せる。
案外、こちらの顔の方が、本当のハンスの姿なのかもしれない。
因みに、二人のチーム名は“チーム・ジェノサイダー”。
虐殺者などという物騒な名前だが、『名前なんてのは、ハッタリをかます位がいい』というハンスのアイディアからだった。
当然ながら、ジェノザウラーから名を取っている。
「…名前と素性がわかったのが、手配書って訳、か」
ハンスはそう言って、咥えていたタバコを吹かし、白煙を虚空に吐き出す。
煙は、高い天井に届く手前で溶けて消えた。
二人がいるのは、ウォーリアーになったジンの自宅の一角。
古い倉庫を改造したもので、横に長い建物の3/4はゾイドに関する設備で埋められている。
巨大な昇降機、治療・ストレス軽減用の培養槽、各種機材。基本的な整備を行うには十分だろう。
住居部分の一階は客間と物置、二階にはそれぞれの個室が並んでいる。
決して広いとは言えないが、小奇麗に整頓されたドックに、タバコの匂いが漂っている。
無骨な鉄筋に、縦横に走る各種のパイプが、倉庫時代の名残を感じさせた。
見た目相応に年数が経っているが、造り自体に緩みなどは見られない。
積み上げられたコンテナに囲まれるように、互いに木箱に腰を掛けていた。
その背後には装甲を外した素体状態のジェノザウラー“ミズチ”が、向かって右手には“ナタリー”佇んでいる。
「人の好みにどうこう言えねーがな…」
ハンスはゆっくりと、言葉を選んでいるように口を開く。
「チーム・フーマに潰されたウォーリアーが多いのは知ってるな?」
「…うん」
「ロイヤルカップじゃ、ベガって餓鬼をゾイドごと殺そうとしやがった」
「……うん」
「いくら命令されたからっつっても、そんなことをやらかす女なんだぞ?」
そう、ジンが想う女性とは、元BD団密殺集団のリーダーであるフーマなのだ。
ルールを無視するダークバトル集団の中でも、特に酷い手段を使うチーム・フーマに再起不能にされたチームは多い。
被害者は肉体的にも精神的にもボロボロにされている。
それ故、憎悪を抱く人間は多く、ZBLからも手配されていた。
先日、そんな彼等が捕らえられたという一報が流れると、各方面から喜びの声が上がったほどだ。
そして、その現場にはハンスが立ち会っていた。
互いの視線が交差する。ハンスの瞳には仲間に対する気遣いが、ジンの瞳には強い想いが浮かんでいる。
(こいつは……単に惚れた腫れたっていう男の顔じゃない、か……)
ハンスは胸中で呟くと、ジンの返事を待つ。意外にも、間を置かずに声が上がった。
「最近になって分ったんだけどさ……」
ジンが口にしたのは答えではなく、どこか独白のようにも聞こえた。
「あん……?」
「あの人とミズチには、同じところがあるんだなって」
「そいつはどういう……」
意味なんだ?という続きを遮る形でジンが続けてくる。
「何て言うか…他の“道”を知らないのかな、ってさ」
彼の視線は、両手に納まった空き缶に注がれている。
握り締める指には力が篭っているようにも見えた。
「ミズチが、今の時代に起きてこなかったら、戦争や破壊しか知らないまま一生を終えてたかもしれない。
あの人だって、BDとかDSみたいな生き方しか知らないんじゃないかって……。
昔がどうだって、本気になれば人もゾイドも変われる。ゾイドバトルにはそんな可能性があるんだ。
そうでなきゃ、“ゼロ”と“フュ―ラー”を見てあんな
「こりゃまた随分とロマンチックな理想論だな」
ハンスは冷やかな視線を投げかけている。
「……分かってる。でも……」
二人が押し黙って数秒。その沈黙は実際よりも長く、そして重く感じられた。
「甘い考えだが……まぁ、それくらいがお前らしい、か」
ハンスはやおら立ち上がると、大きく伸びをした。彼のたったその一挙動で、緊張した空気が一気にほぐれる。
場の雰囲気を簡単に切り替えてくる――これがハンスの人間的特性とでも言うべきか。
そんな<
「元連盟の人間としては言っちゃいけないんだけどさ…」
苦笑しながらジンが顔を上げて続ける。
「BDには感謝してるんだ。
あの人にもミズチにも出会えたし、ゾイドバトルに参加するきっかけにもなったしね」
その台詞を受け、
「役員連中が聞いたらぶっ倒れそうなセリフだな」
ハンスがからかうような笑い声を漏らす。
「ま、そのお偉いさんから話を聞かねぇと始まらない訳なんだが」
「……え?」
「俺もできるだけ聞き込みをしてやるよ。
連盟には顔見知りもいるし、な」
「ハンス……」
「言っとくが、これはオーナーと賞金稼ぎとか、チームメイトじゃなく、
言った本人が恥ずかしいのか、照れ隠しにボリボリと頭を掻きながら二ッ!と笑って見せた。
「ありがとう……!」
意識せず、ジンの頭は自然と下がっていた。
時刻は正午。
太陽は天高く鎮座している。
気温は、これから午後にかけてますます高くなるだろう。
その陽光の下、ジンが手にした種は芽を出した。
これからどんな成長を遂げるのかは、彼がどんな選択をするかに左右される。
願わくは、小さくても美しい花が咲かんことを…。
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最後まで読んで頂きありがとうございます。
ここに「Love at first sight」をお送りしました。
知り合いに読んでもらったら、「今までと作風を変えた?」と言われました。
自覚はないのですが、読まれた方はどう感じられましたでしょうか?
色々と試みをしてみましたが、楽しんで頂けたら幸いです。
ジンの個性付けとして、おまけ程度のつもりで書いた設定が小説になるとは、私自身以意外でした。
結果的にどう転ぶかは分かりませんが、彼にとっては一歩前進と言ったところでしょうか。
今回も反省点は多いですね。視点が定まらないと言うか、
私は第三者視点で書いているつもりなのに、読み返してみるとキャラ視点になっていたり……。
段落切り替えのポイントが曖昧だったり……。
「ライトノベル作法研究所」というHPで勉強したりしましたが、まだまだ未熟です。
これまでの作品から受けた改善点もあります。
“…”は“……”にするであるとか、“―”は“――゛であるとか、まぁ基本中の基本の改善なのですが。
後は、重言や日本語の誤用のについて気を配りました。
本文に出てきたホープシティとか、ウルトラサウルスの停泊とか、チャンピオンリーグの解説などは、完全にでっち上げです。
まぁ、チャンピオンリーグについては、/0の11話『三つの旋風』で
ジェミーが「
○一昨年のチャンピオンがいる。
○『前回の』という表現ではないから、恐らく毎年『年間チャンピオン』を決めているのだろう。
○ゾイドバトルのチャンピオンなのだから、Sクラスウォーリアーに違いない。
という独断と偏見から設定しました。
また、巨大なウルトラサウルスが海路ではなく、わざわざ陸路を通る理由については、
単に荒野の真中に でんっ! っと居座っているイメージがあったからです。
この辺りはストーリーを優先させました。
……あ、いつの間にやら、ハンスが仲間になっていますが、仲間になる時の話が作品として成り立たないと思い、割愛させて頂きました。
次はギャグ話を書いてみるつもりです。気長にお待ち下さい。
では、次回作の後書きでお会いできることを祈りながら……。
S.T
S.Tさんからいただきました。
ジン君の初恋の始まりですね〜。
ちょっと編集の方手間取りましたが、無事にあげられるかな〜?
ルビのソース、殆ど初めて使いましたので・・・。
まだビルダーが対応していないのがきつかったです。
もしかして自分でソース打ち込んだの初めてかも。
ええと、裏話は別にいいとして・・・。
ジンとハンスの今後に期待ですね。
あと、チャンピオンリーグは・・・、私の中ではトーナメント戦がいいかな〜とか思ってたり。
まぁ、その辺は後々調整しますか。
作風はちょっと変わったかな〜って思いました。
前半で科白が少ないせいでしょうかね?
まぁ、それは御自由に。
S.Tさん、ありがとうございました。