「海の思い出〜その2〜」
合宿2日目の午前7時、
「ふわぁ〜あ、よく寝た。」
「さっさと顔を洗いに行こうぜ。」
「そうですね。」
男子部屋で初めに起きたのは、ビットとバンの二人。
トーマ、レイヴン、バラッド、ハリーはまだ寝ている。
バン達は4人を起こさずに部屋を出ていった。
この宿舎の洗面所は風呂場の近くにあるので、バン達はそこへ向かった。
すると、
「あっ、アーバイン。」
「おはよう。」
アーバインが顔を洗っている。
もちろん、トレードマークのカメラ付き眼帯は外して。
「おう、バンにビットか。
お前ら早いなぁ。」
「アーバインもな。」
バンとアーバインがそんな会話をしていると、
ビットがあることに気付いた。
「なあ、なんか風呂場から音がしないか?」
ビットに言われ二人が耳を澄ましてみると、確かにピチャピチャ音がしている。
「誰か入ってるのかなぁ。」
「でも、他の教師達はまだ寝てるぜ。」
「ということは女子か。」
3人が話していると、
「やっほ〜、バン、アーバイン。
それにビット先輩。」
「おはよう。」
フィーネとリーゼがやってきた。
「ああ、おはよう。」
「なあ、風呂に入っているのが誰か知っているか?」
ビットの質問に、二人は首を横に振った。
「とすると、誰が・・・。」
とりあえず覗く事になり、5人がゆっくり戸を開けて中を見てみると、
脱衣所に服がない。
「おいおい、まさか幽霊じゃ・・・。」
「そ、そんな訳、な、ないだろう。」
バンの言葉をアーバインが否定するが、その声は震えていた。
背中に寒いものを感じながらも、バンを筆頭に5人が恐る恐る浴場を覗いてみると、
「・・・って、ジーク!
それにシャドーにアンビエントも。」
「キュ、キュイ。(あっ、バン!)」
「グル、グルルル。(ち、ちょっと、覗かないでよ。)」
「ガル、ガルル。(いいじゃないか、たまには。)」
なんと、オーガノイド3匹が背中の流しっこをしていた。
この光景にはバン達も流石に呆れている。
ちなみに、この宿舎はペットの入浴禁止で、ちゃんとオーガノイド専用の風呂もあるのだが。
「そういえば、スペキュラーは?」
リーゼがスペキュラーがいないことに気付き、
とりあえず一番近くに座っていたシャドーに聞くと、シャドーは女子風呂の方を腕で指した。
その時、
「グルル、グルルル。(ああ、いいお湯。)」
女子風呂から、そんなスペキュラーの鳴き声が聞こえてきた。
とりあえず言っておくが、スペキュラーは雌である。
「はぁ〜、とりあえず言っておくけど、
この風呂は温泉で、硫黄が入ってるから危ないぜ。」
アーバインのこの一言に4匹は反応し、慌てて風呂から出ていった。
「ねえ、アーバイン。
硫黄って金属を溶かすの?」
「溶けはしないが、変色はするぞ。」
アーバインがフィーネの質問に答えた。
もっとも、オーガノイドがどんな金属で出来ているかは謎だが。
とりあえず5人は顔を洗い終わって、朝食を食べに食堂へと向かった。
午前7時30分
食堂にはもう他の部員が集まっていた。
どうやらここの女将さんに食事と言われ、顔も洗わずに来たようだ。
「おはよう、みんな。」
ビットがさわやかに挨拶するが、
「おう、おはよう。」
バラッド以外の反応が返ってこなかった。
まだ寝足りないようで、リノンを始めみんなぼけーっとしている。
そして、
「そういや、レイヴンは?」
バンがレイヴンがいないことに気付き、みんなに聞く。
すると、
「俺ならここにいるぞ。」
後ろから声がしたので見てみると、肩にタオルを掛けたレイヴンがいた。
「何してたの?」
「シャドーを探すついでに顔を洗ってきた。
他の奴らも臭かったけど何かやったのか、あいつら。」
『さ、さあ。』
さっき風呂場にいた輩は顔を引きつらせながら答えた。
レイヴンはその様子を首を傾げて、不思議そうに見ている。
(一体何が・・・?)
彼の心の中はその疑問でいっぱいだった。
とりあえず後でシャドーに聞くことにして、彼はバン達と一緒に食事をとることにした。
午前8時30分
朝食を食べ終わった一同は、練習の始まる10時まで部屋でゲームをすることに。
「2人1組になってババヌキをします。」
と言うフィーネの鶴の一声で、昨日と同じくババヌキをすることとなった。
初めは嫌がっていたレイヴンも、昨日の一回目の勝負で、
一番最初に上がったリーゼと組む事でやっと了承した。
ちなみにペアは、バン&フィーネ、レイヴン&リーゼ、アーバイン&ムンベイ、
ビット&リノン、バラッド&ナオミ、トーマ&ハリーという具合だ。
この組み合わせはもちろん勝手にくっついたもの。
もっとも、トーマとハリーは余り者同士だが。
「じゃあ、始めるぜ。」
ビットのかけ声と共に、ババヌキとは思えないほどの壮絶な戦いが始まった。
そして、1時間半後の午前10時。
とっくに部活が始まっている時間である。
だが、
『負けてたまるか〜!』
「いい加減諦めろよ。」
トーマとハリーの諦めの悪さに、ウンザリしているアームン組とバラナオ組。
そう、さっきからずっとこの調子なのだ。
一番最初に上がったのはレイリー組で、リーゼがテレパシーと虫ゾイドを併用して、
相手のカードを覗き見るという、バックドラフト団も真っ青の反則行為で勝った。
次は勘勝負のビッド&リノン組、
その次はバンの根性とフィーネの勘が勝因となったバンフィー組と、
どんどん上がっていって、とうとうこの3組が残った状態になった。
「ふわぁ〜あ、まだかよ〜?」
40分程前からこの状態なので、バン達も飽き飽きしていた。
リーゼとレイヴンはそれぞれの肩に寄っかかって、眠り込んでしまっている。
「俺達だってさっさと終わらせたいよ。」
アーバインが愚痴りながらカードを引くと、その顔が曇った。
「またジョーカーを引いたな。」
さっきからジョーカーがぐるぐる回っているので、勝負がつかない。
そして、トーマがカードを引くと、
「うおっしゃー!上がったー!
フィーネさ〜ん、見ましたか〜!」
とても嬉しそうな顔でトーマが見ると、フィーネもバンの肩でスヤスヤと寝息をたてていた。
それを見てトーマは愕然としていた。
「リノンは?」
辛うじて起きているバンにリノンの行方を聞くと、
「何か、長引きそうだから風呂に入って来るって。」
その返答にトーマと同じく愕然としてしまったハリー。
バンとビットも似ているが、この2人の方がもっと似ていると誰が言ったことがある。
そして、とうとうお互いに肩を組んで泣き出してしまったが、
「うるせ〜!」
「いい年して泣いてんじゃね〜!」
と、アーバインとバラッドに蹴りを喰らって、部屋から出されてしまう2人だった。
結局、勝負は年の功と言うことでアームン組が勝った。
勝負が終わったと喜んでいると、突然、
「ギャアアアーーーー!」
「この変態、痴漢、女の敵ー!」
「誤解だー!」
というビットの絶叫とリノンの怒鳴り声が聞こえてきた。
その声で今まで眠っていた輩も起きた。
「またかよ〜。」
「ホントに進歩がない奴。」
バンとアーバインがそんな会話をしていた。
とりあえずバラッドとナオミが罰ゲームということで止めに入らせられた。
リノンの言い分によると、ビットが風呂を覗いたというが、
当のビットは、「そんなことはしてない、ただ顔を洗っていただけだ。」という。
言い訳だと腹を立てて、リノンがビットをまた追いかけ始めてしまった。
何処から持ってきたのか分からないバスタブをその両手で持ち上げて。
そして、それを申し訳なさそうに見ている青いオーガノイドがいた。
「グルル。(どうしよう。)」
実はまた風呂に入ろうとしてスペキュラーが風呂を覗いたのだ。
そこにリノンがいたので慌てて逃げてしまい、
それを追いかけたリノンが、洗面所で顔を洗っていたビットを
犯人と勘違いしてしまったと言う訳。
結局、彼の疑いは晴れず、リノンのきついお仕置きをまた受けたビットであった。
これもまた、楽しい思い出である。
ビットが哀れ・・・。
サム冥府・HAYAさんの4回目のキリ番です。
何かまだ続きそうな雰囲気だなぁ。
また機会があったら書きたいと思います。
では。