「オーガノイドの休日」
この日、バンが休暇を取ったので、
ジークはウインドコロニーのバンの家で退屈そうにしていた。
「キュ、キュイ。(ふわぁ〜あ、暇だなぁ。)」
バンとフィーネはバンの姉、マリアと一緒に買い物に行っている。
3人とも当分帰ってきそうになかった。
「キュイイ。(散歩でもするかな。)」
そう言ってジークは家の外に出て、ブースターで飛び立った。
こうしてジークの長い散歩が始まった。
彼が最初に向かったのはイセリナ山。
デススティンガーの強襲で、コロニーのほとんどが焼けてしまったが、
村の人々の頑張りで、徐々に復興しつつある。
ジークが降り立ったのは、コロニーから少し離れたお花畑。
そこでは子供達と一緒になって遊んでいるローザがいた。
「あら、ジーク。」
ローザがジークに気付き、2人の子供を引き連れて近寄ってくる。
「今日はどうしたの?」
「キュイ、キュイ。(ちょっと散歩してるの。)」
「そうなの。」
ローザと会話していると、彼女の後ろにいた子供達がジークの回りを囲んだ。
「あっ、そうだ。ジーク、ちょっとその子達と遊んでてくれない。
「キュイ。(いいけど。)」
返事を聞くと、ローザはコロニーの方に戻っていった。
ジークは2人の子供を背中に乗せて、ブースターで飛び、イセリナ山の周りをぐるぐる回った。
最初、子供達は怖がっていたが、慣れてきたようで、すごく嬉しそうにしている。
時々、ヴィオーラがこのコロニーに来ては、子供をストームソーダーに乗せてあげているらしいが、
直接風を感じるぶん、こっちの方が迫力があるに違いない。
20分ぐらい飛んでいると、ローザの呼ぶ声が聞こえたので、
ジークは彼女の前に着地した。
ふと見ると、ローザの手には花がいっぱい入っているバスケットがあった。
「これ、バンとフィーネに。」
そう言って、ジークに手渡した。
「今度は3人で来てね。」
「キュ、キュイ。(分かった。)」
「また来てね。」
子供達に手を振られながら、ジークはバスケットを口にくわえて空へと飛び立った。
彼はさらに遠くに行こうとして、進路を西に向ける。
ジークが次に向かったのが、ミレトス城。
ルドルフが住んでいる城だ。
丁度その頃、ルドルフは発着場でロッソとヴィオーラの2人と一緒にゾイドの特訓をしていた。
どうやらストームソーダーに乗るつもりらしい。
ジークはそのすぐ近くに着地した。
「あっ、ジーク!」
ルドルフがロッソとヴィオーラと近付いてきた。
「今日はどうしたんですか?」
「キュ、キュイ。(散歩してるの。)」
ジークが口にくわえていたバスケットを手に持ち替えた。
すると、ヴィオーラがバスケットの中の花を手に取った。
「これは・・・セイリナ草ね。
イセリナ山に行って来たの?」
ジークがコクリと頷く。
「そうか、いろんなところに行ってんだなぁ。」
ロッソも花を手に取りその香りを嗅いだ。
セイリナ草は薬草としても有名だが、とてもいい香りがするので、香水の原料にもなる。
「ねぇ、ジーク。
ついでだから陛下の練習に付き合ってくれない?
この子、今日初めてストームソーダーを操縦するの。
だから、ちょっと手伝って。」
「キュ、キュイ。(別にいいよ。)」
ジークはヴィオーラにバスケットを手渡すと、光となってストームソーダーに合体した。
ルドルフはストームソーダーのコックピットに乗り込み、いろいろと計器をいじって離陸の準備をする。
「準備いいですよ。」
地上で見守る2人にそう告げると、ストームソーダーがカタパルトから発進した。
ジークのフォローもあって、順調に飛行を続けるルドルフ。
その表情は満足感で満ちあふれていた。
途中でジークが抜けてルドルフ1人で操縦したが、
何の問題もなく飛行することが出来た。
30分ぐらい城の周りを飛び続けた後、
ちゃんと発着場に帰ってきたルドルフをジーク、ロッソ、ヴィオーラが迎えた。
「ジーク、本当にありがとうございました。
おかげで楽しかったです。」
「キュイイ。(どういたしまして。)」
「今度はバン達と一緒に訪ねて来て下さい。
いつでも歓迎しますから。」
ジークは頷くと、ヴィオーラからバスケットを受け取り、飛び去っていった。
ウインドコロニーを出発した頃よりずっと日が傾いているので、
もうバン達も家にいるだろうと思い、ジークはもう帰ろうとしていた。
だが、
「グルルル。(ジーク、見〜つけた!)」
何処かで聞いたような鳴き声が聞こえたかと思った時、
突然ジークの体にプレッシャーがかかり、
下に見えていたオアシスの近くへと落ちてしまった。
「キュイ〜。(何だよ、いったい。)」
横倒しになって不時着したジーク。
何故かなかなか起き上がれないので、自分の体の上を見ると、
「グルルル。(久しぶり〜。)」
のんきに挨拶をしているシャドーが乗っかっている。
表情は何処か嬉しそう。
どうやらさっきのプレッシャーは、シャドーが空中で体当たりをしたかららしい。
「キュ、キュイ〜。(いったい何のようだよ、シャドー!)」
流石に怒っているジーク。
まあ、こんな事されて怒らない奴の方が珍しい。
「グルル、グルルル。(ちょっと暇だったから。)」
その答えに起こる気が失せたジーク。
とりあえず体の上からどいてもらうことに。
「キュ、キュイ、ゴキュ。(暇で人の散歩を邪魔するか、普通。)」
体に付いた砂を払いながら、そう話すジーク。
だが、
「グルル〜。(ジーク、見っけ!)」
と、今度は青い物体がジークの真横から飛んできた。
それに激しく体を吹っ飛ばされるジーク。
案の定、スペキュラーだった。
「グルルル(お久〜!)」
さっきのシャドーよりも、茶目っ気たっぷりに挨拶するスペキュラー。
やれやれといった表情で、ジークは起きあがった。
「キュイイ、ゴキュ。(で、何で2人はここにいるの。)」
不機嫌モード全開で2匹に話しかけるジーク。
流石のシャドーとスペキュラーもこれにはビビっている。
「グルル、グル。(リーゼがレイヴンとそこのオアシスでデートしてるから。)」
「グルルル。(その付き合いで。)」
ジークがスペキュラーの示したオアシスを見てみると、赤いゾイドが停まっている。
あれはどっからどう見ても、ジェノブレイカーであった。
「キュイ〜(で、2人もデート?)」
ジークの言葉に顔を真っ赤にしながら、2匹は首を横に振って否定している。
が、言葉には出さなかった。
(分かりやすい奴らだなぁ。)
そうジークは心の中で呟いた。
「キュイ。(まあ、いいけど。)」
すると、ジークはバスケットの中からセイリナ草を1束取り出した。
そして、2人に手渡した。
「キュイ、キュイ。(僕からのお祝い。じゃあ、またね〜。)」
ジークはそう言って、再びウインドコロニーへと飛び立った。
頬を真っ赤にしながら、2匹は彼を見送っていた。
ジークがウインドコロニーに着く頃には、日がほとんど沈んだ状態。
そして家の前では、バンとフィーネが待っていた。
「ジーク、お前何処に行ってたんだよ。」
「キュイイ〜。(ちょっと、散歩してた。)」
バンの質問に簡単に答えるジーク。
本当は『ちょっと』ではないが。
「あら、何持ってんの?」
フィーネがジークの持っている花に気付いた。
「ゴキュ、キュ、キュイ。(ローザさんから2人にって。)」
「て言うことは・・・イセリナ山に行って来たのね。」
ジークがフィーネの言葉に頷く。
すると、
「バン、ご飯が出来たわよ〜。」
「分かったよ、姉ちゃん。」
マリアの声にバンが返事をする。
「じゃあ、ジークの一日をゆっくり聞くか〜。」
バン達が家の中に入る。
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
そして、ジークの今日の出来事に、静かに耳を傾けていた。
その頃、レイヴンの家では、
「シャドー、その花はどうしたんだ?」
「スペキュラーも、どっから摘んできたんだい?」
レイヴン達がシャドー達に花のことを聞いている。
しかし、
『グルルル。(秘密!)』
と2匹とも口をそろえて言うばかり。
「まったく、僕たちが目を離している時に、何やってるんだか。」
「2匹でデートでもしてたのか?」
さっきのジークと同じ質問をレイヴンにされ、
さっきと同じく2匹は首を横に振って否定した。
もちろん、顔を真っ赤にして。
(分かりやすい奴ら・・・)
二人してこんな事を思ったとか。
(あんたらに似たんだよ。)
と心の中で言い返すシャドーとスペキュラーだった。
期末試験も終わって、やっと小説を書き上げた〜!
これもさゆきさんに送らせていただきました。
でも、密かに続きを書いていたりして・・・。
今度はサンダーでも出そうかなぁ。
では。