「彼の悩み」

デスザウラーを倒して1ヶ月が経ち、
リーゼは俺と共に、俺の家で暮らしている。
そして、今日も無事に昼食を作る・・・はずだった。

「リーゼ、ニンジン切ってくれ。」

「分かった。」

器用そうな手つきでどんどんニンジンの皮を剥いていくリーゼ。
だが、本当に器用そうに見えるだけなのだ。

「おい、いつになったら皮剥きを止めるつもりだ。」

「あっ・・・。」

いつまで経っても切る音が聞こえないので、
彼女の方を見てみると、
皮どころか実まで剥いていて、
全体の大きさが3分の2ぐらいになっていた。

「ごめ〜ん、つい夢中になっちゃって。」

てへっ、と舌を出して謝る彼女を見て、俺はため息をついた。
この1ヶ月、こいつが俺を手伝って、ろくに料理を作れたことはほとんど無い。
料理にやたらと塩を入れたがるし、
ナイフの使い方はうまいのだが、物を切るのが苦手、
おまけに、火加減を間違えて火事を起こしそうになる。
しかも、謝り方も何となく可愛いし・・・って何言ってるんだ、俺は。
とにかく、怒る気にもならないほど俺は呆れているし、疲れていた。

「お前はもういいから、向こうへ行ってシャドー達の世話でもしていろ。」

「え〜、僕も手伝うって。」

「いいから。」

リーゼは渋々オーガノイド達の所に行く。
まったく、料理が下手という自覚がないのか、あいつは。
ちなみに今日のメニューはカレー。
なぜなら、これを作っておけば明日の朝までは、
何も作らないで済むからだ。

「さてと、後は具をしばらく煮て・・・。」

カレーの具と水を鍋に入れて火を付けようとした時、
何かとてつもない音が我が家に響いた。
そして、オーガノイド達の悲鳴らしき鳴き声も。

「一体何をやらかしたんだ、あのお転婆は・・・。」

とりあえず火を弱火にして様子を見に行くと、
洗面所にある洗濯機の周りが水浸し。
そして、近くにいる約1名と2匹も・・・。

「また、派手にやったな。」

「・・・ごめん。」

静かな声で謝るリーゼに俺はまたため息をついた。
どうやら洗濯機に洗濯物を詰まらせたらしい。
これでもう4回目だ。
だから俺は家事をやるなと言ったのだが。

「ちゃんと拭いておけよ。それと、とっとと着替えろ。
風邪をひいたりして、また熱を出しても知らんぞ。」

「うん。」

彼女の返事を確認して、俺は再び台所に戻った。
いつになったらまともに家事が出来るようになるんだか。
もし、神がいるのだとしたら、それを願いたい気持ちでいっぱいだ。

 

 昼食が済まして後片付け、のはずだったが・・・。

「レイヴン、手伝おうか?」

俺の予想通りにリーゼが声を掛けてきた。
思えば昼飯の準備の時も、そう言って手伝ったんだったな。

「結構だ。」

「そんな事言わないでさ、ねぇ。」

また可愛い顔してせがんできやがった。
またまたため息をつきながら、俺が洗い物をさせない理由を言った。

「お前・・・皿を何枚割ったと思ってるんだ?」

「えっ・・・と・・・、6,7枚ぐらい・・・かな?」

「9枚だ。ちなみにコップは8個だが。」

俺の言葉を聞いて、彼女は顔を赤らめた。
毎度毎度何かを割るので、金がかかって仕方がない。
俺がいくら賞金を稼いできても、すぐに無くなってしまう。

「だから、おとなしくしてろ。」

「は〜い。」

リーゼがトボトボと居間に戻るのを見届けると、俺は流し台に向かった。

 

 洗い物が終わり、居間に戻ってみると、リーゼがいないことに気が付いた。

「シャドー、あいつは?」

居間で寝ているシャドーに聞いてみると、
どこかに出かけたという。

「まったく、一体何処に行ったんだか。」

そう言って大して気にも留めずに、ジェノブレイカーの整備へと向かった。
こんなゾイドを軍の基地に持って行く訳にもいかず、
かといって、このままにしておく訳にもいかないので、
自分でやることとなったのだ。
以来仕事や用事のない時は、これが日課となっている。

 

 やがて日が暮れ、ソファーで賞金首のリストに目を通していると、

「ただいま〜。」

リーゼがスペキュラーと共に帰ってきた。

「何処に行ってたんだ?」

「街まで買い物。」

あっさりそう言うと、買い物袋をテーブルの上に置いた。
何を買ってきたかと思い、袋の中を覗くと、

「野菜ばかりだな。」

キャベツやトマト、タマネギにニンジン、パパオの実などが山のように入っていた。

「安売りしてたから多めに買って来ちゃった。」

「・・・冷蔵庫がパンクするだろう。」

そして極めつけが

「塩はこの間買わなかったか。」

また塩を買ってきやがった。
古代ゾイド人の味覚はどうなっているんだか。
一回精密検査をした方がいいんじゃないか。

「だって、もう残り少なかったし・・・。」

「お前がどんどん使うからだろう。」

やや呆れた顔でいった。
何かバンの気持ちが今分かったような気がした。

「さてと、レイヴン、ちょっとお願いがあるんだけど。」

「何だ?」

嫌な予感がする、俺の危機回避本能がそう訴えかけているのが分かった。

「あのさ・・・、料理ぐらい教えてよ。」

やっぱり、と思いながらリーゼの顔を見る俺。
俺はいつも教えているつもりなんだが。

「一体どういう風の吹き回しだ?急にそんな事を言いだして・・・。」

「あのね、僕だって家事の1つや2つぐらいこなしてみたいよ。
それに、いつもレイヴンに迷惑かけてばっかりだし・・・。」

自覚ぐらいはあったんだな、そう言いかけたが止めておいた。
折角こうして学ぼうとしているのだから。

「で、何が作りたいんだ?」

「野菜の切り方を練習したいからサラダかな。」

なるほど、道理でこんなに野菜を買ってきた訳だ。
初めてリーゼが成長したなと思えてきた。

「始めるが、指を切るなよ。」

「大丈夫だよ、ナイフの扱いはうまいから。」

本当に大丈夫かと思いつつ、問題児専門の料理教室が始まった。

 

サラダは結構雑に切っていたが、
なかなか見栄えの良い物にしあがったので、まずは一安心。
まあ、サラダごときで失敗されたら、先が思いやられるが。

「あのさ、レイヴン。こうして2人で料理してると、何か楽しいね。」

「・・・そうだな。」

案外「幸せ」とはこういうところにあるのかも知れないと、少し思ってみたりもした。
ちなみに晩飯はカレーとサラダ。
なおサラダの方は、あいつがいつの間にか塩を入れていたので、
とても食える物ではなかった。
俺の最大の悩み、それはリーゼの味覚だと確信した。
まあ、いいか。
こいつといる事自体は決して悪くはない。

END


リーゼも果たして塩好きなのでしょうか?
ちょっと気になった今日この頃。
初心者さん、キリ番ゲットおめでとうございます。
結局こんなになってしまいましたが、どうでしたか?
感想をお待ちしています。
では。

 

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