役割と大まかな説明を受け、一同は早速準備開始。
教師達はやらなければボーナスカットということであっさり承知した。
ヒルツは台本を大急ぎで書き上げている。

「くそ、何でこの私がこんな事を・・・。」

そんな風にぼやいていると、

「何ならクビになりたいのかな?」

背後からそんなトロスの声が聞こえてきた。
流石にクビは嫌だと思い、

「喜んでやらさせて頂きます。」

と、態度を一新して仕事に打ち込み始めた。

「うんうん、その調子、その調子。
あ、そうそう。明日までに書いてきてね。
じゃないと稽古に間に合わないから。」

その言葉に彼は石化した。
だが、手だけはしっかりと動いていたりする。

 

ハーマン達大道具係は一からセット作り。
だが、

「何で私たちがこんな事を・・・。」

いきなり情けない声を上げるオコーネル。
彼は数学教師なので細かい計算には欠かせないのだが。

「いいからとっとと手を動かせ。
日が暮れるぞ!」

「もう夕方だから暮れている。」

ハーマンに突っ込むシュバルツ。
この男、何かをやりだしたら止まらないらしく、
ものすごい勢いで組み立てていく。
そんな彼に敬意と驚きを感じている2人であった。

 

キースは音楽室でCDとにらめっこ。

「う〜ん、どれがいいのかな〜。」

そう、彼は選曲に悩んでいた。
だが、彼は気付いていなかった。
選曲は台本が出来てからするものだということに。
その事に気付くまでの2時間、彼は悩み続けていた。

 

その頃、役者達は被服室で服のサイズを測っていた。

「じゃあ、次は胸のサイズね。」

「は〜い!」

マリアがフィーネの胸のサイズを測っていると、
トーマがそれを凝視していた。
知っての通り、彼女はかなり胸が大きい。

「何見てんだよ、トーマ。」

バンに声をかけられ、彼はビクッとする。

「い、いや、べ、別に俺は、
ふぃ、フィーネさんの、む、むむ、胸なんて、み、見てないぞ!
断じて・・・見ていない!」

「俺は何をしているのかって聞いたんだけど・・・。」

「自分で墓穴掘ってりゃ、世話無いな。」

バンとアーバインの言葉にトーマ撃沈。
更に、

「あら、手が滑っちゃった。」

ローザに思いっきり首を絞められる。
その目は殺気に満ちていた。

「女の子の嫉妬って・・・。」

「怖いよな・・・。」

「ああ・・・。」

そんな彼女を見て、
バン、ビット、アーバインがそれぞれ感想を言っていた。
ちなみにこの後、
リノンの計測を見て、ビットが強烈な蹴りを喰らったのは余談である。

 

ディは化学室で薬品を調合中。

「これで色鮮やかな花火が出来るぞ。ワッハッハッハッハ!」

彼がそんなばか笑いしながら、試験管に薬品を加えると、

ボン!

小さな爆発が起こり、ディの顔は真っ黒焦げ。
「失敗は成功の元」と自分に言い聞かせて、
また実験を再開。
しかし、この後5回は爆発したという。

 

バラッド、ナオミ、ハリーは図工室で小道具作り。

「俺の名はハリー・チャンプ。王者となるべくして生まれた男。」

「王者がこんな所で工作とは、情けないわね。」

隣でナオミが嫌味をいう。

「何だって!もう一回行ってみろ!」

「あら、聞こえちゃった。気にしないで。
独り言だから。ひ・と・り・ご・と。」

そんな彼らのやりとりに、バラッドは深くため息をついた。

 

果たしてこんなんで大丈夫なのだろうか?
時は流れて、一週間後の舞台当日、小学校の体育館にて。

「よう、レイヴン。よく眠れたか?」

「・・・全然。」

眠そうな声を上げて、衣装に着替え終わったバンとレイヴンが話している。
バンはフィーネと一緒にセリフを覚えるために徹夜、
レイヴンも家で散々ラストシーンの練習をさせられて、
気付いたらもう朝だったという。
ちなみに練習の段階ではキスはしていない。
散々リーゼにキスをせがまれたが、彼が恥ずかしがってやらないのだ。

「キスをせがまれる身にもなってみろ。
か・な・り、嫌だぞ。」

「大変だな。
まぁ、ほら、本番ではするんだろ?」

「しなきゃ退学だからな。」

大きなため息と共に控え室へと入っていく。
すると、そこでは男性教師達が雑魚寝、
いびきをかきながら、気持ちよさそうに眠っている光景が目に写った。
当然彼らも徹夜組。
眠り込んだのもつい1時間前の話だ。

「のんきなもんだな。」

「まったくだ。」

と、少々苦笑いの2人であった。

 

 やがて、他の役者達も合流。
後は本番を待つばかりとなった。

「よし、みんな!ビッといくぜ!」

「オー!」

ビットのかけ声で円陣を組み、気合いを入れる面々。
本当にビットはこういう時にまとめるのが得意だ。

ジリリリリリリン

開幕のベルが鳴り、さっきまで騒いでいた小学生達も大人しくなる。
そして、ついに幕が開いた。

『ここは七人の小人達が平和に暮らすとある森。』

ヒルツの声が舞台に響き、高学年の女子はうっとり。
さすがセクシーボイスのヒルツ。(勝手に命名)

『この森に白雪姫と呼ばれる綺麗なお姫様が暮らしていました。』

ライトがつくと、リーゼが森のセットで楽しそうに歌っている。
その回りではバン達とオーガノイド達(ジークはいない)が踊っていた。
キースも聞いているだけで楽しくなるような音楽を流す。

『いつもこのように歌っている白雪姫。
しかし、幸せの日々はそう長くは続きませんでした。』

ヒルツのその言葉を合図にライトは消され、役者達は舞台袖へ。
そして、セットも大移動。
もちろん動かしているのは、大道具の方達。

「せぇーの!」

ハーマンのかけ声で3人は森のセットを引っ張り、
その裏にあった魔城のセットが姿を現した。
魔女役のムンベイが舞台に移動し、
バラッドが鏡を舞台上に置く。
ちなみにアーバインは舞台袖でマイクを使って声を出す仕組みだ。
ここまでの作業を10秒弱で終わらせるのだから、すごい。

『ここは性悪おん・・・じゃなくて悪い魔女が住んでいるお城。
今日も魔女は物言う鏡に誰がこの世で美しいかを聞いています。』

ライトが再びつくと、
ムンベイが魔女の格好をして鏡に向かって話しかけていた。
音楽もなんだか恐ろしいものに。

ムンベイ「鏡よ鏡、世界で一番美しいのはだ〜れ?」

アーバイン「それは・・・白雪姫です。」

ムンベイ「な、何ですって!このポンコツ鏡!!」

そう言って鏡を蹴飛ばすムンベイ。
その鏡は舞台袖のアーバインを直撃したという。

ムンベイ「見てらっしゃい、絶対に復讐してやるんだから。」

この演技で泣き出した子供が何人かいたという。

『おやおや、鏡がそんなことを言うものだから、さあ大変。
魔女は白雪姫を亡き者にしようと準備を始めてしまいました。』

ライトが消えて、ムンベイは舞台袖へ引っ込む。
再び大道具達が森のセットを移動させ、リーゼが舞台上に姿を現した。

『舞台は再び森の中。
白雪姫が散歩をしていると、不思議なおばあさんが現れました。』

ムンベイがリンゴがいっぱい入っている籠をもって、
舞台袖からリーゼに向かって歩いていく。

ムンベイ「おや、ずいぶん綺麗なお嬢さんだね。
      これをあげるよ。」

そう言ってリンゴを差し出す。
そしてリーゼは、

リーゼ「ありがとう、おばあさん。」

リンゴを一口かじって、舞台に倒れ込んだ。

ムンベイ「イーーーッヒッヒッヒッヒ、これで私が世界で一番美しいのね。」

『なんと、おばあさんの正体はあの性悪魔女だったのです。
白雪姫は毒リンゴを食べ、深い眠りへと落ちてしまいました。』

またライトが消え、ベットとバン達、オーガノイドが姿を現す。
音楽も悲しいものに。

『白雪姫が眠りに落ちてからというもの、
小人や森の動物達は元気がありません。』

バン「白雪姫ー!起きてよー!」

フィーネ「このままだと白雪姫が死んじゃうよー!」

トーマ「何だってー!」

リノン「白雪姫ー!」

ビット「何でこんな事に!」

ルドルフ&メリーアン『えーん、えーん!』

 

その頃、舞台袖では、レイヴンが準備中。
だが、

「本当にやるのか?」

「キュイイ。(やらないとダメだよ。)」

「はぁ〜。」

心の準備がまだだったりする。

 

『小人達が悲しんでいると、そこへ王子様が白馬に乗って現れました。』

ヒルツの言葉と共にレイヴンがジークに乗って登場。
しかし、何となく顔が強ばってる。

レイヴン「どうかしたのか?」

フィーネ「あっ、王子様!」

彼女の声で一斉に駆け寄る小人役達。

メリーアン「白雪姫が、白雪姫が!」

ルドルフ「白雪姫が魔女の呪いで!」

レイヴン「何だって!」

そう言って彼はリーゼが寝ているベッドに歩み寄った。
内心「何でこんな事を」と思ってはいるが。

レイヴン「何という美しい姫だ。
     我が口づけで呪いが解ければいいのだが。」

いよいよ問題のキスシーン。
レイヴンは顔が真っ赤の状態でリーゼに顔を近づける。
リーゼも眠っているふりをしながら、その時を待っている。
そして、

『王子が口づけをしたとき、奇跡は起きました。』

ヒルツが2人を見届けて、声を発する。
もちろん2人はちゃんとキスをしている。
リーゼが起き上がって、

リーゼ「ありがとうございます。王子様。」

スカートの裾を持ち上げて彼女がペコリと頭を下げる。
その横でバン達がわいわい騒いでいる。

バン「白雪姫が起きた!」

トーマ「バンザーイ、バンザーイ!」

レイヴン「姫、良かったら我が城で一緒に暮らさないか?」

そう言って彼女に手を差し出す。

リーゼ「ええ、喜んで。」

リーゼも彼の手を取った。
そして、エンディング。
BGMは「Your song」だったりする。

『こうして白雪姫は王子様と一緒にお城で幸せになりましたとさ。
めでたし、めでたし。』

こうして幕が閉じ、会場は溢れんばかりの拍手で満たされていた。
ちなみにディの花火は危ないからという理由で使用中止。
代わりに照明係で仕事をしたという。

 

部室に戻り、早速打ち上げ。

「お疲れさん。」

『お疲れー!』

キース達が役者に労いの声をかける。

「あ〜、疲れた〜。」

「本当に。もう1ヶ月分は働いたぜ。」

バンとビットがジュースを飲みながら、そう漏らす。
そして、主役の登場。
2人は顔を真っ赤にしていた。

「レイヴン、お疲れさん。」

「リーゼもご苦労さん。」

バンとフィーネが声をかけても返事無し。
どうやらキスがよっぽど恥ずかしかったらしい。

「まあ、しょうがないな。あんなに熱いことをやったんだから。」

「それもそうね。」

アーバインとムンベイが冷やかしとも取れる言葉を発する。
ちなみに大道具3人はセットの移動で完全にへばっていた。

「いやぁ〜、みんなお疲れさん。
いい舞台だったぞ。」

トロス監督登場。
ちなみにこの人、何にもやっていない。

「こんぐらいしたんだから、給料ぐらいあげろ。」

『そうだ、そうだ!』

アーバインを筆頭に賃上げの抗議。
すると、

「そうだな、考えてもいいぞ。
そのかわり、もう1講演してもらうぞ。」

その言葉に一同石化。
そして、

『勘弁してくれーーー!』

全員の声が学校中に響いた。


やっと、終わった〜。
NASUさん、5700のキリ番ゲットおめでとうございます。
だいぶ引っ張ってしまってすみません。
何をやらせるか、結構悩んでしまって。
まぁ、これに懲りずにまた遊びに来て下さい。
では。

 

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