「ドキドキお忍びデート」

 デスザウラーが倒されてから半年が経った。
数々の街やコロニーも復興が進み、
人々は戦前と変わらぬ暮らしを取り戻しつつある。
そしてここ、一番の立ち直りを見せたニューヘリックシティでは、

「ルドルフ陛下〜、こっちですわ!」

「メリーアン、声が大きいですよ。
お忍びで来ているって事を忘れないで下さい。」

ルドルフの注意にメリーアンは顔を真っ赤にして、

「すみません、私ったらつい・・・。」

と顔を真っ赤にして、素直に謝る。
やれやれとため息をつきながら、ルドルフは彼女の下に向かった。

 今日2人はこの街にお忍びで来ている。
目的はもちろんデート。
なぜ、こんな事になったかというと、

 

 今から一週間前、ミレトス城にバンとフィーネが訪れていた。
その訳は、ルドルフの摂政を務めているホマレフ宰相に呼ばれたからである。

「で、話って何ですか?」

豪華な応接間でフィーネが塩入りコーヒーを飲みながら尋ねた。

 もうフィーネとドクターディには塩入りと決められているらしく、
最近ではどこの軍事施設に行っても、当たり前のようにそれが出てくる。

 ちなみにバンは最近ブラックを頼むようになったが、まだ慣れていない。
この前、アーバインに「おまえにゃ大人の味はまだ無理だよ。」と言われたとか。

「ガーディアンフォースであるお2人でしたら、知ってはいると思いますが、
今、惑星Zi全域で大がかりな復興作業が進められています。
そして、陣頭指揮を執っていらっしゃるのがルドルフ陛下なのですが・・・。」

「どうかしたのか?」

怪訝な顔をして、尋ねるバン。
すると、

「もう2ヶ月も働き詰めでろくに休息をとっていらっしゃらないのです。
このままでは、いつか倒れてしまうのではないかと、
側近からも声が挙がっていて、私も心配で仕方がありません。」

「なるほど、ルドルフらしいな。」

「そこで陛下の無二の親友でいらっしゃるお2人に、お願いがあるのですが・・・、」

「ルドルフを息抜きさせろ、と言いたい訳ですね。」

フィーネが先を読んでそう言うと、ホマレフはコクリと頷いた。

「分かりました。じゃあ、こんなのはどうかな?」

そういってフィーネが提案したのが今回のデート。
実は、2人がここに来る前にメリーアンと偶然会ったのだ。
その時、「ルドルフ様と一緒にデートでもできたらいいのですけど・・・。」
と、言っていたのでこのアイデアが思いついたのだ。
そして、今回のデートがバン達の間で計画されたというわけである。
ちなみにバン達は密かに2人の後をつけていたりする。

 

「ルドルフ陛下、そろそろお食事にしません?」

時刻はもう正午を廻っていて、
はしゃぎまくっていたメリーアンもお腹が空いたようだ。

「ああ、もうそんな時間ですか?
そうですねぇ・・・、じゃあ、あそこで食事にしましょう。」

ルドルフが示したのはごく普通のレストラン。
理由はあまり人がいないから。

「ええ、いいですわよ。」

「それと、メリーアン。あまり、陛下、陛下と呼ばないで下さい。
さっきから言ってますけど僕はお忍びなんですから。」

「はい、分かりました、へい・・・ルドルフ様。」

彼女には彼のことを陛下と呼ぶことは、癖になっているのであろう。
この後、何回か陛下と言いそうになり、ルドルフを冷や冷やさせたという。
それに、様付けもどうか、と彼も思ったが、
まあ、陛下よりはましか、とあっさり許した。

 

「いらっしゃいませ、2名様ですか?」

『はい。』

「では、こちらの席へどうぞ。」

2人はウェイトレスに案内されて、窓に近い席に座らされた。
バンとフィーネもルドルフ達がよく見える席に座っている。

「ルドルフ様、そういえばお金は持ってきたのですか?」

「ええ、とりあえずは・・・。」

そういってズボンのポケットに入っている財布をぽんぽんと叩いた。
ちなみにこの財布の中にはバンの月給分のお金が入っている。
それをバンが知って、目眩を起こしそうになったというのは余談である。

 

 先程のウェイトレスに料理を注文し、楽しそうに会話をしていると、

「いらっしやいませ。2名様ですか?」

「そうだ。」

嫌に無愛想に答える客の声に、バンとフィーネがハッとする。

「なあ、フィーネ、今の声って、まさか・・・。」

「その『まさか』みたいよ。」

2人が入り口の方を見ると、彼らの見慣れた顔が。

「やっぱり・・・。」

「レイヴンとリーゼね。」

そう、2人の言うとおり、店に入ってきたのはレイヴンとリーゼ。
どうやら彼らもデートらしく、それなりの格好をしている。
しかも、バン達が驚いたことに、
彼らが案内された席はルドルフ達の隣。

「何にも無ければいいけど・・・。」

「バン、私、何か嫌な予感がするわ。」

「フィーネの嫌な予感って、当たるんだよなぁ。」

彼女の科白に少々不安を感じながらも、
折角のデートの邪魔をしてはいけないと思い、そのまま見守ることに。

 

 一方、こちらはルドルフサイド。
運ばれてきた料理に舌鼓を打っていると、
ルドルフが隣に座っている2人組に気付いた。
レイヴン達も彼らに気付いた様子だ。

「あなた達は・・・どなたでしたっけ?」

メリーアンの科白にレイヴンとリーゼは転けた。

「メリーアン、レイヴンさんとリーゼさんです。
2ヶ月前にキャンプで一緒になったでしょう。」
(「湖の伝説」参照)

「ああ、あの時のラブラブカップルの・・・。
今日はデートなのですか?」

ようやく思い出したらしく、気付けばそんな言葉を発していた。

「そんな風に覚えられてたのか。」

「ラブラブカップルって・・・。」

2人共、頬を赤くしながら何とか立ち直る。
そして、

「デートじゃない。ただの買い物だ。」

そういって、コーヒーを口にするレイヴン。
だが、

「じゃあ、デートですわね。
私とルドルフ様も買い物に来てるんですもの。
ねっ、ルドルフ陛下。」

「え、ええ、そうですけど・・・。」

突然振られて戸惑っているのか、
ただ照れているのか分からない様な口調でとりあえず返事をする。
すると、

「ちょっと見たいものがあって、共和国の方まで出てきたんだ。」

「それって、もしかしてウエディングドレスじゃ・・・。」

「そ、そそ、そんな訳・・・、無いじゃないか!」

「リーゼ、声が大きい。」

顔を真っ赤にしながら騒ぎまくるリーゼに、レイヴンが注意を促す。
そんな彼の顔も少し赤い。

「テレパシー能力でもあるのか?こいつは。」

「いえ、ただ勘が鋭いんです。こういうことに関してだけ。」

美味しそうにパフェを食べているメリーアンを見ながら、
男2人がひそひそ話。
リーゼはそのまま黙りこくってしまった。

 

「では、結婚式には呼んで下さいね。」

「シュバルツ大佐にも伝えておきますから。」

そう言って、メリーアンとルドルフは店を後にした。
何も言い返せずに佇んでいる2人に、さらに追い打ちがかかった。

「レイヴン、式には呼んでくれよ。
アーバイン達も誘うからよ。」

「リーゼ、お幸せに。」

バン達も一方的にそう言って店を後にした。
そして、最後にレイヴンが一言。

「何であいつらまでいるんだ?」

「ていうか、何故僕たちの会話の内容を・・・。」

最後まで疑問いっぱいの2人であった。

 

 食事から数時間後、ルドルフ達はある店の前に来ていた。

「わあー、綺麗ですわ。」

ここは、最近ニューヘリックシティに出来たアクセサリーショップ。
メリーアンが以前から来たがっていた店である。
実はルドルフが「好きなものを一つ買ってあげる」と言ったものだから、
彼女が真剣になってどれがいいかを選んでいた。
そして、

「ルドルフ様、これがいいですわ。」

メリーアンが指さしたのは、ハート型のペンダント。
宝石の装飾はないものの、ほのかなピンク色でかわいさを強調している。
そして、

「このペンダント、この青いのとペアになってるんですって。
それに、この中に写真を入れられるみたいです。」

青いものの方はダイアの形をしていて、明らかに男物である。
つまり、彼女はルドルフとペアのペンダントをしたいらしく、
しかも、その中に彼の写真を入れるつもりなのだ。
彼がそこまで察すると、すぐに財布に手をやった。

 

 やがて日も暮れ、楽しかった日も終わろうとしていた。

「ルドルフ様。今日は楽しかったですね。」

「ええ、また機会があったら来たいですね。」

ルドルフの言葉に満面の笑みで頷くメリーアン。
そして、街の外れに止めて置いたレドラーに乗り、
一路、ガイガロスへと向かった。
ちなみにさっきの店でバンとフィーネが指輪を買っていったのは余談である。


オリオン参世さん、キリ番ゲットおめでとうございます。
「ルドルフとメリーアンのお忍びデート」と言うことでしたが、
いかがだったでしょうか?
書いている途中で思ったのですが、
メリーアンってアニメに1回しか出てきてないんですね。
それなのにあんなに知名度が高いとは凄いですね。
ルドルフの許嫁という事だけではなく、やっぱりキャラが強烈だったのでしょう。
トーマとの絡みも最高でしたしね。
では。

 

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