「午後の一時」

 

 リーゼがレイヴンと同棲を初めてから1年が経った。
現在、レイヴンがゾイド乗りの腕を生かした賞金稼ぎで生計を立てている。
リーゼは特に仕事もなく、家事をしながら、新婚夫婦さながらの生活を送っている。
彼女の髪はこの半年で背中まで伸びていた。
前髪も、特徴である額の赤い入れ墨を隠すほど。
彼らのオーガノイド、シャドーとスペキュラーも、
初めはケンカばかりしていたものの、最近では仲良くなり始めている。

「ふぅ、こんなものかな〜。」

庭先で洗濯物を干していた彼女がグッと伸びをする。
今日は天気も良く、洗濯するにも日向ぼっこするにもとても良い日和である。
その証拠に、シャドーとスペキュラーが家の屋上で気持ちよさそうに寝ていた。

「さて、そろそろ買い物に行かないとね。
今日は何処に行こうかな〜。」

何となく楽しそうなリーゼはスペキュラーを呼びに階段を上がった。
最近の彼女の楽しみは買い物とレイヴンと過ごす時間。
ちなみにレイヴンが家を空ける事はそんなに無い。
めぼしい賞金首がいるぐらいしか出かけないのだ。
そして、出かけた日も必ず夕方には帰ってくる。
大抵の仕事が半日で済んでしまうからだ。
最近ではシャドーも家に置いていくようになった。
ジェノブレイカーに合体させて、無理な負担を掛けたくないのだろう。
連れて行く時と言えば、彼のライバル・バンとの手合わせの時。
腕が鈍るという理由で場所と時間を決めては、勝負をしているのだ。
だが、大抵引き分けに終わっているのが現状である。

「スペキュラー!買い物に行くよ〜。」

彼女の呼びかけに青いオーガノイドがムクッと顔を上げる。

「グルル〜。(眠い・・・。)」

「さっさとしないと、レイヴンが帰って来ちゃうでしょ。
さっさと目を覚まして下に降りる。」

「グキュ〜。(は〜い。)」

目を擦りながら返事をするスペキュラー。
その横でシャドーが、

「グルルル。(頑張ってね。)」

と素っ気ない一言。
完全に他人事である。
それを横目で見ながらも、渋々階段を下った。

(何であたしだけこんなに働いてるの?)

ふと、こんな事を思ってみたりする。
リーゼの買い物に付き合う
=ゾイドの操縦のアシスト+荷物持ち(半端な量ではない)
 +おまけに疲れたと言って背中に乗ってくる。
そう言う方程式が彼女の中に出来上がっていた。
こんなに扱き使われているオーガノイドも珍しい。
もっとも、オーガノイド自体珍しいが。

 

 プテラスに乗ること10分、リーゼとスペキュラーはニューヘリックシティに到着した。
共和国の首都であるここは現在街のほとんどが復興し終わっている。
そして、彼女らがここに来た理由は、

「確かここのデパートで復興祝いのバーゲンやってんだよね。」

そう、ガイガロスよりここの方が安いからである。

「グキュ〜、グルルル〜。(完全に主婦感覚だね、リーゼ。)」

はぁ、と溜息をつきながらそう言うスペキュラー。
そんな事は気にも留めずに、リーゼはとっとと行ってしまった。

 

 デパートは予想以上に込み合っていた。
行くところ行くところに人集りが出来ていて、思うように進めないでいた。
まぁ、進めずにいたのはスペキュラーがいたからであるが。

「グルルル〜。(待ってよ、リーゼ〜。)」

この後、何度かリーゼとはぐれてしまったスペキュラーであった。

 

 そして、一時間後・・・。
デパートからリーゼと、山のように荷物を抱えたスペキュラーが出てきた。

「いろいろと買っちゃったね。」

「グキュ〜、グルル。(買い過ぎだって・・・。)」

はぁ、とため息をつきながら、ポツリとそう漏らすスペキュラー。
結局、彼女の予想通りになっているのだから。
そして、プテラスに戻ろうとした時だった。

「あらっ、リーゼじゃない!」

後ろから元気な声が聞こえたので振り返ってみると、
彼女がよく知っている人物が立っていた。

「フィーネ・・・。こんなところで何してるんだい?」

そう、バンのパートナーで彼女と同じ古代ゾイド人のフィーネである。
その手には買い物袋があった。

「バンが夜勤続きだから、差し入れの買い物に。
リーゼは?」

「僕はレイヴンが仕事だから買い出し。
普段は彼と一緒なんだけど。」

「ねぇ、ちょっと喫茶店にでも行かない?」

「そうだね、僕ものどが渇いたし。
スペキュラー、先にプテラスに戻ってて。」

そういって、とっとと行ってしまった彼女たち。
スペキュラーはもう一度大きなため息をついて、トボトボと戻っていった。

 

 とある喫茶店にて。

「で、最近どうなの?」

「えっ、何が?」

フィーネの突然の質問にキョトンとしてしまうリーゼ。
ちなみに彼女たち、塩入コーヒーを飲んでいる。
端から見れば異様な光景である。

「決まってんでしょ。レイヴンとの生活よ。
結構、熱々なんじゃないの?」

「べ、別に・・・。」

少し頬を赤らめて、誤魔化すかのようにコーヒーを飲む。
本当はかなりラブラブで、
シャドーとスペキュラーが呆れるぐらいなのだが。

「ところで、バンとはどうなんだい?」

今度はリーゼが反撃とばかりに聞き返してみるが、

「それがさぁ、バンったら仕事が忙しいらしくって、全然構ってくれないの。
まぁ、私もDr.ディの手伝いで忙しいんだけど・・・。」

と、ちょっぴり寂しそうに答える。

「悪いこと・・・聞いちゃったかなぁ。」

少し罪悪感を感じたリーゼがそう言うと、
突然彼女が笑い出した。

「ふふふ、冗談よ。
最近、バンの方が暇みたいで、こっちに顔を出すの。」

「あのね・・・。」

リーゼは半端呆れ顔。
すると、フィーネがある物を手渡した。
手紙みたいである。

「これは・・・?」

「実は・・・。」

フィーネがなにやらモジモジしている。
リーゼは不思議そうにそれを見ている。
すると、彼女の口から驚くべき言葉が。

「実は、私たち、結婚するの。
だからそれは招待状よ。」

たっぷり1分間、沈黙するリーゼ。
彼女がビックリするのにも訳があったりする。
実はバンとフィーネはまだ18歳なのだ。

「・・・はい?」

やっと出た言葉がそれだった。

「け、け、結婚・・・て・・・。
いつ?」

「来月よ。詳しくはそれに書いてあるから。」

あっさり答える彼女にまたまた呆れ顔のリーゼ。
ふぅ、と息を付くと、

「本当にお前らって人を驚かせるのが得意だよね。」

ちょっと嫌みにも取れる言葉を言って、コーヒーをすすった。
だが、その後、また彼女の口から驚くべき言葉が出た。

 

 リーゼが家に着くと、外にジェノブレイカーがいるのが見えた。
レイヴンが帰ってきているみたいだ。

「ただいま〜。」

「グ、グルル〜。(た、ただいま。)」

スペキュラーは荷物運びで疲れていたのか、
荷物を置くとすぐに二階に上っていった。
レイヴンは居間で新聞を読みながら、

「お帰り。」

と呟くように言う。
すると、リーゼが彼の隣に座る。

「ねぇ、レイヴン・・・。」

「なんだ?」

新聞から目を離さずに彼女の言葉に耳を貸す。

「今日、フィーネに会ったんだ。
そしたら・・・あいつら、結婚するって。」

レイヴン、システムフリーズ。
新聞を持ったまま、固まってしまった。

「・・・はい?」

先程のリーゼと同じ反応をする彼。
リーゼはそんな彼に先程の招待状を見せた。

「『絶対来てね!』、だってさ。」

フィーネが別れ際に言った言葉をそのまま伝える。
そして、

「それと・・・、もう一つ。」

「今度は何だ?」

「フィーネ、・・・お母さんになるんだって。」

レイヴン、ダイアモンド化。
その拍子に新聞を落とした。

「な、なな、な、な・・・。」

言葉になってない声を出しながら、口をパクパクさせる。
実はこれも先程の彼女と同じ反応だったりする。
とりあえず落ち着くため、彼は深呼吸した。

「まさか、あいつが父親になるとはなぁ。」

ふと、バンの顔を思い浮かべる。
この間会った時はまだ18歳の青年の顔立ちであった。
人間、変わるときは急に訪れるものだと実感したような気がした。

「で、どうするの?」

「そうだな、式ぐらいには行ってやるか。」

「・・・うん。」

彼の言葉に頷くリーゼ。
そして、彼女は彼に身を預けた。

「レイヴン、僕たちはいつ結婚できるかなぁ?」

「お前がもう少し家事をこなせるようになったらな。」

少々皮肉を言う彼に、彼女は顔をふくれさせる。
すると、レイヴンは不意にリーゼを抱き寄せた。
その行為に彼女は顔を赤くする。

「冗談だ。」

そう言って、彼女の髪に口付ける。
リーゼも目を瞑り、彼の胸に顔をうずめる。
階段の上からは2体のオーガノイドがその光景を微笑ましそうに見ている。
そして、窓からは夏を告げる風が家の中に吹き込んできた。


やっと書き終えた〜。
初心者さん、キリ番ゲットおめでとうございます。
どうもお待たせしてしまってすみません。
いろいろと立て込んでしまっていて。
かれこれ一週間ぐらい掛かってしまいました。
では。

 

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