「真夏の夜の出来事」

 

 それは、ある夜の事だった。

「暑い・・・。」

俺はベッドの上で汗だくになりながら呟いた。
今日の昼間は真夏日でいつも以上に暑く、
夜になってもそれは変わらない。
まぁ、この星の気候は殆どがこうなのだが。
シャドーは俺のベッドの隣で気持ちよさそうに寝ている。

「オーガノイドはいいな。
布団を掛ける必要も、風邪を引く心配もないんだから。」

黒い固まりになっているシャドーを見ながら、そんな事を口に出す。
暑さに少々苛立ちを感じるのと同時に、涼しそうに寝ている姿を羨ましく思う。
払い除けたシーツをかけ直して、俺は再び眠りについた。
流石に今晩はしっかり眠らないとまずい。
明日はバンとの勝負の日なのだから。
俺達は月に一度、やり合うことにしている。
結果は・・・、全部引き分け。
だから、明日こそは勝つ。
その為にもしっかり睡眠をとらなくては・・・。

 

30分か、1時間か、とりあえず寝たという感じを引きずりながら、また目を覚ます。
外はまだまだ暗い。

「暑い・・・。」

今日になって、この言葉をもう何回呟いたのだろう?
またシーツを横に払い除けて、手で顔を扇ぐ。
体はこれでもかと言うぐらい汗をかいていた。
このままでは、脱水症状を起こし兼ねない。
しょうがないので水分を補給しに台所へと向かった。

 

コップ1杯の水を飲み干した後、
俺は三度眠りにつこうとベッドに潜り込もうとした。
すると、

ドン

何かにぶつかったような感覚が手にあった。
ある程度凹凸があったので壁ではない。

「シャドーか?」

そう思ってみる。
以前、寒い夜に勝手に俺のベッドに潜り込んだ事があった。
その時はベッドがえらく狭くなったな。
結局、その時は一緒に寝てやったが。
だが、“それ”には明らかに体温があるし、呼吸もしている。
そして、若干柔らく感じた。

「まさか・・・。」

嫌な予感がした。
ある考えが頭の中に過ぎったからだ。
俺の他にこの家に住んでいて、ベッドに潜り込みそうな人物。
思い当たるのは1人しかいなかった。
そして、まるで答えを証すかのように、
雲で遮られていた月明かりが“それ”を照らした。
透き通るような白い肌、空のように真っ青な髪、そして額の赤く丸い入れ墨。
間違いようがなかった。

「リーゼ・・・。」

そう、俺の同棲相手・・・、
じゃなくて、うちに居候している古代ゾイド人の少女、リーゼである。
そのリーゼが壁の方を向いて、スヤスヤと寝ている。
そして、俺はその事が分かった瞬間、頭の中が真っ白になった。

「なんでこいつが俺のベッドの中に〜!」

不意にそう叫びたい衝動に駆られる。
だが、喉まで出かかった声を必死になって飲み込んだ。
ここでリーゼが起きたら、もっと大きな騒ぎになることが目に見えていたからだ。
仕方が無く、俺は彼女の横に眠ることにした。
リーゼの部屋で眠ればよかったのだが、生憎と彼女の部屋にはもう先客がいる。
そう、スペキュラーだ。
あいつが起きても騒ぎになるに違いない。
あらぬ疑いを掛けられるのはごめんだ。
それに、1階にあるこいつの部屋に今から行く程、俺は元気じゃない。

「なんでこいつがここに・・・。」

暑いという言葉の代わりにそう呟く。
確かに不思議だった。
いつの間にベッドに潜り込んでいたのか。
しばらく考えていると、俺はある結論に達した。
リーゼは俺が起きて台所に行ったときにここに来た。
寝ぼけていたのでたぶん気付かなかったのだ。
どうせ、こいつも寝ぼけて部屋を間違えたのだろう。
よくある話だ。
そこまで考えつくと、俺は静かに目を瞑った。

 

 しばらく何も考えずに横になっていたが・・・。

「眠れない・・・。」

これは決して暑さのせいだけではない。
明らかに隣で寝ている奴のせいだ。
このままだと俺は完全に不眠症になってしまう。

「ん・・・、う・・・ん。」

リーゼの声が聞こえたので、俺は一瞬焦った。
このまま起きたら何を言われるか分かったもんじゃない。
だか、彼女は起きなかった。
そのまま体を俺の方に向けると、

「ニコ・・・ル・・・。」

そう呟くように寝言を言った。
そして、何の夢を見ているのか、容易に察しがついた。
おそらく彼女が目覚めた頃の夢を見ているのだろう。
しかも、辛い思い出を・・・。
俺も彼女の方に体を向け、その顔を見た。

「泣いてる・・・。」

涙が彼女の頬を伝うのが見えた。
あまり俺の前では泣かないで欲しい。
常日頃、そう思っている。
気が付くと、俺は彼女の涙をそっと拭っていた。
すると、

「レイ・・・ヴ・・・ン・・・。」

今度は俺の名を呼んだ。
今度はいったい、どんな夢を見ているのだろう。
そんな事を思った時、また彼女が言葉を発した。

「僕を・・・1人に・・・しないで・・・。」

その瞬間、俺の頭にある言葉が過ぎった。
「孤独」・・・。
俺も彼女もかつては「孤独」だった。
頼れるものが無く、信じられるのも自分だけ。
そんな状態が何年も続いた。
だが・・・、

「俺は・・・ここにいる。」

そう言って、彼女を抱き寄せた。
お互いに分かり合ったときから、もう俺達は「孤独」じゃない。
彼女の顔を自分の胸に押しつけるようにいつまでも抱き締めた。
ふと、彼女が笑ったような気がした。
俺の声が届いたのだろうか。
そして、そのまま俺は眠りにつくことができた。

 

 翌日、俺はあいつの声で目が覚めた。
絶叫にも似たような声で・・・。

「れ、れれ、レイヴン!!
なな、何で、君と、ぼ、僕がい、一緒に・・・。」

かなり焦っているようで、声が上擦っている。
顔も真っ赤だ。
やれやれというような感じで言ってやった。

「お前が勝手に潜り込んで来たんだろう。」

まぁ、まんざらでもなかったが。
ふっ、と笑うと静かに出かける準備を始める。

「じ、じゃあ、なんにも無かった・・・よね?」

その言葉で俺はある悪戯を思いつく。
そして、いかにも何かあったような顔をして、

「覚えてないのか?」

と、わざと尋ねるような口調で言った。
もちろん何もなかったが・・・。

「な、何が・・・あったのさ?」

完全に取り乱している彼女を見て、追い打ちを掛けるように一言。

「昨夜は激しかったな。(寝言が)」

俺はそう言って、シャドーと共にジェノブレイカーの下へと向かう。
リーゼはそのまま何も言わなかった。
おそらく俺の声が頭の中で木霊しているのだろう。
そして、そのまま俺はいつもの戦いの場へと赴いた。
ちなみに結果は・・・、引き分けだった。
どうやらバンも暑さのせいで寝不足だったらしい。


皐月衣里さん、キリ番ゲットおめでとうございます。
レイリーと言うことでしたが、いかがだったでしょうか?
結構、すらすらと書けましたね。
なんで私はレイリーになると早いんでしょう?
やっぱり好きなんですかね、このカップリング。
では、感想待ってま〜す。

 

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