「ライク オア ラブ」

 

 ある日のこと、
もう4月だというのにその夜は冬のような寒さだった。

「う〜、寒い。
なんだってこんなに冷えるんだよ。」

「キュイ。(僕にも分からないよ。)」

このとき、気温は8℃を切っていた。
バンもジークも暖炉の前から離れようとしない。
その時、扉を叩く音が聞こえた。
バンが扉を開くと、

「あっ、フィーネ。
どうしたんだ。」

「バン、実はさぁ〜、
泊めて欲しいんだけど・・・ダメ?」

フィーネがそんなことをいうものだから、バンはビックリして言葉を失う。
そして、何とか言葉を絞り出した。

「べ、別に・・・いいけど。」

「本当!ありがとう。」

バンの頭の中はまさに混乱状態だった。
良からぬ考えまで浮かんでくる始末で・・・。
だが、フィーネはそんなバンを後目にとっとと中に入っていく。

「ふぅ〜、暖か〜い。
良かった、家に暖炉も何もなくて困ってたのよね。」

「な〜んだ。」

フィーネのその言葉を聞いてバンはガックリ。
しばらくして買い物にでていたバンの姉、マリアも帰ってきて、
そのまま全員で寒い夜を過ごした。
もちろんフィーネはマリアと一緒に就寝。
バンはジークとともに落ち込んだ状態で眠りについた。

 

 そして翌日、昨晩とはうって変わって春の日和。
学校では、担任のアーバインが出席をとっていた。

「トーマ!」「はい。」
「バン!」「は〜い。」
「フィーネ!」「は〜い。」
「レイヴン!」「はい。」

ここまでは全員順調に返事をしていたのだが、

「リーゼ!」「・・・・・・」

リーゼが返事をしない
出席表をを見ていたアーバインはどうしたんだと思い彼女の席を見る。
すると、そこにリーゼの姿はなかった。

「ああ、あいつだったら風邪で休みだ。」

レイヴンが済ました表情で言う。
それに引き替え、他の生徒は驚いていた。

「嘘だろ。」

「あの元気いっぱいのリーゼが。」

「こりゃ、何か怒るぜ、絶対。」

トーマ、ローザ、バンがそれぞれ言った。

「その元気の良さが祟ったんだ。
あいつ、あの寒い中ずっと外で遊んでたからな。」

「やれやれ。」

そう言ってアーバインはリーゼの所に欠席の印を付ける。

 

 その頃、オーガノイド達は、

「キュ、キュイ。キュイ。(ねえ、シャドー。スペキュラーは?)」

「グル、グルル。(リーゼが風邪をひいたから、今看病してると思うぞ。)」

「ガルルル。(珍しいこともあるんだなぁ。)」

ジーク、シャドー、ヒルツの赤いオーガノイド、アンビエントが
日光浴をしながら喋っていた。
本当に彼等はのんきなものである。

 

 やがて放課後になり、

「フィーネ〜。
頼むから調理実習の時に作る物まで、塩を入れないでくれよ。」

「だって、味が薄かったんだもん。」

どうやら最後の時間は調理実習だったらしく、
バンはフィーネの塩入料理に文句を言っている。

「さてと、部活に行かなきゃな〜。
・・・あれっ、レイヴン。」

レイヴンが帰る支度をして、シャドーと一緒に廊下を歩いて来た。

「バン、悪いが部活を休む。
リーゼの看病をしなくちゃな。」

「そうか。」

「やっぱり、彼女だから心配なのね。」

「彼女」という言葉にレイヴンが反応した。
どうやら怒っているらしい。

「違う!俺は決してあいつとそんな関係じゃない!」

「じゃあ、何で同棲しているんだよ。」

「同棲」という言葉にも反応した。

「同棲じゃない!
ただの・・・居候だ!」

彼が凄い勢いで否定するものだから、
バンはため息を吐きながら言う。

「はいはい、分かったからそんなにムキになるなよ。」

「うるさい、お前らがからかうからだ。
行くぞシャドー。」

「グルル。(は〜い。)」

そう言ってレイヴンは後ろを向いて、とっとと帰っていった。
やれやれとそれを見送る。
すると、フィーネがバンを見上げていた。

「どうしたんだ?」

「もし私が風邪をひいたら、バンは早く帰ってきてくれるかなぁ、って。」

バンは微笑んで、「当たり前だろ。」と言うと、
フィーネも笑って、「バン、大好き。」と飛びついてきた。
それを後ろで見ていたのはトーマだった。
彼はフィーネに声をかけようとしたのだが、その光景を目の当たりにし石化。
さらに後ろでアーバインが、

「こりゃ、また山が無くなるな。」

と呟いていたという。

 

 その頃リーゼは、

「スペキュラー、水持ってきて。
後、退屈だからマンガも。
それから・・・。」

と色々スペキュラーに頼んでいた。
スペキュラーはそんな彼女に振り回され、家の中を駆け回っている。

「レイヴン、遅いなぁ。」

リーゼは寂しそうな顔でそう言った。
それはスペキュラーも同じである。
別の意味でだが・・・。

「ぐるるる。(レイヴン、シャドー。早く帰ってきて手伝ってよ〜。)」

終いにはこんな悲痛の叫びも家の中に響きわたったという。

「レイヴン、今日部活だからまだ帰ってこないのかなぁ?
だとしたら、僕の事なんてどうでもいいのかなぁ。」

リーゼの目にうっすら涙がにじみ出てくる。
そして、昔のことを思い出していた。

 

 彼女達のの幼なじみは他にもいる。
ニコルという青年で六歳の頃から三人は一緒に遊んでいた。
レイブンが転校すると聞いて、リーゼはレイヴンを選んだ。
そのことでニコルへの申し訳なさをずっと引きずっていたのだ。
リーゼがレイヴンを選んだ理由は彼のこの一言だった。

(リーゼ、一緒に来ないか。
俺かニコルかどっちかを選んでくれ。)

そしてリーゼはレイヴンを選んだというわけだ。

(レイヴンは僕のことどう思ってるのかな?
ただの幼なじみ?
それとも・・・。)

心の中でレイヴンのことを考えていて、ついに涙がこぼれる。

「レイヴン・・・。」

その時、扉が開く音が聞こえた。

「ただいま。」

その声を聞いたとき、
リーゼは慌てて戸に背を向け、眠っているふりをする。
さすがに泣き顔は見られたくなかったのだ。

「リーゼ、寝てるのか?」

レイヴンはリーゼのすぐ側まで寄ってきた。
そして、リーゼの顔を覗き込む。

(んっ、・・・涙?こいつ泣いてたのか。)

「すまない、リーゼ。
寂しい思いをさせてしまって。
人一倍寂しがり屋なのにな。」

レイヴンはリーゼが狸寝入りをしている事に気付いておらず、一人で話し続けた。

「バンにも困ったよ。
フィーネと一緒にからかってきたから、なかなか帰れなくて。
ジェノブレイカーを飛ばしたから疲れたよ。
シャドーにも無理をさせたしな。
今、シャドーとスペキュラーで飯を作っている。
お前が起きたら一緒に食べよう。」

(レイヴン・・・)

そして、レイヴンはそっと立ち上がり、リーゼの頬にそっと口付ける。
リーゼは思わず声を出してしまった。

「ありがとう、・・・レイヴン。」

「んっ・・・起きてるのか?」

レイヴンが驚いてそう尋ねたが、返事がない。

「なんだ、寝言か。
・・・お休み、リーゼ。」

そう言ってレイヴンは明かりを消し、部屋から出ていく。
この時、更にリーゼが涙を流したのは言うまでもない。

 

 翌朝、リーゼは熱が下がり、すっかり元気になった。
そしてレイヴンと一緒にジェノブレイカーに乗り、学校に向かう。
しばらく走っていると、

「あれっ、あそこには大きな岩がなかったっけ?」

彼女の言葉でふとレイヴンが見ると、
いつも目印にしていた岩がないのに気が付いた。

「おかしいな。
昨日帰るときは確かに有ったんだが・・・。」

ちょっと背中に寒いモノを感じた二人は、足早にその場を後にした。
実はトーマもその道を通っていて、
昨日の帰り道、腹いせにその岩に向かってメガロマックスをぶっ放したのだ。
学校に着いてそれを知ったレイヴンは、
部活の時にトーマのディバイソンに荷電粒子砲を喰らわしたという。

「怖い思いさせあがって。」


まさかZi学園でレイリーモノを書くとは思ってもいませんでした。
ここで次回予告。次は体育祭モノに突入します。
2、3話もしくはそれ以上になると思うので期待していて下さい。

 

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