「遠い日の誓い」

 体育祭から3日後、バン達は理事長からのご褒美に喜んでいた。
ただ、流石に負けた教師達は元気がない。
まあ、罰ゲームで死にかけたのだから無理もないが。
 そして6時間目の授業、キースが教壇に立っている。
今は物理の時間なのだ。

「物体の加速度は、押す力と質量が関係してくる。
例えば、ブレードライガーとライトニングサイクスに同じブースターを付けたとしても、
速さは軽いライトニングサイクスの方が上という訳。」

キースの授業はゾイドを例に取るので、生徒達には受けがいい。
彼がそこまで話したとき、授業終了の鐘が鳴った。

「おっと、もう終わりか。じゃあ今日はここまで。」

キースは出ていこうとしたが、何かを思いだしたらしく、足を止めた。

「あっ、そうだ。
アーバインが今日早退するから、
ホームルームはムンベイが来るみたいだぜ。
後、部活にも顔は出せないってよ。」

そう言ってキースは出ていった。

「どうしたんだろう?アーバイン。」

「大方、リノンにやられた傷が痛むんだろ。」

バンの疑問にレイヴンが答える。

「でも、朝は来てたわよ。」

「親族に何かあったとか。」

「でも、アーバインに身内らしき人はいないよ。」

以上がローザ、トーマ、リーゼの会話。
その時フィーネが何かを思いだしたようで、口を開いた。

「そう言えば今日って・・・バン、今日はあの日よ。」

「あの日って・・・ああ、そうか。」

バンも思い出したようだが、その顔は何故か曇っていた。
やがてレイブンとリーゼ以外の全員が思いだした。

「おい、バン!今日が何だってんだ?」

「僕たちにも教えてよ。」

「そう言えば、お前らは転校してきたから知らないのか。実はな・・・。」

バンにレイブンとリーゼが迫っているのに見かねて、
トーマが説明しようとするが、

「トーマさん、ちょっと待って。」

フィーネが止めた。

「このことは部の人全員が知っていて欲しいの。」

「だから、後でまとめて話すよ。」

フィーネの後にバンが続ける。
やがてムンベイが来てホームルームが始まった。
そしてその後、みんなが部室に入ると、そこにはルドルフとメリーアンがいた。

「バン、アーバインが早退したって本当ですか?」

「一体どうしてですの?」

さっきのレイヴンとリーゼと同じように、この二人もバンに迫ってきた。
アーバインは結構人気があるのだ。

「それを今から説明するよ。」

バンが静かに話し始める。

「これは俺達も先輩から聞いた話なんだけど・・・。」

 その頃、アーバインは町からずいぶん離れた墓地にいた。
一つの墓の前で手を合わせている。
その顔は何処か寂しげだ。
しばらく無言で佇んでいると、一人の人物が彼に近寄ってきた。

「よう、アーバイン。久しぶりだな。」

「ジャックか。丁度一年ってとこだな。」

アーバインが横を見ると、そこには彼の親友、ジャック・シスコが立っていた。
その手には花束を抱えている。
ジャックも墓に手を合わせると、アーバインに話し始めた。

「どうだ、お前の相棒の調子は?」

「いつでも絶好調だ。お前の方は?」

「元気すぎて困るくらいだ。・・・あれからもう5年か。早いもんだな。」

「まったくだ。で、何かつかめたか?奴らのこと。」

「まあな、どうやら今年のトーナメントに出場するらしいぜ。」

「そうか、奴らにはでかい借りがある。倍にして返してやらないとな。」

そう言っているアーバインの顔は決意に満ちていた。
そして彼らはある光景を思い出していた。

 5年前、アーバインは学園を卒業した後、
同級生のジャック、そして彼の恋人のキャロルと共に、
あちらこちらの規模の小さいゾイドバトル大会に出場しては、
優勝をもぎ取るという、いわゆる「大会荒らし」というのをやっていた。
当時彼が乗っていたのは、ブラックカラーのコマンドウルフ。
ジャックはライトニングサイクス。
そして、キャロルは真っ赤なストームソーダーであった。
 ある時、とある大会に出場したときのことだった。
謎のチームが所有するゾイドに、アーバイン達のチームが負けてしまった。
アーバインのコマンドウルフはゾイドコアをやられ、再起不能となってしまい、
キャロルは・・・彼女の愛機と共に還らぬ人となってしまった。
彼女の死因は脱出装置の故障だと言われていたが、
その他にストームソーダのゾイドコアがやられていたのだ。
 その後、アーバイン達はあることを誓い合った。
「必ずキャロルの敵をとる」と。
そして、ディに頼み、
コマンドウルフのメモリーバンクを
当時のテストでメモリーバンクを破損したライトニングサイクスに移植した。
そのサイクスは誰も乗れないとされていたが、
コマンドウルフのメモリーを移植したので、
アーバインだけが乗りこなせられる様になった。
彼はその恩もあって、今Zi学園で教師をしているのだ。

「そんなことがあったんですか。」

「アーバインさん、可哀想です。」

「普段はあんなにゾイドバトルを楽しんでいるのにな。」

「いつも何かを隠しているなって、思ってはいたけど・・・。」

部室でアーバインの過去を知った4人は、それぞれ感想を述べていた。

「まあ、人には色々な過去があるものだ。」

「そうだね。」

レイヴンとリーゼはそう言いながらも、自分たちの過去を思い出していた。
そう、ニコルのことを。

「アーバインにも戦う理由がある。
けど、それでトーナメントで手加減したら、アーバインに失礼だ。
だから・・・。」

「分かってるさ。」

「いつでも本気でやりますよ。」

「初めて部長らしいこと言ったんじゃない、バン。」

「まったくだ。ははははは・・・。」

その瞬間、部室が部員の笑い声に満たされた。

「悪かったな。部長らしくなくって。
さてと、部活を始めるか。」

そして、みんなはバトルフィールドに意気揚々と足を進めた。

 

「じゃあな、アーバイン。トーナメントで会おうぜ。」

「分かってるって、お前らも元気でな。」

ジャックはハッチを閉め、ライトニングサイクスを走らせる。
サイクスは咆吼しながら、東の方に向かっていった。

「さてと、俺達も行くかな。相棒。」

そう言って、アーバインもライトニングサイクスに飛び乗ろうとした時だった。

「アーバイン!」

突然名前を呼ばれたので、振り返って見ると、

「どうしたんだ、お前ら?」

そこにはムンベイ、ハーマン、シュバルツ、オコーネル、キースにサンダー、
それにヒルツとアンビエントまでいた。

「な〜に、どうせ落ち込んでいるんじゃないかと思ってな。」

ハーマンがシールドライガーに乗りながら喋る。

「たまには飲みに連れて行ってやろうって・・・。」

「みんなで話し合ったんだよ。」

「暗いアーバインなんて、似合わないからね〜。」

シュバルツ、オコーネル、ムンベイがそれぞれ話す。

「ったく、お前らって奴らはよ。」

アーバインは悪態つきながらも、その顔には笑みがこぼれていた。

「ヒルツがおごってくれるって言ってるし、行こうぜ。」

「キュイ。(そうそう。)」

キースの言葉にヒルツは、

「私はそんなこと言った覚えがない。」

「ガルルル。(そうだぞ。)」

「まあまあ、私も持つからそう言うな。」

シュバルツがそう言ってヒルツをなだめる。
ふっ、と笑ってアーバインもサイクスに飛び乗った。

「お前ら、ちゃんとついて来いよ!」

「俺はご心配なく。」

キースがサイクロンブレイダーを浮かせながらそう言った。

「よ〜し、いくぜ!」

アーバインがライトニングサイクスを町に向かって走らせた。
それに続くようにサイクロンブレイダー、シールドライガーにセイバータイガー、
コマンドウルフにグスタフが続く。
ちなみにヒルツはムンベイのグスタフに乗っている。
アンビエントはそのタラップの上。

「アーバイン、いい仲間を持ったな。」

ジャックが丘の上でその光景を見ていた。
その顔は何処か嬉しげだ。
アーバインのライトニングサイクスが咆吼する。
夕日に向かって、嬉しそうに。
しかし、サイクスがうれしさの余り、最高速で走ったために、
キース以外のメンバーはどんどん離されていったという。


「アーバインの青春」、どうでしたか?
この間、レイヴンとリーゼのメインを書いたので、
今度はアーバインにしてみました。
では、これで。

 

Zi学園に戻る         ZOIDS TOPに戻る        Novel TOPに戻る