「生徒巻き込み作戦」

「我々の計画はうまくいった。
これで・・・。」

金色の髪の男が嬉しそうにそう言う。

「だけど、何でこんな面倒くさい事を・・・。
今更ながらに思うぞ、俺。」

黒髪の男が呆れた様子で愚痴る。
その額には絆創膏があった。
そして、近くで金色のオーガノイドがコクコクと頷いている。

「そう言うな、キース。
アレをしなかったら、もっと面倒くさい事になってたぞ。」

「それもそうだな、シュバルツ。
しかし、お前も弟まで巻き込むか、普通?」

もうお分かりだと思うがこの2人、
バン達を呼びつけた張本人のキース・クリエードと、
首謀者カール・リヒテン・シュバルツである。
(以後カール:弟とかぶるため)
ただいま時刻は9時30分、
仁王立ちのまま、Zi学園高等部校舎前で雑談中の2人。
彼らのゾイドは校庭の中に停めてある。

「兄が大変な目にあおうとしているのだ。
弟が手伝わなくてどうする。
それに、お前だって友達を巻き込んだじゃないか。」

「それもそうだな。」

カールの言葉に苦笑いで返すキース。

「けど、ヒルツには悪いことをしたな。」

晴れ渡った空を見ながら、キースがポツリとそう言う。

 実は、彼がバン達より早くサンダーを引き取りに行った時、

「ヒルツ、ごくろう・・・さん・・・。」

ヒルツのマンションのドアを開けると、キースはその光景に唖然となった。
サンダーとアンビエントを必死に押さえつけている
他のオーガノイド3体とヒルツの姿に。

「お前、一体どういう育て方をしているのだ!」

「どういうって・・・。」

入ってきたキースを睨んで、ヒルツが一言。
キースはただ立ち尽くすばかり。
ヒルツの話では、
最初に19個あったおやつの饅頭を
ジーク、シャドー、スペキュラーが4個ずつ、
サンダー、アンビエントが3個ずつ食べ、当然残りは1個。
その1個を取り合って、まだ3個しか食べてない2匹がケンカを始めたという。
ちなみに何故19個だったかというと、
20個入りの饅頭のうち1個をヒルツが食べたからである。
結局キースも加わってケンカを止めることに。
その数分後、

「まったく、卑しいオーガノイドだ。
主人に似たのではないのか?」

いつもの冷静さを取り戻しヒルツがさらりと言った。

「うるさい、俺は自由奔放に育てているだけだ。
文句があるならこのお転婆に言え。」

ヒルツを横目で見ながら、飼い主らしからぬ言動で返す。
その声はかなり低く抑えられていた。

「ほう、雌だったのか。知らなかったな。」

「まだ精神年齢が子供なだけだ。」

まだ饅頭を巡って睨み合っているサンダーとアンビエント。
まあ、この2匹は普段から反りが合わないらしい。

「ガルルル。(これは俺のだ!)」

「キュ、キュイイ。(あたしの!)」

すると、キースがため息をつきながら立ち上がった。
そして、

「パクッ!」

今まで2匹が取り合っていた饅頭を一口で食べてしまった。

「これで万事解決!」

「ガルルル。/キュイ。((んな訳ないだろー!))」

鳴き声は違うものの、アンビエントとサンダーの言っている内容は同じ。

「うわあぁぁぁーーー!」

当然怒った2匹に襲われたキースだった。
額の傷はその時出来たものだ。

「まあ、ヒルツにはそれなりの礼はしておいた。
アレで割り合わないって事はないと思うが。」

「あいつ今頃、楽しんでんだろうな。」

そんな会話をしているうちに、
ブレードライガーを始めとする生徒達のゾイドが地平線上に見えた。
ヒルツの話は後ほど。

「来たな、やっと。」

「ああ。これからどんな文句を聞くんだろうな。」

気が付いてみればもう10時。
しばらくして、キースがあることに気が付いた。

「なあ、なんか攻撃態勢に入ってないか?」

バン達のゾイドの遠距離武器が2人の方に向けられていた。
彼がカールに問いかけたが返事がない。
まさかと思いつつさっきまでカールがいたところを見ると、
彼はもう避難をしていた。

「って、俺を置いて行くな〜!」

サンダーと共に慌てて自分のゾイドの方向に走り出す。

「撃てー!」

誰かのかけ声と共に砲撃開始。
すさまじい爆発が連続しておこった。

 そして、数分後、

「よっしゃ!」

「やったか?」

「これで写真も焼けたな。」

「ふう〜。」

「折角の休日を台無しにされてたまるもんですか。」

「特にただ働きはな。」

「同感だ。」

「ちょっとやり過ぎのような・・・。」

「兄さんは大丈夫だろうか?」

バン、レイヴン、ビット、ムンベイ、リノン、アーバイン、
バラッド、ルドルフ、トーマがそれぞれ言う。
だが、世の中そう甘くはなかった。
特に地獄の鬼も怖がる、この二人は。

「甘いわ、己らーー!」

バン達が上を向くと、
キースのゾイド、サイクロンブレイダーが猛スピードで向かってくるのが見えた。
どうやら爆撃の煙に乗じて急上昇したようである。
全員が気付いた頃にはもう遅く、
ブレイターが彼らのすぐ近くを通過した後だった。
そして、それに伴い強烈な衝撃波が発生。
ほとんどのゾイドがそれに吹き飛ばされた。

「きっちり働いて貰うぞ。」

お次はシュバルツのセイバータイガー。
ガトリング砲の嵐を浴びせて敵(?)を一掃した。

 ムスッとした生徒と同僚を引きずって、
どんどんと中に入っていく2人と4匹。
(オーガノイドはキースが買収済み。)
やがて体育館に到着し、
強制的に座らされるバン達生徒とアームンコンビ。
というか、先程こっぴどくやられたので、もう逃げる気力が無くなっていた。

「で、何をやらせるつもりだ?」

最初にレイヴンが口を開いた。
それもかなり不機嫌な口調で。

「まあ、とりあえず説明をするかな。
簡単に言うと、引っ越しの手伝いだ。」

『はぁ?』

バン達14人が間の抜けた声でかえす。

「今回、高等部が中等部の隣に移ることとなった。
そこで諸君らには今建設中の校舎に荷物を運んで貰う。」

あっさりと大変なことを言うカール。

「おいおい、俺達は何も聞いてないぞ。」

「初耳だわ。」

ビットとリノンが不思議そうに言う。
バラッドとナオミも同様。

「そりゃそうだ。俺達もこの間知らされたからな。」

本当にいい加減な学校だと実感する一同であった。

「そう言えば、こっち(中等部)の校舎の隣で何か建ててたなぁ。」

バンがポツリと言う。
すると、

「なぁ、何だって急に移ることになったんだ?」

アーバインが疑問を投げかける。

「お前ら、気付かないのかよ。」

「えっ?」

キースの言葉にアーバインが間抜けな声で反応した。

「俺達の頃と全然変わってないだろう。」

「そう言われてみれば!」

ムンベイも気付いた。
所々傷んではいるが、彼らが学生時代の時のままだったのだ。

「かなり老朽化が激しくてな、もう手の打ちようがないんだとよ。」

少し寂しい表情でキースが話す。

「そうか・・・、この校舎には色々思い出があるからな。」

(キャロル・・・。)

アーバインも悲しそうな表情で何かを思い出す。

「って、ちょい待った。
ハーマンとオコーネル、それにヒルツは?」

ムンベイが声を上げた。
確かにこの3人もこの校舎に縁がある。

「ああ、あいつらは・・・。」

「ハーマンとオコーネルは逃げた。
ヒルツは昨日さんざん手伝って貰ったから今日は来ない。」

キースの言葉にカールがあっさりとした口調で続けて言う。

「だからお前らを呼んだんだけどな。」

その言葉で一瞬誰を恨んでいいか分からなくなった一同だが、

「だからって俺達を巻き込むなーー!」

とレイヴンが一言。すると、

「レイヴン、それにリーゼ・・・。」

「な、何だ・・・、一体?」

「何なんだよ?」

カールが突然自分の名前を呼んだので、
レイヴンとリーゼはギョッとした。

「君達には写真の他にもう一つネタがあるんだ。」

そう言って取り出したのは、1本のビデオテープ。

「これには、この間の金曜日に屋上で起こった出来事が映っている。
君達には覚えがあると思うが・・・。」

レイリー石化。
そして、あるシーンが2人の頭に過ぎった。
そう、あの『レイヴン、決死の告白』が映っているのだ。

「逆らうと、写真の他にこいつを映画にして上映する。」

「ちゃんと編集してやるから、安心しろ。」

キースとカールの言葉は2人に届いているのだろうか。
2人はダイアモンド・・・を通り越して、ルビーと化していた。
(たぶん恥ずかしさから赤に・・・)

 時刻は11時を過ぎ、全員作業にかかった。
ただ流石に学校だけあって、普通の家とは訳が違う。
膨大な数の机やイス、いろいろな展示品、
更に下駄箱やら美術道具、運動具などがある。
そして最も危ないのは、

「トーマ、ちゃんと持て!落ちたらどうするんだよ。」

「うるさい。バン、お前こそしっかり支えてろ!
落ちたら爆発するぞ!」

バンとトーマが運んでいるのは実験室にあった薬品。
しかも、何故かニトログリセリンやトリニトロトルエン(TNT)があるので、
もし落としたら、間違いなく半径30mは吹っ飛ぶ。

「2人共、ケンカしてないでとっとと運べ!」

「こんなんで命落としたら、シャレに何ねぇぞ!」

後ろからビットとバラッドが注意。
ちなみに彼らも同じものを運んでいる。

「何だってこんなもんが学校にあるんだ?」

「ディじいさんの趣味だとよ。」

「学校で何作ってるんだか。」

この時、ディがリゾート地で大きいくしゃみを2度したことは言うまでもない。

 ほとんどのものを運び終えた時は、もう夕暮れであった。
ここはバン達の通っている中等部。
とりあえず荷物は一旦ここに置くようだ。
生徒達はもうヘトヘト。

「みんな、お疲れさま〜!」

「ご苦労だったな。」

キースとカールが労いの言葉を投げかける。

「これで・・・終わりだよな・・・。」

「はぁ、・・・疲れた〜。」

バンとビットがゼイゼイ言いながら空を仰いでいた。

「じゃあ、後は校舎が出来てからだな。」

カールの言葉にみんな絶句。

「それは俺も聞いてないぞ。」

キースも驚いてそう言った。
流石に顔が引きつっている。

「まあ、連休の最後の方だからみんな予定を開けておくように。
以上!」

そう言ってカールはセイバーに乗って帰っていった。

「じゃ、じゃあ、俺も帰るわ。」

「キュイ。(じゃあね。)」

キースもサンダーと共にサイクロンブレイダーで飛び去っていった。

『そんなのありか〜〜〜!』

残された14人全員の声が夜空に響いた。

 その頃、ヒルツは、

「ふふふふ、これは面白いビデオだな。」

1人、部屋で不気味な笑い声をあげていた。
アンビエントはそれを見て、ス○ッ○サー○スに電話しようかと思ったとか。
勘の良い方はお分かりだと思いますが、
このビデオはカールからの廻り物。
タイトルには『レイヴン、決死の告白』と書かれていた。
 では、そのシーンを皆さんにも。
(皆様の強い要望により)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

レイヴンはスペキュラーと話しているリーゼに声を掛けた。

「リ、リーゼ・・・。」

「んっ、何、レイヴン?」

純真無垢な顔で振り返るリーゼ。
そんな彼女を見て一瞬見とれてしまう。

「あのな・・・、これを貰ったんだ。」

そう言って彼はチケットを渡す。
チケットには汗が少し染み込んでいた。

「もしかして、これって・・・。」

「勘違いするな。俺は・・・、チケットが・・・勿体ないだけだ。」

後ろを向いてそう言うレイヴンの顔は、真っ赤になっていた。
すると、

「レイヴン、ありがとう。」

そう言って彼の背中に抱き付くリーゼ。
完全に頭が混乱しているレイヴンはその場を動けずにいた。
そして、オーガノイド5匹はそんな2人を冷やかすように見ていた。


やっと終わった〜。
前回に引き続き、かなり長くなってしまいました。
結構、『レイヴンの告白が見たい』という感想を頂いたので、
最後の方に乗せてみました。
まあ、1シーンなんでこんなに短いのですが・・・。(爆)
次回は転入生が登場。
まあ、勘のいい人は分かると思いますが・・・。
では。

 

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