「世にも奇妙なZi学園」
夜の学校ほど不気味なものはない。
明かりはなく、静寂と闇がその空間を満たしている。
特に初夏の夜は蒸し暑く、宿直の先生は嫌なものである。
「ふわぁ〜あ、見回りって退屈ね〜。」
あくびをしながら、懐中電灯片手に学校中を歩き回っているのは、
この学校の地理講師、本当に出番が少ないスティンガーである。
「『出番が少ない』は余計よ!」
はいはい、すみません。
「でも、何もないことが一番なんだけどね〜、この学園の場合は。」
そうこう言っているうちに音楽室に到着した彼。
実は、この学校の音楽室には凄く不気味な噂が流れていた。
それは、
『夜中の12時になると音楽室からピアノを弾く音が聞こえる』
と、言うものだった。
「えっと、時間は・・・げっ!」
自分の腕時計を見てみると、なんと12時ジャスト。
「ま、まさかね〜・・・。」
声が上擦っているのにも関わらず、恐る恐る中に入っていった。
懐中電灯で机やイス、楽器が置いてある所を照らし、
異常がないかを調べる。
やがて、
「ふぅ、何ともなかったわね。やっぱり噂は噂だったわ。」
そう言って、スティンガーが部屋を出ようとした時、
ポロン、ポロロン、ポロロ〜ン
彼の背後でピアノが鳴り始めた。
むろん、彼は背筋が凍り付き動けなくなるり、
顔もだんだんと青白くなっていった。
(う、嘘でしょう・・・。)
心の中で精一杯否定するスティンガーだが、
なおもピアノはある曲を奏でている。
その曲とは・・・定番の『エリーゼのために』。
「ま、まさか・・・ね。」
心臓も張り裂けんばかりの勢いで鼓動している。
そして、恐る恐る振り返ると、
「で、で、でぇーーーたぁーーー!!!」
翌実の昼、学校にて・・・
「おい、聞いたか?」
「ああ、スティンガーのことだろ。
なんでも音楽室にいると言われている幽霊に驚いて気絶してたってな。」
「なんだか怖いわねぇ。」
「前々からそんな噂で持ちきりだったからね。
特に、この時期は。」
バンとレイヴン、フィーネにリーゼが校庭の芝生の上で、
お弁当を食べながら話している。
ちなみに彼らのお弁当は彼女たちの手作り。
だもんだから塩辛くてたまらないと言う。
そして、彼らの話の内容とは、
今日の朝、スティンガーが音楽室で気絶しているのを発見され、
譫言のように「音楽室の幽霊が・・・」と呟いているところから、
誰かが勝手に噂を流したというもの。
ちなみに彼は保健室で寝ている。
すると、
「ふん、くだらんな。
だいたい幽霊などという非科学的なものを信じてたまるか。」
そう言ったのはトーマ。
彼は幽霊やUFOといった類は信じない方なのだ。
ちなみに彼は購買で買ったジャムパンとカレーパンを食べている。
「へぇ〜、トーマって結構硬派なんだな。」
「バン、それは一体どういう意味だ。俺はいつだって硬派のつもりだ。」
バンがそんな事を言ったのでトーマが噛み付いてくる。
「だって、いつもフィーネの尻を追っかけてるじゃん。」
「あっ、先輩!」
ビットとバラッド、ナオミがそれぞれの弁当をもってやってきた。
トーマはビットの一言に撃沈。
すると、バンがあることに気付いた。
「あれ、リノン先輩は?」
「ああ、あいつだったら例の噂を聞いたもんだから、
教室で立ったまま気絶してるよ。
あいつはこの手の話は苦手だからな。」
「ハリーがいま付き添っているよ。」
「そう言えばその噂で何人も失神したってね。
高等部でもリノンを入れて5人倒れたそうよ。」
彼女の場合は立っているから倒れたとは言わないんじゃないか、
という素朴な疑問はおいといて、話は進む。
「しかし、何処に確証があるんだ?
スティンガーだって見間違えただけではないのか。」
トーマは未だに否定している。
すると、
「それもそうではないのだよ。」
突然、声が聞こえたので一同に緊張が走る。
一同が辺りを見回すと、
「リーゼ、後ろ!」
フィーネの声に反応し、一斉に全員がリーゼの背後を見ると・・・、
「ひえぇぇーー!」
『ヒルツ!!』
何故かリーゼの後ろでコンビニの弁当を食っているヒルツがいた。
本当に神出鬼没である。
流石にリーゼも悲鳴を上げ、レイヴンの胸元に飛びつく。
もちろん彼は顔を真っ赤にして固まった。
「何でそんな所に・・・。」
「ていうか、いつからいたんですか!」
バンとビットの声を無視して、ヒルツは静かに話し出した。
「『火のないところには煙が立たない』。
この間の国語の授業でやったはずだが。」
「まさかこんな所で国語の講義をするんじゃないだろうな。」
バラッドが言ってみるが、
「そういうつもりはない。
ただ、噂が流れる背景にはそれなりの事実というものがあるものさ。
君達も気を付けたまえ。」
「どういう意味だ?それ。
幽霊に気を付けろって事なのか?」
「いや、君達の身近な人にも恐がりがいるからね。
せいぜい巻き込まれないように。
では。」
ビットの問いにそう答えるとヒルツは颯爽とどこかに行ってしまった。
その場の全員は、ヒルツの方がミステリアスだ、と思ったという。
ちなみにレイヴン達は彼が去ってから数秒経った後、
顔を真っ赤にしながら慌てて離れた。
やがて、ヒルツの言葉が分からないまま昼食を終えようとしていた彼らの元に、
再び客人が現れた。
「あれっ、アーバイン、どうしたんだ?」
そう、彼らの仲間で体育教師のアーバインである。
だが、その表情は暗かった。
「なあ、バン・・・。」
ポツリとそう言った瞬間、彼は突然土下座をした。
全員訳が分からず、頭の上に?マークがたくさん浮かんでいる。
「頼む!今日の宿直に付き合ってくれ!」
『・・・はぁ?』
彼の言葉に一同唖然。
とりあえず理由を聞くと、
「実はさぁ、スティンガーの件で誰も宿直当番をやりたがらなくなってな。
それで校長が『今日宿直当番をした者に金一封』とか言いだしたから・・・。」
「それで金に釣られて引き受けたのか?」
「まったく、情けないったらありゃしない。」
レイヴンとリーゼがそれぞれ罵声を浴びせる。
「しょうがねぇだろ、今月ピンチだったんだからよ。
それに俺、どうもそう言う話は苦手でなぁ。」
今ようやくヒルツの言っていたことの意味が解った一同は、
気付くのが遅かった、と心底嘆いていた。
そして、
「しょうがない。付き合ってやるよ。」
バンが助け船を出す。
普段強がっているアーバインがここまでして頼んでいるから、
というのが理由らしい。
「バンが行くなら私も。」
「フィーネさんが行くなら私も。」
「僕も行くよ、面白そうだし。ねぇ、レイヴン?」
「仕方がないな。」
フィーネ、トーマ、リーゼ、レイヴンも続いて名乗りを上げる。
高等部の連中はバイトがあるらしく断った。
「サンキュー、助かったぜ。
ちなみにキースも来るからな。
それじゃあ。」
アーバインはそう言って職員室へと向かっていった。
だか、木の陰からその光景を見ている者がいたりする。
「やれやれ、折角忠告してあげたのに、巻き込まれてしまったようだな。」
そう、ヒルツ。
その隣にはアンビエントの姿も。
「ガルルル。(で、どうするの?)」
「面白そうだからじっくり見物するさ。」
「ガル、ガルルル、グキュ〜。(結局こうなるのね。)」
実はアンビエントも恐がりだったりする。
そして、舞台は夜の学校へと移るのであった。
夜11時半、宿直室で、
「おい、トーマはどうした?」
「シュバルツが許してくれなくて、家を出られないんだと。」
「やれやれ。」
アーバインとキースがブラックコーヒーを飲みながら話している。
バン、フィーネ、レイヴン、リーゼはトランプでババヌキの最中。
オーガノイド達は丸くなって寝ていた。
そして、押入にはちゃっかり、ヒルツとアンビエントがいたりする。
もちろん、誰もその事には気付いていない。
「よし、そろそろ行くぞ。」
『は〜い。』
時刻は12時10分前、アーバインを先頭に一路音楽室へと進んだ。
ちなみにオーガノイド達はそのまま置いてきた。
流石に4体も連れて歩くと廊下が狭くなってしまう。
「夜の学校って不気味だなぁ。」
「本当、何か出そうな気がする。」
フィーネの発言にちょっとビビりモードのアーバイン。
「お、おいおい、脅かすなよ。」
「そう言えばフィーネって、霊感強いんだよな〜。」
バンの言葉に一同石化。
「マジかよ・・・。」
「ち、ちょっと、霊なんか呼ばないでよ。」
キースとリーゼが思わず口に出す。
レイヴンは辛うじて平静を保っているが、
心臓はバクバクいっている。
「大丈夫、ちょっと怖い話を知ってるだけだから。
試しに話してみようか?」
全員が顔を真っ青にしてブンブン首を振る。
こういう事をキョトンとした顔で言うのだからフィーネは怖い。
「う〜、心臓に悪い・・・。」
胸をさすりながらレイヴンがポツリと漏らした。
ちなみにヒルツ達は数十メートル距離を置いて歩いている。
実は彼も霊感が強い。
そんな事をしているうちに問題の部屋へ到着。
リーゼが懐中時計で時間を確認する。
「今、12時ジャスト。」
「いよいよだな。」
アーバインに変わり、キースが先頭に立ってドアを開けた。
中は異様なほど静かで、いかにも何かが出そうな気配だ。
「何か・・・感じる。」
「頼むから気味の悪いこと言わないでくれ〜!」
フィーネの言葉に過剰反応するアーバイン。
その時、
「おい、あ、あれを見ろ。」
レイヴンがピアノの所を指さす。
そこには何か白い物がモヤモヤと立ちこめていた。
一般に言うエクトプラズマというものらしい。(フィーネ談)
それを見て全員が顔面蒼白。
「マジかよ・・・。」
「噂は本当だったみたい。」
「ああ・・・。」
バン、リーゼ、レイヴンが強ばった声で話す。
すると、何かが聞こえてきた。
『・・・・・・イン・・・。』
それは、この場にいる者の声ではない。
『アーバイン・・・。』
今度はハッキリ聞こえた。
「この人・・・、アーバインを呼んでる。」
「何で俺なんだよ!」
フィーネに思わず反論するアーバイン。
すると、エクトプラズマが人の形を形成し始めた。
それはアーバインもよく知っている顔だった。
「キャロ・・・ル、キャロル・・・なのか?」
それは、ゾイドバトル中の事故で命を失った彼の恋人、キャロルであった。
「キャロルって、アーバインの恋人だった人?」
「ああ、彼女に間違いない。俺もよく覚えてる。」
リーゼの問いにキースが静かに答える。
彼もアーバインとの縁がずっと続いているので、彼女の顔をよく覚えていた。
『アーバイン・・・、最後に・・・会えてよかった・・・。』
彼女はアーバインにそっと微笑みかけると、
静かに闇の中へと消えていった。
「待ってくれ、キャロル!」
アーバインの声だけが静かな空間を満たした。
その後、彼は完全に黙ってしまう。
「アーバイン・・・。」
キースが彼の肩を叩こうとした時、
突然彼が言葉を放った。
「まったく、言うことだけ言って、とっとと行っちまいやがって・・・。
俺なんか、もう会えないと思ってたんだぜ。」
そして、彼は振り返って笑ってみせる。
「さぁ、とっとと見回りを終えちまうぞ。」
「そうだな。」
レイヴンの言葉と共に音楽室を後にした一行であった。
これはキャロルの未練が起こした出来事なのかも知れない。
だが、事件はこれで終わらなかったりする。
「キャロル・・・か。
久々に懐かしい顔と会ったな。」
ヒルツがアンビエントと共に音楽室に入ってそう言った。
「しかし、随分と呆気なかったな。」
「ガルル、グキュ〜。(もう、勘弁して下さいよ。)」
そう言って音楽室を立ち去ろうとしたその時、
テロリロリロリン、ジャラララ〜
そう、『エリーゼのために』が流れてきた。
少し顔面蒼白となる彼。
アンビエントに至っては、赤と青が混ざってちょっと紫になっている。
そして、ヒルツ達がそっと後ろを振り返ると、
「ギャアーーーーーーー!!!」
この後、駆けつけたバン達によって、
気絶しているヒルツとアンビエントが発見されたという。
折角いい話だったのに、こんなオチですみません。
最近ゾイドバトルばかりだったので、
たまには学園物も書かないとと思い、書いてみました。
第3部のほう、大丈夫だろうか?(荷電粒子砲)
では。