「忍者ゾイド、FOX」

 

 Zi学園ゾイドバトル部の部室では、今度行われる七夕祭りの話題でいっぱいだった。
これから朝練だというのにのんきな物である。

「今度の七夕祭り、楽しみだなぁ。」

「浴衣なんて初めてだもんね。」

この間、ディの実験で人間になったジークとサンダーは浴衣が着られるので大ハシャギ。
もちろん、シャドーとスペキュラー、アンビエントも喜んでいる。
ちなみにアンビエントはヒルツのお下がりを着る様子。

「ねぇ、レイヴン。一緒に天の川を見ようよ。」

「ああ、別に構わないが。」

リーゼはリーゼでレイヴンと約束を取り付けている。
しかし、この後リーゼが「2人っきりでね」と耳打ちしたら、彼は真っ赤になっていたとか。

「バン、浴衣がきつくなっちゃったみたいなんだ。どうしよう。」

「じゃあ、姉ちゃんにお下がりでももらうか。」

「そうね。」

バンとフィーネもこんな会話をしている。
実はバンの姉、マリアは趣味で結構着物や浴衣などを持っていて、
フィーネはこの間の正月に着物をもらったことがある。
他の女生徒にも貸したりしているらしいが、
バンの配慮なのか、ほとんどフィーネが優先的になっていたりする。
これは余談だが、トーマは恨めしそうに彼らの会話を聞いていた。

「マイハニー、このハリーが最高級の浴衣を用意してあげるよ。
だから、一緒に・・・。」

「ビット、一緒に行きましょうよ。」

「ああ、別に構わないぜ。」

ハリーの誘いは見事に断られ、リノンはビットと行くことに。
この2人、付き合っているんじゃないかと噂があるのだが、そんな雰囲気は微塵も感じない。
実は、リノンがハリーから逃げる手段としてビットを利用しているだけなのだ。
だからビットはビットで苦労が絶えないらしい。
ちなみにビットとリノンはトロス校長が寮長を務めている学生寮に住んでいる。
バラッドやジェミーも同様だ。

「あれっ、そう言えばバラッドは?」

ナオミがバラッドがまだ着いてないことに気付き、みんなに尋ねた。
どうやら一緒に行く約束をしたいらしい。

「ああ、何か寄るところがあるって言ってましたから、途中で別れちゃいました。」

ジェミーが彼女の質問に答える。

「あら、そうなの。
これから朝練なのに、どうしたのかしら?
まぁ、いいわ。来たら絶対に約束を取り付けるんだから。」

結構やる気満々のナオミであった。

 

 それから数分後、突如部室の扉が勢いよく開いた。
入ってきたのはアーバイン。
その表情はかなり険しかった。

「大変だ、バラッドが傷だらけで保健室に運ばれてきた!」

「何だって!」

「それで、怪我の具合は?」

ナオミが慌てた様子で尋ねる。
他の部員も心配そうだ。

「怪我は大したことはないんだが・・・。」

「どうかしたのか?」

アーバインが言葉を止めたので、ビットが怪訝な顔で尋ねる。
すると、

「奴のコマンドウルフのゾイドコアがやられていて、とてもじゃないが・・・もう。」

アーバインの言葉で部員全員に衝撃が走った。
ゾイドコアはゾイドの急所。
そこを破壊されればゾイドは石化し、二度と立ち上がることが出来なくなる。
以前、その現場に立ち会ったのが、何を隠そうアーバイン本人である。

「とりあえず、保健室に行きましょう。」

「ああ。」

リノンの提案で朝練を中止し、一路保険室へと向かった。

 

「バラッド!」

先頭で入ってきたのはナオミ。
保健室にはバラッドとキース、そして、この学校の保険医も兼ねているマリアがいた。

「バラッド、大丈夫?」

「ああ、なんとかな。」

「そう、よかった・・・。」

すぐさまバラッドに駆け寄るナオミ。
カップルの雰囲気を醸し出しているが、

「お2人さん、いちゃつくんだったら話し終わってからにしてくれ。」

キースが軽く突っ込む。

「それで・・・一体全体何があったんだ?」

ビットが尋ねるともキースが代わりに答えた。

「どうやらBD学園の奴等の仕業らしい。」

バラッドが続ける。

「よっぽどこの間負けたのが悔しかったんだろう。
俺が新しいパーツを取りに行こうとしてたら、
ガイサックとステルスバイパーで急に襲いかかってきやがった。」

「なんて執念深い奴等なんだ。
この間といい、今回といい・・・。」

「このまま黙っている必要はないと思うが・・・。」

「いや、待ってくれ。」

バンとレイヴンが危ない会話に口を挟んだのはバラッドだった。

「これは俺自身がケリをつけたい。
俺にやらせてくれ。」

「そんな怪我で大丈夫なの?」

「無理するなよ。」

リノンとビットが止めに入るが、彼の決意は固かった。

「それはそうとして、先輩のゾイドはどうするんですか?
コマンドウルフはもう・・・。」

「いや、その心配はない。」

トーマが問いかけると、
突然、声が聞こえてきた
全員が驚いて、入り口を見てみると、

「ディ爺さんにトロス校長。」

学園の理系教師2人組がそこに立っていた。

「諸君、見せたい物がある。放課後に倉庫に来てくれないか。」

「見せたい物って?」

「来れば分かるさ。では、一時間目の授業に遅れないように。」

リノンの質問に軽く答えると、2人はとっとと去っていった。
気付けばもう授業開始一分前。
全員慌てて教室に戻っていったという。

 

 そして放課後、倉庫にて、

「で、見せたい物って何ですか?」

ゾイド部員とオーガノイズ人間バージョン、アーバイン、キースがそこにいた。

「では発表するぞい。」

そう言って、ディが倉庫の扉を開く。
すると、今まで見たことのないゾイドがそこにあった。

「これは?」

「これまでに類を見ない最高の隠密性を誇るコマンドウルフの後継機、
その名も『シャドーフォックス』じゃ。」

「シャドーフォックス・・・。」

驚きを隠せない一同の中でバラッドがポツリと呟く。

「機体性能を説明する。
角度を自在に変えられ、連射することが出来るAZ30mm撤甲レーザーバルカン、
しっぽには追ってきた敵を足止めできるAZ70mm内蔵型電磁ネット砲、
敵を攪乱することが出来るスモークデスチャージャー、
そして、格闘戦でかなりの威力を発揮するストライクレーザークローにエレクトロンバイトファング、
例え光学迷彩で隠れていてもすぐさま発見できるマルチイヤーセンサー
さらに、光学迷彩などの装備でヘルキャット以上の隠密性を実現した、
奇襲戦闘型の中型高速ゾイドじゃ。」

「すげぇ・・・。」

機体性能を説明され、さらに驚く。

「さらにこのシャドーフォックスは武器の互換性に優れていて、
あらゆる武装を換装可能だ。」

「おいおい、そんなゾイドを何処で手に入れたんだ?」

アーバインが不思議に思い尋ねると、
以外に呆気ない答えが返ってきた。

「ああ、BD学園から10km程行ったところの荒野で拾った。」

『・・・はぁ?』

トロスの返答に全員が間抜けな声を出す。

「メモリーバンクが損傷していたみたいで、乗り捨てられていたんだ。
それでデータを見たら、『シャドーフォックス』という名前が出てきた。
ふぅ〜、こうしてみていると本当にかっこいいなぁ。」

トロスがシャドーフォックスを見てしみじみしていると、
今度はリーゼの質問。

「それで、メモリーバンクはどうしたの?」

「バラッド君のコマンドウルフから拝借した。」

バラッド石化。
他のみんなも唖然としている。

「おい、ちょっと待て!
お前ら、俺のゾイドを・・・。」

「まぁまぁ、そうでもしなかったらシャドーフォックスもコマンドウルフも助からなかったぞ。」

「さぁ、早速テストだ、テスト。」

バラッドの怒りの声を聞き流して、2人はとっとと行ってしまった。
後に残ったのは呆然とした部員達のみ。

「まぁ、俺のライトニングサイクスも同じようなもんだ。
そう、気を落とすな。」

アーバインがポンとバラッドの肩を叩き、何とか元気付ける。
そして、オーガノイズは、

「僕、あの人達の性格が理解できない・・・。」

「私も・・・。」

「僕も・・・。」

「理解できた方が凄いのかも・・・。」

「たぶん・・・な。」

上から、ジーク、サンダー、シャドー、スペキュラー、アンビエントの順。
かくして、シャドーフォックスのテストが始まった。

 

「では、始めるぞ。
キース、アーバイン、シャドーフォックスの動きをちゃんと観察してくれよ。」

「あいよ。」

「任せておけって。」

アーバイン、キースがそれぞれ自分のゾイドの中で返事をする。

「よし、ではテストスタートじゃ。」

「シャドーフォックス、発進する。」

バラッドの声でホバーカーゴからフォックスが発進した。
甲高い鳴き声を上げて競技場を駆け回る。
その右横にはライトニングサイクス、上空にはサイクロンブレイダーが併走している。

「速いね。」

「ああ、サイクスやブレードライガーまでとはいかないがかなり速い。」

「最高時速は・・・290km/h!
ジェノザウラーよりも速いぞ。」

リーゼ、レイヴン、トーマがモニターの映像を見て、それぞれ感想を言う。
それを聞いて何だか誇らしげなディ。

「よし、バラッド。試しにアーバインを巻いてみてくれ。」

「了解。」

バラッドはフォックスを左に方向転換させた。

「そう簡単に振り切れると思うなよ。」

ライトニングサイクスも負けじとフォックスの後を追う。

 

アーバインががしばらく後を追っていると、
突然、黒い煙が彼と彼の愛機の視界を覆った。

「ちっ、スモークデスチャージャーか。」

少し困惑したが、風上に向かって走りだした。
そうすれば簡単に煙が晴れると考えたのだ。
だが、

「あれっ、バラッドの奴、何処に行ったんだ?」

眼前にはただっ広い荒野が、後方には煙が広がっている。
簡単に見失っているアーバインであった。
そして、彼らの横からシャドーフォックスが姿を現した。
光学迷彩を使って隠れていたのだ。

「なんだ、口ほどにもないな。」

「うるせぇ!」

バラッドに憎まれ口をたたかれるアーバイン。
流石の彼もこれには腹を立てた。
ちなみにキースも途中から見失ったとか。

「よし、テスト終了じゃ。
みんな、お疲れさん。あがっていいぞ。」

『了解!』

ディの声に返事をして帰還しようしたときだった。

ヒュ〜、チュドーン

突然、3体の近くに何かが落っこちてきて、
あたりには衝撃波で巻きあがった土煙が舞う。

「何だ、いったい?」

土煙が晴れたところを見ると、見覚えのある黒い物体が・・・。

「バトルフィールドォ、セットアップゥ!」

「ダークジャッジマン!」

「BDの奴等か!」

アーバインとバラッドが反応する。
すると、空からホエールキングが現れた。

「ふはははは、その通りだ!」

「またお前か、ラオン。」

また登場、ラオン博士。
トロスは若干呆れ気味。

「やい、トロス。
よくも俺の最高傑作、シャドーフォックスを盗んでくれたな。」

「盗んだ?
一体全体何をいってるんだ?
あれはあそこに乗り捨ててあったぞ。」

「あれはあそこに置いてあったんだ!
俺が予備のメモリーバンクを取りに行っていたら、もう無くなっていたんだ。
そして、そこにお前のドラム缶の跡があったから、もしやと思ってきてみれば・・・。
今日という今日こそお前のチームを潰してやる。」

ドラム缶という言葉にカチンときたトロス。
フルフルと肩を震わせながら、どこかに連絡を取っていた。
その表情には流石のレイヴン達もビビッたという。

 

 一方、バラッドとアーバインの前にはガイサックとステルスバイパーが展開していた。

「どうやら、今朝の奴等みたいだな。
アーバイン、キース、手出しは無用だぜ。」

「分かったよ、たまには花を持たせてやる。」

「今朝の借りを返してやれ。」

彼らはそう言うと、自分たちのゾイドを後退させた。

「チームラオンVSシャドーフォックス!
バトルモード0999、レディー・・・ファイト!」

ゴングが鳴り、シャドーフォックスが走り出す。
すると、ガイサックとステルスバイパーは地中に潜った。

「ほう、なかなか考えたな。
だが、こいつからは丸見えだ!」

モニターにはマルチイヤーセンサーのサーチデータが写っていた。
そこには2機の正確な位置が写っている。

「まずはお前だ、食らえ!」

レーザーバルカンを地中に向けて撃つ。
すると、ステルスバイパーに命中した。

「流石、天才ラオン博士特製レーザーバルカン。」

自分が作った武器に感心するラオン。
見方がやられたというのにのんきな物である。
 一方、シャドーフォックスは、スモークデスチャージャーを使い、煙の中に隠れる。
地上に飛び出てしまったガイサックはそのまま立ち往生。
すると、フォックスが後ろから勢いをつけて走ってきた。

「ストライクレーザークロー!」

彼のかけ声と共にフォックスが飛び上がり、光の爪を振り下ろした。
それによりガイサックは腹に穴をあけられ、そのまま撃沈した。

「バトルオールオーバー、ウィナー、シャドーフォックス・・・。はぁ〜。」

凄く残念そうにコールするダークジャッジマン。
ガックリした様子で空に帰っていった。

「どうだ、見たかトロス。
ラオン博士の最高傑作、シャドーフォックスは。」

もうやけくそのラオン。
負けているというのに自分のゾイドを誉めているのだから。

「ラオン、本当に君のゾイドは凄いよ。
私がもらっておくから、安心して眠ってくれ。」

怖いぐらいの笑顔で物騒な台詞を言うトロス。
ラオン博士は嫌な予感がしたのか、とっとと撤退する。
すると、地面の中から一筋の閃光が飛び出し、ホエールキングにかすった。
ホエールキングはバランスを崩す。
そして、地面から現れたのは・・・。

「何でデススティンガーがいるんですか!?」

そう、ヒルツのデススティンガー。
ラオンのドラム缶発言にキレたトロスがとっさに連絡したのだ。

「ヒルツ君、あれを仕留めたらボーナス上乗せだ。」

「了解しました。」

荷電粒子砲のチャージを始めるヒルツ。
これ以上食らったらまずいと思い、

「また来るぞ〜!」

そう言って、ラオンは猛スピードで帰っていった。
こうして、シャドーフォックスは正式にバラッドの物となった。
そして、観測室では、

「や〜い、や〜い、二度と来るな〜。」

トロスがそう言いながらディと肩を組んで笑っている。
そして、その傍らで、

「このおっさんだけは絶対に敵に回すな。」

『了解・・・。』

ビットがみんなに注意を促していた。

 

 その後、部室にて、

「ラオンの奴には少々気の毒だったかな。」

「いいさ、どうせお前にしか扱えないだろうよ。」

「ああ、あいつにはお前のコマンドウルフの想いが詰まってるんだからよ。」

ビットとアーバインの言葉に「そうだな」といって頷く。
すると、ナオミが

「ねぇ、バラッド。今度の七夕祭り、一緒に回らない?」

「ああ、いいぜ。」

クールに返答する。
どうやらいつもの調子が戻ってきたみたいだ。
それにはナオミも微笑む。

「さてと、帰る前にフォックスと走ってくるか。」

そう言って、ゾイド置き場に行こうとすると、

「バラッド、夕食までには戻ってきなさいよ。」

「じゃないと、俺が全部食べちまうぜ。」

リノンとビットの声が聞こえてきた。
了解の印に軽く手を挙げ、そのまま行ってしまった。
仲間達はそれを暖かく見送った。

 

 シャドーフォックスは夕日に向かって走っていた。
嬉しそうに荒野を駆けめぐる。
バラッドとの息もピッタリだ。

「これからもよろしく頼むぜ、シャドーフォックス。」

ウオォーーーン

彼に返事をするかのように甲高い鳴き声をあげる。
そして、そのまま夕日の光の中を一直線に走り抜けた。


ゾイド投票でも第1位に輝いたシャドーフォックス、ついに登場!(パチパチパチパチ)
何かやっと書けたって感じがする。
なんか「黒い稲妻」と「フォックス」を合わせたような感じになっちゃったなぁ。
まあ、いっか。(荷電粒子砲)
さて、次回は「七夕祭り」、いったいどんなことになるのやら・・・。
まぁ、7月中には上げたいです。
では。

 

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