「恋人達の七夕」

 

 この日、バンとジークはウキウキ気分で家を後にした。

「バン、ジーク、早く、早く!」

「そんなに急がなくても大丈夫だろ、フィーネ。」

「でも、そろそろ時間だよ。
早く、行かないと・・・。」

ブレードライガーの前でフィーネが手を振っている。
格好は浴衣姿だ。
そして、バンとジークも。

「その浴衣、可愛いな。」

「ええ、マリア先生にいいのをもらったの。」

そう言ってクルリと回ってみせる。
彼女の浴衣は白地にピンクのリボンがプリントされているもので、
帯の色は赤色だ。
バンは紺色に白のチェックが入っていて、帯は灰色。
ジークはそれの反対で灰色の生地に黒のストライプ、帯は紺色。

「さぁ、行こうぜ。」

「ええ。」

「さっさと行かないと、サンダーに怒られちゃうよ。」

ジークの言葉に2人はクスクス笑う。
そして、ライガーに乗り込んで、街へと向かった。

 

 バン達の行く祭りが行われるのは、Zi学園がある街。
ここの祭りはいつも大盛況で、各地からいろいろな人たちが訪れる。
そのため、祭りの期間は人でいっぱいだ。

「着いたぜ。」

「すごい人だね。」

「いつものことだけど・・・、今年はいつになく多いわね。」

学園にゾイドを停め、一行は待ち合わせ場所の校舎前へ。
すると、

「ジーク、遅いじゃない!」

早速のサンダーの怒鳴り声。
これにはジークもタジタジ。

「ご、ごめん・・・。」

この場にはまだサンダーとキースしかいないのだが・・・。
ちなみに彼女の浴衣は黄色の無地で、帯は赤。
キースは深緑の無地に、黄色の帯を巻いている。

「みんなはまだなのか?」

「そうみたいだな。」

呆れた声でキースが答える。
待ち合わせの時間はもう過ぎているのだ。

 

 そして、待つこと5分、聞き覚えのあるゾイドの鳴き声が聞こえた。

「お前達、遅いぞ。」

トコトコと歩いてくる人達にキースが静かに声をかけた。

「浴衣を着せるのに手間取ったんだ。
なんせ、出来るのが俺だけなんだから。
4人分を1人でやった挙げ句に、
俺があいつを操縦しなきゃならないから、疲れたよ。」

もう、お気付きだとは思いますが、
話しているのはレイヴンです。
その後ろにはリーゼにシャドー、スペキュラーが申し訳なさそうに立っていた。
レイヴンは黒で白のストライプが入っている生地に、灰色の帯。
リーゼは水色に青の水玉模様、帯は白。
シャドーはレイヴンと生地は同じで、帯は紫。
スペキュラーは青色の無地に黄色の帯をまいている。

「まぁ、いいや。
それより、先輩達はまだかな?」

「ああ、あいつらは寮生活だから、そのまま街に繰り出してるだろ。」

「そうか。
じゃあ、行くか?」

「そうね。」

そう言って、生徒達はその場を後に、
キースはシュバルツ達を待つと言ってそこに残った。
この時点で4つのカップルが出来上がっている事は言うまでもない。

「はぁ〜、生徒は生徒でカップルが出来てるし、
アーバインもムンベイと一緒に廻ってるし、
何だって俺は野郎共と一緒に廻らなきゃいけないんだ?」

キースが8人の後ろ姿を見ながら、そんな事を呟いていると、

「悪かったな。」

突然、後ろから声が聞こえたので、ビックリしながらも素早く振り返る。
すると、そこには・・・。

「シュバルツ・・・、いつの間に・・・。」

「バン達が行く少し前にはいたが。」

そう、彼の相棒・・・。
失礼、彼の同僚、シュバルツがそこにいた。
浴衣姿なのでちょっと不気味さが倍増している。
ちなみに彼の浴衣は青と白のまだら模様に黒の帯を巻いている。

「まぁ、いいや。
ところで、お前の弟は?」

「ああ、トーマだったら約束があると言って、私より先に出かけた。」

トーマの行方を聞いて、キースはもう一度大きなため息を吐いた。
どうやら彼も“野郎共”の中に入っていたらしい。

「たぶん、フィーネの尻を追っかけてるか、
ローザと一緒だな・・・。
あいつら、付き合ってるって噂が立ってるし・・・。」

「まぁ、いい。
ところで、例のものは持ってきたか?」

「バッチリだよ。
・・・ほら。」

そう言って彼が取り出したのはビデオカメラ。
何を企んでいるかは容易に想像ができる。

「まったく、補習を受けさせるのにも一苦労だな。」

「ああ、写真だと『合成だろ』と言われかねん。
だが、ビデオカメラだったら“脅し”をかけるのに十分だからな。
それに、もうそろそろ期末試験だ。」

シュバルツさん、何かすごい事言ってますけど・・・。

『気にするな。』

2人揃ってこっちに言わないでください。

「写真で“脅す”のにも飽きたしな。」

こっちもすごい事いってるし・・・。
って、今まで何回やったんだよ、あんたら!

『6回。』

数えないでくださいよ・・・。
とかなんとか言っているうちに彼等は街の中へと繰り出していった。
一体、どうなることやら・・・。

 

 さて、こちらはバンフィーサイド。
今、彼等は射的に夢中です。

「フィーネ、何が欲しい?」

「そうね・・・、あれがいいかな。」

そう言って彼女が指さしたのは、ピンク色の熊。

「よ〜し、任せておけ。」

意気込み十分で玩具のライフルを構えるバン。
だが、大抵こういう場合は・・・、

「・・・・・・。」

「外れちゃったわね。」

案の定、3発全部を外してしまう彼。
人間、カッコつけようとすると、失敗するものである。

「おっさん、もう1回!」

そう言って、100円玉を突き出すバン。
こうなりゃ意地の問題である。
結局、バンはこのゲームで1000円余り費やすこととなった。

 

 一方、レイリー側は、

「綺麗だね・・・。」

「ああ・・・。」

無愛想に返事をするレイヴンに少々ムッとしながらも、
目の前の光景に再び目を移すリーゼ。
彼等は約束通り、川辺で天の川を見ていた。
もちろん、2人っきりで。

「ねぇ、何でそんなに不機嫌なの?」

さっきから仏頂面の彼に彼女が尋ねる。
確かにこれでは折角のデートも台無しだ。

「お前なぁ・・・。
誰がこんなところで見ようって言った?」

「えっ?」

よく見るとレイヴンの顔は真っ赤。
そして、あたりをキョロキョロ。
実は・・・、周りにはイチャついてるカップルがたくさんいたのだ。

「もうちょっと・・・、ほら、静かなところで・・・。」

恥ずかしさのあまりしどろもどろになってるレイヴン。
彼はこんなバカップル共と一緒にされたくないのだ。

「しょうがないなぁ。
本当、君ってシャイだよね。」

そう言って、レイヴンの手を握ると上流の方へと歩き出した。
だが、ちゃんとキース達にバカップルぶりを映されていたりする。

 

 こちらはジーク&サンダーペアと
シャドー&スペキュラーペアのダブルデート現場。
全員綿飴を持って、ベンチで一休みしていた。

「綿飴、おいし〜。」

「食べたこと無かったからね。」

サンダーとスペキュラーは初めて食べる綿飴に舌鼓。
ジークとシャドーはラムネを飲んでいた。

「そう言えば・・・、アンビは?」

「ああ、ヒルツさんと一緒に行くとか言ってたけど。
・・・ほら、あそこにいた。」

シャドーの示す方向を見ると、
焼きそばを買っているヒルツとアンビエントの姿が。
ちなみにヒルツは紺色で背中にサソリみたいな赤い模様、帯は赤。
アンビエントは赤色の無地で、帯は紺色。
周りが退いているのは気のせいであろうか。

「噂をすれば何とやら・・・。」

「本当、赤が好きよね。あの2人・・・。」

ジークとサンダーが彼等の容姿を見て、
ちょっと呆れながら呟いた。

「アンビエント・・・、彼女がいないもんな・・・。」

「他にオーガノイドがいたらいいのにね。」

ちょっと彼のことを哀れむシャドーとスペキュラーであった。
そして、

「ジーク、ちょっと歩かない?」

「いいよ、別に。」

綿飴を食べ終わり、サンダーがジークを誘った。
この場でシャドー達と別れることに。

「ジークって、絶対尻に敷かれるタイプだよな。」

「サンダーは、尻に敷くタイプよね・・・。
こういうのって・・・、“お似合い”っていうのかな?」

「さぁ・・・。」

後ろ姿の彼等を見て、そんな事を思ってみる2人。
そして、彼等も・・・。

「天の川でも見に行く?」

「そうね・・・、いいかも。」

そう言って、彼等もその場を後にした。
ちなみにこの後彼等がレイヴン達と同じ行動をとり、
しかも上流の方で鉢合わせになったことは言うまでもない。

 

 お次は・・・先輩方。

「ビット、次はあれがいいな〜。」

「おいおい、まだ買うのかよ?」

まずはビットとリノン。
リノンの浴衣はピンクの生地にウサギのプリント、帯は白。
ビットは紺色に白色の斑点、黒色の帯を巻いている。
そして、手にはリノンの荷物がどっさり・・・。

「まったく、いつもいつもこれなんだからよ。
これじゃあ、こっちの身体が持たないぜ・・・。」

「何か言った?」

彼の声に彼女が反応した。
顔は笑っているのだが、握り拳が震えている。

「いいえ、別に・・・。」

慌てて否定するビット。
もしリノンを怒らせたら、
この場でぶちのめされるどころか買い物の量がさらに増すだろう。
彼は大きくため息を吐いた。
すると、

「ねぇ、ビット。
私のこと、どう思ってる?」

突然神妙な顔をして彼に尋ねた。

「い、いきなり何言い出すんだよ。
そりゃあ、がさつだなって思っているけど・・・。」

「けど・・・?」

「だから・・・その・・・た、大切な・・・。」

少し頬を赤らめながら彼が言葉を絞り出す。
彼女も言葉の続きを待っている。
すると、

「リノ〜ン、俺はお前のことを・・・。」

突然、ハリーがどこからともなく飛び出してきた。
そして、彼等の間に割って入り、リノンの手を握る。
ちなみに彼、黄色の生地に金を散りばめていて、帯は銀色。
ハッキリ言って、売れない演歌歌手みたいな格好である。

「あんたには聞いてないでしょうが〜!」

ドッカ〜ン

リノンの強烈なアッパーがハリーにヒット。
彼はそのまま天の川の一部になったとさ。

「何〜故〜だ〜、リノ〜ン!」

ハリーの絶叫が夜空に響いた。

「まったく、もう。
それで?」

邪魔者がいなくなり、再びビットに問いかける。
すると、

「大切な・・・友達だよ。」

彼が発した言葉に一瞬時が止まった。
そして、

「そ、そうよね。
私たち友達よね〜。」

そう言った後、リノンはクスクスと笑いだした。
そんな彼女にビットはちょっと不満気。

「な、何だよ、一体・・・。」

「何でもないわよ。
さぁ、買い物はまだまだ続くわよ。」

「はいはい。」

笑顔でそう返事する彼。
そして、2人はそのまま屋台巡りを再会した。

 

 その後ろでは、2人の人物が立っていた。

「あいつら、進歩がないな。」

「ほんと、まだまだね。」

バラッドとナオミだ。
どうやら、ずっと2人の様子を見ていたようである。
ここで恒例の着物チェック。
バラッドは濃い青色に、帯は黒。
ナオミは赤一色、もちろん帯も赤い。

「ところで・・・まだやるのか。」

「もちろん。
全部の店を制覇するまで止めないわよ。」

彼女が今情熱を燃やしているのは、彼女の十八番の射的。
どうやら、射的屋荒らしをやっているみたいだ。
その証拠にバラッドの手には今まで取った景品が。

「さぁ、行くわよ。」

「分かった、分かった。」

さっきのビットとは対照的に、呆れた調子で返事を返す。
そして、次の屋台を求めて歩いていった。
ちなみにハリーが本当の川で流されていたのは余談である。

 

 そして、この2人、

「お店がいっぱいね。」

「そ、そうですね・・・。」

ビット達の反対側で屋台巡りをしているのはトーマとローザ。
トーマの方はフィーネを探したいと思っているが。
ここで浴衣チェック。
トーマの浴衣は兄のと同じので、帯は緑。
ローザは白地にひまわりがプリントされているもので、帯は橙色。

「はぁ〜、フィーネさん、何処に行ったんだろう。」

ちなみに今フィーネはバンと天の川を見ています。
そうとは知らず、彼はため息が止まらずにいる。

「トーマさん、折角のお祭りなんだから、もうちょっと明るくしてよね。」

「は、はい、すみません。」

思わずローザに謝ってしまうトーマ。
それには彼女も呆れ顔。

「まったく、男子はみんな、フィーネ、フィーネって・・・。
そんなにフィーネがいいかな〜。」

ローザがそんなことを呟く。
実際、学校ではフィーネは人気の的なのだ。
よって、その彼氏のバンは妬みの的になっている。
ただ、誰も2人の仲を邪魔した試しがないが。

「そんな事ないですよ。
ローザさんだって・・・。」

慌ててトーマがフォローする。

「そう思うんだったら、今日ぐらいはフィーネのことを忘れなさい。」

「はい。」

素直に返事をする彼を見て、彼女はクスリと笑う。
そして、彼の腕を引っ張って、屋台巡りを再会した。
まあ、この2人、小学校以来の付き合いなので、
良い友達だとは思ってはいるらしい・・・。

 

 いろいろな想いが交錯する中、七夕祭りはフィナーレを迎えようとしていた。
川辺での花火の打ち上げだ。
それぞれカップル達は対岸で見物としゃれ込んでいる。

ヒュ〜〜〜、ドン、パチパチパチパチ・・・

ヒュ〜〜〜、ドン、パチパチパチパチ・・・

ヒュ〜〜〜、ドン、パチパチパチパチ・・・

色とりどりの花火が天の川に向かって花を咲かせる。
恋人達はそれに見入っていた。
そして、

「撮れたか?」

「ああ、バッチリだぜ。
これで期末テストも大丈夫だな。」

「よし、引き上げるぞ。」

キースとシュバルツはそう言ってZi学園の方に戻っていった。
ちなみに彼等は花火を自分たちのゾイドと一緒に見ていた。

生徒達よ、花火に見とれていたり、イチャついたりしてるのはいいが、
期末試験が近いことをそろそろ思い出したらどうだ。


Zi学園の七夕、いかがでしたか?
いろんなカップルがデートしてるし、
シュバルツとキースも悪巧みをしている。
やれやれ、一体どうなる事やら・・・。
次は「地獄の期末試験」です。
果たして合格できるのは、そして、補習を受けるのは誰だ?
では、次回をお楽しみに。

 

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