「星空」

 

 晴れた昼下がり、私立金森高校の体育館で名門と知られたバスケットポール部が、
男女合同で練習をしていた。
一週間子に控えた隣町の高校との練習試合に向けて。

「裕二、こっちだ、パス。」

男子キャプテンの葉月龍也がひときわ大きな声で、後輩達に指示を出していた。
ボールを受け取った龍也はシュートを放った。
そのシュートが見事に決まり、審判をしていた顧問の武田先生が長く笛を鳴らした。

「試合終了、男子の勝ちだ。5分休憩の後集合。」

得点板には12−10と書かれていた。

「何とか勝ったな。」

「残り10秒でよく入りましたね。」

試合を振り返っている龍也と裕二。
実はこの二人、この金森高校バスケ部始まって以来の名コンビと言われていて、
他校からも注目されている。
ただ、龍也は三年で裕二は一年なので、来年には龍也が卒業してしまい、
裕二一人になってしまう。
「お前の実力なら一人になっても大丈夫さ。俺もお前が来るまで一人だったんだからよ。」
と、以前龍也が言った事がある。
後輩思いのいい先輩なのだ。

 話し込んでいた二人のもとに一人の女子が近付いてきた。

「もう、お兄ちゃんに大月君!少しは手加減してよね!
女子相手に二人してムキになんないでよ!」

龍也の妹の由美だ。龍也に似て負けず嫌いなのだ。

「悪かったって。そんなに怒るなよ。ちょっと本気出しちまっただけじゃないかよ。」

「俺は関係ないよ。先輩がパスって言ったから。」

「すぐに寝返るな!・・・ったくこの新人コンビは・・・。」

裕二は由美のことが好きらしく、何かあったらすぐ由美の味方になるので、
龍也も手を焼いている。由美も裕二のことは気になっているみたいで、
龍也はそんな二人のことを見守っている。

 言い合い始めて一分ぐらい経ったとき、もう一人女子が会話に入ってきた。

「女子相手に本気を出すのもどうかと思いますけど。先輩。」

「何でお前まで口を出すんだよ、神崎」

口を挟んだのは女子キャプテンの神崎優子だ。
女子部の方は三年の部員がおらず、
二年の中で一番うまい優子がキャプテンをしているのだ。
優子と由美も龍也と裕二に負けないほどの名コンビと言われている。
ちなみにこの学校の三年生は大学受験のため、ほとんど部活をしていない。
余談だが龍也は成績が良く、推薦を狙ってるので部活に出ている。

「おっと、もうこんな時間か。みんな集合、ミーティングを始めるぞ!」

ぶーぶー文句を言っている三人を後目に、龍也は部員を集めた。
ミーティングの内容は、対戦相手の情報、試合日程の確認、今後の練習日程などだった。

「そんなところかな。よし、ミーティング終了。お疲れ。」

『お疲れさまでした。』

 ずいぶんと話していたらしく、日が傾いていた。
龍也達も後片付けが終わり帰ろうとしていた。

「さてと、裕二、由美、校門の前で待ってるからな。」

龍也はそう言って更衣室へ向かった。
由美達もすぐに終わって龍也の後を追った。

 着替え終わった裕二達は校門にいた龍也に合流した。

「おっ、来たな。何か腹減ったしラーメンでも食いに行くか。」

「当然先輩のおごりですよね。」

「当たり前でしょ、ねぇ。」

「本当にがめついな、お前らは。しょうがねーな。」

半分ふてくされながら龍也は言った。

「よっしゃー、俺大盛り食おう。」

「私、餃子付きね。」

「はいはい、好きにしろ。まったく食い意地だけは張ってんだから。」

いろいろと話しているうちにラーメン屋に着いた。
店にはいると龍也はある人物を見つけた。
退屈そうに頼んだラーメンを待っている優子だった。

「なんだ、お前も来てたのか。」

龍也が声をかけたので優子は振り返った。

「あっ、先輩。大月君に由美ちゃんも。
私よくこの店に来るんです。先輩達も?」

「まーな。よくこいつらに、たかられて来るんだけれど・・・。」

「お兄ちゃん、それって嫌みで言ってんの?」

けんかになりそうだったので裕二が慌てて

「まーまー、兄妹げんかは止めましょう。
親父さん、ラーメンを並が二つに大盛り一つそれに餃子一皿ね。」

「あいよ。」と店の親父さんの威勢のいい声が聞こえると、龍也達は席に座った。

「大変ですね、先輩も。この二人結構食べるんでしょ。」

「まあな。」

 その時、優子の頼んだラーメンが来た。
よく見ると優子も大盛りを頼んでいたので龍也は、

「お前もよく食うみたいだな・・・。まったく、こいつら揃って俺より食べやがって。
餃子頼むわ、大盛り頼むわ・・・。」

そして龍也達のラーメンも来た。もちろん餃子も。

「おっ、来たな。とっとと食べちまおうぜ。」

龍也がそう言う前に、もうラーメンに手をつけている由美と裕二。
そんな二人を見て呆れながらも食べ始めた龍也だった。

 大方食べ終わった頃、裕二がおもむろに話し出した。

「そうだ先輩、いつかアレやりましょうよ。」

「そうだな、・・・試合の次の日はどうだ。」

優子が不思議そうに聞いた。

「アレってなんですか?」

「私たちバンドやってるんです。」

「由美がベースで裕二がドラム、俺がギターとボーカルをやっているんだ。」

「そう言えば最近やってなかったっけ。」

「いつも練習で出来なかったからな。」

「何言ってんですか。練習のメニューと日程決めたのは、先輩でしょうが。」

「半分は当たってるな。こいつもだ。」

龍也はそう言って優子を指した。

「あのね・・・ほとんど先輩が決めたんでしょ。しかも女子の分まで。」

「えっ・・・そうだったっけ。」

「やっぱりお兄ちゃんなのね、もう。」

由美と裕二がそう言って鋭い目つきで龍也を見た。
すると突然、龍也は席を立って、

「ごちそうさま!親父さん、3人分ここに置いておくから。じゃあな。」

と言ってそそくさと店を出ていった。

「あっ、逃げた。・・・もう。」

由美が頬を膨らませながら言った。

「先輩は不利になるといつも・・・・・・んっ。」

裕二はふと龍也のおいたお金に目をやった。

「あっ!」

「どうしたの。」

「餃子分の代金が抜けてる。」

「はぁ、慌てて払うからそういうことになるのよ。」

「しょうがないわね。私が立て替えておくから。」

「どうもすみませんね、先輩。もう、帰ったらきつく言っとかないと。」

 そのころ龍也はと言うと、

「まったく、あの二人を敵に回すとろくな事がない。」

と、ブツブツ文句を言いながら歩いていた。
だが何故か優子のことが怒れなかった。
その反面、頭の中で何か引っかかっていた。
龍也は勘も頭も良いのだが、何処か抜けているところがある。
案の定、この数十分後に由美にこっぴどく怒られて、
翌日、優子に利子付きで500円を泣く泣く返した龍也だった。

 

続きを読む         Originalに戻る         Novel TOPに戻る