大会が明日に迫り、試合の準備で慌ただしくなってきた。
龍也達も土曜日の休みを返上して、準備を手伝っていた。
その時、武田先生が龍也と優子を呼んだ。

「いったい何なんだ、忙しいときに。」

「とにかく行ってみましょう。」

「そうだな。じゃあ、お二人さん、ごゆっくり。」

「ちょ、ちょっと、止めて下さいよ。先輩。」

動揺している裕二を見て、半分照れくさそうにしている由美が、

「何照れてんのよ、バカ。」

「お互い様だろ、ったく。優子、行こうぜ。」

顔を真っ赤にしている裕二を残して、龍也達は武田先生のいる職員室に向かった。
 三十分ぐらい経った後、龍也と優子は先生の長話を聞いて職員室から出てきた。

「何で日程や場所の確認でこんなに時間がかかるんだ。
おまけに昔話まで聞かされちまったしよ。ったく。」

「そんなに愚痴ばっかりこぼさないで下さいよ。
こっちもうんざりしているんですから。」

「はいはい。そういやのど渇いたな。何か飲むか?」

「結構です。そのかわり、この後またラーメン食べに行きませんか。丁度お昼時ですし。」

「別にいいけど・・・もしかして・・・俺のおごり?」

こっくり頷く優子を見て、がっくり肩を落としながらも了承する龍也だった。

「じゃあ、二人に伝えてきますね。」

と優子は嬉しそうに走っていった。

「優子もちゃっかりしてるよなぁ。何かちゃっかり者が増えた様な気がする。
まっ、俺も嫌って言えない性格だからなぁ。」

と自分の性格を少し恨みながらも体育館に向かう龍也だった。
手伝いが終わって早速四人はラーメン屋に向かった。
朝から準備をしていたのでみんなはかなり空腹になっていた。

「もうお腹ペコペコよ。」

「朝からずっと働いてましたからね。」

「少しは味わってくれよ。いつも俺におごらせてばっかりなんだからよ。」

「もう、お兄ちゃんたら。一番年上が文句言わない。」

「お前らこそ、年下なんだからちったぁ遠慮しろ!」

「優しくないわね。だから彼女出来ないのよ!」

「なんだと!」

喧嘩になりそうだったので、慌てて裕二と優子が止めに入った。

「まあまあ。」

「二人とも、おさえて、おさえて。」

「ほら、着いたぞ。」

ムッとした顔をして龍也が店に入った。それを追いかけて三人も中に入った。
店の中では龍也の恋愛話で盛り上がったようだ。
 一時間ぐらいして満足そうな顔をして出てきた三人。
その後から一人浮かない顔をして龍也が出てきた。

「じゃあ先輩、俺そろそろ帰りますから。」

そう言うと裕二は走って帰っていった。

「あっ、もうこんな時間。お兄ちゃん、私友達と約束があるから。じゃあね。」

「おいっ、今日の夕飯の当番がお前だって事忘れるなよ。」

龍也は駅に向かって走っていった由美にむかっていった。

「さてと、これからどうしようかな。」

「ねぇ、先輩。少し寄り道していきませんか。」

「別にいいけど。どうせ暇だし。」

優子は龍也の手を引っ張って、公園へ向かっていった。
公園といっても自然公園に近く、中には立派な林もある。
またそこにある高台はこの町でも有名なデートスポットでもあり、
そこから見た町の夜景は最高だと言われている。
 龍也達はそこの高台に着いた。

「ふぅ、やっと着きましたね。やっぱりここはいつ来てもいい眺めですね。」

「この町で唯一の名所だからな。夜になれば星も綺麗なんだよ。」

二人は町の景色を眺めていたが、しばらくして優子が話し始めた。
その表情はなんだか悲しそうだった。

「先輩。私ね、前にここで好きだった人に告白したことがあるんです。
結果はダメでしたけど。」

ちょっと涙目になっていた優子を気遣って龍也が話し始めた。

「何でもやって見なきゃ分からないからな。
バスケと同じさ。シュートは打ちまくってやっと入るもんだからな。
まぁ、これは俺の先輩の受け売りだけど。さっき由美から聞いただろ。
俺もここでふられたって。しかも5回も。」

「それを聞いた時なんだか似てるなって思いましたよ。
でも、先輩がうらやましいですよ。そうやって平気で話せるんですから。
私なんてまだそれを引きずってるんですから。」

とうとう優子の瞳から涙がこぼれた。
それを見て龍也は「ほら、拭けよ。」と言って、
ポケットに入っていったハンカチを差し出した。

「どうもすみません。」

優子はそう言ってハンカチを受け取って涙を拭き始めた。
そして龍也が話し始めた。

「俺はさぁ、立ち直りが早いだけだよ。学習能力がないって言うか、なんというか、
同じ失敗を何度も繰り返しちまう。
けど、重要なのは何事にも立ち向かうっていう事じゃないか。」

「そうですね。」と言って優子は龍也の方に体を向けた。
眼からはもう涙は出ていなかった。そして意を決した表情で口を開いた。

「先輩・・・付き合ってくれませんか。」

突然告白されて龍也はビックリしていた。だが、

「いいぜ、俺で良かったら。」

と軽く微笑んだ。それを聞いて優子も笑顔になった。
そしてしばらく夕焼けに染まる町の景色を二人揃って眺めていた。
翌日、龍也と裕二は試合に臨んでいた。
女子の方は一進一退の攻防で同点が続いたが、
試合終了間際に優子がシュートを入れなんとか勝っていた。
男子の方は14−12で金森校が劣性だった。
そして今、龍也にボールが渡った。時間はもう10秒を切っていた。

「ちっ、時間がないな。一か八かだ。」

龍也がシュートを放った後、笛が鳴った。ボールは見事にゴールに入った。
しかもそれがスリーポイントシュートだったため龍也達は逆転勝利を決めた。
金森校の勝ちが決まった瞬間、歓声が湧いた。

「よっしゃー!勝ったぜ。」

「やりましたね、先輩。」

優子と由美も応援席から出てきた。
その日、金森高校バスケ部は勝利に酔いしれていた。
その頃、龍也、裕二、由美はと言うと、

「先輩、明日何処でやります?」

「部室が空いてるからそこでいいだろう。」

「O.K.」

とバンドの打ち合わせをしていた。
優子はそれを聞き逃さなかった。
 次の日の放課後、優子は部室を訪れた。何か大きな物を肩から下げていた。

「こんにちは。」

「よう、優子。・・・んっ、何持ってるんだ?」

龍也が指をさしながら言った。

「キーボードですよ。昔やってたから、バンドに入ろうと思って。」

「いいんじゃない。」

「俺も問題ないですよ。」

「そうだな。丁度キーボードが足りなかったし、丁度いいか。」

こうして優子が新しくメンバーに加わった。

「早速、何か弾くか。」

「じゃあ、あの曲にしようよ。」

と由美が言った。そして楽譜をみんなに示した。

「ああ、それでいいか。」

そう言って龍也は優子に楽譜を手渡した。
裕二がリードをとってみんなが楽器を弾き始めた。
 やがて歌い終わると、優子が、

「いい歌ですね。なんていう歌ですか?」

「『星空』っていって、俺が初めて作った曲なんだ。」

「お兄ちゃんは失恋の歌が得意だもんね。」

「そうそう、経験が多いですからね。」

「うるせぇ、大きなお世話だ。」

くすくす笑いながら優子が、

「ねぇ、他にも曲があるんですか?」

「ああ、まだ2、3曲あるぜ。じゃあもう一曲やるか。」

『はーい。』

と優子達が言った。
 そしてそれから30分余りの時間、
龍也達は夏の日差しを浴びながら曲を弾いていた。

 

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