「迷子のプリンセス」

 

 いつものようにトトは、ドミナの町に向かって歩いていた。
ドミナの町はさほど大きくはないが、
立派な市場や宿屋、装備屋、酒場に教会などがある。
家が近いという理由もあって、よくこの町で食料や防具などを調達している。
それともう一つ、トトがこの町に来たい理由があるのだが、
今日ばかりはその願いも叶いそうになかった。

 

 トトは町の入り口に着くと、ふいにある光景が目に止まる。
なにやら言い争いをしている様子だった。
一人はトトもよく知っている人物で、タマネギ人間のドゥエルだ。
ドゥエルはよく装備屋に出入りしていて、冒険に行くトトに色々とアドバイスをくれる。
そしてもう一人の方は、トトも知らない人物であった。
特徴と言ったら、流砂の模様が描かれているマントに片手持ちの剣、
そして胸には大きく綺麗に光り輝いているラピスラズリと呼ばれる石がある。

「おい。名前ぐらい言えよ。」

ドゥエルの言葉に男は振り返り、

「瑠璃だ。」

静かにそう言って、近くにある酒場へと入っていった。

「ちっ、感じの悪いやつ。」

ドゥエルは、装備屋へと入っていく。
しばらく考え後、トトはまずドゥエルの後を追うことに。
さすがに何があったのかも判らずに、他人の後を付けるのは良くないと思ったからだ。

 

 装備屋に入ると、そこにはなじみの面々がいた。
先ほどのドゥエルに装備屋の主人のマーク、自称宝石コレクターのティーポの三人だ。

「こんにちは、マークさん。」

「おお、トトか。」

まずトトはマークに挨拶をした。
マークは昆虫人と呼ばれる種族で、妻のジェニファーとともに装備屋を営んでいる。
奥さんとは、一日おきに店に立っている。
マークが非番の日は、たいてい家にいるが、奥さんは一日中外で世間話をしている。
よくトトが市場に行くと彼女の愚痴を聞かせられる。
彼らにはレイチェルという娘がいて、昔はおてんばだったのだが、
今はおとなしく無口になってしまった。
一説には、マークが溺愛しすぎたのが原因だと噂されている。

「おお、トトはんか。見て見て、うちの新しい宝石。かわいいでっしゃろ。」

「やぁ、ティーポ。どれどれ・・・・・・これ・・・ガラス玉だぞ。」

「えっ・・・。」

ティーポはショックのあまりに絶句してしまった。
それには他の二人もあきれている。
ティーポがガラス玉を宝石とだまされて買ってしまうのはいつものことだ。
ティーポは魔法都市ジオで生成された魔法生物で、ジオにはたくさんいるらしい。
このようにここファ・ディールにはいろいろな種族がいるのだ。

「ところで・・・さっきなんかもめてたみたいだけど。」

トトはさっきの出来事の説明をドゥエルに求める。
すると、代わりにティーポが話し出した。

「実はさっきな、その男が店に来たんやけど、
いきなりうちに『連れを知らないか』って詰め寄るから、うちが『知らない』って言ったら、
何も言わずに出ていったんや。
あれ今流行のストーカーちゃうん。」

「ふうん、そういやさっき酒場の方に行ったな。」

「えっ!」

それに驚いたのは、マーク。
実は、マークの娘のレイチェルは酒場でバイトをしているのだ。

「レイチェルが心配だ。
どうしよう・・・。」

娘のことを心配しているマークを見かねて、

「じゃあ俺が様子を見てきますよ。」

にこやかにトトがそう言う。

「頼むよ。」

すがるようなマークの返事を聞いて、
トトは酒場へ向かった。

 

 案の定、酒場では瑠璃がレイチェルに詰め寄っている。

「おいっ!何か知っているのか?
答えろ!」

あの迫力では答えろと言われても無理な話だ。
それでもなお、問い詰める。

「俺を怒らせるな。」

トトはとにかく止めることに。

「おい、やめろよ。
怖がってるじゃないか。」

トトの声に反応したのか、瑠璃はトトの方に体を向ける。

「邪魔をするな。」

「あのなぁ、あの調子で聞かれたら答えられるものも答えられないぜ。
せめて、何があったのか説明したらどうだ。」

「確かにそうだな。」

落ち着いたのか瑠璃はクールな口調で話し始めた。

「連れが行方不明なんだ。
ちょっと目を離しているすきにどっか行っちまってな。
女の子だから、ろくに戦えもしない。
だから・・・、とても心配だ。」

瑠璃が急に心配そうな顔をする。
しょうがないので、トトはこう切り出した。

「しょうがないな、俺が探すのを手伝ってやるよ。」

その言葉に瑠璃は、

「でも、俺達に関わると・・・。
いや、何でもない。助かるよ。」

「決まりだな。俺はトト。
確か・・・瑠璃だったな。」

「何故、俺の名前を・・・。」

「さっき外で名乗っているのを聞いた。」

「そうか・・・。」

彼と一通りしゃべり終わると、
今まで黙り込んでいたレイチェルが口を開いた。

「あの・・・これを・・・。」

そう言ってあるものを二人に差し出す。

「これは・・・ヒスイで出来た卵だな。」

トトはおもむろにその卵にさわると、何かを感じたのか目を見開く。

「これは、まさか・・・アーティファクトか。」

「なんだ、それは?」

瑠璃が尋ねたので、トトは簡単に説明する。

「アーティファクトっていうのは、マナの力が宿ったもので、
それぞれの土地が持っている記憶を映し出すんだ。」

「なるほど・・・。
んっ、この卵、真珠のにおいがする。」

「それって連れの名前か。」

トトが尋ね返すと、そうだ、と答えた。

「よし、ちょっと待ってろ。」

そう言うとトトはそのヒスイの卵に神経を集中させる。

「水の音がする・・・ずいぶんと暗い・・・鍾乳石がある。
てことは、メキブの洞窟か。まずい、あそこはモンスターの巣窟だ。」

「なんだって、急いでそこに行くぞ!!」

「わかった、レイチェル、サンキューな。」

そう言うと二人は、メキブの洞窟へと向かった。

 

続きを読む         LOM TOPに戻る         Novel TOPに戻る