「ニキータ商い道中」

 

「師匠〜!起きて下さい。」

いきなりバドが大声でトトを起こそうとする。
トトの寝起きは最悪なので、このぐらいやらないとなかなか起きないのだ。

「うっるせ〜な〜。もうちょっと寝かせろよ。」

「そんなこと言ってもダメです。
朝飯が冷めちゃうってコロナがうるさいんです・・・って、もう寝てるし。」

バドの言葉を完全に無視して、トトはまた寝に入ってしまう。

「しょうがない。
師匠、許して下さいね・・・。
せぇのっ!!」

何かをフライパンで叩いた音が家中に響きわたった。
それから2,3分後、トトとバドが階段を降りてきた。
トトの頭に大きいタンコブが出来ていたのは、言うまでもない。

 

「ったく、毎朝こんな起こし方ばっかりしあがって。死ぬかと思ったぞ。」

朝食を食べながら、早速、愚痴の嵐。
これも毎度毎度の事である。

「師匠が起きないのがいけないんでしょ。」

「毎朝朝食を作ってるこっちの身にもなって下さいね。」

「はいはい、悪ぅございましたね。」

トトはそっぽ向いてそう言った。
横では獣ヒナがおいしそうに餌を食べている。
この二人の同居人が来てからというもの、毎日朝早くに文字通り叩き起こされている。
夜遅くまで剣術のトレーニングをしているトトには、生き地獄もいいところだ。

「あっ、そういえば手紙が来てましたよ。はい。」

思いだした様にそう言うと、
コロナはトトに手紙を渡した。

「サンキュ〜、えっと、ティーポからか。・・・どれどれ。
『前略、トトはんお元気ですか。
うちもみんなも元気しとるで。
ところでいきなりなんやけど、うちの友達に商人がおるんや。
でも、最近街道に盗賊が出て困っているらしい。
そこで、トトはんに何とかしてほしいんや。こんな事頼めるのトトはんだけや。
ほなよろしゅう。』
・・・か。盗賊ねぇ〜。
頼りにしてくれるのは嬉しいんだけど・・・。」

トトが顔をしかめる。
彼の性格からして、あまり物事に首を突っ込みたがらないのだ。
すると・・・、

「トトさん、やってあげたら?」

コロナが必死にトトを説得する。

「しゃあねっか。
とりあえずドミナの町に行って話を聞いてくるか。」

朝食を平らげると、トトは愛用の剣を持ってドミナの町に向かった。

 

 トトがドミナの町についたのは丁度昼。
とりあえず市場に行って、何か軽く食べられるものを探す。
すると、後ろから声が聞こえた。

「あんたがトトさんにゃか?」

トトが振り返ると、小太りで背中に大きなリュックを背負っているネコの獣人が立っていた。

「ティーポから話は聞いてるにゃ。相当腕が立つらしいにゃ。」

「ていうことは、あんたがティーポの言ってた・・・。」

「そう。おいらの名前はニキータにゃ。
よろしくにゃ。」

ニキータは頷きながらそう言った。

「盗賊にカモにされて困っていたにゃ。
あんた一緒に盗賊を退治してくれないかにゃ。
もし成功したら大儲けさせてあげるにゃ。」

「別に礼なんていらないよ。」

トトは笑いながらそう言う。
正義感が強い故の言動だ。
しかし、何故か面倒臭がりなのだ。
おそらく、これはティアラが影響しているものと思われる。
彼女はトトとは逆に首を突っ込みたがる性格。
しかも、必ずと言っていいほど彼を巻き込む。
だから、いつの間にか彼は保守的になってしまったのだろう。

「街道に行く前に装備屋に寄ってくれないかにゃ。
ちょっとティーポに用があるにゃ。」

「構わないけど。」

2人はそのまま装備屋に向かった。

 

 装備屋へ着くとティーポとドゥエルがいた。
マークは店番に出ている。

「やぁ、ニキータはん。
それにトトはんも。」

「手紙見て来てやったぜ。
それで、盗賊ってどんなんだ。」

トトはニキータに聞いた。

「以前は二人組のポロンだったから、そんなにビクビクすることは無かったにゃ。
けど、強い用心棒を雇ったみたいで、ここに来る途中に全財産を脅し取られたにゃ。」

ニキータは泣きながら言った。
トトは装備屋へ来る途中に「お金はおいらの命にゃ」と聞いていたので同情している。

「なぁ、ニキータ。
ティーポに用があるんじゃ・・・。」

「おっとそうだったにゃ。」

トトの言葉で用を思い出すと、
ニキータは背負っていたリュックをおろして、
中からとりだした古ぼけた車輪をティーポに差し出す。

「これは街道で見つけたものにゃ。
何か不思議な魅力を感じるにゃろ。
50000ルクでどうにゃ。」

そんな彼の態度にトトは呆れていた。

(落ち込んでいたと思ったらすぐ商売かい。
しかも50000ルクってぼったくりじゃね〜か。)

そう心の中でつぶやく。
すると、ドゥエルがヒソヒソ声で、

「奴はああやって下らない物を法外な値段で売りつけるんだ。
ティーポが買っているガラス玉もほとんど奴が売っているのさ。」

「やれやれ。」

トトがドゥエルとの話を終えても、まだニキータが話している。

「でもニキータはん、ちょっと50000ルクは過ぎでっせ。」

「だめにゃ。
50000ルク用意するにゃ。
それまでは・・・トトさんに使っていただくにゃ。」

なぜ、俺なんだと言う顔をしているトトをよそにニキータは話を進める。

「ニキータはん、考え直してくれなはれ。」

「だめにゃ。」

そう言ってトトに車輪を手渡しす。
すると、トトは車輪から何かを感じ取ったのか、目を見開いた。

「まさか・・・これもアーティファクトかよ。」

そう言うと車輪に神経を集中させた。

「荒れ果てた道・・・乾ききった風の音・・・洞窟もある。
やっぱりこれはリュオン街道のアーティファクトだ。」

アーティファクトからはマナの力が込められているので、
人々は無意識に魅力を感じてしまう。
だからニキータがこれを拾ってきたのだろう。

「さあ、そろそろ行くにゃ。」

「あ、ああ。」

ティーポとの会話が一通り終わり、2人はドミナの町を後にした。
リュオン街道はドミナの町と他の4都市とを結ぶ、人々にとってはかなり重要な場所だ。
そこで盗賊騒ぎがあったのだ。正義感の強いトトが許すはずもなかった。

 

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