「岩壁に刻む炎の道」

 

 トト、ティアラ、バド、コロナの4人は、ガトに行く為にリュオン街道を進んでいた。

「ふわぁ〜あ、寝みぃ・・・。
何だってこんな朝早くから行くんだよ?」

トトがあくびをしながら、コロナに文句を言う。

「何でって、早く行かないと混み合っちゃうじゃないですか。
だから、早く寝て下さいって言ったじゃないですか。」

「昨日はちゃんと寝たけど、何か寝付けなくてな。」

昨晩、ティアラを泊めたせいか、昨日は寝られなかったらしい。
一応ティアラは書斎で寝かせたのだが・・・。
すると、

「トトったら、夜にコーヒーなんか飲んでるからよ。」

「それもそうか。」

トトの一言に一同は笑った。
トトは苦笑いだったが・・・。

 

 日が少し高くなった頃、ガトの町に到着した。
流石に人はまだ見受けられない。

「だから言ったんだよ、早く出すぎだって。
ガトの祭りは昼からだよ。」

トトのきつい言葉にシュンとなるコロナ。
すかさずティアラが慰めにはいる。
流石に悪いと思ったのか、

「悪かったって。
だから気にするな。」

と、詫びを入れる。
すると、バドがある提案をした。

「ねぇ、師匠。
癒しの寺院に行ってみようよ。」

「そうだな。
ダナエもそこで僧兵をしていることだし。」

みんなが頷き、寺院に向かおうとした時、
ティアラがトトを呼び止めた。

「ねぇ、トト。
あの人って・・・。」

トト達もティアラの目線の先を見た。

「あっ、あいつは・・・瑠璃じゃねえか。
どうしたんだ、こんな所で。」

そこにいたのは瑠璃だった。
ティアラもこの間、真珠姫がいなくて、
町で暴れている瑠璃をトトと一緒に止めたことがあるので、顔を覚えていた。
バドとコロナもトトから話ぐらいは聞いている。

「お〜い、瑠璃〜!」

トトの呼び声に気付いたようで、瑠璃はすぐに振り向く。
トト達も瑠璃に駆け寄った。

「お前らか。
どうして、こんな所に?」

「ちょっとこいつらと祭りを見にな。
お前は?」

「この間言ったと思うが、仲間を捜しているんだ。」

トトは瑠璃の言っていたことを思い出す。
瑠璃と真珠姫は、他の珠魅を探して旅をしていることを。

「それでこの先に煌めきを感じるんだ。」

「煌めきって?」

バドか聞いた。

「珠魅は仲間同士で居場所が分かるんだ。
『煌めき』っていうのは、その気配ってところかな。」

瑠璃が説明すると、ティアラが、

「そうだ。
私達もこれからこの先の寺院に行くところなの。
良かったら、一緒にどう?」

瑠璃は少し困っていたが、

「まあいい、好きにしろ。」

ぶっきらぼうにそう言って、一緒に行動することを許す。

「相変わらずクールねぇ。」

ティアラの言葉にバドとコロナは笑う。
だが、トトは表情が暗かった。

「どうかしたんですか?」

コロナの言葉でトトは我に返り、
「何でもない。」と言って笑って見せる。
トトはこの時、メキブの洞窟であの女性が言ったことが気になっていた。

「あまりそこの人達に関わらない方がいいわよ。石になりたくなければね。」

その言葉がどうしても忘れられなかった。

 

 しばらく歩いていると、トトの目にある光景が止まった。
草人が倒れていて、修道女が側で呼びかけている。

「もし、どうされました。」

修道女の呼びかけに、草人が苦しそうな声で答える。

「お腹が痛いの。」

そして修道女がトト達に気付き、手助けを求めた。

「すみませんがちょっと手伝って下さい。
この子がお腹を痛めてしまったようなのです。」

「別に構わないけど。」

トトが手伝おうとして近付くと、

「もうダメ・・・。
誰か何とかして〜!」

草人がそう叫んで、寺院の方向へと走っていってしまう。

「大丈夫かしら。」

ティアラが心配そうな顔をして言う。
すると、

「きっと、この山道で草人も疲れてしまったのでしょう。
あなた方もお気を付けて。」

修道女はそう言ってトト達に一礼すると、草人の向かった方にゆっくりと歩いていった。
トト達も仕方無しに寺院へと行くことに。

 

 またしばらく歩くと、分かれ道にさしかかる。
道案内の看板もなく、辺りを見回しているとバドが叫んだ。

「あっ、人がいる。
あの人に聞いてみようよ。」

トトが見ると、赤髪で炎のように赤い服を着た男が立っていた。

「そうするか。
・・・すみませ〜ん。」

トトがその男に声をかける。

「んっ、君達は?」

「俺はトト。
あなたは?」

トトがその男に聞き返す。

「俺はルーベンス。
癒しの寺院で炎の管理をしている。
ちょっと聞くが・・・。」

ルーベンスが何かを言おうとした時、瑠璃が口を挟んだ。

「ルーベンス。あんたまさか・・・。」

瑠璃も何か言いかけたが、ルーベンスが声をかき消すように言う。

「人違いじゃないか。
それより、ここに来る途中、怪しい奴を見なかったか?」

ルーベンスが彼等に尋ねる。、

「ん〜っ、草人だったら見けましたど・・・。」

と、コロナが答える。

「草人か、あれは関係ないだろう。
さっきテラスに向かっていったが。」

「何かあったんですか?」

ティアラが興味本意で聞いた。

「寺院の炎が狙われているらしい。
ボイド警部が『希望の炎をいただく』ていう予告が来たって言っていたが。
やれやれ、警部も大げさだからなぁ。」

ボイド警部とは、このファ・ディールの全ての事件を扱っている名(迷?)警部だ。
今はある凶悪犯を追っていると、トトは聞いたことがあった。

「ところで、トト君だったね。
ダナエが癒しの寺院で待っているよ。
寺院へ行くには左の道を行くといい。」

「ありがとうございます。」

ティアラがそう言って、寺院へ向かおうする。
すると、

「ティアラ、先に行ってくれないか。」

トトが突然そんな事を言いだした。

「どうしたの?」

「俺、何かあの草人が気になっちまってな。」

トトがそう言うと、瑠璃も、

「俺も行くよ。
何かが気になる。」

「そう。
じゃあ、私たちは先に寺院に行くわね。」

そう言ってトトと瑠璃は右に、ティアラ、バド、コロナは左へと進んだ。

 

 トト達はしばらく歩くと広いテラスに着いた。
そこにはさっきの草人と、先程とは違う修道女がいた。
何やら修道女が草人を手招きしている。

「こっちにいらっしゃい。」

「治してくれるの?」

「ええ。」

修道女が頷くのを見て、草人は喜んで駆け寄っていった。
そして、修道女は草人の草で出来た体を探っていると、何かを見つけたようだ。

「これは・・・回虫ブブだわ。
万能薬の材料になる。」

「治るの?」

「あなたの体の葉をむしって、ブブを取り出すの。
大丈夫、すぐに終わるわ。」

「いや〜〜〜!」

草人はそう叫ぶと、修道女の手を振り解いてものすごい勢いで逃げていった。
草人の体は葉で出来ている。
体の中を探られるのは誰でも嫌であろう。

「ブブはとても高価なのに、ほっとくなんてもったいないわ。
そう言えば、ルーベンスさんもブブを欲しがってたわね。」

「ルーベンスか、やはり気になる。」

瑠璃はルーベンスの事がよほど気にかかるらしく、
トトの腕を引っ張りそこを後にした。

 

「どうしたんだ?」

分岐点に戻る道の途中で、トトの様子に気付いた瑠璃が尋ねた。

「何か気になってさ。あの修道女。」

「惚れたか?」

からかう瑠璃に呆れながらトトは続けた。

「違うって・・・。
考えてもみろ、修道女が「草人の葉をむしる」なんて危ない事言うか?
目も他の修道女より鋭かったし、それに・・・。」

トトはそこで言葉を止める。

「どうした?」

「いや、何でもない。」

トトは吐き捨てるようにそう言って、また歩き出した。
瑠璃も「やれやれ。」と呟いて、その後を追う。

「確かに変だな。」

「それにあの目、すごく冷たかった。」

トトはそれだけ言って、黙り込んだ。
実はトトは修道女の声に聞き覚えがあったが、
何処で聞いたかを思い出せないでいた。

 

 二人が分岐点に着くと、やはりルーベンスが不機嫌な顔をして立っていた。

「おい、あんた。」

瑠璃がルーベンスに話しかけた。

「何だ?さっきの草人だったら、寺院に行ったぞ。
それとも怪しい奴でも見つけたか?」

「いや。」

「なら、用はない。」

ルーベンスは一言そう言うと、また明後日の方向を向いてしまった。
瑠璃は尋ねるのを止め、トトと共に寺院へ向かうことに。

 

 トト達が去った後、突然ルーベンスの足下に一枚のカードが刺さった。

「まさか・・・。」

ルーベンスはそう言うと、カードを拾い上げた。

 

 一方、トトと瑠璃は寺院に着いた。

「ここが寺院か。
でかいなぁ。」

「ここに仲間がいると良いんだが。」

「大丈夫、きっと見つかるさ。」

トトは瑠璃を励ますと、寺院に入る。
中の礼拝堂では、修道女が瞑想をしている。
その脇では先程の草人が暴れていた。

「何とかして〜!」

「静かになさい。」

「お腹痛いの〜!」

「気を大きく持ちなさい。
体全体で宇宙を感じるのです。
そうすれば、痛みも感じなくなります。」

「ん〜〜〜っ、やっぱだめ〜〜〜!
ブブ、何とかして〜!」

また草人は外に飛び出していってしまう。
そして騒ぎに気付き、ティアラ達がダナエと共に奥から出てきた。

「トト、どうしたの?」

「草人が痛みで暴れただけだ。
それよりここに珠魅は?」

瑠璃がダナエに尋ねた。

「さっき、ティアラに聞かれたんだけど、一つだけ心当たりがあるわ。」

「誰だ?」

「炎の番をしているルーベンスよ。
もう20年近くもここにいるけど、全然外見が変わってないの。」

「珠魅は不老長寿だから外見は変わらない。
間違いないな。」

「確かめるしかないな。」

トトの言葉に頷くと、瑠璃は外に出た。

「トト、私も行く。」

ティアラもそう言ってトトより先に走り出す。

「しょうがね〜な〜。
バドとコロナはここにいろよ。」

トトは二人にそう言って、ティアラと瑠璃の後を追いかけた。
バド達はダナエに連れられ、また奥に引っ込んだ。

 

 トトが分岐点に着くと、そこには瑠璃とティアラがいるだけだった。

「ルーベンスは?」

トトの問いにティアラが答えた。

「私たちが来たときには、もう・・・。」

「何処へ行ったんだ?」

瑠璃の愚痴を聞きながら、トトは辺りを見回す。
すると、

「おい、見ろよ。」

そう言って、一枚の葉を拾った。

「トト、それは?」

「草人の葉っぱだよ。
草人がテラスの方に行ったみたいなんだ。」

「それがどうしたって言うんだ。」

瑠璃が不機嫌そうに言う。

「お前、鈍いなぁ〜。
ルーベンスはあの草人の体の中にあるブブを欲しがってるんだ。」

「だとすると、ルーベンスもテラスに・・・。」

「そう言うこと。」

瑠璃もティアラも納得した。
だが、

「でも、ルーベンスはどうやってそれを知ったんだ?」

瑠璃が聞いた。

「さあ、おそらくあの修道女が教えたんじゃないか。
それにあの人嫌いのルーベンスが、町に行く用事もないだろう。」

「それもそうね。」

一同はトトの言うことに納得して、テラスへと向かった。

 

 テラスには草人が修道女に泣きついている。
そして、その横にルーベンスがいた。

「お願い〜、葉っぱむかないで尚して〜。」

「ええ、さっきはごめんね。
ちゃんと治して上げるから。」

修道女が優しい声で言う。
だが、その目は冷たいままだ。
草人が近付くと、修道女の合図と共に突然ルーベンスの胸元が光る。
そして、草人がその場に倒れ込んだ。

「ほら、ルーベンスさん。」

「待ってくれ。」

ルーベンスは何やらためらっているようだ。

「恋人を救うためでしょ。」

「それもそうだが・・・。」

彼が言葉を詰まらせる。
すると、その隙に草人が目を覚ました。
そして、

「ひとでなし〜〜〜!」

そう叫んで、また逃げ出した。

「ほら、逃げてしまったじゃありませんか。」

「誰も傷つけたくない。」

ルーベンスが言うと、修道女が冷たい声で言う。

「甘いですわね。
そんなことで石の眠りについた恋人を救えるんですか?」

修道女はルーベンスから離れると、さらに話を続けた。

「人生とはこの岩山に道を刻むようなもの。
そうは思いませんか?」

修道女の言葉にルーベンスは何も言えないでいた。
瑠璃は二人の会話が終わると、一直線にルーベンスに向かって進む。

「お前、珠魅だな。」

瑠璃が大きな声で言ったものだから、ルーベンスは慌てた。

「しっ、声がでかい。
気付かれたらどうするんだ。」

「すまなかった。
俺は瑠璃。ラピスラズリの珠魅の騎士だ。
あんた、俺と一緒に来ないか?」

「いってどうする?」

「どうするって、珠魅同士一緒にいるのが当然だろ。」

「ふん、くだらん。
いいか、珠魅の都市が滅びたのは、仲間の裏切りが原因なんだ。」

「何だって。」

瑠璃は驚いた。
トト達はすぐに瑠璃に駆け寄る。
ルーベンスはそのまま話を続ける。

「だから俺はもう仲間だろうと、他の種族だろうと、信じられないな。
瑠璃、忠告しておくぞ。
そいつらもお前の核が狙いかもしれないぞ。
分かったら、俺の前から消えろ。」

「言われなくても消える。」

瑠璃はトト達の方に向いた。

「トト、ティアラ、こいつのことは真珠には内緒にしておいてくれ。
折角会った仲間がこんな奴だって知ったら、あいつ傷付くからな。」

「分かったよ。」

トトの返事を聞いて、瑠璃はその場を後にする。
すると、修道女が話しかけてきた。

「誰かが犠牲にならなければ、誰かを救うことなど出来ない。
そうは思いません?騎士さん。」

「何故、俺のことを・・・。」

「さあ、何でかしらね。ふふふ・・・。」

修道女は冷たく笑った。

 

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