トト達がマドラ海岸に着いたのは、お昼前。
太陽はまだ登り切っておらず、波に反射する光が眩しかった。
「よし、着いたな。」
トトが鞄からこの海岸のアーティファクト・珊瑚の燭台を取り出す。
「それがあるんだったら、
トーマさんから道を聞かなくてもよかったんじゃないの?」
「俺達がアーティファクトマスターだって、あまり知られたくないからな。」
バドの質問に答えると、トトが燭台に意識を集中させた。
彼の脳裏にマドラ海岸の様々な光景が浮かぶ。
それが“封じ込められていた記憶”である。
その中から鳥カゴ灯台を探り当てた。
「分かったぜ。
西にある洞窟から崖の向こう側に抜けられる。」
「行きましょう。」
美しい光景に目もくれず、5つの影は西へと向かった。
洞窟にはジメッとした空気がこもっている。
中は意外に明るく、難なく散策出来そうなくらいだ。
「なんか、メキブの洞窟を思い出すな。」
トトは瑠璃と冒険した洞窟とここの光景を照らし合わせる。
適度な明るさ、ジメッとした空気、そして・・・、
「モンスターか。
ますます似てるぜ!」
そう言いつつも、剣を抜いてモンスターの群に突っ込んだ。
ティアラ、バド、コロナもそれに続く。
モンスターの数はざっと数えて20程。
「いいか、魔法は使うなよ。
なるべく力は温存するんだ。」
彼が剣を振るいながら、全員に注意を促す。
後に控えている戦いを念頭に入れているのだ。
だが、トトとティアラ、ラビはいいが、バドとコロナは近接戦闘に慣れていない。
戦況はやや不利といった状況だ。
しかも、敵は後から後から沸いてきていた。
「しょうがない。
みんな、出口に向かって走れ!」
とうとうトトが全員に逃げるように言う。
もう体力が限界に来ていたので、3人はそれに従うしかなかった。
トトが出口付近にいる敵をなぎ倒して道をつくる。
その刹那、4人と1匹は一斉に走り出した。
すると、
「師匠、前にカニの大群が〜!」
バドの叫びで前を向くと、カニのモンスター、デスクラブの大群が。
その為、全員の足が止まってしまう。
だが、彼らの後にはモンスターの大群が。
「しょうがない、新しく覚えた技を使うか。」
トトは剣を構え、息を吸いながら大きく円を描く。
そして、息を大きく吐きながら、袈裟型に素早く振った。
「飛竜刹(ひりゅうさつ)!!」
剣の衝撃波が飛竜の形を象りながら、デスクラブの群に飛んでいく。
そして、それが通り過ぎた瞬間、群は跡形もなく消し飛んだ。
「凄い・・・。」
「さすが師匠!」
「いつの間にそんな技を・・・。」
「誉めるのは後にしてくれ。
早く行くぞ!」
彼の言葉で今ある現状に気付く3人。
大慌てで出口に向かった。
「はぁ、はぁ、もう・・・、大丈夫かしら・・・?」
「たぶん・・・、な・・・。」
「もう・・・、走れません・・・。」
「俺も・・・。」
洞窟を抜けて少し走ったところに座り込む4人。
全員の体が酸素を欲していた。
唯一、元気なのはラビだけ。
「そうだ・・・。」
ティアラが何かを思いだしたらしく、
ポケットをゴソゴソとあさりだした。
そして、取り出したのは大きなドロップが4つ。
「まんまるドロップか・・・。」
「うん、さっき買っておいたの。」
全員がそれを受け取り、早速なめ始めた。
すると、彼らの体力が完全に回復した。
「これで大丈夫ね。」
「ああ、さっさと行こうぜ。
鳥カゴ灯台はもうすぐだ。」
『はい!』
双子が元気よく返事をし、彼らは再び歩き出した。
数十分間歩き続け、トト達はとうとう目的地に辿り着いた。
「ここが・・・、鳥カゴ灯台・・・。」
「綺麗〜。」
その光景にティアラが目を奪われる。
そこはとても人(セイレーン)が捕らわれているとは思えないほど綺麗で、
花や木々も自然の美しさを醸し出している。
鳥カゴ灯台は、木のツルで出来た天然の檻といってもいい。
ちゃんとした入り口もある。
葉で覆われたてっぺんで、リュミヌーが飛びながら、中にいる誰かと話していた。
「やっぱり、貴方だったのね。
捕まったセイレーンって。」
「そう、私が船を沈めたの。」
エレらしき人物は静かに話す。
話し方からすると、おとなしい性格のようだ。
それもかなり臆病な・・・。
「ううん。
貴方はただ歌を歌っていただけ。
私達の歌って魔性の歌って呼ばれているけど、
そんなの人間が勝手に言ってることよ。」
「でも、私が歌を歌わなければ船は沈まないじゃない。
これ以上、災いが起こるのは嫌なの。
ここだったら航路から外れてるから歌も歌っていいんだって。」
少し微笑みながら話すエレ。
だが、寂しい笑いにしか見えない。
「もう。
まるで帝国の兵士の言葉を聞いてるみたいね。
大空を飛びましょう、歌を歌いましょう。
船なんて沈めたって平気よ。
追ってなんて蹴散らしちゃえ!
世の中、矛盾だらけのリフジンくんだわ。」
「外は敵だらけよ。
中にいれば平穏。
それに、貴方だってロアの工房にこもりっぱなしじゃない。
外に出たの何年ぶり?」
「エレ、私は自由は外にあるなんて言ってない。
自由は貴方の心の中!
自分を閉ざしてるのは貴方自身よ!」
リュミヌーが必死で訴えかける。
すると、エレは声を震わせながら、
「・・・私だって本当は分かってる。
でも、怖いの。
ここから逃げ出して、追っ手から逃げて。
命がけで守る自由って何?」
「私は私であるために生きてるの。
それが自由よ。」
リュミヌーの言葉を聞いて、
トトは言い知れぬ迷いを感じていた。
「俺は・・・、何の為に戦ってるんだろう?
自由であるため?生き延びるため?」
そんなことを考えていると、ティアラが入り口に走った。
すると、突然巨大な水泡が目の前に現れ、彼女の行く手を遮る。
そして、現れたのは、
「フラメシュ!
お願い、通して!」
「ダメ、通さない!
友達を危険な目に遭わせてたまる物ですか!」
「フラメシュ、私からもお願い!
その人達を通して!
ティアラ達ならエレを守れるわ!」
「無理に決まってるわ!
世の中なんて、汚くて邪悪な物だらけじゃない!」
その言葉にトトの迷いは吹っ切れた。
「お前、本当にそう思ってるのか?」
「えっ?」
「お前、本当に世は邪悪な物だらけだと思ってるのか?
俺はそんな世界に住んでる覚えはないぜ。
確かに汚い人間もいるし、何かを企んでいる悪党もいる。
けど、この世界はそれだけじゃないだろ。
俺は旅をしながら、いろいろな奴に会ってきた。
金に汚いけど、正義感が強い奴。
互いに支え合いながら、仲間を捜している奴。
友達のことで悩み、苦しんでいる奴。
他人のために自分を犠牲にしようとする、このお転婆。
そして、かけがえのない家族。
みんなが大切な仲間なんだ!」
「仲間・・・。」
「俺はそんな仲間のために戦う。
それだけだ。」
それがトトの出した答え。
いかにも彼らしい答えである。
そして、
「信じていいのね。
エレを・・・、守って・・・くれるのね。」
「ああ、ティアラの・・・、友達だからよ。」
その言葉を聞くと彼女は水泡に包まれて消えた。
そこには涙の後が2,3滴残っている。
「行くぜ。」
トトを先頭に全員が鳥カゴの中に入った。
トトは仲間を守るために戦う。
そう、誓ったのだ。
そして、それが彼の両親が残した遺言だった。
中は広く、トトの家のリビングぐらいある。
そして、その上に敵がいた。
植物の体を天井に寄生させて、
2本のツルにはそれぞれ形の違う巨大な触手が伸びていた。
「グレイドゥ・・・、食人妖花か・・・。
確かに厄介だな。」
トトが呟く。
だが、その言葉とは裏腹にその目は決意に満ちていた。
先手をとったのはトト。
「喰らえ!」
剣でツルをぶった切る。
すると、その触手の先端が地面に落ちると、
トゲだらけの体から花粉を噴いて攻撃してきた。
「これは・・・、毒の花粉!!」
「風の精霊ジンよ、竜巻を起こせ、トルネードクロス!」
とっさにトトが風の魔法を発動、毒の粉を吹き飛ばした。
それと同時に魔法攻撃を受けたもう一つの触手の先端が落下、
だが、攻撃はしてこない。
「なんだ、あいつは?」
トトがそう言って、斬りかかろうとした時だった。
突然その触手が大爆発を起こして、辺りを爆風で吹き飛ばした。
それによって近くにいたトトとバドがダメージを受けてしまう。
「トト、バド、大丈夫!」
「ティアラさん、前!」
ティアラがトト達のところに駆け寄ろうとすると、
残った触手の方がティアラに向かって突進してきた。
コロナのおかげでそれに気付き、ジャンプしてかわす。
「よくもやったわね!
光弾槍!!」
ジャンプした体勢で光の槍を投げつける。
槍は触手を貫通して、地面に突き刺さった。
「炎の精霊サラマンダーよ、全てを焼き尽くせ、ノヴァプリズナー!」
そこへコロナが炎の魔法を使い、触手を焼き払う。
植物なので火に弱いみたいだ。
「これで終わりのようね。」
そう言ってティアラが立ち上がった瞬間だった。
なんと、さっき倒したはずの触手が、本体にぶら下がっている状態で、彼女に襲いかかってきたのだ。
「嘘でしょ。
水の精霊ウンディーネよ、津波を起こせ、スプラッシュストーム!」
早口で呪文を唱えながら、楽器を奏で、魔法を発動する。
大量の水が触手に当たり、何とか攻撃は退けた。
だが、攻撃を受けたため、それはまた地面に落ちて、活動を始める。
「喰らえ、スプラッシュブレード!」
トトが触手を真っ二つにする。
その時、もう一方の触手が金の魔法を唱えてきた。
「師匠、避けて!
木の精霊ドリアードよ、木の葉で切り裂け、ウッドスライサー!」
バドが木の呪文で相殺する。
金の精霊アウラと木の精霊ドリアードは互いに対立する存在のため、
このように魔法を相殺することが可能なのだ。
これらの精霊はそれぞれ人工物の力と自然の力を意味している。
他にも光と闇などがある。
ちなみに火、水、風、土の場合は、
水が火に強く、火は土に強く、土は風に強く、風は水に強いというサイクルが成り立っている。
「方法は一つだけある。
上の本体を狙えばいい。」
「それしかないわね。」
トトとティアラは頷き合うと、行動を開始した。
まずトトが剣でぶら下がっている触手のツタを切る。
そして、自爆する暇を与えないまま、あの技を使った。
「飛竜刹!!」
衝撃波で2つの触手は吹き飛ばされ、端の方で爆発を起こす。
こうすればトト達にダメージはなく、しかもいっぺんに葬ることが出来るのだ。
そして、ティアラは高く飛び上がって、槍を本体に突き立てた。
狙ったのは本体の核。
ここを攻撃すればもう再生はしない。
「やったか?」
すると、グレイドゥの本体はまた2つの触手を生み落とすと、急速に枯れていった。
「これで終わりだ!
乱れ雪月花!!」
トトが必殺奥義でとげの生えている方を3枚におろした。
一方、ティアラがもう一つの方にとどめを刺す。
「行くわよ!
ルナティックダンス!!」
彼女は素早く近付くと、踊るようにして槍を何度も突き立てた。
その早さは1秒間に10回は刺しているだろう。
そして、最後の一撃は触手の核を貫通した。
その触手は本体同様、急速に枯れていった。
「やったー!」
ティアラが槍を掲げて喚起の声を上げる。
こうして、エレの見張りは倒された。
「それで、そのセイレーンはどうしたんだ?」
ここはポルポタホテルのレストラン。
ここでトトとトーマが話していた。
「ああ、自由になったって嬉しがってたよ。
でも、臆病だからあまり外には出たくないとさ。」
「そうか。
でも、彼女はいつでも外に行けるし、格好の家も手に入れた。
はれて自由になった訳だ。」
「そうだな。」
沈黙が流れている間に2人はコーヒーを飲み干す。
すると、トトが口を開いた。
「なぁ、トーマ。
お願いがあるんだが・・・。」
「彼女のいるところに兵をよこすなって言いたいんだろ。
その点は大丈夫だ。
グレイドゥが倒されたことを黙っていれば、彼らは安心するだろうし、
時々様子を見に行く役は俺が引き受けた。
何も心配は要らない。」
「サンキュー、トーマ。」
「礼を言うのはこっちだ。
お前達のおかげで弟の死の真相を知ることが出来た。
エレというセイレーンも悪気はなかったんだし、
過ぎてしまった事を悔やんでいてもしょうがないさ。」
落ち着いた風に話す彼を見て、トトはふっと口で笑った。
「そういえば、トーナがこんな事を言ってたな。
『海の波にはたくさんの思い出が詰まっている。』ってな。
だから海は何でも知っているって・・・。」
「思い出か・・・。
あの3人の思い出も、詰まってるんだろうな。」
海を見ながら物思いに耽ってみる2人。
すると、
「トト、支度が出来たわよ。」
ティアラが向かえに来た。
彼らは今日マイホームに戻るらしい。
「そうか。
じゃあ、トーマ、またな。」
「ああ。
俺はここにいるから、何かあったら遠慮なく声をかけてくれ。
出来る限り、協力するよ。」
「サンキュー!」
2度目の礼を言うと、トト達はその場を後にした。
そして、彼らは久しぶりに家路についた。
波の音と共に、あの3人娘の歌を聴きながら。
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サボテン君日記
せいれーんのおんなのこがていこくへいにつかまっちゃったんだって。
それをたすけだしたととは、まさにひーろーだね。
ぼくからひーろーにひとこと。
おかえりなさい。
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LOMキャラの一言
エレ、初登場! by トト
今後ともよろしくお願いします。 by エレ
めでたし、めでたし。 by ティアラ
久々のLOM小説、いかがでしたか。
なんか、相当期間が開いちゃって・・・。
どうもすみませんね、聖剣を見に来て下さってる皆さん。
あと、「飛竜刹」は遠距離からの攻撃が欲しいな、と思って作ってみました。
(テイルズシリーズの『魔人剣』や、スターオーシャンの『空破斬』みたいなやつ)
本当はこんな技はありません。
さて、次回からは「ドラゴンキラー編」に突入します。
全5作からなるこのストーリー。
最初から終わりまで一気に通したいと思います。
では、こうご期待。