「たゆたう歌声」
ポルポタのシーサイドホテルでの幽霊騒ぎの翌日、
瑠璃達は仲間を捜すと言って、朝早くに旅立つことに。
「いろいろと世話になったな。」
「トトお兄さま、ティアラお姉さま、また会いましょうね。」
「ああ、2人共気を付けてな。」
「真珠ちゃん、またね。」
それが別れ際の彼等の言葉だ。
この時、バド達はまだ寝ていて、
見送りはトトとティアラ、それにラビの2人と1匹だけである。
そして、珠魅の2人は去っていった。
その頃、とある街では、
「ランプ屋は何処だ!」
「セイレーンは何処だー!」
「俺達の仲間を沈めた犯人を見つけだせ!」
帝国の兵士達が駆け回っている。
そう、ここは月影の町、ロア。
目的は帝国船を沈めたとされるセイレーンだ。
そして、
「見つけたぞ、あそこだ!」
兵士の1人が叫ぶ。
その指さす先には「ライムライト」と書かれている看板が。
そう、リュミヌーの店である。
どうやら彼女が疑われているらしい。
そして、彼等が店のドアを勢いよく開けた。
だが、
「いないぞ。
我々に気付き、逃げたようだ。
草の根分けてでも探しだし、捕らえるんだ!」
『はっ!』
目的地は見つけたものの、肝心のセイレーンはいなかったのだ。
リーダー格の男が数人の部下に指示を出す。
兵士達は各地に散っていった。
トトはバドとラビを連れて、入り江を散歩していた。
潮風は爽やかに吹き、海岸線に打ち付ける波の音も心地よい。
「いい天気だなぁ。」
バドが何処までも続く青空を仰いで、ぐっと伸びをする。
ラビもご機嫌な様子で、トトの周りを駆け回っていた。
すると、
「ん、あれは・・・。」
トトが何かを見つけたみたいだ。
彼の目線をたどってみると、
岬の上に兵隊姿の人物が立っているのが見えた。
その手には花束を持っている。
「あれって、トーマさんじゃないですか?」
「そうみたいだな。
ちょっと行ってみるか。」
バドが頷くのを確認して、トトは入り江へと足を向けた。
彼等が入り江に到着すると、トーマは花束を置いた。
「トーナよ、せめて安らかに・・・。」
そう言って、手を合わせる。
すると、信じられない事が起こった。
突然空間が裂け、そこから骸骨が出てきたのだ。
最初トーマはサンドラの変装と思ったらしく、
「またお前か!
確か、サンドラと言ったな、もういい加減に・・・。」
と、叫んだ。
だが、それは静かに話しだした。
「トーマ・・・兄サン・・・。」
音の高低が無く、とても生きているという感じはしなかった。
それからも生気は微塵も感じられない。
ただ、そこにいるのだ。
いや、“ある”と言った方が的確かもしれない。
何故なら、まったく動こうとしないからだ。
喋るだけの人形、そう例えられてもおかしくはない。
「まさか・・・、トーナ!?」
トーマは驚きを隠しきれず、思わずそう聞いていた。
それもそうだ。
死んだはずの人間が目の前に現れれば、誰だって驚くに違いない。
「マダ・・・死ネナイ・・・。
皇帝陛下ノ命令ヲ・・・遂行セネバ・・・。
最強ノ火器兵器ヲ奪取セヨ・・・。」
「それはもういい。
俺が引き継ぐ。
だから、お前は奈落にいけ。」
「デキナイ・・・。
皇帝ハ不死・・・、死人ヲ操ル・・・オ人ナリ・・・。」
「帝国でもお前みたいに死人が蘇っている。
教えてくれ、一体、何が起こってるんだ!?」
トーマがそう尋ねると、彼は一言こう言った。
「・・・ボーン・・・ドラゴン・・・。」
そして、トーナは手の剣で空間を切り、そのままそこに消えた。
その事だけを伝えて・・・。
「トーーナーーー!!!」
入り江には、トーマの叫び声だけが響き渡った。
「不死・・・皇帝・・・。
噂には聞いてたけど、実在するとはな・・・。」
そして、彼は肩からぶら下げている鞄からあるものを取り出す。
それはリュミヌーにもらった銀さじ。
(いま、こいつが反応したみたいだったけど・・・、何か関係があるのか?
不死皇帝、もしくは・・・奈落・・・!?)
じっと銀さじを見つめながら、そんな事を考えていた。
いまだ何処のアーティファクトなのかも分からないそれは、
トトの意思とは無関係に震え続けていた。
その頃、ティアラはコロナと共にハーバーにいた。
「も〜、トトったら・・・。
勝手に何処か行っちゃうんだから。」
「まあまあ。
ラビの散歩も兼ねての事でしょうから、そんなに怒らないでください。」
勝手に散歩に出かけたトトに腹を立てているティアラを、コロナが彼女を宥めている。
そして、しばらく歩き続けると、彼女達の目の前にある人物が現れた。
「リュミヌー!
どうしたの、こんなところで?」
「あら、ティアラ!」
そう、ランプ屋のリュミヌー。
彼女の話によると、ここにいる友達に会いに来たのだという。
「でも、エレ、いないみたいなのよね。」
「そう、私もフラメシュなら見たんだけど・・・。」
2人共腕を組んで、考え込んでしまった。
ちなみにリュミヌー、エレ、フラメシュは仲良し3人と言う言葉が似合うほど仲がよい。
時々、入り江で話しているのをティアラも見かけている。
「何処行っちゃったのかな?
今日、3人で会う約束してたのに・・・。」
ふぅ、と一息吐くと、その場に座り込む。
すると、
「いたぞ、セイレーンだ!!」
突然、港の方から男の声が聞こえたかと思ったら、
2,3人の兵士が彼女達を囲んだ。
「間違いない。
こいつが俺達の船を沈めた犯人だ!」
そう言ってリュミヌーに掴みかかろうとする。
だが、間一髪で翼を羽ばたかせ、ティアラ達の後ろに飛んだ。
「あのね・・・、私はロアの工房でずっとランプを作ってたのよ。
外に出たのだって久しぶりなのに。
船を沈めたなんて、何のことだかさっぱり・・・。」
「変な言いがかりはよしてちょうだい!
じゃないと、容赦しないわよ!」
そう言って槍を振り回す仕草を見せるティアラ。
コロナも魔法楽器を構えている。
一触即発の空気が流れ、潮風の音だけがその場を満たした。
だが、その沈黙を破ったのは、第3者の介入だった。
「おい、何やってんだ?」
別の帝国兵士がその場に割って入った。
「何をって・・・。」
「俺達の仲間を殺したセイレーンをだな・・・。」
「ああ、それだったらもういい。
別の奴が見つけた。」
その言葉は彼等を驚かすのに十分であった。
「何だって!
じゃあ、こいつを見つけた俺達の手柄は?」
「1人だけ吊せばいいんだ。
見せしめ程度だからな。
分かったら、さっさと行くぞ。」
彼等は去り際に舌打ちをしながら、港の方に去っていった。
そんな態度を見て、彼女達の機嫌はますます悪くなったことはいうまでもない。
「なによ、失礼しちゃうわね。」
「本当、信じられないわ。
魔法使っちゃおうかしら。」
「それは止めておいた方が・・・。」
魔法楽器を構えているティアラをコロナが慌てて止める。
こんなところで魔法を使ったら、とんでもない騒ぎになる。
「でも、誰だろう?
『一人だけ吊す』とか言ってたけど・・・。」
リュミヌーが兵隊の言っていた事を思い出す。
すると、ある考えが頭に浮かんだ。
「もしかして、エレ?!」
「だとしたら大変よ!
急いで助け出さないと・・・。」
言うが早いか、リュミヌーはその翼で空に飛んでいった。
ティアラ達もトトに知らせるため、ホテルへと向かった。
「トト、大変、大変!」
「どうしたんだ、一体?」
ホテルのレストランでバドとトーマと共にコーヒーを飲んでいたトトが、
慌てた様子で入ってきたティアラに気付いた。
「実は・・・。」
彼女は今までのことを話す。
「そのセイレーンが帝国兵に捕まってるのか。」
「その娘、リュミヌーの友達なの!
早く助けないと、干からびて死んじゃうわ!」
涙ながらに訴えるティアラを見て、トトは分かったと呟くように言った。
それを聞いて、彼女が笑顔に変わる。
「それで、どこに連れて行かれたんだ?」
「えっと・・・、分からない。」
彼女がそう言った瞬間にその場にいた全員がずっこける。
「分からないって・・・、お前なぁ・・・。」
「リュミヌーさんはどこかに飛んで行っちゃうし、探す当てがないですね。」
「流石に私も分からないな。」
コロナの後にトーマが続ける。
彼の言葉を聞いて、全員が途方に暮れそうになった時、
「なぁ、あれって帝国の兵士じゃないか?」
トトが窓から見える光景を指す。
そこには帝国兵士4名が雑談をしていた。
全員がそれにじっと耳を傾ける。
「隊長、セイレーンはマドラ海岸の例の場所に閉じこめました。」
「うむ、ご苦労。
これで我々の邪魔をする物はいなくなったな。」
部下の1人が隊長らしき人物に報告をしている。
すると、違う部下が話に割って入った。
「しかし、いいのですか?
もし、他のセイレーンに恨みを買うようなことになったら・・・。」
心配そうに言う彼に、もう1人が口を出す。
「いいんだよ!
セイレーンなんて、歌を歌って船を沈めるしか能がない。
丘の上に上がりゃあ、どうって事ないんだよ。」
「そうだ、そうだ。
人間様に楯突いたらどうなるかっていうのを、
身をもって知ってもらわないとね。」
「とにかくだ。
我々の使命は最強火器兵器の入手にある。
皇帝陛下の命令が最優先だ。
その為にはどんな犠牲もやむを得ん。
いいな!」
『はっ!』
隊長の言葉に全員が敬礼する。
1人だけは浮かない顔だが・・・。
そして、それを聞いていたトト達は、
「マドラ海岸か。
こんなところでヒントが聞けるなんて、思ってもいなかったな。」
「とにかく急ぎましょう。」
4人がその場を後にしようとする。
すると、トーマが呼び止めた。
「どうかしたのか?」
「マドラ海岸の例の場所というのは、おそらく“鳥カゴ灯台”だろう。
あそこには見張りとして恐ろしいモンスターがいる。
それでも行くのか?」
一瞬、沈黙がその場を支配する。
だが、
「当然でしょ。
友達が困ってるのに見捨てておけないわ!」
「まぁ、どんな相手がこようと、立ちはだかる奴は倒すだけだ。」
ティアラとトトが力強く言う。
それに安心したのか、トーマは鳥カゴ灯台への詳しい道を教えてくれた。
「道に迷ったら、とにかく西に向かえ。
鳥カゴ灯台はマドラ海岸の西側にあるからな。
私はそこから兵を撤収させる。
その隙に助け出せ。
健闘を祈る。」
「ああ、ありがとうな。」
トトが礼を言うと、4人と1匹はマドラ海岸へと向かう。
「私は幸せ者だな。
ああいう奴らに会えるなんて。」
トーマが優しい声でそう言うと、
彼は兵を呼びに外へと出た。