「赤き堕帝」

 

 ある日の夜、トトは連日のように同じ夢を見ていた。
例の大きな木が彼に語りかけてくる夢。
それが3日も続いているのだ。

「トト・・・、これから貴方は大きな試練を経験するでしょう・・・。
しかし・・・、決して・・・、挫けてはいけません・・・。
貴方が挫けた時・・・、
それは世界の終わりだと言っても、過言ではありません・・・。
トト・・・、マナに導かれし者よ・・・。
貴方の大切な人を守るため・・・、その試練に立ち向かいなさい・・・。
常に・・・、マナの導きがある事を忘れないで・・・。」

これがいつもその巨木がトトに語りかけてくる内容だ。
彼は毎日、この夢を不思議がっていた。
そして、薄々感じつつあった。
この世界に何かが起こりつつあることを・・・。

 

 翌朝・・・、トトが2階から降りると、
いつも通りに双子のお出迎え。

「師匠、おはようございま〜す。」

「トトさん、おはようございます。
朝御飯、出来てますよ。」

「そっか、サンキュー。
その前に、顔洗ってくる。」

こんなやり取りが日常になっていた。
2ヶ月前とは全然違う、家族の雰囲気がこの家に漂っている。

 

「今日は、どこか行くんですか?」

朝食を食べながらコロナがそんなことを聞いてきた。
旅の支度がしてあるからであろう。
トトは冒険などに行くとき、事前に準備する習慣があるため、すぐにばれてしまう。

「ああ、ちょっと調べたいことがあってな。」

そう言って、机の上に置いたのはアーティファクトの銀匙であった。
トトによると、これは街道の奧にある大きな墓のアーティファクトで、
他にも映像が浮かんだが、なんだか分からないものだったらしい。
そこで、直接赴くことにしたという。
朝食を食べ終わり、とっとと支度をする彼。

「危ない感じが漂ってるからな。
俺1人で行く。
ティアラには内緒だぞ。」

フッと笑って、双子にそう言い聞かせる。
今回ばかりはティアラに危ない橋を渡られたくないのだ。
コクンと頷くのを見て、トトは出かけた。
これが想像もつかない戦いの序曲になろうとは、誰が知るだろうか?

「師匠、いつ帰ってくるだろう?」

「大丈夫よ、あの人、強いもん。
私達のマスターを信じましょう。」

 

 街道をモンスターを倒しながらじっくりと進んでいく。
敵のレベルが低いこともあり、練習とばかりに魔法を連発していた。

「やれやれ、いつになったら襲ってこなくなるのかね?」

段々と独り言が多くなってくる。
最近は2人ないし4人のパーティがほとんどだったので、
今になって独りに対する孤独感が胸に沸き上がってきた。
2年前に親を亡くしてからずっと味わってきた想い。
ティアラがいたから、乗り越えてきたものの、やはり人間は人の温もりが一番欲しいのだ。
弟や妹も出来たので、尚更であった。

「とっとと終わらせて、家に帰るか。」

息を吸いながら構え直し、モンスターの群を見据える。
そして、袈裟型に一気に振り下ろした。
猛烈な衝撃波が敵を蹴散らす、飛竜刹。
トトは完全にマスターしていた。
特訓のたまものである。

「これで最後か・・・。」

ふぅ、と息を吐きその場に腰を下ろす。
長時間戦っていたため、疲れたようだ。
血は殆ど流れてないものの、モンスターの亡骸がそこら中に散らばっていた。
流石に無傷とは行かず、頬や腕に切り傷がついている。

「俺は何体のモンスターを葬ってきたんだろう・・・。」

ふと、そんなことを思ってみたりする。
今まで、生きるために倒してきたモンスター。
生半可なものではないはずだ。
だが、それは間違いだと気付くこととなる。
急に亡骸の周りに光が集まる

「何だ!?
蛍か?
それとも、ウィスプ?」

そう思ったが、それらに精気は感じられない。
すると、光は亡骸へと入っていき、その傷をみるみると治していく。
ついには、モンスター自体も息を吹き返していった。
しかも、さらに凶暴になって・・・。

「生き返った・・・、だと・・・。
・・・なるほど、どうりで最近凶暴になってるわけだ。
マナの力か・・・。」

聞いたことはあった。
マナの力は生物をも生き返らせるほどの大きな力だと。
ここら辺のマナの力が異常に強まっていることは一目瞭然だった。

(ここら辺のモンスターは何回も生き返ってる訳か。
まぁ、あんまり殺してなかったんだな。)

少しほっとしたトトであった。
それぐらい考える暇があればいいのだが・・・、
次から次へと襲いかかってくる状態なのだから。

「きりがない・・・か。
こう言うときは・・・。」

再び飛竜刹を放つと、トトは一目散に逃げ出した。
「逃げるが勝ち」と言うやつである。
バドやティアラが見たら、情けないと思うに違いない。

 

 しばらく走り続けると、薄暗い原っぱに出た。
道は行き止まりで、怪しい雰囲気がにじみ出ている。
そして、トトが探していたものがあった。

「大きな墓・・・、間違いない。」

そう、トトが“震える銀匙”で見た、あの墓であった。
少しばかり嬉しさを噛み締めた後、

「さて、始めるか。」

ようやく目的地に着いたので、調査を開始することに。
近くには、イメージで見た光景はなく、草がぼうぼうの野原が拡がっている。
一見、のどかな雰囲気だが、トトは冒険特有のものとは違う緊張感を味わっていた。

「マナの力が異常に強い・・・。
どうなってるんだ?」

アーティファクトマスターの彼だからこそ分かることであった。
これは何かが起こってることを意味している。
先程のモンスターがいい証拠だ。
生命力が弱いとはいえ、生物を蘇らせるほどのマナの力。
そのぐらいの力がここに集まっている。
おそらく、敏感な魔法使い(バドやコロナなど)が来たら、真っ先に酔いを感じるだろう。
同時に力のバランスも乱れているのだ。

「でも・・・、これだけじゃ調べようがないな・・・。」

やれやれ、とばかりに溜息を吐く。
すると、

“・・・士よ・・・。”

「!!!!!」

ハッキリとは聞き取れなかったが、声が聞こえたような気がした。
だが、周りを見回しても、辺りは相変わらず何もない。

(まさか・・・、この墓に眠る霊っていうオチはないよな・・・。)

少し顔色が悪い彼。
独りなのだから得体の知れないものは恐く感じる。

“強き戦士よ・・・。”

今度はハッキリと聞こえた。
墓から聞こえたような気がして、その方を向いてみる。
そして、

“強き戦士よ・・・。
お前を奈落に召喚する!!”

その瞬間、トトの目の前に犬型の獣人が現れ、闇が彼を包んだ。
彼が覚えているのはそこまでで、その後、視界が暗転した。

 

 その頃、

「トト、いるの〜?」

トトの家に客人が来ていた。
言わずと知れた・・・、ティアラである。

「師匠なら留守ですよ。」

バドがすぐに応対する。
彼がそう言うと、

「留守?
また冒険に行っちゃったの?
もう、何も言わないで行っちゃうんだから〜。」

ぶ〜、と頬を膨らませて、駄々を捏ねるように言う彼女。
これだからトトは一緒に行きたくないのだが。
そんな彼女だから必ず無茶をする。
ティアラを危険な目に遭わせたくないのだ。

「それで、どこに行ったの?」

「結局追いかけるんですよね・・・。
でも、私達も知らないんです。
確か、“銀匙”の謎を解くって・・・。」

コロナがそう説明すると、

「銀匙か・・・。
それだったら分かるわ。
この間、こっそりイメージを見ておいたから。」

「抜け目無いですね・・・、ティアラさん。」

「じゃあ、ちょっと行って来るね〜!」

バドの言葉を聞き流して、彼女はそのままリュオン街道に向かった。
彼女もまた、運命の歯車に飲み込まれていくことを、この時点では知る由もなかった。

 

続きを読む         LOM TOPに戻る         Novel TOPに戻る