道は思ったよりも険しかった。
モンスターも強いし、道自体も崖のようなところが何カ所もあった。
実際、戦いの最中に踏み外しそうになったほどだ。
そして、彼等が最も手を煩わせたのは三元老である。
先程、1人であるマンロックを倒したばかりだが、戦闘能力は他と比べものにならないほど強力だ。
トトやラルクも傷を負ってしまっている。

「風属性の呪文とはな・・・。
俺も光属性に切り替えるしかないか・・・。」

傷の手当をしながら今後の戦略を練る。
トトの使える魔法は風と光。
風属性が無効となれば光に切り替えるしかない。
マンロックは一番年上の三元老で先程の老けた声の主だ。
経験がものを言う魔法は彼が一番得意なのだという。
だが、他の二人もそれなりの戦力が備わっている可能性が高く、今のうちに体制を整える必要があった。
幸い、ここには薬草が豊富だった。
山頂にあるマナストーンのエネルギーを吸って、質が良くなっているのが原因だ、とラルクは教えてくれた。

「さて、そろそろ行くか。
メガロードの奴も俺達が暴れ回っていることに気付いてるはずだ。」

「そうだな。」

そう言って再び山道を登りだす二人。
標高が高くなっているためか、すぐに息が上がってしまう。
気圧が低い分、トト達は不利であった。
モンスターを強く感じるのもそのせいだろう。

 

 しばらく歩いていると、突如として難題にぶつかった。
風読み士を象った石像が頂上へ続く道をふさいでいるのだ。

「これはどう言うことだ?」

「せこい真似を・・・。」

動かすことも出来ず、痺れを切らしたラルクが斧を突き立てた。
だが傷一つ付かない。
しかも・・・、

「うわ〜、何だこれ!」

「ぐっ・・・。」

竜巻が彼等を包み込んだ。
そして、風が止み、気付いてみると・・・。

「元に・・・、戻ってる・・・。」

ここは先程いた風読み士の集落だった。
そう、振り出しに戻ってしまったのである。

「どうやら封印が施してあるらしいな。」

「あれをどうにかしないと先には進めないぜ。」

その場で考え込んでしまう二人。
すると、トトがあることに気付いた。

「そう言えば、三元老を倒したときに何かが山に飛んでいったよな。
もしかしてあれが・・・。」

「封印を解く鍵か。
とにかく他の三元老も倒すしかないって事か・・・。」

結論が出て、また山へと足を進める二人。
大きく足止めを喰った分、若干急ぎ足で登り始めた。

 

先程とは別の道をぐんぐん登っていくと、突然開けた台地に出た。
山の裾辺りのようで、遠くの街も見渡せる。
そして、そこに三元老はいた。

「我が名はヴァンダイク。
マンロックを倒したようだが、同じように行くと思うな。」

若い声が山彦となって辺りに響いた。
相手は羽を広げ、完全に戦闘態勢である。

「さて、とっとと倒すか。
俺も早く家に帰りたいからな。」

スラッと剣を抜き、静かに相手に構える。
ラルクも斧を取り出した。
時間にして2,3秒経った頃だろうか、最初に動いたのはヴァンダイクだった。

「風の裁きを受けるがいい!!」

風の魔法が辺りの土を巻き上げながら彼等に向かってきた。
すぐさま左右に跳んで避ける。
だが、辺りは埃で視界が利かなくなってしまった。

「ちっ、煙幕とはやってくれるぜ。
風の精霊ジンよ、竜巻を起こせ、トルネードクロス!」

とっさに楽器を奏で、風の魔法で煙幕を払う。
そして、斬りかかろうとするが、ヴァンダイクの姿が何処にもない。

「上だ!」

ラルクの声で上を向くと、相手はトトに向かって急降下してきた。
先程の混乱に乗じて空に跳んでいたのだ。

「喰らえ!」

空中から70pほどある針が跳んでくる。
重力を味方に付けてスピードを増しているが、トトは剣で全てを叩き落とした。
そして、相手の高度が下がってきたところで必殺技をたたき込んだ。

「今度はこっちの番だ!
スプラッシュブレード!!」

宙返りをしながらの斬り付けがヒット。
翼を切られ、ヴァンダイクは地面に激突した。

「う・・・ぐっ・・・、メガロード様・・・。」

そう言い残すと彼は息を引き取った。
そして、彼の身体から人魂のようなものが飛び出した。

「やはり、何かの封印のようだな。」

冷静にそう分析すると、彼は斧をしまった。
トトも胸にわだかまりを覚えながらも剣をしまう。
彼にとって人を斬るということは初めてだ。
普段相手のモンスターにも若干の哀れみというべき感情がある。
彼の弱点はその“優しさ”なのかもしれない・・・。

「さて、先を急ごう。」

三元老の死体を横目に見ながら二人はその場を去ろうとした。
だが、何かの気配に気づき、トトが立ち止まる。
そして、上を見上げながらラルクに叫んだ。

「ラルク、上だ!!」

トトの声に反応してラルクがすごい勢いで上を向いた。
それと同時に斧に手を据える。
相手はかなりの大きさで太陽も隠れてしまった。
大きな影が彼等の上を通り過ぎる。

「・・・メガロード!!!」

「あれが・・・、知恵のドラゴン・・・。」

戸とも唖然とした顔で見上げていた。
噂には聞いていたがこれほどのものとは思っても見なかったのだ。
しかも大きいのは身体だけではない。
近くにいるだけで金縛りに遭いそうな程、強大な力がピリピリ伝わってくる。
生命力が溢れている鳴き声がそれを裏付けていた。
一通り鳴き終えると、トトのすぐ目の前に降り立った。

「メガロード、ティアマット様の命によりマナストーンを頂きに参った。」

《ティアマットののドラグーンか・・・。
恐れを知らぬ小僧共め。》

それは音ではなかった。
声は聞こえるのだが、耳からではない。
頭に直接声が伝わってくる感じである。
その感覚にトトは少し戸惑った。

「で、どうする?
2人掛かりで行くか?」

正直、一人で相手するのは気が引けた。
どう見ても彼の手に余る代物だ。

「そうしたいのは山々だが・・・、どうやらそうさせてはくれないらしい。」

ラルクの殺気が別のほうに向けられたのを感じる。
その方向から針が飛んできたのは、トトがその方向に目を向けるのと同時だった。

「ちっ、そういえばまだ残ってたな。
しかも不意打ちとは・・・。」

それを避けながら愚痴を零す。
その方向には最後の三元老がいた。

「我が名はメイデレーク!
マンロック、ヴァンダイクの仇、討たせてもらうぞ!!」

「まぁ、しょうがないか・・・。
・・・どっちがどっちの相手をするんだよ・・・。」

簡単な疑問を投げかける。
明らかに難易度が違う敵を目の前にしているのだ。
疑問が出るのは当然である。

「恐竜とカラス・・・、うるさいカラスは俺が仕留めてやる。
安心して戦え。」

「・・・って、ちょっと待て!!
勝手に決めるな。
何で俺が危ない方なんだよ!!」

「お前の力を見込んでだ。」

「・・・やれやれ・・・。
褒めたって何も出ないぜ。」

あまり調子に乗ることでもないな、と改めて剣を構える。
ふと思ったのは、ラルクがメイデレークを倒すまでに自分が倒されなければいいな、という些細な願いであった。

 

「いくぜ、空飛ぶ大トカゲ野郎!!」

勢いよく飛び上がり、メガロードの頭部を切りつけようとる。
だが、そう簡単にいく相手でもない。

≪笑止!≫

言うが早いか、気が付くと太く長い尾がトトの体を弾き飛ばしていた。
そのまま宙を舞うように1回転したが、自然の摂理に従って彼の体はやがて急降下する。
だが場数を踏んでるだけあり、地面に衝突する直前に受身を取り体勢を立て直した。

「やっぱり、手強いな・・・。」

相手の戦力を改めて確認し、ゆっくりと構えを作る。
流石は知恵のドラゴンというべきところ。
世界の秩序を守っているだけあり、その力は半端ではない。
おそらく、これまでトトが対戦してきたどのモンスターよりも強いだろう・・・。

「でも、それで諦めてたらティアラにぶん殴られちまうぜ!!」

気合を入れなおし、再び相手に向かって走り出す。
そう、こんなところで立ち止まっているわけにも行かない。
知恵のドラゴンはこの世界に3体いる。
彼等はまだ最初の1体にあったばかりなのだから。

 

「ふん!」

掛け声とともに針を弾き飛ばすラルク。
こちらはそれほど苦戦しているという様子は無い。
同じタイプの攻撃は前の戦いでも経験しているし、
何しろこの三元老は先の二人に比べて、それほど強いわけでもなかった。

「こしゃくな。
受けてみるがいい!!」

針での攻撃を諦め、魔法での攻撃に切り替える。
だが、彼はこれを待っていた。

「そこだ!ドライブホーク!!」

渾身の力を込めて斧を投げる。
その速度は尋常ではなく、来るのが分かっていてもかわすのは難しいだろう。
そして、その技は期待を裏切らなかった。

「ぐわっ!!」

斧はメイデレークの肩を切り裂き、そのままラルクの方へと帰ってくる。
よろよろと落ちてきた相手に止めをささんと、
走りながら斧をキャッチし、その勢いで大きく飛び上がった。

「止めだ、脳天唐竹割り!!」

体が落ち気味のときに思い切り斧を振り下ろす。
自分の落ちる力と獣人特有の力強さが合わさり、かなりの威力となった武器は、
メイデレークの体を真っ二つにするのに十分であった。

「お、おのれ・・・。
メガ・・・ロード・・・様・・・、申し・・・わけ・・・がはっ!」

地面に衝突する前にもうメイデレークは息絶えていた。
その光景をラルクは哀れみを持った目で見ていた。

「奈落にて落ち着いた時を過ごすがいい・・・。
お前の主と一緒にな・・・。」

そう言うと彼はゆっくりトトの元へと向かう。
向こうではまだ戦いは続いていた。

 

「でぃやあああぁぁぁぁーーー!!!」

この日、この場所で何度目かの叫び声が響いた。
戦況は一進一退といったところ。
トトが相手の攻撃に慣れてくると、メガロードは更に奥の手を出す。
そして、その手にトトが慣れてくるといったことが相当行われていた。

(こやつ、たかが人間がまさかここまで・・・。)

次第にメガロードが押され始めてきている。
翼で風を起こし吹き飛ばそうとするが、トトは素早く相手の下に潜り込みそれをかわす。
この技はもう見切っていた。

「もうネタ切れか?
じゃあ、今度はこっちから行くぜ!!」

メガロードの足元からトトがバク転で飛びだした。
それと同時に体を切りつける。
彼の十八番、「スプラッシュブレード」だ。
この技でコウモリのような翼の皮膜が破れた。

≪ぐ・・・、おのれ・・・。
これを受けるがいい!≫

メガロードがなにやらぶつぶつと唱え始めた。
警戒してトトは周りに気をめぐらす。
こういう場合は大抵魔法系の攻撃が来ることが経験から分かっているのだ。
そして、それは唐突に来た。
トトの周りに魔方陣が現れたのだ。
嫌な予感がしたのかとっさにそこから離脱した。
そして、それは正解だった。
トトが離れた刹那、そこに稲妻が走り地面を抉った。

「竜語魔法・・・。
噂には聞いてたけど、この威力かよ・・・。」

竜語魔法、通称DWM(Dragon Ward Masic)は竜族だけが使えるという魔法。
属性はさまざまだが、その威力は他の魔法を軽く凌ぐといわれている。
これを人間相手に出してきたのだ。
相手はかなりの本気、そして追い詰められている証拠であった。

「次で決める・・・。」

静かに剣を構え、気を溜め始める。
じっと対峙する2名。
相手の息遣いも風の声も彼等には聞こえなかった。
すべての感覚を相手に集中しているのだ。
そして、時は来た。

≪喰らえ!!≫

先に仕掛けたのはメガロードであった。
ドラゴン特有のブレス攻撃でトトを狙う。
だが、ブレスが地面にぶつかる前に彼はメガロードに向かっていく。
まるで吸い寄せられているかのように・・・。

「これで最後だ!!
乱れ雪月花!!」

トトの必殺奥義がメガロードの急所を切り裂いた。
彼の手には肉を切る独特の感覚が染み付いている。

(何故・・・人間に・・・この私が・・・。
まさか・・・こやつ・・・、マナの・・・。)

少しの間、朦朧とする意識の中でそんなことを考える。
そして、世界の頂点に立ち、
世界の秩序を守る義務を背負った知恵のドラゴンの1匹が静かに崩れ去った。

「・・・・・・。」

だが、トトは嬉しくなかった。
本当にこれでいいのか?これでよかったのか?
そんな疑問が渦巻いていた。

「・・・終わったようだな・・・。」

「・・・見てたんだったらちょっとは手伝え・・・。」

「少しお前の力を見ておきたかった。
で、今の気分はどうだ?」

平然とした顔でそういうラルクにトトは、
「最悪だ。」とむすっとした顔で言って先を進む。
その光景にラルクは肩をすくめるだけであった。

 

 石像はやはり一種の封印であった。
後から聞いた話によると、それはメガロードのいる頂上に行くためのいわば門みたいなもの。
門番はもちろん三元老だ。
その三元老が死んだ事により、封印はひとりでに解けた。
そして、頂上にはラルク達の目当てのものが。

「これは?」

「これがマナストーンだ。
これがメガロード達“知恵のドラゴン”が守っているもの、
そしてティアマット様が必要とされているものだ。
だが、少し小さいな・・・。」

トト達の目の前にある物、それはごつごつとした淡い水色に光るクリスタルであった。
マナストーンとは、マナが結晶化したもの。
出来ることが奇跡とさえ言われている大変貴重なものなのだ。
先程「少し小さい」といったが、それでもトトの身の丈ほどはある。
ここまで育つのにどれほどの年月が経ったのだろう・・・。

「これをどうする気だ?」

「これがある正確な場所をティアマット様に報告する。
そうすれば、その力がティアマット様に注がれるのだ。」

質問こそしているが、トトは内心呆然としていた。
マナの力自体は善悪を見極めない。
それはどんな力だってそうだ。
力そのものに善悪は無く、要はそれを使う者の心。
心が清らかであればそれは希望に変わり、逆に悪しきものであればそれは絶望に変わるのだ。
つまり、この力を使うティアマットがどんな人物かによって、世界の命運が決まってしまうのだ。
マナの力は世界を創っていると言ってもいいほどの大きな力なのだ。

「これはティアマット様からの褒美だ。
とっておけ。」

ラルクが渡したのはドラゴンの頭の骨、竜骨と呼ばれる代物だ。
そして渡された瞬間、トトは何かを感じ取った。

「それは次の場所のアーティファクトだ。
これから報告に一旦奈落へ戻る。
次の出発までにしっかり見ておけ、アーティファクトマスター。」

その言葉に一瞬ドキリとした。
なぜなら彼等には自分がアーティファクトマスターだなんて一言も言っていないし、
それを匂わす言葉も発していないからだ。

「全部調べられてるって訳か・・・。
いけ好かないな・・・。」

更なる不信感を募らせ、下山を開始するトト。
冒険はまだ始まったばかり。
ティアマットの目的もまだ不透明のままであった・・・。

 

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サボテン君日記

やまにのぼっておっきなりゅうととりをたおしたらしい。
でも、ぼくにはわかんない・・・。
やっぱりさばくがいちばん!
さむいところよりもあついところ。
このりくつ、わかるかな〜。

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LOMキャラの一言

ちょっと!出番が減ってるわよ!!   by ティアラ

次はちゃんとあるみたいだから落ち着けって・・・。   by トト


どうも〜、本当に久々の聖剣小説です。
最近読む人が減っているのではないかと内心ヒヤヒヤしてます。
でも、リンクとか増えてるのでちょっと一安心。
さてさて、次は・・・いつになるんだか。
夏になる前にはあげようと思います。
では、どうか見捨てないでください・・・。

 

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