「群青の守護神」

 

「ふわぁ〜あ・・・。」

大きなあくびをして、バドが二階から降りてきた。
今、この家には姉のコロナと自分の2人だけ。

「コロナ〜、おはよぅ〜・・・。」

「おはよう。
なに、変な顔してるのよ。
さっさと顔を洗ってきなさい。」

寝ぼけが入ってる声で挨拶をする弟に姉がきつい一言。
それには逆らえず、とぼとぼと顔を洗いに洗面所へ。

「・・・トトさん、旅に出てからもう3日か・・・。
すぐ戻るようなことは言ってたけど・・・。
ティアラさんからも連絡ないし・・・。
バドが不抜けるのも無理ないか。」

妙な寂しさを覚えながらも朝食の準備をする。
3人前を用意していたことに気付くのは、バドが戻ってきた後のことだった・・・。

 

 その頃、トトは森に来ていた。

「まだ、かかるのかよ・・・。
いい加減、疲れてきたぜ・・・。」

ウンザリするようなトトの声に冷静なラルクの声が答える。

「俺は死んでいるからな。
疲れなど感じない。
それにこの森を抜ければもうすぐ山脈だ。」

先程からこのやり取りは数回ほど行われている。
トトはその度にラルクを少し羨ましく感じたとか。
実際、彼の状態は半死人の様だという。
魂の半分が奈落を彷徨っているという状態だが、トトはどうも信じていない様子だ。
実感もなければ、いつもと何ら調子は変わらない。
そして、一番引っかかったのがティアマットの一言。

『期限は特にない』

この言葉が彼にとっては不可解であった。
放って置いたら彼は無になってしまい、ティアマット自身復活の願いが絶たれてしまう。
疑問尽くめの今回の旅は彼を憂鬱にさせていた。

「・・・い、おい。」

考え事をしてして、ラルク呼びかけに気付かずにいる。
執拗に言われ続けて、やっと気付いたほどだ。
気付けば目の前に集落が広がっていて、そのさらに奥には屋根のような山がそびえ立っていた。
これがノルン山脈である。
“ファ・ディールの屋根”と言われるほど高い山だ。
彼がそんな景色に見やっていると、

ザワザワザワ・・・

突然森に緊張が走った。
野鳥も場に満ちた殺気に本能のまま逃げ出す。
そして、木々が揺れる中、一閃の光がラルクに向かっていった。

ガキィーン

一瞬時が止まった。
トトの目に入っているのは、白い獣人がラルクに対して短剣を突き立てているのと・・・、

「ぐっ・・・。」

それを斧で受け止めている彼の姿だった。
そんな一瞬の停滞の後、両者は大きく間合いを空けた。
トトには何がなんだか分からずにいたが、
唯一分かるのが“彼女”が彼等に対して敵意があるということだ。
それを察して、剣に手を掛ける。
だが、ラルクはそれを制した。

「シエラ・・・、何用だ?」

「ラルク、とうとう見つけてしまったんだな。
新たな戦士を・・・。」

シエラと呼ばれるその獣人はトトを睨み付けると、「ティアマットめ!」と言い放って姿を消した。
彼等はあえて追おうとはしなかった。
少なくとも、ラルクは・・・。

「・・・行くぞ。
山脈はもうすぐだ。」

これ以上は語らずという顔をしてそう言う彼に、トトは追求を止めておいた。
少なくとも、シエラは今後彼等の“ドラゴン狩り”に関わると直感的に感じていた。
全ての謎は追い求める限り、時と共に明らかになる。
今までだってそうやって冒険をして来たのだ。
ひとしきりの考えを巡らせると、トトもラルクの後を追った。

 

「・・・トト、大丈夫かな?」

先程まで彼等がいた場所の木の上でティアラはポツリと呟いた。
大きな墓の前で出会ったのはシエラだった。
彼女の言葉を聞いてここまで来たのだ。

「ねぇ、本当にトトは危ないの?」

目線をトト達から外さないまま後ろの人物に問いかける。
もうシエラは戻ってきていた。
一旦反対方向に撤退した後、引き返して彼女と合流した。
ティアラの存在を悟られないためだ。

「彼は利用されているだけよ。
このままティアマットの計画が進んだら・・・。」

「で、どうすればいいの?」

「・・・今日は様子を見るわ。
彼の実力がどれほどか知りたいし・・・。
ここにいる知恵のドラゴンを倒せなかったら、何をやっても無駄よ・・・。」

少し不安そうな目をしているシエラ。
まだ何か問題があるのか。
それを聞きたかったが、今はそんな気になれなかった。
彼女からは使命感とは何か違うものを感じるからだった。

「・・・トト・・・。」

今の彼女には黙って彼を見守るしかなかった・・・。

 

「やっと森を抜けたか・・・。
でも、何だここ?」

彼等が森に入ったのは朝方だったが、日はもう登り切っていた。
途中でお決まりのようにモンスターが出たり、先程のシエラの件があったりと、
ノルン山脈に登る前から結構な冒険であった。
そして辿り着いたのは何かの集落のような場所であった。

「ここはこの山に棲む知恵のドラゴン、メガロードのドラグーンである風読み士の集落だ。
奴等は他のドラゴンと違って、一族でドラグーンをやってる。」

「それはそれは、ご苦労なことで・・・。」

棒読みでそう言う。
集落の中を見てみると、青い鳥人がたくさん見える。
あの衣装は主のドラゴンを模したもので主と一心同体であるという証だそうだ。
すると、ラルクがジッとトトを見ていることに気付いた。

「俺の顔に何か付いてるか?」

「今思ったんだが・・・、いつもそんな感じで冒険してるのか?
そうだとしたら、よく今まで生きてこられたものだな。」

「嫌味言ってるのか・・・?
俺の性格なんか関係ないだろ。
そう言うお前だって堅苦しいぜ。
今までパートナーが見つからなかったわけだな。」

「今まで見つからなかったのはあの試練を通るものがいなかったからだ。
だいたい・・・、」

ひょんな事から言い合いになってしまった二人。
とりあえず状況を整理すると、彼等はここにいるドラゴンを狩りに来た。
そして、ここはそのドラゴンを守るドラグーンの集落な訳で・・・、つまりは敵陣である。
そんなところで言い合いを始めると言うことは・・・、ハッキリ言ってしまえば命取りである。

「・・・あっ・・・!」

「んっ?
・・・しまった!」

気付いたら風読み士に囲まれてしまっていたりする。

「・・・どうする?」

「・・・様子を見る。
まともにやり合っても疲れるだけだ。」

「確かに。」

そう言うことで様子を見ることに。
すると、突如、群衆が二つに割れて道が出来た。
そして一般のとは違う、緑色の風読み士が3人道から姿を現した。

「この山は我らが主、知恵のドラゴンの一体であるメガロード様が居らせられる。
我らにとっては聖域も同然。
その山に何様か?」

老けた声で真ん中の者がそう言う。
彼等が風読み士のリーダー的存在、三元老だそうだ。

「俺はティアマットのドラグーン、ラルクだ。
メガロードに要がある。
道を空けてもらおう。」

ラルクが自己紹介した瞬間、周りがざわつき始めた。
どうやら、ティアマットの評判は悪いらしい。

「お前がティアマットのドラグーンか。
我らが主は山頂に居られる。
行くがいい。」

今度は若い声だ。
その声と共に山頂への道が空いた。
嫌なほど素直である。
不審に思いながらも、ゆっくりと二人は歩を進めた。
すると、突然彼等の周りに風が渦を巻き始めた。

「バカめ、易々と通すと思ったか!」

「やっぱり罠か。」

そう思いながらも風で身動きがとれないでいる彼等。
これでは楽器を奏でることもできない。
すると、ラルクは斧を取り出し、三元老に向けて投げた。
斧は回転しながらまっすぐ飛び、三元老が先程までいた場所に突き刺さった。
そう、かわされたのである。
だが、そのせいで風が一瞬だけ弱まった。
その隙をつき、トトが楽器を奏でる。

「風の精霊ジンよ、竜巻を起こせ、トルネードクロス!」

トトが起こした竜巻が風を飲み込み、三元老に向かって放出される。
だが、彼等も風を操るだけあってそう簡単にはやられてくれなかった。

「なかなかやるな。
だったら山頂まで登ってみろ。
登れるものだったらな・・・。」

さっきの二人とは違う声でそういうと、三元老の緑の翼は山頂に向かった。

「やれやれ、最初っからとんだ目にあったな・・・。
山に入る前にもう埃まみれかよ。」

ポンポンとバンダナの埃を払いながら愚痴をこぼす。

「それにしても、よくあの風の中で斧を投げられたな。」

地面に突き刺さった斧を抜いているラルクにそう投げかける。
彼は一言、「死人だからな」としか言わなかったが・・・。
そして、ようやく山の入り口に入った。

 

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