「未来への希望」
その日の夜、レイヴンは悩んでいた。
家の屋上で一人星を眺めながら、考え事をしている。
シャドーも隣で星を見ていた。
「レ〜イヴン、何やってんの?」
レイヴンが声の方向を向くと、リーゼが入り口のところに立っていた。
スペキュラーは連れてはいない。
おそらく、部屋で寝ているのだろう。
「何か悩み事かい?」
「・・・まあな。」
そう一言ボソリと言って、また星を見る。
リーゼはレイヴンの隣に座り、なおも迫って来る。
「ねえってば。
何も一人で悩むことないだろ。」
「・・・それもそうだな。」
観念したのか、彼女の方を見る。
そして、彼は静かに話し始めた。
「これからどうしようかって思ってな。」
この言葉に彼女はビックリ。
彼からそんな言葉が出るとは、夢にも思っていなかったようだ。
「何言ってんのさ、急に。
いいじゃない、このままで。」
そう言うとレイヴンの腕を抱き寄せる。
「リーゼ?」
「僕はレイブンと一緒にいるのが好きだから。」
少し頬を赤らめてそう言うリーゼに、
レイヴンは顔を真っ赤にして黙ってしまった。
「グルルル。(レイヴン、そろそろ僕も寝るよ。)」
「あ、ああ。」
シャドーはそう言って、二階へと続いている階段を降り始める。
彼は彼なりに気を利かせて、二人っきりにさせたのだ。
しばらく星を見た後、レイヴンは再び話し始めた。
「でも・・・このままじゃダメなんだ。」
「ダメって、何がダメなの?」
「それは・・・。」
また黙ってしまったレイヴン。
どうやらリーゼには言えないことのようだ。
それには彼女もしびれを切らす。
そして、
「もういいよ。」
そう言って目を閉じた。
神経を集中させているようである。
「ちょ、ちょっと待て。
それは・・・。」
レイヴンが慌てて制止するが、
リーゼは古代ゾイド人の力で彼の心を読もうとしているのだ。
そして、
「・・・・・・」
「リ、リーゼ?」
何やら慌てた様子でリーゼの顔を覗き込んだ。
その彼女はまっすぐ彼を見ている。
口元は笑っていたが、怒っているよう。
「レイヴン・・・、あんたねぇ・・・、
財布無くしたってどういうことだよ!」
そう、さっきレイヴンは彼女に夕飯の買い物を頼まれたのだが、
帰り道で財布を落としたらしい。
そんなことをリーゼに言えるはずもなく、
またこれからの生活をどうしようかと悩んでいたのだ。
「済まない、リーゼ。」
「もう・・・。
まっ、もうほとんど入っていなかったし。
どちらにしたって働かなきゃいけなかったしね。」
「だが・・・、働くったって・・・。」
「僕たち、今指名手配中だしねぇ。」
ため息をついてこれからのことを考える2人。
しばらく考えていると、突然彼が声を発した。
「バンにでも頼むか。」
「えっ?」
レイヴンの一言に彼女はまたビックリ。
「な、何言ってんだよ?」
「あいつらお人好しだし、金貸してくれるかもな。」
「ホントにそう思うかい?
捕まるのがオチだと思うけど。」
「二人揃って飢え死にするよりましだと思うが。」
また黙ってしまう2人。
その時、夜空に一筋の光が流れた。
「あっ、流れ星!」
「今日は星が綺麗だからなぁ。」
しばらく一面の星空を見ている。
すると、また流れ星が一瞬だけ姿を現した。
「あっ、また。
ねえ、レイブン、何か願い事した?」
「まあな。お前は?」
「とりあえずね。」
「どんな願いだ?」
「・・・これからも君と一緒にいられる事かな。
君は?」
「バンが金を貸してくれるように。」
レイヴンがサラリとそう言う。
彼女はふくれっ面をして一言。
「もう。夢がないなあ。」
その言葉にフッとレイヴンが微笑むと、
羽織っていたマントをリーゼの肩に掛けた。
「そろそろ冷えてきたなぁ。戻るか。」
そう言って見てみると、彼女ははポーッとレイヴンを見ている。
どうやら惚れ直したようだ。
そして何も言わずにコクリと頷くと、
彼の腕に抱かれて、家の中に戻っていった。
「あんな事願う訳ないだろ。」
自分の部屋でレイヴンがポツリとそう言う。
すると、丸まっていたシャドーが首を上げて聞いてきた。
「グルルル、グルル。(ねえレイヴン、リーゼと何話してたの。)」
「別に、何でもない。」
素っ気ない返事を返すと、
レイヴンはそのまま横になって深い眠りについた。
「グルル。(変なの。)」
そう呟いて、シャドーも首をおろして眠りについた。
その頃リーゼはスペキュラーと話していた。
「財布無くして、どうするつもりなんだろうね、レイヴン。」
「グルル。(さあ。)」
「やっぱり、あいつらに借りるつもりなのかなぁ。」
「・・・・・・」
返事がないので見てみると、スペキュラーはもう寝ている。
(人が話をしているときに寝ないでよね。)
心の中でそう呟くと、リーゼも眠りについた。
翌朝、レイヴンとリーゼは話し合った結果、結局バンに借りる事となり、
ウインドコロニーに向けて出発した。
そしてこの後、バンから予想外の一言を言われることを二人はまだ知らない。